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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第2章 魔力は世界を変える

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騒動の爪痕




 ダンジョンにおける禁制品の使用と、それによって引き起こされた人為的『魔物氾濫(スタンピード)』による被害者は、そんな騒動を引き起こした犯人を含め、8名の探索者だった。


 騒動を引き起こした瀧田亜衣琉の名前は当然ながら公開された。

 配信を行いながら、何を勘違いしたのか己の実力を誇示しようとして、結果として『魔物氾濫(スタンピード)』を引き起こしたのだ。名前を伏せるような意味もない。当然と言えば当然だろう。


 マスコミはここぞとばかりに本人の友人知人といった交友関係にある相手、そして家族に突撃し、かつての早熟の天才がどうして、と取り扱うようなテレビ番組を組んだり、そのついでとばかりに『魔物氾濫(スタンピード)』が引き起こされていた場合の人的被害予想などが語られた。


 もっとも、今回の『魔物氾濫(スタンピード)』は中層の浅い階層の魔物のみ。

 鎮圧するのにそれほどまで苦労はしなかったのではないかと見る者もいれば、人を容易く殺せる魔物が出てくることを重く受け取る者もいる。

 探索者協会もこの騒動を重く受け止めており、〝気付けの薬草〟そのものの採集、所有に規制をかけるような動きが強まったりもしているようだ。


 そうして現代社会らしく、新鮮な話題に喰い付いてはSNS上で消費し、垂れ流される程度には世間を騒がせていたものの、一週間も経った頃には世間はあっという間に日常を取り戻していた。



「――という訳で、マスコミはガン無視。都、それに探索者協会からの『自分たちは評価してます、報いましたアピール』は全部シャットアウトしてっから」


「それ、だいじょぶなん?」


「あったりまえじゃん! あーしも3人が巻き込まれた時、救助を後回しに防衛態勢だけ整えてた探索者協会には腹立ってっからね! お役所仕事しておいて手のひらくるっとすんのはガチで許せないっての! ぜってーあーしの魔法防具教えてやんねーから!」



 雅から聞かされた話に美佳里が訊ねれば、返ってきたのは雪乃の怒りの声だった。

 ダンジョンの人為的『魔物氾濫(スタンピード)』が起こった際、防衛態勢の構築を優先し、救助を後回しにしたことが相当頭に来ているようである。


 雪乃がここまで怒りを顕にするのも珍しいな、雅の方がこういうのは怒りそうなのに、と思いつつ美佳里が雅を見やれば、ARグラスを外した雅の目が据わっているのがよく分かった。


 どうやら雅も相当に腹に据えかねるものがあったようだ。



「……体制上のことだからあーしも理解してる。けど、今回は人為的な『魔物氾濫(スタンピード)』で、しかも浅い階層だけが対象だった。そんなん普通にレベルの高い探索者を派遣してくれれば解決する問題だって分かんのに、マニュアル通りにしか動けないゴミみたいな組織相手に、るかちーと奏星、それにミカミカがいちいち応える必要、ないっしょ?」


「お、おう……」



 笑顔を浮かべているのに一切目が笑っていない辺り、雪乃よりも圧倒的に迫力のある光景だった。


 あの『魔物氾濫(スタンピード)』が発生した時、雅は即座に探索者協会に〝がちけん〟の代表役として連絡を入れた。

 それと同時に両親にチャットを入れて情報を共有しつつ、人為的『魔物氾濫(スタンピード)』発生による危険性と、一般的な『魔物氾濫(スタンピード)』よりも規模が小さいことなどを報告していたのだ。


 探索者協会さえ動いてくれれば、レベル3以上の探索者さえ派遣してくれたのであれば、どうにかなるはずだった。

 なのに探索者協会は、それをせずにマニュアルにある通りの『魔物氾濫(スタンピード)』発生対応――つまり、内部ではなく外部の防衛と避難勧告などのみしか行わなかったのだ。


 雅からの報告に対し、事実の検証というものをしようともせず、ただただそれがマニュアルに書かれている通りの対応だから、と。

 件の瀧田の配信アーカイブ、そして〝金銀花(カプリフォリオ)〟の配信を確認したにも関わらずに、である。


 結果として大事には至らなかった。

 けれどそれは奏星が、流霞が、美佳里が犠牲になる限界ギリギリまでどうにか耐えて。それを支えた雪乃の防具、雅が作った潤沢な魔法回復薬といったものがあったからこそ達成できた奇跡である。


 それを後になって、「助けられなくてごめんね。そういう決まりだったんだよ。でも上手くいったよね? よくやってくれたね、感謝はしてるよ」ぐらいのニュアンスで表彰がどうのだのと、そんな提案をしてきたのだ。


 渋々でもそれを受け取ってしまえば、「納得した」という体裁が出来上がってしまう。

 そんなものは受け取ってたまるか、というのが〝がちけん〟および〝金銀花(カプリフォリオ)〟の総意だと突っ返した。


 ちなみに、今回の探索者協会の杜撰な対応は、『明鏡止水』や、傑らが働きかけた先だけではなく、数多くのクランから対応に関する抗議文を公表されている。

 配信で情報を確認でき、どのような規模の状況であるかを判断できる材料が揃っているにも関わらず、ろくに調査もせずに臨機応変に対応しないというのは、探索者を守るための組織として成り立つ協会の対応としては最悪の部類に入るからだ。


