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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第2章 魔力は世界を変える

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最上層防衛線 Ⅰ




 流霞が魔物に囲まれながら相手を引き付け、それらを奏星が一網打尽にする。

 このやり方は〝天秤トラップ〟を踏破した際にも使った方法であり、ある意味では二人にとっても一番やりやすい方法であるため、すでに確立したパターンの一つと言っても過言ではないだろう。


 それだけではない。

 当時はレベル1だった流霞と奏星は、今はレベル2になり、大幅に運動能力や反射神経なども上昇している。

 そのおかげで、かなり余裕を持って対処することができており、力や速度をある程度は調整していても余裕があった。


 そうして何度か集団を焼き払った後に出てきたのは、武装ゴブリンの集団。

 先程までも幾つかのグループがレッドハウンドに混ざっていたが、今度は武装ゴブリンが主体となった。

 しかし、これらもうまく流霞が撹乱しつつ、奏星が【灼火斬】で焼き払うことに成功。


 連戦に続く連戦がここにきて一段落といったところか、一瞬、ぱたりと流れが止んだ。



『すげええええw』

『レベル2で余裕で群れ討伐!』

『まあレベル1で〝天秤トラップ〟も踏破してたしな、この子らw』

『ここまでは順調!』



 盛り上がるコメント欄ではあったが、しかし奏星はそれらを一瞥することなく流霞へと駆け寄った。

 というのも、今の群れを焼き払った瞬間に、流霞が天を仰ぐように上を向いたかと思えば、そのままがくりと上体を落として膝に手をつき、呼吸を整えているのが見えたからだ。


 駆け寄った流霞を支えながら、奏星が声をかける。



「――るかち、休んで。集団落ち着いたっぽいし、しばらくはあーしが引き受ける」


「はぁっ、はぁ……っ!」



 返事をする余裕もない流霞が、小さく頷く。

 そんな流霞を半ば担ぐようにして広間の隅へと連れて行った奏星は、流霞を座らせると、すぐに広間の中央へと戻っていった。


 そんな二人の動きに合わせて美佳里がバックパックからペットボトルに入った水を取り出し、流霞に手渡す。



「るかち、だいじょぶ? 飲める?」


「はぁ……はぁ……、ん。ありがと、ミカミカ」



 水を渡しながらも、美佳里は改めて流霞の運動量に舌を巻いていた。

 この場所に来るまでにトップスピードで駆け抜け、〝独自魔法〟を使って探索者と魔物を浮かばせ、魔物の群れに突っ込んで、回避を続けながら集める。


 それはひたすらに全力で走り続けるようなものだ。

 いくらレベルが上がったからと言って、そんな状態を続けられるほどに人外めいた身体能力には至っていないのだから、当然流霞の体力はかなり消耗している。


 水を飲む流霞を心配そうに見守りながらも、美佳里ははっと何かに気が付いた様子で再びバックパックを漁り始めた。


 ――いざという時は惜しむなって雅にも言われてたっけ。


 そんなことを思い返しつつ、一本の魔法回復薬を取り出すと、淡くオレンジがかった液体が瓶の中で揺れる。

 それを確認してからすぐに蓋を開け、流霞の口元へと寄せて飲むように告げると、流霞がペットボトルから口を放し、その魔法回復薬を受け入れた。


 飲み干すと同時に身体の疲労感があっという間に消えていき、一気に身体が軽くなっていく。


 魔法回復薬として一般的に出回っているのは、外傷を癒やすものと、魔力を補給できるものの二種類ではある。

 しかし、流霞と奏星がこれまでに持ち帰ってきた、これまではなんら効果を持たないと思われてきたダンジョン内の草木などの素材の中には、魔力水と雅の【魔法薬調合】によって様々な効果を生み出すものが見つかっている。


 流霞が今しがた飲んだものは、体力回復用の魔法回復薬だ。

 疲労を取り除く効果があり、最近では雅と雪乃、それに『明鏡止水』の傑などがしょっちゅう愛飲している魔法回復薬でもあった。


 何せ寝不足にも効くのだ、これが。

 胃痛には効かないが。


 ともかく、おかげで体力を回復した流霞は呼吸を落ち着かせると、すぐに立ち上がることができた。



「ありがと、ミカミカ」


「あ、待った。小分けにしたからこれ持っておいて」


「あっ、そうだった。ありがと」



 美佳里から渡されたのは、狩猟用などで使われるショットシェルホルダーを改造した、ベルトに引っ掛けることのできる弾帯ならぬ魔法回復薬帯。

 幾つかの魔法回復薬を差し込んでいるそれを流霞がベルトにそれを引っ掛け、戦線へと復帰する。


 一方で、やってきた武装ゴブリンを斬り裂き、燃やし尽くした奏星にが流霞の代わりに下がってきて、同じく魔法回復薬帯を受け取って腰のベルトに引っ掛けて装着すると、流霞と共に武装ゴブリンたちを蹴散らし始めた。



