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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第2章 魔力は世界を変える

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第2章 エピローグ




「――んで、雅とゆっきーがおこモードなわけ」


「あーね」



 人に追われて落ち着かなかった状況から解放されて、ようやく一段落。

 周りを見る余裕ができたところで、雅と雪乃が何故かむすっとしている姿の理由を美佳里から聞かされ奏星が笑った。



「それさー、前も言ったけどしゃーなしじゃね? 素直に避難しないで勝手に助けに行ったのウチらじゃん?」


「そんなの分かってるってばー……」



 当の奏星から言われて、雅も口を尖らせる。


 ダンジョン内にいた奏星や流霞、美佳里の動きは、探索者協会でも想定していないことではあったのだろう。


 そもそも奏星や流霞、美佳里があの時に避難せずに残った結果起きた戦いは、大人たちから見れば「英雄的な行動をしたがった子供が背伸びをした結果訪れたピンチ」だ。「こうなるリスクがあるからこそさっさと逃げれば良かったのに、自分からピンチに陥った」とでも言えてしまう行為でもある。


 事実としてテレビなどでは〝金銀花(カプリフォリオ)〟の行為を槍玉に上げるかのように「避難するべきだった。対応は大人に任せるべきであり、褒められたものではない。探索者協会の対応は正しい」と賢しらに語るコメンテーターなども多く、SNSでも一定数そういった声はあがっている。


 それどころか、日に日にそういった声が大きくなってさえいた。


 実のところ、その背景には探索者協会側にメスが入ると厄介な諸々が噴出してしまいかねず、それらを庇おうとして世論を操作しようとしている利権構造が蠢いている。

 そういった部分への立ち入りを嫌うが故に、探索者協会の対応には非はなく、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の行動こそが問題であったという方向に世論を動かそうとしているのだ。


 しかし、ただ〝金銀花(カプリフォリオ)〟を排除するには、あまりに勿体ない。

 潤沢な魔法回復薬、今までにない魔法防具、そして〝独自魔法〟を使いこなす若き探索者たちを世論で叩いて追い詰める一方、上手くそこを庇い立てて懐柔し、己の手柄にしようとしている者たちが動いている。


 その動きを逸早く察知したのが、やはりと言うべきか、『明鏡止水』のリーダーである傑や瑤子たちだった。


 今回の〝金銀花(カプリフォリオ)〟の行動は確かに全てが正しいものではなかった。

 それは否定できない事実ではある。


 ただ、ダンジョンという危険な存在に対し、人間の経験則なんてものはアテにならない。

 何故発生したのか、何のために存在しているのかも判っていないのがダンジョンだ。突如としてイレギュラーな事象を引き起こしかねないのもまた事実だ。


 そんな場所を管理するはずの探索者協会が、今回のような事例に対してマニュアル通りにしか対応できないという、いわゆるお役所体制とでもいうようなものが露呈した。

 これはこの場にいる流霞たちが考えている以上に大きな問題だ。


 一体どこで、誰が、どういった判断をして今回の対応に至ったのか。

 その程度の能力しかないのであれば、今後クランとして探索者協会と信頼し合った上での協力は難しい。

 ダンジョンと対峙している大手クランの上層部だからこそ、そう考えるのも自明の理というものであった。


 そういった意味でも、今回の一件をなあなあにするべきではないと考えているのが、抗議文を出した大手のクランを率いる者たちの判断だ。


 そうした問題点も上手く刺激しつつ、探索者協会、延いてはその後ろにいるであろう利権構造に絡む大人たちの魔の手から、どうにか娘たちを守ろうとしている傑の胃は今日も荒れていた。




 ――――そんな大人たちの面倒な話はさて置き。




 ともあれ、そうした声のせいで、人の命を救ったはずの仲間が貶されているような気がして許せないのが、雅や雪乃だった。



「……あの時の奏星たちの判断が、命を救った。それを無視してんじゃん。あの化物はそれだけ異常だったし」


「それなのに、なんか馬鹿なことをやったみたいな風潮で叩かれてんのがムカつくんだよぉー」



 理屈は分かるが納得いかない。

 いくら大人びているとは言え、雅や雪乃はまだ十代中盤。

 奏星が「正しさ」を否定したように、彼女たちもまだ「正しさ」だけで納得がいくほど、割り切れないものがあった。


 とは言え、だ。



「言いたいヤツには言わせておけばいいって。誰かに評価されたいとか、英雄になりたいとかじゃねーし」


「うん。助かった人もいて、無事に終わったんならそれでいい、かな。……むしろどうでもいいから知らない人に声かけられたくない……」


「あーしも別にって感じかなー。魔法銃の使い方っつか適性も分かったし」



 雅と雪乃が友人である奏星と流霞、それに美佳里を想って怒ってくれるのはありがたいが、当の本人たちは世間の声なんてものは一切気にしていなかったりもする。

 なんなら「いいからほっといて」ぐらいの流霞のぼそっとした本音が漏れている。ある意味凄く純粋に単純であった。


 そんな3人の〝いつも通り〟な対応に、雅と雪乃はまだまだ納得しきれるほど割り切れてはいないものの、毒気を抜かれたのは確かだった。


 ――もしかしたら3人が傷ついているかもしれない、気にしているかもしれない。


 あの場にもいないし、配信すら観ていないのに。

 その時の感情すら考えず、ただただ結論だけで評価するようなSNSに流れる悪意のない悪意に、胸を痛めているかもしれない。


 そう考えたからこそ、「怒っていいんだ、気にしなくていいんだ」と伝えようとしていた節もあったのに、当の3人がこうもあっけらかんとしているのだ。


 そんな態度を前に、雅と雪乃は二人揃って溜息を漏らしてから、お互いに目を合わせて似たようなことを考えていたこと、そして無用の長物であったことを理解し合い、苦い笑みを浮かべ合った。



