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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第2章 魔力は世界を変える

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最上層防衛線 Ⅲ




 ダンジョンレイスという強敵が現れ始め、さらに遅れてやってくるグレーホブゴブリンの武装型、つまりは多種多様な装備を身につけたグレーホブゴブリンたち。

 流霞と奏星、それに美佳里の3人は最上層の最奥部で停滞して足止めするのは難しいと判断して、ダンジョンレイスが出てくる度に後方に下がりながら戦いを継続していた。



「――きひっ、きひひひっ!」



 下がりながら接近するグレーホブゴブリンの攻撃をロッドでいなし、放たれた矢を重力を操って軌道を逸らす。

 無茶苦茶な戦い方を強いられながらも、しかし流霞の集中力はこれまでにない程に研ぎ澄まされつつあった。


 だが、それは何も良いことばかりという訳でもない。

 戦いに集中し過ぎるあまり、流霞は己の身体に負荷をかけた動きすら許容する。

 魔法回復薬を使ってどうにか回復しているが、やはり魔物の数が多い上に格上ともなってくれば、必然負担は跳ね上がる。


 しかし、今は流霞にしか前衛は務まらない。

 厳しい状況に歯噛みしていた奏星が振り返ったところで、ダンジョンレイスが流霞とグレーホブゴブリンが得物をぶつけ合うその斜め上空に現れた。


 ――――刹那、美佳里の放った弾丸がダンジョンレイスを撃ち抜いた。



「――撃ち抜いたぁッ!」


「ナイスミカミカ! 魔法回復薬の予備は!?」


「あんまない! 奏星、レイス焼いて!」


「やってるけど、効果が薄い!」



 美佳里の使う【破魔の弾丸】ならばダンジョンレイスを一撃で屠れるのだが、奏星の炎ではダンジョンレイスを一瞬で灰燼に帰すような真似はできなかった。


 属性の相性の差と言うべきか、あるいは、力量不足のせいと言うべきか。

 コメントでは前者を指摘しているが、奏星からしてみれば、ここで充分に働けないのは己の力量不足としか言いようがない。

 流霞もまた、基本的には物理属性に寄っている。ダンジョンレイスには得意とする重力操作も通用しないようで、どうしても選べる手が限られる。


 その状況でもまだ、グレーホブゴブリンは執拗に殿を務める流霞へ迫る。


 金属同士が激しくぶつかり合う耳障りな音は、断続的に、時折連続して鳴り響く。

 流霞が何体ものグレーホブゴブリンを相手にして戦い、ロッドでは手数が足りなければ魔法防具が生み出す障壁を上手く使って、最悪の場合にはその魔法障壁が貫かれることを見越した上で弾き、攻撃に転じてどうにか動きを遅滞させている、という有り様だ。


 一撃で屠れる魔物たちだったからこそ途切れることもあったが、今はただ遅滞させるばかりが限界で、その後ろからは中層の魔物が押し込んできているらしいことを窺わせる足音が響いてきていた。



