表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第2章 魔力は世界を変える

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/99

命懸けの3分間




「最初はあーしだけで動く」


「っ、でも……」



 異形の怪物を見据えながら告げられた奏星の言葉は、流霞にとっても予想外のものであった。


 基本的に〝金銀花(カプリフォリオ)〟の戦闘スタイルでは流霞が前衛の役割を果たし、その後方から奏星が火力を担うような形になる。

 けれど、今回はそれを覆し、奏星が前に出ると言うのだ。


 その理由が理解できずに声をあげようとした流霞の言葉を遮るように奏星は続けた。



「るかちーみたいにはできないかもだけど、少しでも休んでほしいし……。それに、ウチらの防具なら、何かあってもある程度はどうにかなるっしょ?」



 もしもこれが一般的に出回っている装備品で、魔法的な防御効果のないものであったのなら、回避できなければ一発で命を落とすかもしれない。


 あの異形の怪物は、明らかに普通ではない。

 何かしらの異常によって生み出されたイレギュラーな個体だろうことは窺える。

 つまり、どの程度の実力を有しているのか想像もつかないのだ。


 最低でも、中層の浅い層の魔物は喰らうほどだ。

 それ以上ではあるだろうことは間違いない。

 油断できるような相手ではない。


 対する今の二人の装備は、仲間である雪乃が今ある限界を常に更新しながら補強してくれている装備品だ。

 武装ゴブリンの弓矢も、魔物の攻撃も全て遮断して防いでくれた。


 ――ゆっきーの防具が、あんな変なのに負けるか。

 そんな信頼、あるいは仲間としての矜持が奏星にも、そして流霞にもある。

 ならば、あの化物相手でも耐えられる、そのはずだ。


 現実的なところを言えば、流霞は今、魔力の残量がかなり減ってしまっている。

 お世辞にも充分に動けそうにない。

 だから、流霞は告げる。



「……分かった。3分あれば、動けると思う」


「おけ。なんならあーしが一人で化物討伐してもいいっしょ?」


「それができたら凄いね」


「ごめん盛った。キツそーだから無理。んじゃ――行ってくる!」


『カナっち頑張って!』

『救援まだかよ……!』

『そっか、二人の装備なら……!』

『がんばれえええ!』



 コメントに反応する余裕はない。

 これからの3分間は、きっと自分史上、最も長い3分になるだろうな、と考えながら、奏星は力を振り絞った。

 ぶわり、と奏星を中心に炎が舞い上がり、同時に奏星が駆け出す。


 ――動きは獣、四肢を使うタイプ! 攻撃手段は……伸びたッ!?


