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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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陽キャ@海水浴




「うおーー!」


「海! ヤバ! なんか独特なニオイ!」


「おー、ガチじゃん! なんかスーパーの鮮魚売り場っぽい!」


「あっつ! 足あっつ! これやば! サンダルないとむり!」



 テンション高く水着にパーカーという姿で駆けていった奏星と美佳里、そして二人についていった雅と雪乃に、「あれは喜んでいるのかクレームなのか」と割と本気でそんな疑問を抱く流霞であった。

 もっとも、笑顔であるので喜んでいるのは間違いないとは思うが。


 ――……ッスゥーー、なんで私、ここにいるんだろう……?


 夏の陽気、燦々と照り付ける太陽、きらめく海にはしゃぐギャル。

 あまりにも自分とはかけ離れ過ぎている世界観を目の前に、無駄に哲学的な自問自答をしながらも、流霞は青白い顔で砂浜で立ち尽くす。


 しかしそんな流霞にはお構いなしに、波打ち際まで進んでいた奏星たちが肌隠しに羽織っていたパーカーや上着を脱ぎ捨てた。


 奏星の水着はオレンジのカラフルなエスニック系の柄をしたビキニだ。

 下はいわゆるタイサイドビキニだが、上から同系統の柄のパレオを腰に巻いていて、流霞ではまず着ないようなタイプのカラフルさである。


 美佳里はバンドゥビキニ。

 オレンジ一色のシンプルなものではあるものの、スッキリした印象の美佳里にはよく似合っている。


 雪乃はフレアビキニというヤツで、淡いブルーがグラデーションのように白に乗っているような、そんな色合いの上下をつけている。


 続いた雅は、タンキニ型の水着。

 白基調に淡いブルー系の模様が入ったトップスでお腹周りは素肌が見えていて、下はシンプルな白にトップスの模様と同じ模様でラインが入ったショーパンタイプ。

 あまり積極的に海に入るつもりはないらしい。泳げないので。


 そうして水着姿になり、一斉に波打ち際から海の中に入りキャッキャしている。


 ――あっ、混ざり損ねた……これ遅れて行くのちょっと気まずくなるやつ……。


 そんなことはないのだが、流霞はそう感じて立ち尽くす。



「貸し切りだねー。まあ『指定ダンジョン』も近いし、普通の人はここは選ばないかぁ」


「それなー。めっちゃええやん、プライベートビーチっぽくて。てか海水浴なんて何年ぶりやろか」



 後ろから聞こえてきた声に振り返れば、黒いフリンジビキニに身を纏いながら日傘を差す莉緒菜と、シンプルにホルターネック型の黒い水着に、ゴールドのチェーンが映える瑛里華が、クーラーボックスを抱えてやってきた。


 どうやら瑛里華も《《持つ者》》であるらしい。



「ふぅ……、さすがに暑いわねぇ~……」


「――っ!?」



 さらにその後ろから聞こえてきた声に目を向ければ、瑛里華と同じホルターネックビキニでありながらも、白を基調にしてフリルのついた水着を着た聖奈がやってきた。


 ――真打ちの、登場……っ!


 前々から《《持つ者》》であることは分かっていたが、こうして一部でもしっかりと見えてくると、その大きさは凄まじい。

 ごくり、と息を飲んだ流霞がちらりと自分の胸元に目をやる。


 あるには、ある。

 だが、それだけだ。



「……るかちー。あっちと戦うのは、分が悪い」


「菜桜さん……」



 流霞のなんとも言えない反応を見て察したらしい菜桜に声をかけられて、流霞が菜桜を見やる。

 淡いグリーンカラーのクロスホルダービキニを着て佇む菜桜は、その身体も割と小柄ではあるものの、流霞と同じく「あるにはある」のタイプである。

 お互いに顔を合わせた流霞と菜桜の顔が、微妙にチベットスナギツネ化しながら通じ合った気がしないでもない。



「るかちー! はやく!」


「っ、ぬ、脱げと申すか……!?」


「なんで武士っぽいんや」



 パーカーを着てその場に佇んでいた流霞に、遠くから奏星が声をかける。すでに〝がちけん〟メンバーも奏星も美佳里も、波打ち際に進んで膝下まではすでに海水に浸かっているようであった。


 思わず声をあげた流霞に瑛里華のツッコミが入り、流霞も諦めてパーカーを脱ぎ去った。


 流霞はシンプルな白いオフショルダーのビキニだ。

 黒い何か南国っぽい木が描かれているらしいが、それがなんの木なのかは流霞には分からない。ヤシの木か何かだろうな、ぐらいの感覚でしかない。


 黒い髪が【月】のダンジョン因子の影響を受け、インナーカラーが白銀に染まっているという、不思議なコントラストがマッチしていて、ダンジョンで戦っているおかげで身体もぐっと引き締まっている。

