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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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車内にて




 今回流霞たち一行が向かっているのは、神奈川県の真鶴町。

 真鶴半島の方までは出ず、どちらかと言えば真鶴町の北側――つまり、旧小田原、湘南方面に近い。


 今回一行が選んだ海水浴場は、かの源頼朝が石橋山の戦いに敗れ、房州に船出した浜ということで古くから知られているという、岩海岸と呼ばれる地だ。

 平和であった頃は海水浴場として賑わってはいたのだが、神奈川崩壊事件以降、この地で海水浴を楽しむ人々の姿はほぼほぼなくなってしまっている。


 真鶴有料道路――通称、真鶴道路、または真鶴ブルーライン――の一部となる岩大橋が海上を横断するように伸びていたり、湾内には弁天島と呼ばれる小さな島のようなものもある。

 残念ながら絵に描いたような白い砂浜、とはいかないのだが、それでもわざわざ海に海水浴に行くようなことはないため、一行も移動中の車内ではあれやこれやと語り合って楽しく過ごしていた。



「にしても、さすが太っ腹やなぁ。これ全部クラン持ちなんやろ?」


「もち。クランのお抱え探索者パーティが『指定ダンジョン』だったり、魔物の領域の奪還作戦に参加したりすると、直接的な報酬はないけど税制優遇措置を受けられるんよ」


「現実的過ぎて草」


「……そんなもんや……」



 世知辛い世の中ではあるが、収入があれば税金はかかるものだ。

 色々と複雑な想いがあるのは確かではあるし、未成年として税金というものに対して馴染みがなかったために、「え、こんなに取られるん?」と思わなくもなかったりもするのだが、経済活動とはそういうものである。


 国としても、『指定ダンジョン』の『魔物氾濫(スタンピード)』は避けたいし、魔物の領域を奪還したい、とは思う。

 だが、魔物が『魔物氾濫(スタンピード)』によって当たり前のように跋扈した地には、明らかに下層クラスと思しき魔物の姿もあり、かつ数が多いため、奪還は現実的に考えてなかなかに難しい、というのが実状だ。


 故に、まずは「これ以上広がらないように尽力する」という消極的な対策しか取れずにいるのである。

 もっとも、それですらなかなかに難しく、慣れによって少しぐらいはと手を抜いた瞬間に『魔物氾濫(スタンピード)』が発生するというような事件もあり、全体的には後退しているような状況ではあるのだが。


 そこで国が出した案こそが、『指定ダンジョン』にお抱えの探索者パーティを派遣したら、そのクランの税制優遇措置を受けられますよー、という、ぶっちゃけ自分の懐は傷まないもののwin-win関係を築ける措置である。


 そんな世知辛い世の中というものを知ってしまうと同時に、節税という概念を知ったJK、それが雅であった。



「そういやさ、『指定ダンジョン』の間引き討伐って、厳密にはどれぐらい進んで倒せばいいん?」


「基本は上層の討伐と、可能なら中層5階層までの間引きぐらいなもんやな。まあ中層については基本レベル3ぐらいにならな行けへんから、レベル3パーティの参加が最低条件になっとるんよ」


「へー、じゃあるかちーと奏星とあーしがレベル3になったら、そういう依頼も来るってこと?」


「せやね。ほら、探索者用のアプリあるやろ? あれ経由で見れるようになるんよ。で、こっから探索受付ができんねん。ちなみにこれ、レベル3以上になると救難信号も受け付けたりするんよ」



 意味がないアプリという認識に成り下がりつつあった探索者アプリに、実は相応の機能があったと聞かされて、流霞が改めて自分のスマホを見る。



「あれ、探索者ランク非表示だ」


「は? なんやそれ」


「うわ、あーしもじゃん」


「探索者協会がなんかやったんかな? あ、あーしもだ。うける」



 流霞がぽつりと呟いた一言に反応して、同じくスマホをいじっていた奏星も確認し、同様に探索者ランク表示が消えていることに気が付いた。

 美佳里がそんな推測を口にしつつ自分の表示を確認し、笑いもしない「うける」を発動し、それに流霞がぎょっとした。笑ってないじゃん、と。



「つかさー、探索者ランクとかって素材、魔石販売額で算定されんじゃないの?」


「うん、そのはず」


「探索者協会が売買記録に紐づけて管理してるっぽいよ。多分だけど、るかちーと奏星、それにミカミカのは、探索者協会の誰かが意図的にランク情報を停止させたとかじゃね?」


「陰湿過ぎてきっしょ」


「みみっちい嫌がらせねぇ~。私の方は普通に映ってるのに~」



 美佳里と莉緒菜のやり取りの横から雅が声をあげれば、雪乃が吐いて捨てるように言い切り、聖奈が笑顔であらあらと言わんばかりの困った顔で、さりげなく辛辣な言い回しで呟いた。



「てかこれ映らないことで、何か影響あるん?」


「探索者協会の窓口で素材を売ったりする時に、アプリで名前とかランクを確認するんよ。それができないと買取不可」


「は? なにそれ?」


「ほら、探索者ランク上げると協会主催のオークションへの参加権とか、割引が貰えるっしょ? 結構昔やけど、一時期、新人探索者から採集物を脅して奪ったりしてその特典を貰おうとしとった連中がおったんよ。で、ランクっつか実力に見合わない数の売却の場合は映像確認が必須になったんよね」