 肉薄する奏星と迎える異形の怪物。

 互いの距離が詰まったその瞬間、異形の怪物の身体から黒い液体めいた槍が伸びて、奏星が咄嗟に横に跳ぶ。


 追撃は、牙。

 口を開けて噛みつこうとする異形の化物であったが、しかし奏星の手から放たれた炎に顔を包まれ、振り払うように頭を振った。


 ぼこりと膨らんだ瘤のような箇所から伸びる、黒い液体めいた槍が代わりに奏星に殺到する。

 一本を避け、後方に下がり、もう一本が奏星へと追いすがるも、数歩下がったところで自重に耐えきれなくなったかのように真ん中から千切れるようにして崩れていった。


 追撃がないと見て、奏星が魔装の細剣に炎を集めながら、斜めに下げて持ったまま距離を詰め、斬り上げる。

 刃は確かに化物の身体の一部を斬り裂いたように見えたが、しかし血を噴き出すでもなく修復されるように塞がっていくのが見えた。


 痛がる素振りも見せずに再び奏星に迫る、黒い水を固めた槍――黒水槍とでも呼ぶべき攻撃。

 二箇所からノーモーションで飛び出すように現れるが、レベル2になって反射神経なども上昇している奏星を捉えるには至らず、どうにか後方への離脱を成功させた。


 そうして再び3メートル足らず距離を取れば、黒水槍がまた崩れるように消える。



「――動きはハウンドタイプに近い。槍は多分最大2本、多分リーチは大体3メートル。一回出したらすぐには出せないし、出しっぱなしで維持も難しいっぽい」


「りょ!」



 流霞が奏星に聞こえる程度の大きさで告げれば、その内容の意味を理解して奏星が返事をする。

 流霞はただひたすらに、異形の化物の攻撃の特性を観察していたのだ。


 流霞と奏星は特訓に際し、模擬戦をする機会が多い。

 しかし模擬戦の結果は、ほぼ奏星の攻撃が見切られたかのように避けられてしまい、結果として流霞が勝ちを拾うことになる。


 そんなことが続き、一度だけ流霞に対して奏星は「どうして攻撃を避けられるのか」と訊ねたことがあった。

 それに対して流霞が、「相手をよく見ているせいかも」と答えたことがあった。


 流霞は、相手を観察する。

 それはおそらく、彼女がコミュ障を拗らせ、それでも多少なりとも他者とコミュニケーションを取ろうとして、人の癖などを見抜くような本などを読み込んで勉強して培われた観察力だ。


 そうして他者を見る癖を身に着けたが、コミュ障が改善されることはない。

 それでも、もっと見ておけば色々分かるかも、と明後日に突き抜けるようになったのだ。

 だから流霞は見る。

 腕、肩、目線の動きといったところはもちろん、一挙手一投足――足の踏み切り方から置き方、踏み出しの幅なども含めて、である。


 踏み出した足の幅から体重移動でどのような攻撃がくるのか。どういった行動をする時にそういう動きをするのか。

 そうした動きをある程度見れば、どれがどういう攻撃なのかまで確認しなくてもある程度は予測がつくようになる、と。

 それがフェイントであるのかなど、そういったところを見て判断するのだと聞かされて、奏星は「なんじゃそりゃ意味わからん」と首を捻ったことがある。


 そんな流霞が見切ったのであれば、それを念頭に戦い方を考えればいい。


 まずはぎりぎり2メートル程の距離をキープして、炎で牽制する。

 そうして痺れを切らしたところで黒水槍を伸ばしてくれば、即座に下がり、崩壊させる。

 それと同時に、再び奏星が距離を詰めつつ、噛みつきと前足の攻撃を避けながら反撃し、弱点を探る。


 しかし――――



「――っ、コイツ、どこ攻撃しても水を切ったみたいに……! ぐ……っ!?」



 ―――――奏星の攻撃は当たっても効果がなく、そんな攻撃を無視して繰り出される反撃で、奏星が攻撃を喰らうという、不利な状況に陥っていた。



「奏星……! 私、もう――!」


「――まだ! まだあと2分!」



 咄嗟に交代を申し出る流霞に、奏星が怒鳴るように叫ぶ。


 炎も通じない、剣もダメ。

 そんな相手との戦いに意味なんてないかもしれない。

 けれど、この時間が、流霞に情報を与えていく。


 その価値を、奏星はよくよく理解しているからこそ譲らない。


 攻撃を避けて、回避して。

 ただそれだけじゃなく、敢えて少し無理をして、異形の怪物の攻撃方法を、反応を引き出していく。


 雪乃の作ってくれた魔法防具がなければ、どれだけの傷を負っていただろうか。

 そんなことを考えながらも、奏星は体力の続く限り、この託された3分間をフルに活用して、無理やり背後を取ったり、潜り込むように突っ込んでと動き回る。


 その意図が分からない者から見れば、半ばヤケクソめいた行動ですらあった。

 コメントにも意図が読めないと、早く奏星を助けろと流霞に向かって叫ぶ者もいる。

 それらを視界の端に映しながら、それでも奏星は止まらなかった。


 その一方で、流霞には奏星が言わんとすることがよくよく理解できた。


 3分間の間に奏星がやっていることのおかげで、どういった選択をする魔物なのかがようやく見えてきたからだ。


 段々と奏星の魔法防具が耐えきれなくなり、魔法障壁が弱まって、奏星の身体にも生傷が絶えなくなってきた。

 それでも、奏星がそれすらも理解して作ってくれたこの時間を、最大限活かすために、流霞は己の唇を薄く噛んで耐えていた。


 そうして、奏星の体力も尽きて動きが緩慢とした頃、異形の化物が勝負をつけるかのように奏星に攻撃を仕掛けて――流霞が奏星の前に飛び出て、奏星へと伸びる黒水槍をロッドで殴り飛ばし、奏星を抱き上げて広間の隅へと運んで壁によりかかるように座らせた。



