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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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海水浴を終えて




 海水浴というものは、なかなかに体力を使う。

 整備されていない上に力を入れにくい砂の上を歩き、海水の抵抗がある水の中を泳ぐ。

 ただでさえ、体力がないとバテてしまう。


 それに加えて、レベル差というものがあれば、当然感覚が異なるのだ。

 つまり何が言いたいのかと言えば。



「……雅とゆっきー、だいじょぶそ?」


「ダメそ。髪とか身体とか洗ってあげたけど、湯船に入れたら力尽きて寝そうだったから、さくっと引き上げてきたわ」


「おつかれー」


「お、お疲れさま……」



 流霞と奏星の部屋へとやって来た、疲れた様子の美佳里。

 彼女からの報告を聞いて、流霞と奏星は苦笑を浮かべた。


 レベルの差は、身体能力に大きな差を生じさせる。

 レベル2の流霞や奏星、美佳里と一緒になってキャッキャしていたレベル1の雅と雪乃は、ついつい一緒になってはしゃいだ結果、自分の限界というものを見誤ってしまったようである。


 ましてや、二人はインドア派でもある。

 よしんば流霞たちがレベル1であったとしても、ダンジョンで戦うために体力をつけている彼女たちとでは釣り合うはずもなかったのだ。



「まあでも、ぶっちゃけるかちーと奏星、体力やべーわ。あーしも眠いもん」


「ミカミカはまだ体力少ないんじゃね?」


「えー、そんなことなくない? レベル2よ?」


「それでも、でしょ。ただまあ、るかちがヤベーのは同意」


「え……っ!?」



 突然水を向けられた流霞ではあったが、実際奏星も流霞の体力というものを甘く見ていたのである。

 泳いでも泳いでも疲れたりせず、それどころかけろっとした様子で飲み物を取りにシートが敷かれているところとあっさり行ったり来たりする。


 太陽に照らされて世界を呪うようなひょろさ、青白さ。それに加えて溺れるレベルの貧弱さというような、一般的な陰キャコミュ障オタク少女とは一線を画する、圧倒的なフィジカルがそこにはあった。



「でも楽しかったわー、無重力状態なんて人生で初めて体験したわ」


「それな。あれちょっと楽しいわー。マジでるかちー感謝」


「え、へへへ、ぅっす」


「褒められ下手過ぎかよ。でもえりりんが水の球に顔突っ込んで死にそうになってたのはぞっとしたけど」


「わかる。無重力の水やべーわ」


「あ、ッスゥーー……。私も焦ったよ、あれは……」



 きっかけは、海水浴を楽しんでいる内に菜桜が唐突に水面を走るという挑戦を始めたことだった。


 水に足を打ち付け、沈まない内に次の一歩を、という、身体能力ゴリ押しで始めたそれを見て、何を思ったのかみんなでスキル、〝独自魔法〟を遊びに組み込むという流れが出来上がってしまったのである。

 他の海水浴客がいないせいで箍が外れたとでも言うべきだろうか。


 そんな中で流霞は、空中にプールを作るというコンセプトで、海水の一部を無重力にして持ち上げた。


 流霞の重力操作はある程度自由だ。

 球体型を作るように意識しつつ巨大な水球を持ち上げるように作ってみせれば、きらきらと陽光が煌めき、空中に浮かんだ。


 が、それに面白半分テンションマックスで瑛里華が突っ込んで行ったのだ。


 最初は盛り上がって、空中に浮かんだ水の中を瑛里華が泳いでみんなでキャッキャしながら鑑賞していたのだが、水から顔を出そうとしたのに水が瑛里華の顔に張り付いてしまって息ができなくなるというハプニングが発生した。


