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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第2章 魔力は世界を変える

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怠惰な男の末路



 瀧田(たきた) 亜衣琉(あいる)は自己愛の塊と言ってもいいような、そんな男であった。


 早熟だった少年期は周りに対して「自分はおまえたちのようなガキではない」と言いたげに斜に構え、中学校に入る頃には「周りの幼稚さが腹立たしくて関わり合いたくない」とでも言いたげに孤高を気取った。


 そうしてダンジョン因子を手に入れた頃、まだ『第3世代』という言葉が定着していなかったその頃に、【魔力支配】というダンジョン因子を手に入れ、彼は思った。

 自分はやはり特別で、だからこそ誰もが掴みきれない魔力なんていうものを支配する器があるのだ、と。


 瀧田亜衣琉は【魔力支配】を手に入れ、あらゆる魔法を使えるようになっていった。

 炎を操り、風を起こし、水を踊らせ、大地を呼び覚ます。

 ありとあらゆるものが亜衣琉の支配下にあるような、そんな万能感に酔い痴れながら日々を過ごしていた。


 なのに――否、だからこそ、だろう。

 そんな特別さを有した自分だからこそ、泥臭い努力というものをしたくなかった。


 自分は特別だ。

 だから、凡人のような努力はいらない。

 凡人共が努力をしてようやく指先が届く領域を、特別な自分はあっさりと一歩踏み出すだけで超えてしまうのだから。


 それは彼が努力しない言い訳でしかなかったが、しかしそう思えるだけの確かな才能と、運の良さが彼にはあった。


 だから(・・・)、瀧田亜衣琉は不幸(・・)だったのだ。


 もしももっと早く挫けていたのなら、もっと彼は勤勉だったかもしれない。

 もっと早く周りを見ていたのなら、もっと彼は優しかったかもしれない。

 そういう風に矯正されていく機会さえあれば、もしかしたら素晴らしい探索者になっていたかもしれない。


 そうならなかったというのはきっと、彼にとっては幸運で、しかし他者から見れば不幸なことだった。




 ◆




 瀧田亜衣琉にとって、己の身に起きた不幸(・・)は許容し難いものがあった。


 ――フザけるな、フザけるなフザけるなぁッ! 『明鏡止水』め! またか! 魔力への干渉も、魔法も! それは俺のモノ(・・・・)だろうが……ッ!


 それは『明鏡止水』によって発表された数々に対する怒りだ。


 突然配信上で発表された、『魔力水の水差し』を利用した魔力という不可視のものへの干渉、研究結果の秘匿ではなく公開。

 それらは瀧田亜衣琉が己を己たらしめる、延いては特別たらしめるものとして利用してきた魔力という存在の謎を明かすような真似だ。


 そんなものは許せるはずもなく、瀧田亜衣琉は苛立ち、怒り、どうにかその実験を止めさせようと考えて――『明鏡止水』の問い合わせ窓口に問い合わせることしかできなかった。


