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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第3章 Blood Moon

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『指定ダンジョン』攻略のすゝめ




 莉緒菜からの提案、つまりは夏休みの計画については一度詳しく話した方がいいだろうということで、流霞たち一行と莉緒菜ら〝魔女の饗宴〟は〝がちけん〟の研究所へと集まることになった。



「うへぇ……、ガッコーから歩いてきただけで汗やっば」


「アイスうめー」


「げ、溶けまくり」


「そういう系はしゃーなしじゃん。つか甘いの喉乾かん?」


「それな」


「テストで頭使ったから甘いもん食べたかったんだよー」



 梅雨は何処へ行ったのかと言いたくなるような雨量の少ない梅雨を越えて、季節はすっかり夏本番といったところだ。

 途中のコンビニで買ったアイスが若干ぐずぐずと溶ける程度には暑かった。


 パタパタと胸元を掴んで仰ぐ雅と、すでにアイスを食べながら歩いていたおかげでご機嫌な美佳里、そして溶けてしまったバニラ系アイスを見てしょんぼりとした雪乃へ、奏星がさっぱり柑橘味の氷系アイスを口に運びながらツッコミを入れる。


 ちなみに、流霞はクーラーの近くに陣取って一人ぐったりしている。

 夏が無理なタイプである。

 太陽滅べ、やっぱ奏星の因子が太陽だから滅ぶな、でも遠慮して、と意味の分からないことをぶつぶつと呟いている。



「るかちー」


「ひょぇっ!?」


「んふっ、びっくりした? これマジおすすめ。るかちーも一個食べてみ」



 呪詛のような何かをぶつぶつと呟いていた流霞の後ろに近づき、項垂れて顕になった首にアイスのカップを押し当てた奏星が、振り返って目を丸くしている流霞の口に果実を模したアイスを押し込んだ。


 ――優しくされると惚れるやろが……っ!

 たった数日で陽キャ免疫力がゼロに近いレベルまで落ちている流霞の、明後日方向に向けて突き抜けた思考であった。



「あ、おいしい」


「だっしょー? 甘すぎないしオススメ。るかちー何にしたん? おっ、それあーしも好き!」


「……よ、良かったら少し、食べ、る……?」


「マ? んじゃあーしのも幾つか好きなの取っていいよー」


「う、うん……!」



 流霞が手に取っていたのは、凍った果物が載った練乳タイプのアイス。

 我ながらいいチョイスをした上に、しかもお友達感の出るやり取りができたことで、何やら厳しい試練を乗り越えたぐらいの達成感を覚えているようだ。

 残念ながら奏星から見れば試練でもなんでもないのだが、流霞にとっては一世一代の勝負に出たようなものだった。


 そんなやり取りをしている内に扉が開かれ、入ってきた面々。

 大学生になってオシャレ度合いが身内から外向けになったというべきか、そんな空気を醸し出している――ように流霞には見えている――〝魔女の饗宴〟の面々である。



「やっほー」


「お、なんやアイス食べとるん? えー、ウチらも()うてくるんやったわー」



 最初に挨拶をしたのは、莉緒菜だ。

 相変わらずの波打つ長い黒髪、因子の影響によって髪のインナーカラーが赤みのあるピンク色に染まっていて、服装も相変わらずの地雷系ファッションである。

 もっとも、彼女の場合はファッションを地雷系にしているのは、髪とファッションの整合性を整えただけの〝ファッション地雷系〟といった印象が強いが。


 続いてマイルドな関西弁で話しているのが、(なぎさ) 瑛里華(えりか)

 どちらかと言えばスポーティなファッションを好み、日常的にオシャレには拘っていないらしい。ショートボブヘアの髪は、コスプレに合わせてウィッグを被ることが多いために短くしている、と公言している。



「コンビニアイスっていいわよね~。なんかちょっと贅沢した気分になるっていうか、ね?」


「わかる。わたしも食べたい」



 続いてほんわかとした口調で頬に手を当てて笑ったのは、藍沢(あいざわ) 聖奈(せいな)

 柔らかい印象を与えるハニーベージュカラーの長い髪を、半分程からゆるいパーマを当てて揺らしている。


 ちなみに彼女は《《持つ者》》である。

 何がとは言わないが、スタイルがあまりにも凶悪だ。同じ女性であっても必然と目が向いてしまう。流霞にはないものがそこにはあった。


 そんな彼女とは対照的とも言えるのが、背も小さく表情も乏しい、なんというか猫っぽさのある女性、柳田(やなぎだ) 菜桜(なお)

