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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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修行の日々




 夏休みが始まって間もなく、ダンジョン上層11階層。

 今日は〝金銀花(カプリフォリオ)〟の3人と一緒に、〝魔女の饗宴〟の瑛里華と菜桜が付き添っていた。


 ここ数日、『指定ダンジョン』で〝優良探索者〟を目指すため、戦闘力の上昇を目指すべく、〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟は合同でダンジョンへと挑んでいるのだ。

 戦い方を知り、スキルを把握し、〝独自魔法〟をお互いに見せ合い、連携を高めることを目的としつつも個々のスキルアップを目指していた。


 なお、配信は『プラベ配信』――いわゆるプライベート配信のみだ。

 あの一件以降、テレビ番組を見て動画にコメントを入れる者たちが増えており、今の状況で下手に配信をすると、内容を確認しようともせずに面白半分でアンチコメントを投稿するような者が現れる可能性があるためだ。


 その一方、〝ECHO(SNS)〟ではそれなりに情報を投稿し、周囲の声を気にせずにマイペースに修行していることなどを発信し、ファンを安心させるよう務めていたりもする。

 そちらでもアンチコメントは湧くのだが、「アンチコメントには動画のURLを貼ってあげて」という雅のコメントにより、ひたすらに動画のURLが有志によって送りつけられている。



「――だはーっ、あかーん! 〝独自魔法〟っつか【魔力操作】に気ぃ取られてまう!」


「わかる」


「あーしも、魔法銃使うだけで精一杯だわー……」



 瑛里華の叫びと菜桜の静かな同意、美佳里の疲れ切った声は、次々に襲いかかってくる魔物たちを一掃したところで爆発するように漏れ出した。


 つい先程まで、流霞と奏星は、美佳里も含めた3人へ〝独自魔法〟の感覚を伝えていたのだ。

 実戦の中でも【魔力操作】をするよう課題を与えてみたのだが、まだまだ練度が足りておらず、【魔力操作】も戦いも、どちらも中途半端になって瑛里華と菜桜、そして美佳里を悩ませているようであった。



「いやー、でもそれなりに色々できてきてるくない?」


「まだまだやって。スキルに集中すると一瞬で【魔力操作】が止まっとる。精進せな」



 瑛里華のダンジョン因子は【雷纏】。

 身体に雷を纏って体術で戦うというタイプである。

 元々身体にスキルを纏うような形であるため、案外早く【魔力操作】は覚えられたようではあるのだが、しかし〝独自魔法〟に発展するという段階で躓いている。



「ん……、難しい……。けど、さっき一瞬、加速できた」



 一方、菜桜のダンジョン因子は【身体能力強化】というものであるが、速度に傾倒しているためか、スピードばかりが上がった双剣使いだ。



「ええやん、菜桜。その調子やったら超スピードできそうやん」


「ぶい。でも、瑛里華もいい感じ。さっき拳から雷少し伸びてた」


「ほんまか!?」



 いまいちコツを掴みきれずに模索している段階ではあるようだが、しかしその片鱗は現れている。

 数をこなしていけば使いこなせるようにもなりそうだ、というところで、おかわりの魔物たちがやってきた。


 グレーホブゴブリンと、シャドウウルフ。

 かつては苦戦したグレーホブゴブリンも、立体的な機動力と体躯の大きなシャドウウルフを相手にして、流霞も今となっては苦労せずにあっさりと倒せるようになっていた。

 レベルアップもそうだが、何より戦い方が確立したことや、それぞれに戦いというものに慣れた、というのが大きいのだろう。


 そうして一段落。

 疲れて一休みしているところで、今度は教師と生徒が逆転。


 開口一番に瑛里華が訊ねた。



「――るかち、カナっち。二人にとっての〝強み〟はなんやと思う?」


「〝強み〟……?」


「せや。自分らが持っとる、戦いの中でこれだけは絶対の自信がある、誰にも負けへんってもんはなんや? ちなみに、ミカミカはその〝強み〟が活かされて遠距離攻撃型の魔法銃になっとると考えるべきやな」


「ん。ミカミカは戦いが乱戦になった時にもしっかりと狙うべき相手を狙っているし、外してもいない。後衛として優秀」


「おー、あざーす」



 もう一人の引率役であった菜桜に褒められた美佳里が、恥ずかしそうに照れ隠ししながら御礼を口にする。

 一見すればどちらが年上なのか迷いそうな見た目の差があるのだが、しかし年上であり先輩である菜桜の実力は凄まじいものがあった。



「んー、むずかしー。るかちーの〝強み〟なら分かるけどさー」


「わ、私も……。奏星の〝強み〟は分かる、よ?」


「お、ええやん。せやったら、るかち。カナっちの〝強み〟ってなんやと思うてるん?」


「えっと、超火力で一発で複数の魔物を倒しきれるし、前衛も囲まれなければしっかりこなせる器用さ、かな」


「なんかそうやって聞くとあーしすごくね?」


「いや、奏星はガチでヤバいから。普通に他のパーティとかでも滅多に見ないレベルっしょ」


「お、おう……、そっか……」



 流霞と美佳里、二人からの高い評価を受け、恥ずかしくなって茶化そうとした奏星が、美佳里に真っ直ぐ褒められて撃沈する。その様子を瑛里華がニマニマしながら見つめ、菜桜が親指を立てた。


