【配信】お披露目 裏 Ⅱ
「――種明かしすると、るかちーと奏星のあれは、ダンジョン因子で覚える魔法じゃなくて、〝独自魔法〟。スキル外で魔力を操れるようになると、因子が持つ方向性次第ではあるけれど、その特性を活かした独自の魔法を使えるようになるってわけ」
正式に〝がちけん〟への加入が決まった莉緒菜と瑛里華、それに二人に決定権を委ねている残りの二人の計4人で編成されている〝魔女の饗宴〟に向けて、雅が〝独自魔法〟の解釈について解説していく。
なお、残りの二人については正式に契約が決まったため、急遽オンラインで参加してもらっている状況だ。元々こうなる予定であることは伝わっていたため、呼ばれてすぐに集まっていた。
そんな〝魔女の饗宴〟の面々であったが、先程から雅が口にしている言葉が頭に入ってくるようで入って来ない。
いや、言っている意味は理解できるのだけれども、その言葉はこれまでの常識をあっさりと覆すものであるが故に理解を拒んでいる、とでも言うべきだろうか。
しかし、どうにか理解に追いつけるよう必死になって頭にインプットしようとしているため、〝魔女の饗宴〟メンバーは真剣な表情でそれを聞いていて、雅は雅でマイペースに教えていく。
「今のところ、一般的には『レベルアップしても〝ダンジョン因子〟が定めたスキルしか使えない』ってのが通説だったわけだけど、それはそもそも間違いだったってわけね。あーしも、そっちのミカミカやゆっきーも、〝魔女の饗宴〟のみんなもそう。それぞれに魔力、それに力の源は〝ダンジョン因子〟を得た時点で持ってるってこと。でも、使い方が分かってなかった。ただそれだけの話で、そのただそれだけを判明できなかったせいで、人類はダンジョン因子の可能性を活かしきれていなかったっつーね」
そう言いながら雅が無造作に机の上に置いた代物に、莉緒菜と瑛里華はぎょっとした表情を浮かべて口をぱくぱくさせ、震える手で指差した。
「な、なな、なん、で……?」
「……ははっ、ぱ、パチモンにしちゃ上手に出来とるやん……な?」
「んな訳ないっしょ? これ本物の『魔力水の水差し』だから」
「ひゅっ!?」
「んなぁっ!?」
「さっき言ったじゃん? これ見つけたのはるかちーで、ウチは『明鏡止水』の共同研究者。もちろん、『魔力水の水差し』の所有権はウチにある。なのに『明鏡止水』が勝手に動かすわけなくない?」
雅にとってみれば、それは当たり前のことなのだ。
しかし、それが当たり前じゃないことを、莉緒菜はともかく瑛里華は、そして同じ〝魔女の饗宴〟で、この秘匿回線で映像を観ているレベル4の二人は知っている。
何せ彼女たちが別画面で『明鏡止水』の実験配信を映してみれば、そこには確かに配信で見た『魔力水の水差し』と、そのアーティファクトに水を入れてから、魔力を込めて発光する魔力水を取り出している研究者たちの姿が映っていたりもするのだから。
しかし、これは単純なトリックだ。
常にこの部屋で必要な分の魔力水を作ってもらい、それらを実験で使ったり、配信でさも偽物が本物であるかのように見せるために、チューブを通して映している偽物水差しから出して見せているだけなのだ。
しかし、配信上では配信されていない背景までは見えない。
さらに言えば、レベル4の実験配信を観ている視聴者たちは、『魔力水の水差し』を眺めているのではなく、そこから出てきた魔力水を使った実験に興味があって観ているのだ。
だから、必要以上に『魔力水の水差し』が本物かどうかは疑ってすらいない。
当初は等分四分割されていた映像は、『魔力水の水差し』を映すもの、それぞれの実験室を映すもので分かれていたが、すでに視聴者の要望によって『魔力水の水差し』を映した映像は一番小さいものになっている。
もっとも、その要望を出しているレベル5探索者ですら、『明鏡止水』が事前に話を通し、協力を要請していた海外の探索者だったりするのだが。
故に、本物は最初からこの部屋から動いていないのである。
「なあ、雅はん。せやったら、まったく見た目の違うもん用意して、そっちで配信しとった方が安全やったんやないん?」