 瀧田亜衣琉は己を特別だと思い込むその一方、それを磨こうとはしなかった。

 探索者になってたった1年半でレベル3探索者となり、その頃は周囲からも一目置かれていたが、それからは一切伸びていなかった。

 というのも、彼はその1年半という期間すらも手を抜いていて、それでも若手のトップと知られる程の強さを得てしまったからだ。


 だから、彼にとって探索者とは「頑張らなくても充分に強くなれるもの」に成り下がった。


 故に、彼は怠惰に過ごした。

 たまにお金が必要になればダンジョンで魔物を倒して、また休んで。

 そうやってダラダラとなんの改善もなく、なんの目標もなく、ただただダラダラと過ごしてきたのだ。


 そうしてすでに5年が過ぎているのである。


 ダンジョンではレベルアップするために、己の壁を打ち破る必要がある。

 そんな怠惰な生活を続けているだけの亜衣琉がレベルアップするような事態に巻き込まれることもなければ、そのような場所に足を踏み入れる必要もない。


 だから、彼は5年間でただの怠け者に成り下がった。

 なのに、彼の意識は変わらなかった。

 何故なら彼は誰とも付き合っておらず、友人も知人もいなければ、家族のお小言にさえ暴力で黙らせるような、そんな男だからだ。

 そんな男を、誰が相手するというのか。


 そんな彼が『明鏡止水』に対してできることなんて、何もない。

 仲間と一緒に最前線を進んでいて、それで抗議するというのならまだ価値はあったかもしれない。

 若手のエースとして名を馳せ、相応の実績を積んでいたのであれば、『明鏡止水』と繋がるパイプだって手に入れていたかもしれない。


 だが、亜衣琉にそんなものはなかった。

 何もしていない者が、何かを得られるなんてことは有り得ないのだという、冷たい現実だけが亜衣琉にのしかかったのである。


 さらに言えば、そんな亜衣琉から『明鏡止水』に届いた苦情のメッセージには、『その技術は俺のものだ』だの『だから公開するなんて許さない』、『慰謝料を請求する』だの、「何言ってんだ、コイツ。ヤバ、頭おかしいのきた」と係の者が鼻で笑うレベルのものである。


 亜衣琉としては、それらは本当に本心から言っているのだから手に負えない。

 一日後には『出るとこ出るぞ』だのなんだのと書いて再送していたが、係の者は鼻で笑いながら「どーぞどーぞ」と呟いていた程度には相手にされていないのだ。


 そこで亜衣琉は考えた。


 今から〝独自魔法〟を自分のものだと言っても、その証拠と呼べるものはない。

 であれば、〝真の魔法〟というものを愚民共に見せてやり、本当の力とはどういったものなのかを見せてやれば良いのではないか。

 そうすれば、いくら『明鏡止水』が認めなかろうが、本物の魔法を知る者はどちらであるかを知れば愚民共も目を覚ますだろう、と。


 ならば劇的に見せびらかしてやらなければなるまいと、亜衣琉はドラマを組み立てることにした。


 当然、自分の魔法の素晴らしさを見せつけるのであれば、派手な威力の魔法を見せつけるべきだろう。

 しかし、そんな深い階層まで潜っていない亜衣琉では、今から中層の攻略を目指していては時間がかかる。

 ならば、質は劣っても数を揃えればいいのではないだろうか。


 亜衣琉はそこまで考えて、魔物を大量に引き連れて魔法で一掃し、これぞ真の魔法であると大々的に公言してやることにした。


 とは言え、いちいち魔物を集めるのも手間だ。

 何か魔物たちが自分たちから来るように仕向ける方法はないだろうかと考えて、亜衣琉がインターネットで検索していく中、とある記事を見つけた。


 記事を読み進めていく内に、亜衣琉は己の口角がつり上がるのを感じていた。


 ――なるほど。これならば俺の魔法で広げることもできるし、俺が汗をかいて動かずとも魔物たちを誘導できそうだ。用意するのも簡単だな。


 迷う必要はなかった。

 亜衣琉の想定の中では、すでにその作戦は成功を収めていた。

 これで自分の価値を世間は知るだろう、とも思っている。


 あとはその証明を確固たるものによって行うしかないだろう、と考え、亜衣琉は人生で初めて探索の配信を行うことにした。


 配信の題名は、【真の魔法を見せてやる】というもの。

 あまりにも痛々しく、香ばしい、そんな題名ではあったのだが、一時期有名になった瀧田亜衣琉のチャンネルであり、〝独自魔法〟によって魔法に注目が集まっていることもあってか、亜衣琉の配信には想定以上に多くの視聴者が集まっていた。


 しかし亜衣琉は、視聴者が集まっている動機というものも理解していない。

 ただ、自分の特別さを分かる者は分かっているのだなと、本気でそう思ってしまっている。


 そうして、亜衣琉は配信を始めた。



「――最近、〝独自魔法〟とかいう偽物の魔法が世を騒がせ始めているようだが、そんな偽物が横行するなど看過できるものではない。だから今日は、この俺が本当の魔法とは何かを、真の魔法とはどういったものかを見せつけてやろうと思っている」