 そんな対応をされて、なんだか余計に恥ずかしくなってきた奏星がやけくそ混じりに声をあげた。



「る、るかちーはやっぱアレ! 視野の広さと、冷静さっつーのかな? 戦ってる時とか、めちゃくちゃ頭がいいじゃん!」


「恥ずかしくなってるかちー巻き込もうとしてんのうける」


「ちょっ、ミカミカぁ!」


「いや、冗談だって。でも、まあ実際るかちーの視野の広さと戦術の組み立て方とか、ガチでヤバいじゃん。ほら、あの狼っぽい化物の時のアーカイブあーしも見たけど、あんな化物と戦いながら誘導するとか、ホントヤバすぎでしょ」


「えっ、そう……?」


「せやな。ぶっちゃけウチがあないな場面に遭遇しとったら、冷静になんて考えられへんよ」


「それもだけど、るかちーは異常」


「異常っ!?」



 奏星と美佳里、そして瑛里華が盛り上がる中でテレテレしていた流霞に突き刺さる菜桜の辛辣な評価に、思わず流霞が声をあげる。

 しかし当の菜桜はこくりと頷いたまま、じっと流霞を見つめた。



「るかちーは、空間把握能力もおかしい。見えてない位置からの攻撃すら見ないで避けたり、魔物の中に突っ込んでも無傷だったり、ホント色々おかしい」


「えぇ……? でも、菜桜さんも同じようなことやってましたよね……?」


「ん、私の回避は速度に頼って逃げ切るタイプ。相手が格下だから囲まれても避けられるけれど、同格とかそれ以上の相手の攻撃は基本逃げ一択」


「せやな。菜桜は速度にもの言わすタイプや。同格、格上に囲まれて死角から攻められて攻撃を受けるのも珍しくない。けど、るかちーはちゃう。同格、格上が相手でも、速度やのうて回避しとる。それこそ、全部見えとるんかっちゅーぐらいに」


「さ、さすがに全部は見えてないですよ……? でも、なんていうか、ここに来るっていうのは分かるので」



 周りが首を傾げる中、流霞もまたよく分からずに首を傾げていた。


 確かに、流霞自身もあまり気にしたことはなかったが、どういう訳かどこにどういう動きが来るのか、自分がこう動けば魔物がこう動く、というような理解のようなものが頭に浮かぶのである。

 こればかりは理屈で説明できるようなものではないため、感覚めいたものでしかないので言語化は難しい。ましてやコミュ障オタク少女の流霞に、言語化できない言葉をパッションやフィーリングで伝えられるような感性はなかった。



「まあ、ええやろ。るかちーのそれが何かは分からんけど、立派な〝強み〟や。それでな、なんでこないな話をしたかっちゅーと、〝強み〟を活かすような〝独自魔法〟を意識して作ってみたらどないやろって思うてん」


「ん、実はウチもそれを意識してやってる」


「え、そうなんですか?」


「んむ。莉緒菜の【悪魔の(かいな)】は〝独自魔法〟。最近はあれに座って移動する方法を模索中」


「それは〝強み〟ではなくて〝演技方針〟なのでは……?」



 流霞の本音が突き刺さり、瑛里華と菜桜が目を背けた。



「でも、悪くないかも」


「ミカミカ、なんか思いついたん?」


「〝独自魔法〟ってさ、決まった答えがないじゃん? だから自由に発展させていかなきゃなんだけど、自分の〝強み〟をさらに強化させるか、それを活かすための〝独自魔法〟を考えればいいってことっしょ?」


「せや。足りひん火力を補うもんでも、逆に短所をカバーするもんでもどっちでもええけど、戦いの中で使うんやったら自分の〝強み〟を意識して組み立てていくべきやと思うんよ。それこそが強さに繋がるっちゅーわけで、そっち意識して色々試してみよかー」


「おー」



 それぞれに〝独自魔法〟で何ができるのか、どういったことができるのかを考えて、試しては、魔物との実戦で試す。


 そんな中、流霞は思考を巡らせていた。

 自分の強み、空間把握能力がそれだと言うのなら、それをもっと上手く使える方法はないだろうか、と。


 今あるスキルは、【朧帳】と【潭月鏡身(たんげつのかがみ)】。

 分身を残して自身が移動するもの、大量の分身を生み出すように、自分の姿をあちこちに作り上げるもの。

 使える魔法は重力操作で、けれどその重力操作もどこか効果が漠然としているような、そんな気がしてならない。


 そして、空間の把握能力。


 ――……空間と、重力と、分身……。


 何か、朧気ながらに自分が目指すべきものの輪郭のようなものが見えた気がして、それを追いかけるように自問自答を繰り返す。


 誰もが似たような日々を過ごす。

 一朝一夕では強さは手に入らないものの、しかし自分が目指すべき強さの形のようなものが見えてきた気がして、必死にそちらへと手を伸ばすように訓練を続ける日々が続いた。




 ――――そうして、8月に入った。

 一行は、『指定ダンジョン』の討伐依頼の舞台となっている神奈川の南西部、真鶴へと足を踏み入れた。



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