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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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海っしょ? なら水着買うっしょ?




 瑛里華、そして莉緒菜から提案された『指定ダンジョン』の討伐依頼というのは、探索者協会が公開しているホームページ上で内容の確認が可能だ。

 間引きがあまりにも捗らないような場所であれば、大手のクランに直接依頼という形になるが、一般的には何月何日から何月何日まで、というように期間を区切って参加申請を行えば、システム的に空きさえあれば自動的に受理される。


 話し合いから2日後、今回瑛里華と莉緒菜が選んだダンジョンの依頼受諾情報が共有された。



「なんこれ、しんつる?」


真鶴(まなづる)。旧神奈川の南西側っぽい」


「へー、初耳だわー」



 表示されている文字の読み方に引っかかった雪乃に、雅が答える。


 真鶴ダンジョン。

 神奈川の南西部、箱根から南下した海沿いに位置する一角であり、13年前に発生した日本史上最悪のダンジョン事件、神奈川崩壊事件が発生した湘南方面とはかなり離れた場所に当たる海沿いの町だ。


 とは言え、もともとその辺りは住人も少ない町ではあった。

 その上、神奈川県では湘南一帯から魔物が次々に溢れて崩壊していったため、魔物の領域もかなり近いということから、町を離れていく若者がかなり多かった。それ故に、ダンジョンの間引きが独力では難しくなってしまった場所だ。


 そんな場所にあるダンジョンまでもが崩壊すれば、魔物の領域がさらに広がっていくばかりだ。

 そのため、そうした動きを水際で喰い止めるべく、魔物領域周辺のダンジョンはほぼ全てが『指定ダンジョン』と化している。


 そんな所へ泊まり込みで赴くというのは、つまり。



「――つまり、水着買わなきゃってこと」


「……? なぜ……?」



 キリッとした顔で告げた奏星に、流霞が首を傾げた。

 ダンジョンと水着の関係性なんてないのに、と本気で思っている流霞である。



「いやいやいや、ダンジョンだけ行って終わりなんて、そんなんじゃ夏休み気分になれないじゃん!」


「それな」


「わかる」



 ――分からなくて訊いているんだが?

 流霞が胸の内でそんなツッコミを入れていることなど、雅、それに美佳里と雪乃には一切通じていなかったようである。


 いくら『指定ダンジョン』の魔物間引きが目的とは言え、それはそれ。

 JKにとって夏休みは夏休みなのだ。

 夏休みは何をする時期かと言えば、当然決まっている。

 そう、遊ぶ時期である。


 真鶴という海沿いの地に行くからには、つまりは海で遊ぶチャンスでもある、ということに他ならない。

 ならば行くしかないっしょ、というのが彼女たちのノリだ。


 一年前の夏休み、ほぼほぼ外に出なかった流霞とは経験値が違いすぎるのである。



「るかちー水着とか持ってる?」


「え、いや、学校指定のなら……」


「はいアウト」


「よし、買い物いこ」


「今からいこ。あーしも装備の参考に服とかちょっと見たいし」


「え、ちょ、えぇ……?」



 一応、流霞たちが通うサンコーには水泳の授業もある。

 なので流霞も学校指定の、いわゆるスク水ならば持ってはいるのだが、そんなもので海水浴など言語道断と言わんばかりに奏星たちが流霞の水着も購入することを決定した。


 という訳で、一行は早速駅の近くの商業施設が集まる一角へと向かっていた。


 ちなみに移動は無人タクシーで。

 夏の暑さに負けたのだ。

 汗だくでショッピングは楽しさ半減、とは雅の言である。


 ともあれ、そうして到着した商業施設は多くの人で賑わっている――なんてことはなかった。


 省人化を徹底した世の中でかつてのように店員がいない。

 品は置いてあるし対応もしてくれるが、それらはほぼ全てがAIを搭載したロボットだ。

 そもそも買い物もパーソナルデータを入れてさえいれば、通販で購入できてしまう時代であるし、VR上で自分の映像に試着するということもできてしまうのだ。


 一方で、学生などの若い世代はむしろこうした場所に足を運ぶことが多い。

 というのも、成長期である学生の時分にはサイズが変わっていることがあったり、友人たちとわいわいしながら購入したいという層も一定数いる。


 おかげで街中の平均年齢層は若い。


 そんな中を、ギャル4人とオタクが征く。

 そのオタクも髪のインナーカラーが白銀に染まっているため、地味にギャルの一人に見られなくもないのだが、非常に目立つ集団であった。

 流霞はそろそろ【朧帳】を使おうか本気で迷っている。



「あー、そだ。夏服も色々買いたいんだよねー」


「一緒に見に行く?」


「あ、じゃああーしもいこっかな。最近忙しくて今年の夏服買ってないわ」


「それなー。なんかダンジョンガチで潜ってちょっと身体も引き締まったし、サイズ合うの探そっかなー」



 美佳里と雪乃、それに雅と奏星が楽しげに会話する中、流霞は困惑していた。


 ――今年の夏服……? え、服ってダメになったり入らなくなったら買うものなのでは?