 無重力空間における水の表面張力やべー、となった瞬間である。


 結局莉緒菜が〝独自魔法〟で巨大な黒い手を生み出して瑛里華を掴み、流霞が〝独自魔法〟を解除することで事なきを得たが。


 その後は流霞の作った無重力の水に触れないよう、無重力空間にみんなで浮かび上がって空中遊泳を楽しんでみたりもして盛り上がった。

 瑛里華が溺れかける恐怖映像的な記憶は、見事楽しい記憶で上書きすることに成功したのである。



「ま、雅とゆっきーが早く寝られるなら、それに越したことはないんじゃね? 明日はダンジョン行きだし」


「初ダンジョンって緊張するんよねー」


「それなー」



 ――わ、私、全然気にならなかった……。それどころか、むしろダンジョン入った瞬間に人の姿が見えなくなって、薄暗くて静かで、安心感すら抱いたのに……。


 人が大量にいるところの方が流霞にはハードルが高いのだ。

 むしろダンジョンの中に入って人が近くからいなくなり、足音や会話の声が聞こえなくなって、ようやく自分のいるべきところに戻ってきたような安堵感すら覚えたのが流霞であった。


 まったく共感できないまま、美佳里と奏星がお互いに共感し合う中で流霞だけはそっと目を逸らした。



「そういやさ、人為的『魔物氾濫(スタンピード)』の時に手に入ったあのアーティファクト、実戦で使うの、なんだかんだ明日が初めてじゃんね」


「そそ。『魔力水の水差し』とか『創造の石板』に比べれば地味めだけど、模擬戦で使ってみた感じ、結構使い勝手良さげだよ」


「お、そうなん?」


「あ、そだ。るかちー、明日どする? るかちー使う?」


「え、ううん、あれは多分、奏星が使う方がいいと思う。色んな使い方できると思うから」


「ん、りょー。じゃあそーすんね」



 人為的『魔物氾濫(スタンピード)』の最後の敵、異形の化物を討伐した際に出たアーティファクト。

 これまで手に入れたアーティファクトに比べれば価値としてはかなり劣るであろうが、しかし欲しい者にとっては手に入れたい代物だろうな、と美佳里は思う。


 流霞と奏星、どちらが使っても上手く使えそうだが、確かにどちらかと言えば奏星がつける方が妥当というか、流霞はなくても自前で色々できてしまう。

 言ってしまえば、なくても困らないし必要ない、というのが正しいだろう。



「いいなー。あーしも使ってみたいわー」


「ミカミカ使う?」


「いや、いーって。地味に魔力喰うしさ。あーしの場合、実戦で使おうとしたらミスってむしろ危なそうじゃん」


「あー……ごめ、否定できねーわ」


「でしょ」



 苦い笑みを浮かべた奏星の肯定ではあるが、それが現実であるということは他ならぬ美佳里自身が一番よく分かっている。

 何せ、訓練場で一度は試しに使ってみたのだ。

 結果はまあ、奏星がこうして苦い笑みを浮かべる通りではあったのだが。



「配信は明後日じゃん? ってことは、お披露目はそこになる感じかー」


「反応見たいけど、今回は配信コメ拾えないようにすんでしょ?」


「そそ。変なの湧くだろーから、コメントは拾わない方向でやるって雅が言ってた。だからレンズもつけなくていいってさ」



 配信のコメントや雅たちからの指示を拾うための、コンタクトレンズ型のARレンズ。

 相変わらず流霞はつけるのが苦手ではあるが、それでもいざという時には指示を確認できるよう、着用するための訓練を続けている。


 しかし、今回の『指定ダンジョン』攻略中は、〝金銀花(カプリフォリオ)〟メンバーはARレンズ着用はなし。

 あの人為的『魔物氾濫(スタンピード)』以来、初めての配信になる。そうである以上、SNSでの騒ぎ同様に色々なことを言い出す者たちが配信を覗いてくるであろう可能性が高いということが理由だ。


 もちろん、いざという時の連絡用という目的もあったりはするのだが、今回は〝魔女の饗宴〟という、レベル4パーティも一緒にいる。

 一応、雅からの指示が発生した場合には、〝魔女の饗宴〟側はARレンズをつけているため、そちらに連絡をすれば事足りるということもあった。



「……つけなくていいんだ」


「るかちー、まだ慣れないん?」


「え、うん。結構頑張ってつけれるようにはなったけど……なんか好きじゃないかも」



 ARレンズの着用禁止は、流霞にとってはむしろ嬉しいニュースであったようで、彼女だけが一人ニマニマとしていた。




 ――――そうして翌日、一行は『指定ダンジョン』へと足を踏み入れるのであった。


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