『あの腰についてんの、魔法回復薬か?』

『なにあれ、見たことないのもある』

『ジュース入りとかだったりして』

『草』

『救援まだかよ』

『さすがにそんなすぐには来れないだろ』



 配信ではそのようなことが騒がれていた。


 目敏い者ならば、それらが違う種類の魔法回復薬であり、つまりはそれらを入手する術を手に入れたと気が付くかもしれないが、背に腹は代えられない。いざという時のために用意してきたものではあったが、ここからも厳しい戦いが予想される。出し惜しみして命を落としては元も子もない。

 毎回つけていないのであればどうにでも誤魔化せるだろうと割り切っている。


 そうこうしている間に、ついに武装ゴブリンから次のランクの魔物たち。

 即ち、ポイズンビッグスパイダーやパラライズモス、カーイーターなどの魔物たちが混ざり始め、流霞の〝独自魔法〟による重力操作と、奏星の〝独自魔法〟による炎系統の魔法が飛び交い始めた。



「全部魔法でやるのはキツい、か。るかちー! フォローはあーしがする! 近接でよろ!」


「わかった!」



 ポイズンビッグスパイダーが糸を飛ばしてくる上に、パラライズモスは滞空する。

 そうした特性を有している魔物である以上、流霞が引き付けてまとめるというのは現実的ではない。

 二人で攻略をしている時も基本は〝独自魔法〟で処理をしていた魔物たちだ。


 しかし今は散発的であるのに数が多いという面倒な状況だ。

 全てを魔法で一気に処理できないとなると、魔力の消耗が激しすぎる。


 そこで、奏星がフォローに回って炎を撒き散らし、流霞がヒットアンドアウェイで撃破していくという戦い方に切り替えた。


 ロッドを回しながら振り抜き、振り下ろし、叩きつけ、吹き飛ばす。

 相変わらず華のJKらしい戦い方とは言えない、一撃一撃が凄まじく重さを感じさせる戦い方ではあるが、ある意味では実に流霞らしい戦い方である。



「――燃えろ!」



 空を抜けたパラライズモスは、奏星の炎が焼き払う。

 零れ落ちる鱗粉すらも容赦なく焼き尽くす奏星の炎が鞭のように伸びていき、その先の壁を上るポイズンビッグスパイダーをも焼き尽くした。


 そうして数分、激しい戦いが続いていたところで、ついに魔物が切り替わるタイミングがやってきた。



「――きたね、オークが」


『出た』

『こうして見ると強くなさそう』

『ゴリラ以上の膂力だと思え』

『軽く死ねるんよそれ』

『レベル1じゃまず勝てない相手筆頭』



 上層9階層――つまり、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の二人がまだ攻略していない階層からやってきた魔物、オーク。


 成人男性程の体躯に、豚のような顔をした巨大な身体。

 分厚い脂肪と筋肉に覆われていて、その腕力や膂力は人間のそれよりも遥かに高く、鈍重ではあるもののタフで強い、そんな魔物だ。


 常人であればオークという自分と同等、あるいはそれ以上のサイズの魔物との戦いは、なかなかに緊張感が生まれるものだ。

 とは言え、〝天秤トラップ〟でトロールを相手にしたことのある奏星や流霞にとってみれば、オークの迫力は大したこともない。


 その姿が広間の中に入り、見えた瞬間。

 流霞が口角をあげた。



「――きひっ」



 刹那、流霞が上体を下げて一気に魔物たちを避けるよう迂回しながらオークに肉薄、ロッドを振りかぶりながら飛び出し、その横っ面にフルスイングして叩きつける。


 ――どぱん、と音を立てて、破裂した。



『いやいやいやいやww』

『きひ子ちゃんやべー……』

『一気にスピードアップして突っ込んだかと思えば、オークが破裂したでござる』

『つまりあれ、人間も破裂するってこと』

『ひぃww』

『あ、そっか。レベルアップしたきひ子ちゃん、速度がさらに乗るから……』

『きひ子ちゃんに殴られたら頭パーンの可能性』



 第三波とも言えるオークの襲来。

 しかしコメント欄が盛り上がるどころか、唐突にスプラッタな何かを見せられてドン引きしてしまったことを、流霞は気が付いていない。



「――きたよ、るかちー」


「うん。第2スキル(・・・・・)、そろそろ解禁?」


「できればまだ、かな」



 短く言葉を交わして、流霞と奏星がダンジョンの奥を睨みつける。

 ぞろぞろと現れたオークの群れが、流霞と奏星を見て一斉に咆哮をあげ、対する奏星は炎を噴き出させ、流霞は「きひっ」と喉を鳴らす。


 激しい戦いが始まろうとするその中で、ただ一人、美佳里は。


 ――あーしに、できることは、他には……。


 気が付けば美佳里は『創造の石板』を手に持ち、願い、祈りを込めるように魔力を込めていた。

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