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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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『指定ダンジョン』へ




 ダンジョンの出入り口は、光の渦を思わせるようなものが浮かび上がっており、これがダンジョンゲートと呼ばれている。

 一般的なダンジョンのダンジョンゲートは、幅およそ5メートル程度、高さも同程度の大きさではあるのだが、特殊ダンジョンという、いわゆる大規模攻略が必要となるようなゲートの場合、大きさは倍程度にもなり、青白い光の渦ではなく、赤みがかった紫色のゲートが広がるような形となる。


 ダンジョンと現実世界の繋がりは、このダンジョンゲートのみだ。

 物理的に地下に広がるなどではないため、この場所にさえ注意していれば魔物が出てきても見逃すことはない。ダンジョンゲートとは要するに、いわゆるワームホールのような代物なのだ。


 そんなダンジョンゲートだが、管理されているダンジョンではダンジョンゲートの近くに駅の改札を思わせるような簡易ゲートが設置されている。

 中に入る際には探索者アプリの入ったスマホを翳して内部に入ったことを記録しつつゲートを通り抜ける形になり、万が一の事故などが起こった場合に、内部に取り残されていないかなどを確認できるようになっている。


 しかし、『指定ダンジョン』は違った。


 車内の窓から見えるのは、背の高いバリケード。

 分厚いコンクリートを固めたような壁は高さにして8メートル程はあるだろうか。その上は空を覆うように、大量に鉤爪のようなものがついた鋼鉄の網が張られているようだ。



「……なんか、厳重っつーか……」


「あぁ、『指定ダンジョン』は大体こういう感じで、ダンジョンゲートの周囲を囲んでるんだよ。『魔物氾濫(スタンピード)』が発生した時、即座にこのバリケードの出入口を封じて、魔物が外に広がるのを少しでも遅らせようとしているんだよね」


「遅らせるってどゆこと?」


「あれ、学校でまだ習ってない? あの天井部分、あれは飛行型の魔物が外に出ないようにしてたり、そもそも天井を破壊されるのを止められないことが分かっているからこそ、網を引っ掛けて多くの魔物が引っ掛かり、引っ張り合うことで動きを阻害させることだけを目的としているような、そんなトラップなんだよ」


「え、それじゃすぐに破られるじゃん」


「うん、そうだね。でも、それでいいんだよ。そもそもこれらのバリケードは、〝魔物を堰き止めるためのもの〟ではなくて、〝僅かにでも時間を稼ぐこと〟だからね」


「へー、そうなん?」


「……ゆっきー、これ、学校でもやったけど?」


「……あー……、ね?」



 莉緒菜の説明を聞いて驚いたような反応を見せた雪乃へ、雅はそんなことも忘れていたのかと呆れたような目を向けてツッコミを入れた。

 くすくすと笑う面々を他所に車はバリケード内へと進み、ダンジョンゲートの手前までやってきて停車した。


 早速とばかりにそれぞれに車から降りて、自分たちの装備を確認する。

 一行はすでに全員が雪乃の作った『魔導防具(マギア・ギア)』を装着することとなっているため、一般的な探索者装備とはだいぶ服装も違っている。



「……ついにウチらも『魔導防具(マギア・ギア)』で歩けるんやな……!」



 キャッキャしている〝魔女の饗宴〟組からは瑛里華の感極まった声が聞こえてきた。


 対魔物用の分厚い防刃肌着、硬度はあっても魔物の攻撃を正面から受け止めるには頼りない防具たち。

 確かに助かっていたのは事実だが、重量もあり、肌を押さえつけるために長時間の探索では痛くなってきたり、ケアの面倒臭さは剣道の防具に匹敵する程であったり、色々な問題があったのだ。

 ちょっとケアを怠ったがために悪臭が取れなくなり、泣く泣く新しく買い替えなくてはならなくなったこともあった。


 しかし、『魔導防具(マギア・ギア)』ならそうはならない。

 魔物素材を使った特殊な布だが肌触りも良く、防御力もあり、何よりオシャレ度合いが雲泥の差である。素肌を率先して見せたい訳ではないが、全部が全部隠すのもまたちょっと違うのだ。