 美佳里の質問に淡々と雅が答え、美佳里が頷く――その横で流霞も密かに頷いた。

 ぶっちゃけいまいち分かっていなかったのだ。



「え、じゃあ何? これが映らないとウチら探索してもお金にならないってこと?」


「クラン経由じゃなくて協会経由でしか売ってなかったら、そうなってた。ま、〝金銀花(カプリフォリオ)〟のは全部〝がちけん〟で買い占めてっから、影響なかったけど」


「最悪じゃん」


「それな」


「問い合わせてきたら呼び出しかけるつもりやったんか、それとも一旦探索者活動をストップさせておきたかったんかは知らんけど、まあまあえぐい真似しとんなぁ」



 美佳里と雅、二人の会話を聞いていた瑛里華が言う通りだ。

 確かにこれがクランに所属していない探索者であったのなら、正規の販売は難しくなる。

 付き合いのないクランに買取を頼むのは不自然である上に、足元を見られて二束三文で買い叩かれることになっただろう。


 そのやり口の姑息さに苛立つ面々の中、唯一雅だけはにぃっと口角をあげた。



「るかちー、奏星、ミカミカ。スクショよろ。それ、SNSにあげよ」


「え、いいん?」


「〝金銀花(カプリフォリオ)〟の公式アカウントから上げたら、色んな人が憶測っつーか、推察するんじゃね? ゆっきー、3人からスクショ受け取ったら、誤作動してっかもって感じでよろ」


「おけおけー。んじゃ、スクショぷりーず」



 ニタリと笑った雅の提案に、雪乃がにんまりと笑って3人にスマホをひらひらと見せた。

 目を丸くしていた美佳里や流霞はともかく、奏星にはなんとなく事情が察せてしまって苦笑し、〝魔女の饗宴〟の面々も奏星と同じような苦笑を滲ませた。菜桜だけは欠伸してお菓子を貪っていたが。


 要するに、雅はこの状況をよくある一幕のように見せかけながら、遠回しに投稿を見た者たちに「探索者協会にこんなことされている」とアピールするつもりなのだ。

 この異常が独断であるのか、あるいは組織的な決定なのかはともかく、父である傑から聞かされた話を思い出す限り、〝金銀花(カプリフォリオ)〟をどうにか黙らせたい派閥とそうではない派閥の間での新たな火種には成り得る。


 それが決定打になるかどうかは関係ない。


 今回それをやったのが何者であって、何が目的であったのかは知らない。

 ただただ、何を目的にしていたとしても、世論が探索者協会へ批難が集中していくような風潮が強まってくれればくれるだけ、父の言っていた面倒な連中を排斥する方向に天秤は傾いていくのだから。

 ならば、手を緩める道理はない。


 そこまでは把握せずとも、他の面々にも「炎上させるつもりか」というのはなんとなく察せられた。


 もしもこれが一部の、それこそ〝金銀花(カプリフォリオ)〟だけを対象にやっているのだとしたら、SNSではさぞ盛り上がることだろう。

 叩く理由が見つかるだけで、便乗してお気持ち表明するような輩なんて、SNSには吐いて捨てるほどいるのだ。

 良くも悪くも注目を集めている〝金銀花(カプリフォリオ)〟の投稿には、以前よりもそういった反応をする者が多く見られる。今回の件もきっと注目されるだろう。



「うっし投稿かんりょー……って、うわ、はや」


「……一応カレンダー的には平日の真っ昼間なんやけどな?」


「SNSってなんか反応早い人いるよね……」



 雪乃が「なんかウチらの探索者ランク表示されないんだけど、これどういう状況? 誤作動してるん?」というメッセージと一緒に、受け取った画像を3枚載せてアップすれば、あっという間に反応と拡散が広がっていく。


 あまりの反応の早さに瑛里華と莉緒菜がぽつりと呟いたのは、彼女たちの投稿にいつも最速で反応する視聴者たちがいるからである。

 なお、その人は「ダガー」のマークで名前を挟んだりしている系の人が多い。そういう表記が巷では流行っているらしい。



「ところで、りおなん」


「うん、なに?」


「〝魔女の饗宴〟って他のパーティと合同探索とかしてないけど、合同探索の時っていつもの演技、どうすんの?」



 ピシリ、と空気が固まったような気がして、雅はなんだか触れてはいけないものに触れたような気分を味わった。



「……いや、うん、やるよ」


「そらやるしかないやろ。ないんやけど……」


「笑わないでね」


「できれば、そういうものとして受け止めてくれると助かるかも~」



 目の前に身内がいるような状態で〝魔女の饗宴〟が〝魔女の饗宴〟らしく動かなくてはならないという現実を、どうやら莉緒菜たちはあまり深く考えていなかったらしい。


 流霞は劇を観るような感覚でわくわくしているのだが、〝魔女の饗宴〟にとっては少々辛い数日になるような、そんな予感がした瞬間であった。


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