「それはあーしも考えたよ。けど、お父さんはあーしとは全く違う考えを持っていてね。『もしかしたら、すでにこのアーティファクトを持っていて秘匿している者、あるいは見た目も性能も近い同一シリーズのアーティファクトがあるかもしれない』って」
「……それが問題になるん?」
「本物を知っている相手が、ただただ秘匿してくれるならそれでもいい。でも、そうじゃなかった場合に、同じシリーズのものをわざわざ公表して『明鏡止水』のアーティファクトは偽物だ、とかなんとか言って、メンツを潰そうとしてくる可能性ある、だってさ」
「そんなん無視したったらええやん」
「ううん、そうはいかないよ。15年ぐらい前に、偽物のアーティファクトを発見したって公表してお金を盗んだ詐欺事件とかあったの、知ってる?」
「あ……、それってエルヴァーン社、だっけ? 私もそれ知ってるよ」
「ウチもや」
莉緒菜や瑛里華も知っている、かつての大事件。
エルヴァーン社という会社は魔力を可視化するアーティファクトを発見したと公表し、アーティファクトの利用権利を貸与する代わりに、自社の専属になるよう世界中の探索者に発信すると同時に、共同研究の名義を餌に資金を融通するよう投資家や資産家らに呼びかけた。
そうして集まった探索者に、集まった資金で用意した一流の装備を与え、それらの人員を使って本物のアーティファクトを見つけ出し、嘘を真実にしようと企んだのだ。
結果は惨憺たるものであった。
一流の装備を渡したからと言って未踏破区域などに出向かせたり、危険過ぎて探索を断念したルートを探索させようとして、結果、多くの探索者が命を落とした。
そんなものに巻き込まれてたまるかとばかりに、探索者の数名が素直にダンジョンに潜ってみせてから、配信を通してエルヴァーン社の詐欺を世界に発信。そうして真実が世界に知れ渡った。
世間からの強い批判や不買運動によってあっという間に業績が傾き、瞬く間に倒産に追いやられると同時に、その手法を行った代表者や幹部は、被害者となった探索者の友人たちによって襲撃され、帰らぬ人となったのだ。
あれ以来、そうした詐欺行為は行われなくなった。
良くも悪くも強烈な結果だけが残ったせいということもあっただろう。
そんな中、日本有数のクランである『明鏡止水』が発表したことや、情報を全世界に開示していくという手法を取ったからこそ、まだ混乱は抑えられていると言ってもいい。
それでも、今回の『魔力水の水差し』というアーティファクトは、当時のことも相俟って良くも悪くも注目度が高まると想定されていた。
同時に、これが本物であっても難癖をつけてくる者もいるだろう、とも考えるのは至極当然の流れですらあった。
「そういう流れを利用して『明鏡止水』を潰そうとする相手がいないとも限らない。下手な誤魔化しを突かれたせいで、世論が一気に敵に回るリスクは抱えない方がいい。最悪そうなってしまった時に、ちゃんと本物だって証明できる道筋は残しておく方がいい、だってさ」
「はー……、なんや色々大変なんやなぁ……」
「それな。ま、ウチらは本物だし、そーやって糾弾してこようもんなら、魔力水プレゼントして黙らせっけど」
偽物だのなんだのと騒ぐなら、本物の魔力水を送りつけてやればいい。
ただし、その魔力水は少量の、それこそお弁当に入っている醤油さしレベルの量でしかないだろうが。
「ま、そーゆー話は置いといてさ。早速だけど、二人には自分の魔力の魔力水、作ってみてもらおうかなって」
「……ぇ?」
「……マジで?」
「うん、マジマジ。あ、通話中のお二人には変化前の魔力水ペットボトルに詰めて自宅まで送るから、届くまで待ちでよろー」
――――〝がちけん〟側ではそうして話が進んでいる、その一方。
「――……ふぅ。おつおっつ、るかちー」
「……はふ。まあまあ多かったかも……?」
『いやいやいやいやww』
『御冗談をww』
『ハッキリ言うけど、キミらおかしいよ?w』
『上層7階層の厄介勢、ポイズンビッグスパイダーさん無事落下』
『天井逆さで走るきひ子ちゃんとかもうホラーやんけ』
「んー、7階層もこんなもんなら、8階層行っとく?」
「うん、大丈夫」
順調に記録を更新して前へと進み続けていた。