「……ッ、仕方ない……! るかちー、〝第2スキル〟を!」


「あんまり保たなくなるよ!?」


「いいから! ここで一掃しよ!」


「分かった! ――【潭月鏡身(たんげつのかがみ)】」


『第2スキル!?』

『え、なにコレ!?』

『きひ子ちゃんが増えた!?』

『分身!? え、でも動いてる!』

『忍者化がさらに進んだ!』

『いや、違う、鏡像か?』



 突然流霞の姿があちこちに現れ、それらが一斉に動き出す。

 しかしよくよく見てみれば、向きや方向はバラバラではあるものの、全く同じ動きをしていることが分かる。


 流霞の第2スキル、【潭月鏡身(たんげつのかがみ)】。

 潭月とはそもそも、水深の深い湖などの水面に映った月を指す言葉だ。

 流霞の第1スキルである『朧』の文字が示すのが『淡月』ならば、その同音異義語である『潭月』が第2スキルの力として発揮される形となった。


 シンプルな魔法だが、厄介極まりない。

 どれが本物かもわからない全く同じ動きをする分身たちは、一見すればどれが本物でどれが偽物かも判らないほどに精巧だ。


 流霞に肉薄していた魔物たちが、本物か偽物かも判別できずに自分から一番近くにいる流霞の分身に標的を変えて襲いかかる。


 そのタイミングで、奏星が本物の流霞と入れ替わるように魔物たちに向かって飛び出した。



「――【火輪連斬(かりんれんざん)】!」



 奏星の身体から噴き出した炎が、魔装の振るった剣閃の軌跡に沿って左右に一本ずつ炎で描いた斬撃が生じて魔物たちを巻き込んだ。

 たった一撃の斬撃が複数に増加し、ただ炎が走るのではなく魔装を振るった斬撃そのものを再現するというスキルだ。


 攻撃に特化した奏星の第2スキルは、単純に手数を3倍にするに等しい。

 スキル発動中は常にこの効果が発動するという、なかなかに凄まじい効果を有している。


 そんな奏星の耳に、ガチャン、とこの数回で聞き慣れた装填音が聞こえてきて射線を空ける。


 奏星の視線の先では通路の隅で陣取った美佳里が魔法銃を構えていて、ダンジョンレイスが二体、重なって奏星に襲いかかるタイミングを待っていた。

 美佳里の魔装、眼鏡の中にタイミングを示すように映像が動き、そして美佳里が引き金を弾く。


 放たれた【破魔の弾丸】が二体のダンジョンレイスを穿ち、葬り去った。



「魔法回復薬が減ってんなら、一発で複数倒せばいいっしょ?」


「ハッ、天才かよミカミカぁ!」


「な、ないすぅ……」


『おおぉぉぉ!』

『ナイス!』

『一旦凌いだ!』

『けど、まだ来てる!』

『早く逃げて!』



 爆発したかのようにコメントが流れ、奏星が力なく笑う。

 奏星がちらりと見れば、流霞も第2スキルの反動か足の膝が笑っているようで、美佳里も魔力回復用の魔法回復薬を飲み干し、苦い顔をしている。

 そしてそんな二人を見ている自分もまた、かなり疲弊していることを理解していた。


 限界は近づいていて、魔物はまだ止まらない。



「ここは足場が最悪だから、もうちょい戻ろ。確かこの先にも広間があったはずだし、そこまで下がってから少し休も」


「……うん、わかった」


「はいよ……!」


『もう限界が……』

『救援まだかよ!?』

『さすがにもうちょいかかるだろ。それに先に防衛体制を整える方を優先するだろうし』

『見捨てんのか?』

『いや、スタンピードの可能性が高い以上はどうしてもそっちが先になる』



 コメントに答えるだけの体力はなく、ただただ3人は後方へと下がる。

 いくら雅が魔法回復薬を作れるからとは言っても、無限に回復できるという訳ではない。

 それに心なしか、魔法回復薬を連続して使用していると、その度に効果が下がっているような気がしてならなかった。


 この辺りもあとで報告しなきゃ、と考えつつ、一先ず足は止めずに下がる。


 3人が後方に下がった後、上層最下層辺りにいた探索者たちが流霞たちの戦いの音を聞きながら迂回し、避難に成功したらしいことはコメントでも確認していた。

 必死に中層からの魔物から逃げてきただけあって、流霞たちと一緒になって戦うよりも、生き延びることを優先したようだ。


 それは悪い選択ではない。

 実際、流霞と奏星、それに美佳里は実力が足りない分をお互いがお互いの不得手を補う形で支え合っている。

 ここで見知らぬ者たちと共闘しろと言われても、かえって動きにくくなる可能性もあるのだから。



《配信していた組は全員避難完了。録画組は分からないけれど、一先ず充分な結果と言っていい。奏星、るかちとミカミカを連れてそのまま脱出を優先して》


「っ、るかち、ミカミカ。裏方から連絡あった。配信してる人たちは脱出完了。ウチらももう脱出でいいって」


「……そっか。じゃあ魔法回復薬の残りも最後だけど、飲んじゃおっか」


「動けなきゃ出らんねーからな」


『よっっし!』

『よくやった!』

『あとは逃げ切れればなんとか!』

『外の状況は?』

『現地なう。戦力が中途半端だけど、もうすぐ明鏡止水のメンバーも来てくれるらしい』

『3人ともあとちょっと!』



 あとはもう、自分たちが逃げるだけ。

 そんな情報が入ってきて、外の状況も整いつつある。


 ならばあとは戻るだけだ――そう考えていたその時だった。

 突然、ダンジョンがぐらぐらと大きく揺れ、ダンジョンの出口側、進行方向からガラガラと激しい音が響いてきた。



「――っ、なに!?」


「今のは……?」


「急ご。とにかくウチらも出なきゃ」



 可能ならば、これ以上の戦闘は避けてこのまま逃げ切りたい。

 そう考えて下がった3人であったが、しかし、現実はそう甘くはなかったようだ。



「……なに、あれ……?」


「……なんで……」



 ダンジョンの外へと向かって出ようとしていた3人が、広間へと抜けたところで見たもの。

 それは、ダンジョンの壁が崩れ、出口に向かうルートが塞がれている、そんな光景だった。


 慌てて振り返り、迂回路を――と顔を向けたところで、流霞は気が付いた。

 中層の魔物たちが、すでにこちらに向かって走ってきていた。


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