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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第2章 魔力は世界を変える

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世界に知られる〝独自魔法〟




《――と、このように魔力を扱えるようになることで、ダンジョン因子によって得た力に方向性はある程度固定されますが、魔力を使った魔法を作れるようになるというわけです。これを我々は、〝独自魔法〟と呼んでいます》



 雅の父、『明鏡止水』のクランリーダーである傑の説明。

 映像ではまさに雅の二人の姉や『明鏡止水』のメンバーが魔法を使っている姿が映し出されており、それ以外にも無名の探索者、研究員を使った実証実験成果が次々と映し出される。

 その映像に、凄まじい勢いでコメントが加速していく。


 とは言え、これらの情報は『明鏡止水』が発見したものではなく、そんな配信を観ている〝がちけん〟メンバーによるものであったということだ。

 雅や美佳里、雪乃はもちろん、ダンジョンから戻ってきた奏星と流霞は「発表されたなー」ぐらいの感覚でお菓子とジュースをテーブルに広げてポリポリしながら観ているだけである。世の中と当事者のギャップが激しすぎた。



「なんか雅パパン、疲れてね?」


「それな。あーしも朝会ったけど、なんか胃薬飲んでた」


「え、だいじょぶなん?」


「さあ? 忙しいんじゃね、『明鏡止水』なんてクランのリーダーなんだし」


「あーね」



 美佳里の気付きに対する実の娘の反応がこれであった。


 もしも傑がこの場にいたら、思わず「雅ちゃん? キミたちが色々と一気に動かしまくっているから僕ぁ胃が痛いんだよ?」と思わずツッコミを入れたのかもしれないが、残念ながら傑は会見の真っ最中だ。


 もっとも、もしもこの場でそれを言ったとしても、雅は傑がこのような状態になっていることが自分たちに原因があるとは思ってなどいないので、「え、何言ってんの?」ぐらいの反応をするかもしれないが。



「わはー、やべー。〝独自魔法〟トレンド1位」


「ホントはそれ見つけたんウチらー、いえーい」


「やー、るかちーが『魔力水の水差し』見つけたのがデカすぎんよ」


「おかげでウチらも色々進んだじゃん? るかちるかち、いえーい」


「い、いえーい……?」



 一方、雪乃と奏星がそんな盛り上がり方をしているものだから、巻き添えを喰らった流霞もお返しをすることになった。こういうのはノリきった方が良いのだが、まだまだそこの塩梅は流霞にはよく分かっていないようである。


 遠慮がちにハイタッチした流霞は、なんとなく陽キャの一員になれた気がしてドキドキしながら配信画面へと顔を戻した。


 

《――えぇ、そうですね。既存のスキルをダンジョンシステムスキルと呼び分けていますが、このダンジョンシステムスキルでは魔力を扱う感覚というものが生まれません。たとえばですが、【火属性魔法】のダンジョン因子を持つ者も、そのせいで魔力の扱い方は掴めず、〝独自魔法〟を覚えることはできず――》


「そういやさぁ、るかちー」


「うん?」


「るかちーって最初、『魔力水の水差し』に魔力流したりしてたじゃん? なんで魔力流せたん?」


「んぇ? だって、あの水差しに水入れたらずりゅりゅって魔力動かされたのが、【朧帳】の時と同じような感じだったから」


「……ん? え、ちょっと待って? ねえ、奏星も【灼火斬】の時にそういう魔力の感覚、分かってたの?」


「え、うん。なんかぐわぁって感じするから」



 傑の説明を聞いて、何気なしに質問した雅。

 そんな雅に返ってきた流霞と奏星の答えに、雅が真剣な表情を浮かべて顎に手を当てて考え込む。


 ――お父さんは今さっき、従来の因子持ちはダンジョンシステムスキルを使っても理解できなかったって言ってた。なのにこの二人は、思えば最初っから当たり前みたいに魔力を使っていた、よね……?


 それは『魔力水の水差し』が何なのかを調べていた時からそうだ。

 流霞は当たり前のように魔力を流していたし、奏星も驚きはしていたが、それは魔力水そのものに対する驚愕でしかなくて、魔力を感知して動かすとかそういったことではない。


 一方で雅や美佳里、雪乃は魔力なんてものは一切感知できず、『魔力水の水差し』を通して魔力を動かされるようになったことで、【魔力感知】を取得し、初めて魔力というものを知覚できたのに、だ。


 ――それはつまり、ウチらがるかちーと奏星が〝魔力を扱えるっつーことのおかしさ〟に気が付いていなかったってことなんじゃ?


