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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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可視化する影響




 水着の買い物は、ノリと勢いのファッションショーのような様相を呈した。

 それぞれにちゃんと購入予定のものを選びながらも、その代わりにやたらと派手なものを試着してみたり、逆に普段なら選ばないようなものを試着してみたり。


 流霞にとっては人為的『魔物氾濫(スタンピード)』で最後に戦ったあの化物との戦いと同じぐらい、精神力を削られる時間であった。

 正直、流霞には自分にどういったものが似合うとか、こういうものが好きだとか、そういった感覚があまりないのだ。


 結局、どういうものを選べばいいのか分からずに奏星に選んでもらったものを購入することに落ち着いた。

 夏服についても同様の結末を迎えたあたり、本当に流霞にはそういうセンスが培われていないのだろう。


 ともあれ、ようやく買い物などを済ませたのは夕方。

 夏前あたりまではすっかり外も暗くなるような18時頃だというのに、この時期になるとまだまだ明るい時間帯だ。


 特に用事もないものの、少し休憩がてらゆっくりしよう、ということで5人が入ったのは、近くのファミレスであった。

 同じようなことを考えているらしい集団もそれなりに多いようで、わいわいがやがやと騒がしい空気が漂っている。



「小腹空いたし、なんか適当に食べる?」


「つか夕飯ここで済ませればよくね?」


「あーしあんま時間気にしてないわー」


「分かる。腹減ったらご飯の時間、みたいな感じ」


「あ、私もそれ」



 雅、雪乃、奏星に続いた美佳里と流霞。

 そんな軽いやり取りを済ませながら、液晶に接客用テーブルの番号が記載され、案内に従ってそちらの席へと移動していく。


 ギャル5人――なお、内一人は見た目だけのオタク――が堂々と歩いていく姿は、地味に目立つ。派手な髪色というだけならば奏星の金、オレンジがかった金、ピンクという3色は群を抜いており、さらに黒と白銀という流霞がいるのだから当然と言えば当然だが、視線が集まった。



「――ねえ、あれって〝金銀花(カプリフォリオ)〟の……」


「うっそ、マジじゃん!? えー、あの制服、サンコーだったんだ!」


「あっ、銃の子も――」



 聞こえてきたヒソヒソとした喋り声に、奏星が流霞と目を合わせて苦笑し、美佳里が乾いた笑みを浮かべた。


 奏星と流霞、そして美佳里ら〝金銀花(カプリフォリオ)〟は色々な媒体で騒がれていたのだ。

 それこそ人為的『魔物氾濫(スタンピード)』を抑えてみせた当時は、ネットニュースにも名前や映像が映ったり、テレビでも色々な意味で、だ。


 そういう意味では奏星と流霞、それに美佳里は有名人と言っても過言ではなかった。そんな彼女たちに注目が集まるのは必然と言えば必然だ。


 しかし。



「えぇー、確か〝金銀花(カプリフォリオ)〟って迷惑系かなんかだろ?」


「ちげーよ馬鹿。あの子らが『魔物氾濫(スタンピード)』を抑えて――」



 手に入れた情報がどこからのものであるのかがよく分かるようなやり取りだ。

 ファミレス内の客の反応は分かりやすく、自分たちを見て顔を顰める者たちはテレビなどのみから情報を手に入れていて、逆に自分たちを見て有名人を見たと言わんばかりに静かに目を輝かせているのは、ネットから情報を拾い上げているような者たちなのだろう。


 そんな不躾な個々の視線を向けられて、雅と雪乃は苛立つように眉間に皺を寄せ、奏星と美佳里は無表情を貫いてはいたものの、今更ながらに〝金銀花(カプリフォリオ)〟の知名度はおかしな方向に広がってしまったのだと自覚していた。


 一方、流霞はと言えば。



「――きひっ」



 特徴的な、絞り出されたような笑い声。

 途端に店内がざわりと騒がしくなり、一行を見ていた者たちの顔が青褪めた。



「……っ!?」


「おい、そいつの口閉じろ、きひられるぞ!」


「生きひ子ちゃんじゃんヤバ」


「ばっっか、おま、やめろって」



 まるで猛獣が檻から解き放たれたかのような、そんな扱いを受けているような気分になりながらも、雅と雪乃が、奏星と美佳里がそれぞれに顔を合わせて苦笑し、Uターンするようにぐるりと反転しつつ、周囲に笑いかけた。



