雅と雪乃の戦い方
「そういえば、雅とゆっきーってどうやって魔物と戦うん?」
ダンジョン内に入ったところで美佳里が問いかけ、流霞も「そういえば」と思い出す。
雅の魔装は白い手袋。
投げたものが狙い通りに当たるという微妙に便利なのかそうではないのかが判別しにくい特殊な能力を持っている、薄手の手袋だ。
一方、雪乃はキッチンバサミを思わせるような大きさの青みがかった黒い鋏。
雪乃曰く、物を切る時は折り紙や新聞紙を切断するぐらい簡単に切れるような補助効果があるらしく、逆に切る気がないものを挟んでしまった時は切らない、という不思議な代物だ。
お世辞にも戦いに向いているとは言い難い魔装持ちである場合は、大体が武器を用意してきたりもするのだが、二人の手にはそれらしいものが見当たらなかった。
「あーしは《《コレ》》を投げつけて倒すから平気」
「……なんなん、そのどす黒い魔法回復薬の失敗作みたいの」
雅が取り出したのは、美佳里が言うように魔法回復薬と同じようなアンプルに入った黒い液体の入った小さな瓶であった。
気のせいでなければ、内部の液体は少しどろっとしているようにも思える。
――不味そう。
魔法回復薬は飲み薬であるため、飲む姿を想像してしまう流霞である。
確かに不味そうではある。
「この黒いのは、あーし以外の魔力に反応する可燃性魔法毒薬、かな」
「は?」
「んー、ま、見た方が分かりやすいかなー。じゃ、あのレッサースライムに投げつけよっか」
雅が大して狙いをつけるでもなく、適当に投げつけるような形で黒い薬瓶を投げる。
寸分違わずレッサースライムのすぐ傍に落下し、瓶が割れて薬品がかかった。
直後、レッサースライムに付着した黒い液体が激しく燃え上がり、あっという間にレッサースライムが炎に包まれた。
かと思えば、レッサースライムを燃やす炎はいつまで経っても消えず、レッサースライムが崩れ落ちると同時にようやく火が消えた。
「ふふん、どーよ?」
「え、こわ」
「ヤバ。それ人にかけても燃えんの? 危険物じゃん」
「なんか思ってたのと違う反応過ぎるんだけど。ここは素直に驚く場面じゃね? すげーとか。つか奏星の火の方が圧倒的ヤバいのにそれ言う?」
目の前で起きた結果に対する美佳里と奏星の反応、それに興味深そうに炎を見ていた面々を他所に雅が思わずツッコミを返した。火のヤバさという意味では奏星のそれに勝るものはないのだし、ここまでドン引きされる筋合いなんてない、というのが本音である。
ともあれ、気にしていてもしょうがないので、雅はまた一つ、同じ薬瓶を取り出した。
「これはあーしが【魔法薬調合】で調合した特殊な薬なんよ。名前は『発火薬』って呼んでんだけど、これ、魔物の魔力に反応するように《《条件を設定した》》ヤツだから、人が触っても燃えないんよね」
「……条件を設定?」
「そそ。んと、まずウチらみたいなクラフト系はさぁ、最初は色々と手作業で調合に挑戦してたんだけど、実は魔法薬には成功と失敗で判定があるっぽいんよね」
「は?」
「誰が判定してんだーって感じっしょ? でもさ、実はこの成功判定っつーの? これ、ゆっきーも感じたことあるんだって」
「マ?」
「うん。なんか素材と効果の相性みたいなのが良くないものはできないっぽいんだよねー。で、何故か頭ん中に「あ、これ失敗じゃん」って何故か分かるっつーか」
「あーしもそんな感じ」
会話している相手である美佳里はもちろんだが、雅の言葉はそれを聞いている奏星や流霞はもちろん、〝魔女の饗宴〟の面々にも理解し難いものである。
しかし、雅や雪乃からしてみれば「それなー!」と同意できる内容だったりするのだ。
誰が判定しているのか本当に意味が分からないのだが、確かに成功と失敗の判定は確かに存在しているし、それが自分たちには理解できてしまうのである。
――相変わらずダンジョンは謎の塊だなぁ、でも便利だからいっか。
そんな思考ですんと受け止めているJKたちであった。
「ま、それは置いといて。成功したものは【魔法薬調合】の第1スキル【レシピ作成】の対象として登録されるっぽいんよね。登録されたものは、材料さえあればいちいち手間暇かけて抽出とかしなくても作れちゃうんだけどさ。その登録の際に、〝使用条件〟ってのをこっちで定められんのよ」
「使用条件……」
「そそ。んで、この『発火薬』は魔物の魔力に反応して発火。他にも、あーしの魔力に反応して発火っていうのもあるし、人の魔力に反応して発火ってのも作れるっぽい。さすがにやらんかったけど」
この辺りについては雅も現状手探りではあるが、同じようにクラフト系のダンジョン因子持ちが活躍するようになれば、ある程度の条件が見えてくるだろうと思いながらも、色々試しているところであった。
