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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第2章 魔力は世界を変える

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【配信】お披露目 Ⅱ




 ダンジョン上層は、およそ2から3階層毎に出現する魔物が変化する。


 7階層の後半あたりから姿を見せ始めた魔物、ポイズンビッグスパイダーという流霞の太ももぐらいまである大きさの紫黒の蜘蛛。

 それに加え、8階層から出現するパラライズモスという黄土色というような表現が似合う巨大な蛾。それにカーイーターと呼ばれる、メタリックグリーンカラーな色合いをした全長7メートル程度、胴の太さは大人の男の胴程はあろうかという大蛇だ。


 ちなみに魔物名に英語名が多いのは、これらの魔物を最初に発見し公表したのが英語圏の国の探索者だったためだ。

 日本ではカタカナ表記でだいたい通じるお国柄であるおかげで、改名されることはなくそのまま使われている。


 上層のダンジョンではこの7階層後半から9階層までが一種の鬼門となっている。

 その理由が、魔物が持つ特有の毒効果のせいでもある。


 ポイズンビッグスパイダーの毒は、レベルアップした人間ならば即死する程の強烈な毒ではないとは言え、激しい目眩に襲われながら強烈な吐き気と寒気、身体の震えに襲われる。

 そんな状態でまともに戦えるはずがなく、即効性の解毒薬が都合良く手に入る訳でもない。


 さらにパラライズモスは戦闘状態に入ると麻痺効果――いわゆる筋弛緩作用のある鱗粉をばら撒いてくる。

 ポイズンビッグスパイダーの毒を受け、パラライズモスから逃げられずに捕食される。あるいは逆のパターンも有り得るのである。


 そこにカーイーターの牙から流し込まれる強烈な神経毒だ。

 文字通り神経細胞に働きかけ、呼吸困難に陥るという致死性の高い毒を持つだけではなく、巨躯を活かした体当たりも脅威である。


 しかしたとえば遠距離攻撃系のダンジョン因子を持たない者がボウガンなどを持っていて、どれだけ精度の良い腕前であったとしても、そもそも魔物たちには刺さらないし傷もつかないのである。

 何年かに一度、そうした常識を勉強していないのか、同じようなことを仕出かす者が配信をして、ダンジョンが初めて出現した時に、人類が科学兵器などを使っても魔物を駆逐できなかったという歴史を改めて見せつけるような光景が広がるのは、もはや定番と言えば定番でもあった。


 だからこそ、この階層を超えるためには遠距離攻撃を主体とした距離を取った戦い方で、基本的には戦闘を回避するか、遠距離から一方的に勝負をつけることを優先しなければならない。

 故に、ここに挑む以上は、パーティには魔法系統や属性系統のダンジョン因子を持つ存在が必要になる――と、言われているのだ。


 そう言われてはいるのだ、が。



「なんか武装ゴブリンとかの方が厄介だったかも」


『いやいやいやきひ子ちゃんちょいとお待ちよ』

『あのね、ホント意味分からんことを当たり前な顔してやられてるけど、普通はこうはならんのよ?』

『重力? で圧し潰すきひ子ちゃんと、炎を自在に操って一瞬で倒しちゃうカナっちが常識外れ過ぎるんだが?』

『ねえ、ホントなんなのこの二人』

『やってることが凄すぎて意味分からんて』

『ニュータイプ過ぎるんよ』



 奏星が炎を操ってパラライズモスを焼き払えば、パラライズモスがばら撒く麻痺効果のある鱗粉さえも一瞬で燃やし尽くされて消えていく。


 ポイズンビッグスパイダーが炎を避け、石造りの遺跡のようなダンジョン上層内の壁や天井を通って肉薄しようとすれば、流霞が重力を叩きつけて地面に叩きつけたり、時には壁や天井に叩きつけて潰す。

 カーイーターが巨大な身体を曲げ、放たれた矢のように伸ばして迫れば、流霞のロッドがその頭を殴り飛ばし、伸び切った身体を奏星の細剣が斬り裂いて燃やし尽くす。


 先程からこの繰り返しとなってしまっているのだ。

 どうしても流霞や奏星にとっては武装ゴブリンやレッドハウンドという、近距離、チームワーク、遠距離攻撃、速度という多種多様な攻め方をしてきた浅い階層の魔物たちの方が厄介だったようにも思えてならないのである。