『何言ってんだ、こいつ』

『独自魔法公開チャンネルは多いからなぁ』

『自分は気付いていたんだアピールするのも多いけどなw』

『匂うぜ、コイツは本物の馬鹿だ』

『草』

『コメントとか知らんのかよ、コイツw』

『一切こっちのコメントとか確認しねぇなぁw』


「さて、では早速だが、ここは都内のダンジョンの中層だ。まあ、大した魔物はいないのだが、いちいち奥の階層まで進んでいては時間がかかる。この階層でいいだろう。魔物を集めるのも、この階層なら手間もそうかからないしな」


『ほーん』

『中層にいるってことはそれなりに強いのかな』

『まあ、真の魔法とか言いながら上層とかだったら、ねぇww』

『割と好きだぞ、俺はw なんか〝魔女の饗宴〟味を感じるw』

『やめてさしあげろww』

『さすがにコイツがそんなに強いとは思えないぞw』

『なんか取り出した』

『ちょっと待って。魔物を集めるって言った?』

『あれ薬?』

『おい待て』

『通報しろ!』

『アイツ、禁制薬使って魔物呼ぶつもりだぞ!』



 ただの野次馬根性、あるいは〝独自魔法〟の情報を少しでも集めようと思っていた視聴者たちであったが、亜衣琉が手に持ったその瓶を見て、血相を変えてコメントする。


 しかし、亜衣琉はコメントを一切見ていない。

 故に、コメントの者たちがどれだけ制止しようと、どれだけ警告のコメントを打っていようとも、止まることはなく瓶を開け、その薬を風の魔法を使ってフロアに蔓延させた。



「さあ、見ているがいい! 本物の魔法ならば、魔物がどれだけ集まろうと倒しきれるということを、目に焼き付けろ! 〝独自魔法〟などという偽物の魔法との格の違いを、その目に焼き付けるがいい!」


『おい、コイツ止めなきゃやべえぞ!』

『でもなんでこんな余裕あんだよ、こいつ』

『そんな強いのかな?』

『禁制品利用は一発アウトだぞ』

『さっきの瓶、明らかに気付けの薬草だって分かるからな。一発アウト』

『本来ならBAN確定だけど、証拠にもなるからBANになってない説まであるぞ』

『だからそんなこと言ってる場合じゃねぇっての!』

『あの薬をフロア中に撒いたりしたら、魔物たちが暴走するぞ!』



 コメントにあった、気付けの薬草。

 これは度数の高い酒に漬けて熱することで、放たれた匂いが魔物たちを異様に興奮させるという危険な効果を持つものになる。

 昔、これによって一組の探索者がダンジョン内で野営中に興奮した魔物たちに一斉に襲いかかられ、そうした効果が発見されたのだ。


 以来、その使い方は禁忌と化し、ダンジョン内で同じことをやれば、一発で探索者資格の剥奪と刑務所行きが確定している。


 そんな当たり前のことを紹介していた記事の、ほんの一部だけを見て彼はこの薬を用意し、使っているのだ。


 大量に近づいてくる魔物たちの足音。

 加速するコメント欄。


 そうして、それらを堂々と、まるで余裕があるかのように待ち構える亜衣琉。


 魔物たちが曲がり角を超えて亜衣琉の視界に入る。

 同時に、亜衣琉が余裕を持って指を鳴らしてみせれば、魔物の群れの足元に魔法陣が浮かび上がり、火柱が上がった。


 それはある意味、視聴者の想像を超える光景だった。

 魔法としては実に強力で、もしかしたらこの男は本当に強いのではないかと思うような、そんな光景。


 だが、現実はそう甘くはない。



「――へ、が……っ、ぉ……」



 火柱の向こうから、突き抜けるように姿を現した魔物の群れが、炎なんてものには怯えずに真っ直ぐ亜衣琉へと突っ込み、ぶつかって弾き飛ばし、そして踏み砕く。


 カメラに映し出されたのは、怒り狂い、我を失って次々に駆け抜ける魔物の群れ。




 ――――直後、ダンジョンの中がぐらりと揺れて、ダンジョンが赤く染まった。


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