「お騒がせしましたー」


「ほら、店変えよ」


「え? え、あ、うん」



 そそくさとその場を後にするような形で5人が出て行くと、店内には何故か危機が去ったかのような奇妙な安堵感に包まれたのだとか。





「――あっはっはっはっ! クッソウケる! るかち最強かよ!」


「いやー、自覚なかったわー。そっか、〝金銀花(カプリフォリオ)〟ってあんな有名なんかー」


「いやいや、そんな話してる場合じゃなくってさ。るかちーがきひっただけで店内ザワッてなったのめっちゃ笑いそうだったんだけど」


「あれはヤバかったわー。るかちー地味に怖がられてんじゃん」


「うぅ……」



 所変わって、結局他人の目が気になる5人がやってきたのはカラオケボックスである。

 お腹も空いた、けれど人目があるとさっきの二の舞になるだろうということで、密室であり、かつ軽食などもかなり豊富で、最近では歌うだけじゃなく少人数のパーティーなどでも使われるカラオケボックス安定、という形になったのだ。


 ちなみに、ここは流霞と奏星が莉緒菜と初めて約束して話をした場所でもある。


 流霞が先程、いつものあの声を漏らしてしまったのは、あまりにも周囲からの視線が集まり過ぎてしまい、しかしその場を足早に立ち去ることもできないというジレンマを抱えた結果、喉が強張って引き攣るような声が出てしまっただけのことだ。


 当然ながら、雅たちのように付き合いが長くなってくれば、配信の時のいわゆる「きひった」状態とは少々違うものであることに気が付くものだ。もしもあの場に熱狂的な視聴者がいれば、きっと「むむっ、今のはいつものきひりとは全くの別物でいつもよりキレが」とでも熱く語ったかもしれない。


 しかし、あの場にいた者たちは〝金銀花(カプリフォリオ)〟は知っていても、実際にどういうダンジョンアタックをしているのかとか、どういった特徴があるのかを配信で観ている訳ではないために、察することができなかったのだろう。

 

 ただ、雅たちにとっては好都合だった。

 あの微妙に注目の集まった場所から逃げるように出ていくというのも、なんだか悔しい。

 そんな状況で流霞があの声を漏らしてくれたおかげで、ただ逃げ帰るのではなく、言いたい放題言っていた者たちにも意趣返しができたとも言える。おかげで溜飲は下がった。


 もっとも、流霞だけは「なんかめっちゃ怖がられてた」みたいなショックを受けていたりもするのだが、他のメンバーたちからすればファインプレーである。



「それにしても、思ったよりウチら有名なんだね」


「それなー。……しかも、やっぱテレビに流されてる人も多いってよく分かったわ」



 美佳里が苦笑して、雪乃がぽつりと呟く。


 気にしてはいなかった。

 いや、正確に言えば、気にするような状況に陥ることがなかった、というのが正しいだろう。


 実際に奏星や流霞、美佳里は学生で、行動範囲はおおよそ決まった範疇に留まっていた。

 学校では周囲が騒ぎ立てるようなこともなく、教師も「人命を救った」という事実を前にして褒め称えてやりたいものの、世間の風潮がそれを許さずになあなあになっている。


 そのせいで、当事者たちの意識はどこか他人事だったと言えるかもしれない。



「あー……。ウチらが思っていた以上にゴチャゴチャ言われてっから、〝魔女の饗宴〟のみんながわざわざ意趣返しなんて考えてくれたのかも」


「こっちも忙しかったし、そのうち勝手に落ち着くって思い込んでたのにこれだもんね。正直、自覚薄かったわ」



 奏星と雅が、莉緒菜たちが代わりに憤ってくれていたのだと理解して呟く。


 人為的『魔物氾濫(スタンピード)』事件から、『魔導防具(マギア・ギア)』の発表のために雅も慌ただしく動いていた。そのせいで情報の把握や対応が後手に回ってしまっていたのだと、悔しい気持ちが大きい。


 想定以上の結果を出している〝金銀花(カプリフォリオ)〟の二人のおかげで、〝がちけん〟は大き過ぎる影響力を手に入れた。

 さすがにその力を扱いきれるものではなく、それでも雅の家族に頼れたからどうにかなってきた。

 だが、大き過ぎる問題を消化すると同時に密かに〝がちけん〟の名前も表に出てくるというのに、内部の細かなこと、社会的な対応といったものが可能な人員がいない。

 今回の件においても、もしも〝金銀花(カプリフォリオ)〟が『明鏡止水』に所属しているパーティだったなら、もっとちゃんと守れたかもしれないのに、と今になって気が付き、歯噛みする。


 ある意味、色々なことが浮き彫りになったとも言える。



「――じゃ、じゃあ、やっぱり早く〝優良探索者〟に、ならなきゃ……ね」



 自分たちの置かれた状況の大きさ、厄介さに言葉を失いかけていた面々を前にして、流霞が単純明快に語る。


 流霞には雅や他の面々の葛藤は分からない。

 とりあえず注目されるし、何故か自分たちが言いたい放題言われているのは分かった。

 それらをとりあえず黙らせればいいのであれば、莉緒菜たちが言うように〝優良探索者〟になってしまうのが一番だろうという結論に至る。


 ――なら、話は簡単だ。



「きひっ、魔物をもっといっぱい倒せるようになれば、きっと簡単だよね?」



 このオタク少女、地味に脳筋である。


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