 流霞が初めて見た時から「猫耳が似合いそう」と一人で興奮している相手でもある。持たざる者同盟に加えてあげてもいい。流霞の方が持つ者になりそうだが。


 そんな、一見すれば大学生女子グループというような見た目ではあるのだが、この4人こそが結成からたった2年でレベル4パーティに至った、〝魔女の饗宴〟の面々である。



「あ、いっぱい入ってるのも買ってきてあるよ。あそこの冷凍庫ね」


「え、ホントに? ありがとう」


「はー、さすが所長やん」


「所長はやめてね? あーしまだ代表じゃないし」


「まーたそんなん言うて。細かいこと気にしとったらハゲんで?」


「ハゲねーし」



 素直に御礼を口にする莉緒菜と聖奈を他所に、ささっと冷凍庫に向かった菜桜と、軽口を叩きながらからからと笑う瑛里華。

 そうして〝魔女の饗宴〟のメンバーたちにもアイスが行き渡ったところで、瑛里華が早速とばかりに口を開いた。



「ウチの莉緒菜から話は聞いたと思うんやけど、〝金銀花(カプリフォリオ)〟とウチら〝魔女の饗宴〟で、『指定ダンジョン』配信せえへん?」


「『指定ダンジョン』って確か……」


「いわゆる不人気ダンジョンっしょ? 探索者があんまいないから外から来てー、代わりに評価すんよーっていうアレ」


「あーね」



 雪乃の疑問に答えた美佳里と同様に、流霞もまた小さく頷いた。

 要するに『魔物氾濫(スタンピード)』対策に間引きに入ってくれる探索者に対し、『このダンジョンで探索した場合は色々とお得な探索者協会ポイントが手に入りますよー』というようなシステムである。



「今んとこ、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の評判は印象操作されとんのかいっちゅーぐらいマイナスに傾いとるやろ? 偉そうにテレビに出て、専門家とか名乗っとる名前も知らんおっさん共が好き勝手言っとるだけやけど、それでもそういう声に騙される視聴者は一定数いるもんや」


「……あぁ、そういうこと。つまり、『指定ダンジョン』にも積極的に出向く探索者っていうイメージをつけて、今の悪評を押し流そうって魂胆?」


「んー、ちょい違う方向やな。そっちはむしろオマケみたいなもん」


「おまけ?」


「そ。狙いは〝金銀花(カプリフォリオ)〟を〝優良探索者〟に認定させることや」


「〝優良探索者〟……」



 一定数の『指定ダンジョン』の探索や魔物の討伐、間引きによってポイントが加算され、そのポイントが500ポイントを超えると〝優良探索者〟として探索者協会の認定される、というものである。


 多くの探索者にとってはそんなものはどうでも良いものしかないのだが、〝優良探索者〟になると、魔法回復薬やダンジョンで手に入った珍しいものを他と比べて安値で購入したりもできるようになる。

 そのため、そちらを目的としてポイントを貯める探索者は一定数存在する。クランなどに入らない者、伝手のないソロなどは特にそうだ。


 とは言え、今は探索者協会とここにいる〝金銀花(カプリフォリオ)〟との関係は最悪とも言えるような状態だ。

 探索者協会のゴタゴタを守るためにマスコミ、テレビを使って〝金銀花(カプリフォリオ)〟の印象を落とすような発言を繰り返している。


 そんな中で探索者協会に尻尾を振れと言うのであれば、そんなことはやりたくないと考えるのは当たり前の話でもあった。


 だが、瑛里華は嫌そうな顔をしている面々を前に、堂々と告げる。



「えぇ加減、偉っそうに批判繰り返しとる連中ぐらい黙らせたらな。けど、〝金銀花(カプリフォリオ)〟が反論訴えたって無視されるだけやんか。せやから、意趣返ししたろ思うてん」


「意趣返し……」


「せや。自分らが〝優良だと認めてもいいと定めた条件〟を突破された以上、それを叩けば〝優良探索者〟の格も落ちるし、『優良と認めた探索者すら守る気のない組織』なんやっちゅーことが世間に知られることになる。かと言って、〝優良探索者〟になったらだんまり、なんて真似してみ。ネットから散々言っておいてだんまりかっちゅーて突き上げを喰らうことになるやろ。こっちは真っ当にやっとるだけやけど、どっちに転んでもやり返せるやろ?」



 にやりと笑って瑛里華が言葉を結べば、その隣にいた莉緒菜が配信用のキャラで空気を作って、ふっと冷笑してみせた。



「同じクランであることも公言していないし、私たち〝魔女の饗宴〟の名前で『指定ダンジョン』の間引き討伐依頼を受諾するわ。配信が始まって、そこに〝金銀花(カプリフォリオ)〟がいると気が付くまでは向こうも妨害できないはずよ」


「気付いたとこで配信されてんのに邪魔なんかできひんやろ。そのまま泊まり込みで一気に〝優良探索者〟になるまでポイントを溜めて、実力で黙らせたったらえぇねん」


「そういうことよ。ふふ、調子に乗って自分たちには反撃なんて来ないと思っている連中を正攻法で叩き潰してやるなんて、面白そうじゃない?」



 にたりと笑って告げてみせる様は、なるほど、確かに魔女らしいとさえ思えた。


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