 傑の言うことは一般的な解釈なようで、コメントでも否定的なものは見つかっていない。

 となると、自分たちが見逃していただけという可能性も否定はできないのではないだろうかと雅は思う。



「――……っ、もしかして……」



 はっと何かに気がついて、雅がARグラスをかけて先程の録画映像――莉緒菜と瑛里華が『魔力水の水差し』を使って魔力を動かした時の映像を再生し、それぞれの反応を見比べる。


 瑛里華はまるでぎょっとしたような、得体の知れない感覚に戸惑ったような表情。

 対する莉緒菜は、純粋に驚いているような、それこそ流霞と奏星の二人と全く同じような反応だ。



「雅、どしたん?」


「ちょっと待って」



 思考を整理している最中に雪乃に話しかけられるも、雅は短く答えて思考を巡らせる。


 流霞、奏星、莉緒菜。

 その三人に共通するものと言えば、『アルカナホルダー』という莉緒菜が言っていた呼び名の通り、ダンジョン因子が特殊な面々だ。

 その他の共通項として、どうやら髪の色や瞳の色といったものがダンジョン因子の影響で変化するということぐらい、だろうか。


 だが、そもそもダンジョン因子はこの半世紀ほどで研究され、分かっていないことが多すぎるのだ。

 だから確証はないが、それにしても共通する要素を見つけたとなると、少々話は変わってくる。


 ――そもそも『アルカナホルダー』に対するダンジョン因子の影響範囲が広過ぎる……。ううん、広いというか、いっそ深い(・・)……そう、深いと表現した方がしっくり来るっつーか……。


 一般的なダンジョン因子がもたらす効果は、『人間に力をプラスした』とでも言うべきだろうか。そうした上辺の部分の変化とも言えるだろう。

 だが、『アルカナホルダー』は、もっと深いところ――それこそ根源とでも言うべきか、そういったものから影響を受けているような気がして、雅は思考を纏める。


 ――深い変化、いや、もしかして、適応(・・)……? だからこそ、外見にも変化が大きく出て、存在そのものが徐々に適応して塗り替えられて、髪や瞳の色が変わっている……? さすがに飛躍しすぎか? でも、あーしもそうだって言われれば納得できるような気がする……。



「……ぬあーっ、だめだ。なんか出てきそうな気がするんだけど、上手くまとまんねー。ちょい書き留めて整理すっから、今度ブレスト付き合ってー」


「ぶ、ぶれすと……?」


「ブレインストーミングっつーヤツ。あれ、るかちーってあんな風になる雅って見たことなかったっけ?」


「うん」



 パソコンの前に移動しながら頭をがしがしと掻いて、即座にキーボードで文字を打っていく雅。

 そんな雅を見送りながら問いかける雪乃に、流霞は頷いた。


 パソコンを自在に使ったり、〝ぶれいんすとおみんぐ〟なるものを当たり前のようにやり取りしたり、なんだかこう、〝デキる女〟感があるなぁ、なんてぽえーっとしながら思うのが流霞に、雪乃は小さく笑った。



「るかちーって可愛いよね」


「はっ!?」


「わかる。髪色変わってからなんか無口が似合うようになったけど、人形っぽくなってきた感あるし」


「最近あーしが髪整えてっから」


「それもあるわー。前までこう、雑に手櫛だけしました、みたいなぼさっとした時とか多かったもんね」



 ――ば、バレてる……!?


 流霞は元々、自分の顔の良し悪しなんてものには興味がなかったのだ。

 だから寝癖なんてものはこう、顔を洗ったついでに濡れた手でさっと撫でつける程度でしか手入れはしていなかったのである。


 だが、最近は奏星にオススメシャンプーやコンディショナーをプレゼントされたり、オススメされるがままに買ったり、手持ち無沙汰に何故か奏星に髪に櫛を通されたりとしているおかげで、地味に色々と整い始めているのだ。


 もっとも、本人は言われるがまま、ただ「ギャルが言うならきっとこれはオシャレなやつなんだ」ぐらいの感覚で受け入れているだけなのだが。



「おーっし! ミカミカの装備も終わったし、次は新素材で他の装備作ってみっかー!」


「ミカミカの装備どんなん?」


「明後日のお楽しみだって。あっ、ゆっきー! るかちーと奏星の装備案、こんなん次どう?」


「るかちー、どんなん着たいとかあるん?」


「じ、地味めで」


「却下」


「なんでぇっ!?」



 世界に〝独自魔法〟なるものが広がり、新たな時代が到来するかもしれないというような中であっても、彼女たちのやり取りが大きく変わることはないようである。


本日はここまでとなります。

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