そんな話に「便利じゃん」と軽い反応をする美佳里らとは裏腹に、話を聞いていた瑛里華が真剣な表情で口を開いた。
「……それ、時間差で勝手に発火とか条件付けられたりするん?」
「あー、そういうのは無理っぽいよ。だからアリバイ作って放火、とかなんてことには使えないね」
「あら、気付いとったんやな」
「まあね」
もしもこの『発火薬』が、『蓋を開けて一定時間経過後に発火』などというような条件をつけたりできてしまうのであれば、それは確かに問題だ。
いくら雅がそれをしなくても、『そういうものを作れる』というだけであらぬ疑いをかけられかねないのだから。
もちろん、人に当てて発火するのも問題と言えば問題ではあったりもするのだが、その辺りはダンジョン因子というものが当たり前にあるこのご時世、先程も奏星に対して雅がツッコミを入れたように、それ以上のことができる者は多いのだ。
誰にでも渡せるという意味では厄介かもしれないが、それもガソリンや灯油などと大した差はなく、気にしていても埒が明かないというものであろう。
そんなことを言い出せば、包丁は人を刺せるから禁止、というような話にまで発展してしまいかねない。
「ま、ともかくあーしはこういうので色々作ってっから、今日は色々実験も兼ねてる感じ」
「戦えるなら、まあいっか。んで、ゆっきーは?」
「あーしのは、これ」
そう言いながら雪乃が出したのは、鞭であった。
鞭にも色々な種類のものがあるが、どうやら雪乃の鞭は複数の革紐――おそらくは魔物素材を編み込んで作り上げたブルウィップ、一本鞭と呼ばれるような代物だ。
「……え、鞭?」
「そそ。これ、【魔導裁縫】で作った一本鞭ってヤツ。めっちゃ便利なんだよー」
どこかのんびり屋気味の雪乃が、一本鞭を手に持ってにこにこと笑いながら続けた。
「だって、こーゆーこともできるし」
「え?」
一本鞭を力なく垂らしたかと思えば、鞭の先端についている槍の穂先にも似た三角錐の金属部分が独りでに持ち上がり、雪乃のすぐ傍でぴたりと止まった。
「【魔力操作】で魔力を流すと、自分の手みたいに動かせるんよ、これ」
右手の親指と中指、薬指の腹を当てて人差し指と小指を立てる、いわゆる狐のような手を作って上下させるのに合わせて鞭の先端部も頷かせるように上下させ、さらにそのまま右手の腕をぐるぐると巻き付くように動かした。
「え、何それ、超便利じゃん!」
「やってみる?」
「やりたい!」
雪乃から鞭を手渡された美佳里が、早速【魔力操作】を使って鞭に魔力を流す。
だが、鞭は柄の近くがぴくりと動いただけで、穂先を動かすようなこともできなければ、魔力がそれ以上通ることもなかった。
その光景を見て、雅が苦笑する。
「あー……、やっぱゆっきーがおかしーんじゃん」
「えー? そうー?」
「……雅、なんでか分かる?」
「それ、【魔力操作】の要求技量がハンパないんよ。あーしでも先端まで動かすことなんてできないし、試しにウチのユズ姉とかも挑戦してたけど、全然ダメだった。多分、ゆっきーの【魔力操作】ってちょいおかしなことになってるわ」
「そんなことないってー。慣れたらできんじゃねー? ほい、次るかちー」
流霞も流れで美佳里から渡された鞭を受け取り、早速とばかりに魔力を通す――が、鞭の先端に行き渡らせようとした途端に【魔力操作】が解けてしまった。
何度か挑戦しても変わらないそれを諦めて奏星に鞭を渡せば、奏星も同じように苦戦しているのが見て取れた。
そうして鞭はそのまま〝魔女の饗宴〟メンバーにまで流れていったのだが、ここで一人、惜しいところまで行く人物がいた。菜桜である。
「なおなおん惜しい!」
「……ん。これ、覚えたい。ゆっきー、弟子にして」
「弟子!? やべー、あーしマスターかよー」
「これが使えれば、罠の解除とかも色々やりやすくなるかもしれない。それに……鎖鎌、使いたい……!」
目を輝かせる菜桜に唖然とする流霞たち一行。
そんな流霞に、莉緒菜がそっと耳を寄せた。
「菜桜、忍者になりたいんだって」
「……にんじゃ……」
「うん。だから、るかちーのスキルにも目を輝かせてたよ」
「……分身の術?」
「そそ」
なんとなく分かってしまう流霞である。
自分は忍者でもなんでもないが。
それにしても、だ。
聖奈が鞭を持つ姿を見て、思う。
――戦いになったら性格変わったりするのかな……。
とあるアニメに出てきた、鞭を手に持った瞬間に女王様キャラになるというキャラクターを思い出しながら、ひっそりと流霞はドキドキしていた。
「んじゃ、二手に分かれて移動開始ー!」
雅の合図に応じて、雅と雪乃、聖奈と菜桜。
それに流霞と奏星と美佳里、それに莉緒菜と瑛里華の組み合わせでダンジョン内を進み始めた。