 常人にとっては鬼門となる状態異常攻撃と、カーイーターというスピードとパワーを兼ね備えた大蛇の厄介な奇襲攻撃。

 しかし残念ながら、この二人にとっては鬼門どころか対処が簡単で、むしろ作業感すら生じていた。



「るかちー、魔石まだ持っていけそ?」


「そろそろ限界かも。ドロップ素材もそれなりに集まったし、そろそろ帰る?」


『結構な数倒してるからなぁ……』

『普通この毒ゾーンってみんな隠れてやり過ごしたりしながら進むのよ?』

『この二人、正面から踏み潰して進んでいくストロングスタイル過ぎる』

『なんなんだよ、この二人のダンジョン因子っつかスキル』

『いや、それもそうだけど装備もだろ』

『分からんことが多すぎていっそCG疑うレベル』

『CGwwwww』

『出たな、なんでもかんでもAIとCGにして信じない層』

『探索者配信でCGとかAI編集入れたら一発公開処刑なの知らんのかよw』



 奏星のARレンズに流れるコメントでも、今日は装備のお披露目、それに〝独自魔法〟に関するツッコミが多いためか、コメントというよりも議論を交わす場のような有り様となっている。


 ちなみにコメントに出ている、『探索者配信における編集規制』というのは、バズり目的でAI加工したCG映像を使い、ダンジョンから魔物が溢れるというような映像を作って公開されたことが起因している。

 少々常識的な判断ができない一人の馬鹿な若者のせいで、政府から急ぎ避難勧告が発令されて大きな騒動になったという事件があったのだ。


 そもそも探索者の配信や録画映像の公開というのは、ダンジョン内の犯罪だけではなく、ダンジョンの異変を即座に確認し、万が一にでも氾濫が起こった場合に素早く対応するためのものでもあるのだ。

 そんな真似をしては多くの者に迷惑がかかるという常識的、あるいは良識的な判断という名の『理解していて当然なこと』すらも考えない一人の青年のせいで、大きな問題となった。


 もっとも、そうした一件があったからこそ、情報発信のモラルやマナーなどを、『個人の良識や常識に勝手に期待する』という曖昧なものではなく、しっかりと教育に組み込むようになった。

 さらには編集映像やAI加工映像には画面上にそうだと分かる表記が義務化され、AI監視ツールなどが発展したのである。


 そのため、そもそも探索者配信でCGだのAIだのと言い出すなど、今の時代では有り得ない話ではあるのだが、それはさて置き。


 さすがに議論が白熱してきつつあるため、これ以上放置するだけというのもよろしくないだろう。

 時間も時間でちょうどよいと判断したのか、雅からカンペメッセージが奏星に送られてきて、奏星が読み上げる。



「んじゃ、そろそろ配信は切ることになるんだけど、今日の配信であーしとるかちーが使った技術だったりについては、今夜『明鏡止水』から正式に発表があるからそっち見てー」