 さらに何より、この時期に蒸れて汗ばむことがないのは大きい。

 でもやっぱり、オシャレ度合いの自由度が違う。

 ある意味一番大事なことだ。自由度が、違うのだ。



「そういやさ、温度調整機能つけれそうって話、ガチなん?」



 きゃっきゃしていた〝魔女の饗宴〟メンバーの耳に聞こえてきた、美佳里の声。

 その声に〝魔女の饗宴〟メンバーが一斉に口を噤んで雪乃へ視線を送った。特に莉緒菜の目は真剣そのものだ。

 ゴスロリ系衣装の夏の地獄ぶりを理解しているからこそ、それは聞き捨てならないのである。



「感覚的にはもうちょいでそういうのもできるようになりそーなんよね。だから、今回レベルアップできたりしたら、もっと幅が広がるかもって感じ」



 莉緒菜と瑛里華の目が、無言で聖奈と菜桜に向けられた。

 今日の探索で雅と雪乃を連れて歩くのは二人だ。

 そんな二人に「できればレベルアップさせてくれ」という指示を向け、聖奈と菜桜も真剣な表情を浮かべてこくりと頷いた。



「それできたら私服も作ってほしいわー……」


「うまくできたら、刺繍を服の裏に施すとか、ワッペンを貼るとかでいけんじゃね?」


「マ? それも試さなきゃじゃん。みやびー」


「おけ、リストに入れといた」



 さらに奏星と雅も会話に参加して話している内容に、〝魔女の饗宴〟のメンバーがお互いに頷き合う。


 もちろん、無料であれもこれも作ってくれ、などとは思わない。

 その対価となるべきものをしっかりとダンジョンで見つけて持ち帰り、それらを取引材料にするべきだろう。


 ――それはともかく莉緒菜、マジでよく〝金銀花(カプリフォリオ)〟と交流を持ってくれた、ホントファインプレー過ぎ。


 そんな視線を向けられて、莉緒菜が新しい衣装に身を包んでふっと涼しげに笑いながら、長い髪を手櫛で払ってみせた。



「……さっきからりおなんたち、どした?」


「さあ……? なんか全員表情で会話してるけど」


「なんかりおなんが称賛されたっぽくて、りおなんが得意げになってるのは分かった」


「分かるのかよ、すげーな」



 雅と雪乃、美佳里の会話が聞こえてきて、〝魔女の饗宴〟メンバーが咳払いしたり誤魔化すように身体の向きを変え、瑛里華が近づいてきた。



「なんでもあらへんから気にせんといてーや。それより、マップデータ共有すんでー」



 それぞれにスマホを取り出して、瑛里華からグループに送られてきたマップデータを確認する。

 そんなマップデータを見て、流霞が見慣れないマークがところどころについていることに気付いて小首を傾げた。



「マップについとるマークはトラップの位置と種類を示したもんやな。チェックマークがついとるとこは重点チェックポイント。間引き依頼を受けた探索者は、できる限りこのトラップが復活しとったら破壊しとかなあかん」


「あーね。上層から中層に近づくとトラップが増えるって言うけど、これ見れば一目瞭然じゃんね」


「うわ、12階層からめっちゃ増えてる」


「せや。だいたいどこのダンジョンも、上層12階層からはトラップが増えてきよる。せやから今回は『指定ダンジョン』の依頼を受けつつ、トラップの見分け方やらも勉強できるっちゅー寸法なんよ」


「あ、そっか。マップ公開されてトラップもどこにあるか分かってんなら、見分ける練習にもなるし。だから誘ってくれたん?」


「ま、それも含めて、っちゅーこっちゃな。ぶっちゃけ、大手クランなんかじゃ当たり前になっとる研修方法やな」



 実際に瑛里華が言う通り、この手の研修も含めて『指定ダンジョン』を使うというのは大手のクランだけではなく、多くのクランでも実践されている方法でもあった。

 ただ、瑛里華たちもこれまでは後輩などはいない、クランにも所属していないために実践したことのないものであったが。


 せっかく泊まり込みで攻略するのであれば、こういったことも詰め込むまたとない機会だろう。そう考えて、今回の間引き依頼にはトラップ対策の勉強会も一緒に仕込むことにしたのである。



「ま、言うてもそれは明日からや。今日は予定通り、聖奈と菜桜がみやっちゃんとゆっきーの護衛兼戦闘補助。ウチらは魔物の状況確認の下見で、軽く流すだけや。一応、明日の本番を意識して幾つか戦い方を決めていけたらってとこや」


「今日は連絡用にARレンズはつけてるから、何かあったらそっちで連絡ね」



 短くやり取りをして、ようやく一行は真鶴ダンジョンへと足を踏み入れた。


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