 黙っていればなかなかの美少女ぶりではあった。顔は蒼白になっていて、明らかに表情は曇っているが。



「おぉ、るかちー似合うじゃん! 髪と水着で白黒いいじゃん!」


「るかちーの因子変化っつの? いいよなー。奏星のも綺麗だしさー。あーしなんてなんも変わんねーし」


「だっしょー? ま、でもるかちーの白銀っつか白は正直うらやまー。でもあーしじゃ似合わないかー。やっぱるかちーだからしっくり来る感じ」


「え、あ、へへ、ども……」


「出た、るかちの褒められ下手」


「たまに見るとちょっとじわる」



 奏星と美佳里に褒められてテレテレした流霞の下手くそな返事に、雪乃、雅の冷静な反応が零れる中、流霞が砂浜を歩いていく。


 岩海岸の砂浜は黒く、サラサラとしている。

 白い砂浜というのに憧れがない訳でもないが、むしろ眩しくなくて実に良き、と流霞は思う。

 そんな砂浜を進んでいって奏星と美佳里の間に立つと、ほぼ同時に左腕を美佳里に、右腕を奏星に取られた。



「へ?」


「とっつげきー!」


「いっくぞー!」


「ちょっ、おおおぉぉわああ――へぷっ!?」



 下り坂を加速され、そのまま波打ち際を駆け抜け、そして3人で海の中へと飛び込むはめになった流霞。

 そんな流霞を見て笑っていた雪乃の隣でにやりと笑みを浮かべた雅が、密かに持っていた水鉄砲を構え、充填。直後、雪乃の顔面を放たれた海水が襲った。



「ぶへっ、しょっぱ!? ~~っ、雅いいいぃぃ!」


「あっはははは! ――はぶっ!? うぇっ、しょっぱい!」


「へっへー、大口開けて笑ってっからだし! おらおらー!」


「げ、ちょっ、それはずるじゃん!?」



 雪乃が海水を掬い上げて大量に雅にかけて反撃する。

 あちこちでキャーキャー声があがり、童心に帰った雰囲気のJKズを見ながら、シートを敷いてパラソルを立てた瑛里華が苦笑して見つめていた。



「なんや、青春しとんなぁ」


「いや、私らも普通にそういうのやる側だからね?」


「聖奈、弁天島いってみよ」


「えぇ、行ってみましょうか~」



 自分たちよりも年下でエネルギッシュ過ぎる流霞たちの姿に、何故か保護者気分が強くなった瑛里華に莉緒菜がツッコミを入れ、菜桜が聖奈を連れて泳ぎに向かう。


 そうして三々五々に夏の海を堪能し始めた一行は、探索者としてではなく、ただの十代の少女たちとしてはしゃいでいた。






 ◆ ◆ ◆






 一方その頃、探索者協会の東京第三支部。

 背の高い建物の中、職員たちとぶつかりそうになりながらも一人の神経質そうな男が早足で進み、エレベーターの前で上りボタンを押して足を止めた。


 足のつま先を地面に当て、腕の時計を一瞥してエレベーターが今どの辺りにあるのかと液晶を睨む姿は、慌てているらしいことを如実に物語っている。

 周りの者たちはそんな男に八つ当たりされては堪らないとでも言いたげにエレベーターホールの曲がり角で足を止め、男が行くのを待つことにしたようだが、そんなことに男は気が付いていなかった。


 やがてエレベーターがようやく到着すると、扉が開き切る前に身体を滑り込ませるようにして、即座に目的の階を押して扉を閉めるボタンを苛立たしげに連打した。


 エレベーターの中、一人になった男は僅かに荒くなっていた呼吸を落ち着かせるようにゆっくりと何度かに渡って深呼吸すると、目的の最上階近くに到着し、エレベーターを降りてとある部屋の前までやってきた。


 ととん、とんとん、ととん、と独特なリズムでノックをすれば、室内から鍵が開けられる電子音が聞こえて男が周囲を見回す。

 誰もいないことを確認してから、男は「失礼します」と小さく声を出しながら、その室内へと足を踏み入れ、即座に後ろ手に扉を締めた。


 部屋の中は、応接用のソファーとローテーブルが置かれた一角。

 部屋の奥は全面ガラス張りとなっているが、今は中からも外からも様子が窺えないよう縦型のブラインドが閉じられており、逆光を受けた仕事用のテーブルの向こうにある椅子に、一人の老年の男性が座っているのが見えた。


 返事も挨拶もないこの部屋の主に対し、部屋に入ってきた男が口を開く。



「――ご報告いたします。先程、神奈川南西の『鶴寿』に潜ませている協力者より、探索者パーティ〝魔女の饗宴〟と〝金銀花(カプリフォリオ)〟が宿泊しているという情報が届きました」



 椅子に座る男からの返事はない。

 それを気にすることもなく、部屋に入ってきた神経質そうな男が続けた。



「調べたところ、真鶴の『指定ダンジョン』の間引き討伐依頼を〝魔女の饗宴〟が受けています。場合によっては、〝金銀花(カプリフォリオ)〟も同行するものかと思われます」


「……狙いは?」


「……おそらく、あの娘たちは〝優良探索者〟になろうとしているのかと」



 ようやく返ってきた言葉に、神経質そうな男が推測を述べる。

 すると椅子に座っていた男が深呼吸するようにゆっくりと息を吸って、そして静かに息を吐き出した。



「……真鶴の『指定ダンジョン』には《《厄介なトラップ》》が中層手前にあったんだったか。あれに引っかかってしまえば、恐らくは生きて帰ることは不可能だろうな」


「っ、それは……」


「残念だよ。有能な若い探索者が《《不幸な事故》》に巻き込まれることになるとはね」


「……っ、承知、いたしました……。それでは、《《そのように》》」



 神経質な男が部屋を出て行く。

 そうしてしばし、扉を見つめていた部屋の主は、ゆっくりと椅子を回転させて縦型のブラインドを開け、自然の明るさを室内に取り込みながら、両手の指を絡ませて腹部の上で手を組んだ。



「……若く有能な者の未来を摘むのは心苦しいが……、仕方あるまい。今更、下手に探索者協会に手を入れられては叶わん。ただでさえあの厄介な〝亡霊〟どもが嗅ぎ回っているのだ。ここで世論や何も知らない者たちに下手に介入されてなるものか」



 奥歯を噛み締めて、初老の男は続けた。



「――――綺麗事で何が守れる。神奈川崩壊事件の真相は、隠し通さなければならんのだ」


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