「それより、レベルが上がったのがミカミカだけってのが一番悔しいわー」


「えぇっ!? そこは並んだこと喜ぶポイントじゃん!?」


「はー? ウチらだってめっちゃ頑張ったけど? ね、るかちー」


「えっ? あ、うん。ずるい」


「るかちーまでそれ言う!? 素直に喜んでくれてたじゃん!?」


「それはそれかなって」


「まさかの裏切りじゃん」



 そう、今回の戦いでは美佳里はレベルアップを経験し、レベル2になった。

 初めての本格的な探索でレベルアップするなど、幸運と言うべきか、それとも経緯を考えると、それだけのアクシデントに見舞われたことを不幸と言うべきなのかは判断の難しいところではある。


 その一方で、流霞と奏星はさすがにレベル3には上がらなかったのだ。



「それなんだけど、ちょっと調べてみたら面白いことが分かったよ」


「うん? なになに?」


「りおなんとかお父さん、お姉ちゃんたちにも聞いたんだけどさ。レベルアップはただ限界を突破しないと生き残れないようなピンチを乗り越えるだけじゃなくて、自分と同等かそれ以上の強い魔物の討伐数とかも関係するんじゃないかって噂があるんだって」


「え、そうなの?」


「そそ、探索者内で流れるそんな噂があったって話だけだったんだけど、るかちと奏星のおかげで、割とこれ正解かもね。……フツーに考えて、こんな短い期間でそんなピンチ連続って有り得んから、ただの噂程度の話だったみたいだけどねー」


「えっと、それはつまりウチらがフツーじゃないってこと?」


「それはそう」


「今更じゃね?」


「それな」



 雅と奏星の会話に雪乃と美佳里が同意を示し、流霞でさえも小さく頷いていた。


 そもそも莉緒菜でさえ1年半ほどをかけてレベル3に至ったのだ。

 それだけでも話題になるほどに成長が早いと言われているにも関わらず、ここで流霞と奏星がレベル3になっていたのであれば、ある意味異常だ。


 季節はまだ初夏。

 もうすぐ夏本番――つまり、まだ高校生活も3ヶ月程度しか経っていないのだから。



「りおなんもレベル3になるために何回か厳しい戦いを経験したらしいから、奏星もるかちーもまだそういうのが足りてないってことなのかも?」


「そっかー」


「でもま、スキルだけに頼っていた普通の人たちと違って、〝独自魔法〟もあるからね。それを考えれば、ウチらってレベル2にしては強いし」


「……それってつまり、私たちの場合は普通の人より強い魔物と戦わないと経験が積めないってことなんじゃ……?」



 雪乃と奏星の会話を聞いていて、ぽつりと流霞が呟き、沈黙が下りた。


 よくよく考えてみれば、〝死にかける程のピンチを乗り越える〟と言われても、それは人によって様々ではある。

 ただ、それがダンジョンで、しかも〝独自魔法〟の存在がなかった頃であれば、ある程度は同じようなもの、同じような段階でレベルが上がっていたに違いない。


 美佳里の場合は異形の化物という、どう考えても上位の魔物との戦いだ。

 いくらアーティファクトなども利用したとは言え、相手が上位であるのは明白で、レベル1で倒せるような相手ではないのだから、レベルが上がるのは当然と言えば当然だっただろう。


 しかしそれに比べて、すでに〝独自魔法〟を使えて、どう考えても普通のレベル2の探索者よりも強い流霞や奏星の場合はどうなのか、その答えはまだ見えないのである。

 もしも本人の実力に比例してピンチのレベルだの強敵と呼ぶハードルも上がるというのであれば、笑えない程に難易度が上がるのではないだろうか。



「……ま、まあ、ほら。それはやっぱ色々体験してみればどうにかなるって」


「そ、それな……。〝独自魔法〟がない人たちだって突破できるものだったんだし、〝独自魔法〟があるからって無理難題になるとは思えないし!」


「そ、そうだよ!」


「そう、かな……そうだと、いいなぁ……」



 雅、雪乃に続いた奏星の後で、流霞が遠い目をして呟き、空気が再び凍った。

 このコミュ障、こういう時でも空気を読まないことには定評がある。


 そんな中、唯一レベルアップしたばかりの美佳里がふと、何かを思い出したように口を開いた。

 


 

「そんなことよりさぁ……――」



 全員の視線を受けてから、美佳里の斜め後方、部屋の隅を親指で指差した。



「――あれ、どうする? あの化物から出たアーティファクト」



 個人としての成長と、組織、探索者としての成長。

 それぞれに悩み、それでも前へと足を踏み出し、色々なことを経験してはそれを糧にして歩き続ける少女たちの物語は、まだまだ止まることを知らないようであった――――。


 




第2章 〈了〉



いつもお読みくださりありがとうございます。

第2章はここまでとなります。


本日はあと2話閑話を投稿する予定となっております。


基本毎日更新している作品となりますので毎日キリのいいところまでを連続投稿とさせていただいていますが、カクヨムにて先行公開しているところにある程度追い付くまでは、この流れで投稿しております。


面白い、続きが読みたいと思っていただけたなら、お気に入り登録や評価など、よろしくお願いいたします!

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