 ギャルのオシャレレベルとオタク少女の服の感覚の違いが浮き彫りになった瞬間である。

 もっとも、元々流霞は孤児出身者であり、あまりお金に余裕がなかったから服を買うという発想に至らなかった、というのも大きい。


 しかし、なんだかんだで今の流霞はそれなりにお金を貰っている。

 配信動画の再生回数に応じた広告掲載料であったり、ダンジョン関連であったり、アーティファクトの件のお金であったり諸々で、それなり以上にお金は手に入ってきているのだ。


 かと言って流霞の生活が良くなったかと言えば、変わってはいない。

 お金の使い方が分からないのだ。

 せいぜいコンビニの衝動買いが一品増えたり、推しグッズを買う心理的葛藤が減って、残高ばかりを気にしなくても許されるような生活が可能になったぐらいで、散財しようだとかという気配は一切なかった。


 ――服、服かぁ……。


 ぼんやりと服を色々買うということを予想してぼんやりとしていた流霞が、不意に横の通路から出てきた若い男性とぶつかりそうになって、慌てて身体を捻って避けた。

 ぎゅるん、と効果音がつきそうなぐらい無駄に機敏な動きでレベル2の身体能力を活かす女、それが流霞であった。



「っと、大丈夫か?」


「ご、ごご、ごめんなさい!」


「いや、ぶつかってねぇから大丈夫だ。つっても、謝るってこたぁ自分に非があるって認めるようなモンだぜ? こっちが急に出ちまったんだから、謝るこたねぇよ。――ま、気をつけな」


「は、はひぃ!」



 唐突に知らない相手に話しかけられ、しかもそれが若い男で軽薄そうな見た目をしていながら、胸元から首、頬にかけても入れ墨が入っていて、頭が金髪でツンツンしている。

 花火ぶちまけました、みたいな色の主張が激しい派手なシャツを素肌の上に羽織っており、胸元第3ボタンあたりまで全開にしてネックレスやらも見えている。


 流霞から言わせてもらえば、目を合わせたら襲ってくる肉食獣レベルに危険度の高い相手である。

 なお、今更普通の虎やらライオンやらが流霞に襲いかかったところで、魔装でばちゅんとされるのがオチなのだが。


 とは言え、予想以上に優しい反応をしてくれたことに、思わず「いい人だったかも」なんて思ってしまう流霞である。

 そんな流霞の視線を受けても男は振り返ることなく、さっさと背中を向けて歩いて行ってしまっていたが。



「るかちー、だいじょぶ?」


「あ、ご、ごめんね」


「なんか言われてなかった? だいじょぶそ?」


「う、うん、だいじょうぶ……。いい人だった」


「へー、見た目めっちゃヤンチャしてそうなのにねー」


「ま、見た目だけそっち系に行く人は結構いるかんね。んじゃ、はよいこー」



 と、そんな軽い調子で話しながら買い物に行く流霞たち。

 そんな彼女たちを、離れた位置まで歩いて行ったはずの男が、いつの間にやら動きを止めて振り返って見ていた。



「――……あれが〝金銀花(カプリフォリオ)〟、ねぇ……。奇抜な髪しちゃあいるが、なんつーか普通の嬢ちゃんって感じだなぁ、おい……」


《――〝虎〟、聞こえるか?》


「っと、へいへーい。聞こえてんよ。んで、なんだい?」


《なんだも何もないだろう。〝金銀花(カプリフォリオ)〟との接触を確認した。彼女たちは我らの同志足り得るか?》



 チンピラ風の男がツンツンと逆立った髪に隠れていたイヤホンマイクから聞こえてきた声に答えながら、くるりと流霞たちに背を向けつつ、フレームの丸いサングラスを胸ポケットから取り出してかける。

 そうして深く溜息を吐き出した。



「あー、ありゃダメだな。やっぱ思った通り、《《若すぎ》》んだろ」


《……そうか。想定していたが、やはり難しいか》


「だろーぜ。やっぱ二十歳以上ぐらいじゃねーと厳しいんじゃねーか? 《《お仲間》》にゃなれなそーだぜ?」


《……やはりそうなるか。歯痒いものだが……まあいい。よくやってくれた》


「はいはい。あぁ、そだ。旦那、そろそろ小遣い稼ぎで適当なダンジョン行くからよ、どっかいいとこ探しといてくれや」


《分かった。目立たないところを探しておこう》


「おう、たのんまー」



 それだけ言って、イヤホンマイクを指先で軽く触れて通話を切る。

 ついでにポケットから煙草を一本取り出して咥えると、指を鳴らすような動きで人差し指の先に炎を灯し、大きく吸い込んだ。



「……まっ、仲間になりゃあ歓迎するが、ならないならならないでそれもまた歓迎、ってなもんよ。俺らみてーのと関わり合わねー方が、ずっと幸せだろーぜ」



 吐き出した紫煙が解けるように消えていく姿を見つめながら、男はぽつりと呟いて歩き出した。


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