「――ありがと、奏星」


「……役に、立てた、っしょ?」


「うん、充分。あとは私がやるから」


「へ、へ……。んじゃ、よろー……」



 受け取った期待は、重い。

 自分一人が死を決意して二人を逃がそうとした、先程のあれよりも、ずっと。


 ――あぁ、諦めた方がずっと楽なんだけどなぁ……。


 そんなことを考えながら流霞は僅かに苦笑を浮かべて、なけなしの最後の外傷回復用の魔法回復薬を奏星の口に運んで飲ませて立ち上がり、天井を見上げた。


 生きるためにと残ってくれた仲間が作ってくれた、身を削った3分間。

 流霞は観察を続け、異形の怪物の弱点と言えるものを探し続けた。


 そうして、ちらりと自分たちの行く手を阻んだ瓦礫を見てから、流霞が異形の怪物に顔を向ける。


 刹那、硬質な音がぶつかり合い、火花を散らしながら弾きあった。

 流霞のロッドと、駆け寄ってきていた異形の化物の黒水槍の音だった。



「――奏星が休んでるんだから、離れて」



 ロッドをくるんと回してもう一本の黒水槍を弾きつつ、異形の化物の鼻っ柱に強烈な一撃と叩き込む。


 異形の怪物が堪らず後方に下がれば、ロッドを振り抜いた姿のまま、流霞が笑った。



「――きひっ」



 笑いながらロッドを引き戻し、そのまま駆け出す。

 黒水槍が迫ってこようがロッドで逸らし、噛みつこうとした顔面を容赦なく殴りつけ、ゼロ距離まで接近しながら、一撃を見舞う。



「きひっ、きひひひ……! そんなモンじゃあ、ないよねぇっ!?」



 爆発するように声をあげながら流霞が駆ける。

 その姿に恐れをなしたか、異形の化物は黒水槍を出しながら後退りつつ連続して刺突を放つ。


 連続した耳障りな音。

 しかし流霞はそれでも一歩、また一歩と間合いを詰める、足を止めないで、ロッドでそれらを迎え撃っているのだ。


 そうしてあと一歩というところで、流霞が高く跳ぶ。

 異形の化物が見上げた頃には、すでにロッドを頭上に掲げて両手で握り締めた流霞が、ダンジョンの天井に足をつけて膝を折り曲げているところであった。



「潰れ、ろおおぉぉッ!」



 ダンジョンの天井を蹴り、打ち出されるように飛んできた流霞に反応して回避もできず、異形の怪物はそれでも黒水槍を交差して一撃を防ごうと自らの頭上で交差させた。


 ――――その光景に、流霞がニタリと口角をあげたことにも気付かずに。


 直後に襲いかかった強烈な一撃。

 異形の怪物の身体が悲鳴をあげながら圧し潰されそうになり、それでも耐えて後方によたよたと下がる中、流霞は綺麗に着地して、笑っていた。



「きひっ、きひひ……! 防御、したよねぇ……?」



 攻撃が効かないと思われていた異形の怪物が、咄嗟に頭を守るように防御した。

 その瞬間をしっかりと流霞は見ていたのだ。

 頭を守るとはつまり、そこにはどうしても守らなくてはならない何かがあると言っているようなものである。

 奏星の攻撃は無視していたのに流霞の攻撃はそうして守るということはつまり、流霞の攻撃は異形の怪物の命を脅かすに値したという意味でもある。


 流霞の反撃が、ここから始まる。

 決着は近い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