『は?』

『そういや今日、追加研究成果発表配信日じゃん』

『え、ちょっと待って』

『また明鏡止水絡んでんの!?』

『っていうか、明鏡止水から提供されてるってこと!?』

『え、二人って明鏡止水メンバーじゃなくない? 名簿に二人の名前ないけど』

『そういやクラン入ってるって言ってたけど、そこが明鏡止水と繋がってるとか?』


「なんか盛り上がってっけどー、ぶっちゃけウチらが細かいこと知ってるわけなくない? あーしもるかちーもJKなんだけど?」


『まあ、それはそう』

『ぶっちゃけ過ぎわろたww』

『ある意味正論で草』

『まあ発表あるっつーならそっち見るかぁ』

『ああああ! 矢ノ沢姉妹が配信始めたんだけど、あっちも同じような意味分からんスキル使ってる!』

『まじか!?』


「んじゃ、ウチらはあとは引き返すから、配信は終わりー。おつおっつー。るかちー」


「うん? あ、チャンネル登録と高評価……? お願いします? ……さよなら」


『最後よww』

『百万回チャンネル登録して高評価押した!』

『偶数ならどっちも無効定期』

『おつおつー!』



 そんな挨拶を雑に済ませたところで、二人の配信はプライベート配信モードへと切り替わり、配信上の映像はエンディング画面へと移行していた。



「あー、もしもし? 切り替わった?」


《プラベモードへの変更完了したよ。お疲れ、奏星、るかちー》



 奏星の問いかけに答えているのは雅だ。

 チャットではなく、今回は音声通話である。



「おつおつー。予定通り、雅の姉ちゃんたちも始めたんだね。誘導サンクス」


《ま、『明鏡止水』の方で発表してくれんだから、ウチらとか〝金銀花(カプリフォリオ)〟が受け持つ必要はないっしょ。〝独自魔法〟についてはただのスタートダッシュでしかないから、発表後にはどんどん追いつかれるし、過剰な話題にはならないで抑えられると思う》



 雅が告げる通り、そもそも〝独自魔法〟は『魔力水の水差し』を使って魔力を知覚し、操れるようになれれば誰だって使えるようになるものだ。


 すでに〝独自魔法〟の解釈を記した動画データと、魔力知覚のための実験道具である魔力水入りの噴霧器は各国のレベル5以上の探索者への送付も完了しており、レベル4へは順次送付中の段階だ。それぞれに実験、訓練に挑んでもらっている。


 今夜の『明鏡止水』の配信終了と同時に配信上での〝独自魔法〟の公開を許可しているため、今夜からは世界各地で驚愕の声があがることになるだろう。


 そうなった時に、今回の件でどれだけ流霞と奏星が〝独自魔法〟を使って目立っていたとしても、それは最初だけの話になり、気が付けば誰もが使うものに変化していくのだ。

 流霞と奏星が目立ったとしても、それは一過性のものでしかなく、スタートダッシュの効果はあっという間に消えていくだろう。


 とは言え、そんなものはどうでもいい(・・・・・・)



「別にウチら、特別になりたいとかって訳じゃねーし。ね、るかちー」


「え? うん」



 目立ってちやほやされたいだとか、特別なことをして優越感に浸りたいだとか。

 そんなことで承認欲求を満たしたい訳ではないのだ。

 もっとも、流霞はちょっとだけちやほやされることに願望を抱いていたりもするのだが、いざそうなって目立つようになれば引きこもり一直線なのは間違いない。根が小心者なので。


 雅と美佳里、雪乃。そして奏星も、いつしか巻き込まれるように参加した流霞も。

 彼女たちは『ガチダンジョン攻略女子』であって、一流ストリーマーになりたい訳でも金持ちになりたい訳でもないのだから。



「そんなことより、今回は雅の『特製魔法回復薬』の出番なかったけど、だいじょぶそ?」


《だいじょぶ。それに、どっちにしたって出番は来るじゃん? ミカミカのデビュー配信でさ。予定通り、〝二つめのアーティファクト〟ってことは内緒にして魔装ってことにすっから》


「りょ。明後日っしょ?」


《そそ。あと、これは一応共有なんだけど、〝魔女の饗宴〟メンバーも正式に〝がちけん〟に加入したから》


「マ? るかちー、りおなんたちも〝がちけん〟入ったって」



 通話ならば参加できるだろうが、しかしそういう通話にしか参加しない流霞にわざわざ奏星が伝えてみせる。

 いい加減、コンタクトレンズをつけなければ変色した瞳を隠せなくなるため、なるべく頑張ってはいるのだが、このオタク少女、未だにどうしても慣れないのである。


 奏星がつけているようなARカラー付きコンタクトレンズをつけれるようになれば、せめてチャット確認ぐらいはできるようになるだろうに。



「あ、そっか。今日が正式契約なんだっけ?」


「んだね。さて、ウチらもはよ帰ろ。素材色々あっから、ゆっきーにもよろーって伝えといて」


《ん、気をつけてね》



 そうして通話を終えて、流霞と奏星は二人で帰る。

 たとえ〝独自魔法〟のアドバンテージがなくなっても、まだまだ彼女たちの快進撃は止まることはない。

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