 きっと今頃、探索者協会の中間管理職は胃と頭皮にダメージを負っているだろうが、知ったことではない。



「くふっ、うちの仲間にそんな真似したんだから、覚えとけよマジで……。探索者協会には情報落としてやんねーからな……」


「こわ」


「いやいや、ミカミカ。そりゃ雅も怒るって。つか、ミカミカだってウチらのこと言えんくない? るかちーと奏星に怒ってたじゃん」


「なぁ……ッ!? あ、あれは仕方ないっしょ!? あんな風にあーしだけ逃がすなんて……!」


「でも、あのバケモンとの戦いにミカミカが残ってたら、多分ヤバかったよ。ミカミカが一番最初に狙われたと思う」


「……まあ、うん。アーカイブ見てあーしも思ったよ」



 無事に帰ってきて翌日。

 美佳里は早速とばかりに〝金銀花(カプリフォリオ)〟の配信アーカイブを観た。


 あの時、流霞と奏星が残って戦った異形の化物は、正直に言って次元の違う相手だった。

 奏星の斬撃も炎も通用せず、流霞の強烈な一撃も一切効かない。

 流霞は攻撃を読んで回避できていたものの、奏星は異形の化物の攻撃速度に追いつけず、かなりの攻撃を受けていた。


 レベル2の奏星ですらそれなのだ。

 もしも美佳里が残っていて、美佳里が狙われていたのなら、間違いなく流霞と奏星の足を引っ張る結果となっただろう。



「まあでも、あのバケモンが死んで瓦礫も消えて、んでミカミカが映った時はガチでビビったわ」


「それな。手が血まみれで泥だらけだったし」


「っ、あれは……」



 そう、流霞が異形の化物を爆散させて間もなく、流霞と奏星、それに美佳里を遮っていた瓦礫は、まるで何事もなかったかのように消え去ったのだ。

 そうして映し出されたのは、魔力切れになって倒れ込んだ美佳里であったのだが、そんな美佳里の指は爪が剥がれかける程にぼろぼろになって血と泥で汚れていた。


 あの時――奏星によって一人だけ逃げるように仕向けられたと理解した後、美佳里は悔しさと悲しみで胸がいっぱいになって、しばし呆然としていた。

 そうしてしばらくはその場で動けずにいたものの、悔しさや悲しみが怒りに変わった。


 フザけるな、と。

 そんな感情を叫びながら、ただただひたすらに、半ばヤケクソになって瓦礫の山をどうにかこじ開けように必死に両手で掘り進めていった。


 そんな時に雅からの連絡に気が付き、美佳里は内部の状況を知った。

 そうしてぼろぼろになった手で、もしかしたら自分の出番があるかもしれないと魔法銃に【破魔の弾丸】を装填し、待ち続けた。


 なけなしの魔力を注いで弾丸を作り、最後の一発を放つために逸る気持ちを押さえて、ただただ魔力を回復させるように待ち続けて――その時が来たのだ。


 小さな穴だった。

 この穴から狙うなんて無理だと思いつつも、けれど、この穴がただの偶然でできたものではないと理解した美佳里は、魔法銃を構えて待っていた。

 そうして流霞の背中が見えて、ゆっくりゆっくりと位置を調整し、尻もちをつくようにしゃがみ込んだ。


 そこから見えた異形の怪物、その頭が弱点だという情報は雅から聞いていた。

 だから、その頭が見えて、ゆっくりと流霞に近づいたその瞬間に魔法銃の引鉄を弾いたのだ。

 その結果を見るよりも先に、魔力が底をついて気絶しかけた美佳里が力なく倒れる形となったが。


 そうして流霞と奏星と再会し、意識が朦朧とする中で半ば泣きじゃくりながら美佳里は文句を言っているところに莉緒菜がようやく到着し、疲弊しきった3人を連れてダンジョンを後にしたのである。



「まあでも、あの時に素直に帰れたのはりおなんのおかげだわ」


「ほんとそれ。トレンドになったしね、りおなん」


「あれは……うん、普通に何も知らないとちょっとカッコイイのズルいわ」



 雅、美佳里、雪乃がそれぞれに口にする。


 莉緒菜と合流し、出ていくことになった時点で配信を終了。

 その後は気絶したフリをして、莉緒菜ら〝魔女の饗宴〟が奏星と流霞、美佳里を囲んで堂々とマスコミらをシャットアウトすることにしたのだ。


 取り囲むように近づいてきたマスコミを、〝独自魔法〟で作り上げた悪魔の手を思わせるような黒い異形の手で強引に押し退けて、莉緒菜は冷たく周囲を一瞥して告げた。


 ――「この子たちが己の矜持のために戦い、勝った。それだけの話よ。戦士の休息を邪魔するなんて、無粋にも程があるわ。弁えなさい、下郎が」と。


 得意の演技で冷たく告げてみせ、マスコミを一蹴した莉緒菜は、インターネットでは「戦士の休息」と「莉緒菜様」がトレンドに入るほどに話題になった。


 もっとも、当の本人は無事に戻ってきてから頭を抱え、机に突っ伏していたが。

 あの一件で〝魔女の饗宴〟のチャンネル登録者が爆発的に増加し、お金に余裕ができるかもときゃっきゃしていた他のメンバーたちの方が図太いらしい。


 そんな莉緒菜を思い出しつつ揃ってくすくすと笑っているところで、扉が開かれ、疲れたような様子の奏星と魂が抜けかけた流霞がやってきた。



「……おいすー……。めっちゃ人に追われたわ……」


「……ひと、こわい……」



 世間を騒がせることになった〝金銀花(カプリフォリオ)〟の配信は、注目されていたのだ。

 そのため、日常生活に支障が出るはめになった奏星と流霞は、この最近ずっとこの調子であった。


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