【配信】お披露目 裏 Ⅰ
『なんで!?』
『どゆこと!?』
『マジか!?』
『ええええぇぇぇ!?』
「くふっ、盛り上がり過ぎじゃん?」
「いや、それはそうなるっしょ」
「あーしが作ったった!」
流霞と奏星、〝金銀花〟の二人がダンジョン配信を始めていた、ちょうどその頃。
クラン『明鏡止水』の所有するビルの地下室、『ガチ攻略女子のダンジョン研究所』こと〝がちけん〟の事務所兼研究室となっている一室。
そこには、配信を映してニマニマする雅と美佳里、そして野菜の袋に書いてある生産者紹介のような文言をドヤッと言い出した雪乃が座るテーブルの向かい側には、珍しく客人の姿があった。
「えぇ……? え? えー……っ」
「……嘘やん、こんなん。ウチらこんなごっつい子らの先輩なん? ははっ、わろす……わろす……」
配信を観て困惑、疑問、驚愕の声を漏らしているのは、莉緒菜。
そしてもう一人、莉緒菜の一つ年上の先輩であり、探索者として活動する傍らでコスプレ写真などを精力的にSNSでアップして活動している、〝魔女の饗宴〟の副リーダーである汀 瑛里華だ。
莉緒菜は配信で観た流霞の魔法、そして装備の効果に。
瑛里華もそれは同じではあったが、そもそもこの場所にやってきた時点でずっとこんな調子である。
それも仕方ないだろう。
何せそのビルの地上階は、かの有名な『明鏡止水』が有するビルであり、一ヶ月あたりのテナント料はおそらく2桁万円など簡単に超えるような、そんな場所に16歳になるかならないかといった少女たちが事務所を構えるなど、常識的に考えて有り得ないのだ。
もっとも、この場所は〝がちけん〟メンバーにとっても仮の宿という認識だ。
まずは『魔力水の水差し』をきっかけに諸々が世間に発表され、諸々の隠し事がなくなり次第、すぐにでも部室に戻りたいところである。こんなビルに入るのはなんだかドキドキするし、落ち着かないのだ。
なんなら雑居ビルの古臭い感じであってもキャッキャして内装をいじったりして楽しめる、それがJKという生き物だ。
ともあれ、流霞と奏星の最初の戦いは大盛況に終わり、移動が始まった。
莉緒菜と瑛里華が到着したタイミングがタイミングだったために、まずはお披露目まで一緒に観てもらおうという話になっていたが、それも充分だろうと雅は意識を切り替えた。
「では、先にこちらの話を進めさせていただいても?」
「っ、あ、はい!」
「ありがとうございます。――本日はお忙しいところ、わざわざご足労いただきましてありがとうございます。改めまして、私が当探索者事務所、『ガチ攻略女子のダンジョン研究所』こと〝がちけん〟の代表である、矢ノ沢 雅です」
「――え……」
「んなぁ……っ!?」
社会的なやり取りモードに入ってすらすらと話し始め、登記上は代表者が姉の名になっているにもかかわらず、堂々と代表を名乗った雅に圧倒されていた莉緒菜と瑛里華の二人が、雅の名前を聞いて動きを止めた。
矢ノ沢。
その苗字は今、探索者ならば誰もが知るところでもある。
つい先日の記者会見配信、そしてそれに続いて、つい先日『魔力水を利用した魔力の可視化実験の成功、及び実証実験の成功報告』というものをホームページ上に公開し、たった数分でサーバーがダウン。
複数箇所で公開してアクセス集中を避けて対応していた上にサーバーも強化していたのに、とSNSで愚痴っていた広報係のぼやきがトレンド入りしたりと、なかなかに世間を騒がせているのが、日本有数のクラン『明鏡止水』であり、そのトップこそが矢ノ沢 傑なのだから。
――だからか!
ビルの所有者の情報、そしてそんなビルに事務所を構えているということに得心がいった様子で瑛里華は目を見開く。
しかし雅は、そんな莉緒菜と瑛里華の二人の視線を受けてもなお、堂々とした佇まいで微笑んでみせた。
「先日は我々〝がちけん〟の設立メンバーでもあり、ウチのお抱え探索者パーティ〝金銀花〟の姫屋と八咫島が急なお話を持ちかける形となってしまい、申し訳ありません。さぞ困惑したでしょう」
「え、あ、いえ……。というかその、雅ちゃん、その喋り方やめて……?」
「それな。ウチらより圧倒的に社会人経験豊富そうで草枯れるて」
「……くふっ、それなー。あーしも気楽に喋れる方が助かる。んじゃ改めて、りおなん、えりにゃー、今日はわざわざ来てくれてありがとね」
「はあ……、良かった……。今日はずっとそんな感じなのかと……」
「ウチもや。そないご丁寧な態度で対応なんて無理やって」
話し方を崩した雅に莉緒菜がほっと安堵し、瑛里華が同じく手をひらひらと振って続ける。
実のところ、この3人での話し合いは今回が初めてという訳ではなく、まずは機密保持契約を結ぶに当たって、予めオンラインで話し合いをさせてもらっていたため、すでにある程度は交流が進んでいるというのが実状であった。
ちなみに瑛里華は喋り方からも分かる通り、関西系の血が流れている。
正確にはコッテコテの関西出身で小学5年生まで向こうに住んでいたものの、両親の仕事の都合で関東に引っ越してきたという経歴を持っており、そのため、関西弁というよりも、『関東の人たちにある程度は受け入れられるレベルまでマイルドになった関西弁』で喋る女性である。
なお、そんな瑛里華も地元の友達や親戚と話す際にはゴリゴリの関西弁に戻るそうだが、それはさて置き。
ともあれ、今日はどちらかと言えば〝詰め〟のための話し合いの日。
雅ら〝がちけん〟が包み隠さず全てを伝え、その上で、〝がちけん〟に〝魔女の饗宴〟が加入するかを正式に決定する日、とも言う。
「んじゃ、もう包み隠さず言うけど。まず勘違いしないでほしいのは、ウチは『明鏡止水』の下部組織じゃなくて、共同研究者ってこと」
「へ……?」
「あーしの家のビルの地下にあるから、そこんとこ勘違いしないでほしいから、順番に説明するわ。そもそも最初は――」
そんな雅の一言から、〝がちけん〟の軌跡、そして〝金銀花〟が手に入れたアーティファクトである『魔力水の水差し』の発見。
そして、雅の家や家族と、『明鏡止水』、そして探索者協会ことギルドの協力による研究体制の話へと繋がった。
「――って訳で、今ウチらは世間的には『明鏡止水』の裏に隠れてるっつーわけ。色んなことやってっから、細かい管理とか公表とか実証実験とか、そーゆーのはパスで、って感じで」
途中から莉緒菜と瑛里華の目がやたらと遠い目をしているのが気になったが、どうせ情報の濁流になるのだからと、遠慮はしなかった。
「で、〝魔女の饗宴〟のメンバーである、ここにいるりおなん、えりにゃー。それに今日はここに集まれなかった二人には、是非とも〝がちけん〟に所属してほしいって考えてるわけ」
「……えぇっと、うん。まあそれは、前から聞いてたし分かってるよ。私たちは中層以降の素材提供とかをしてほしい、ってことだよね?」
「そそ。あとは大規模攻略――いわゆる『特殊ダンジョン』に出張したりする時に組んだりとか、まあ色々あるけど。大きな目的としては、ウチら〝がちけん〟は〝金銀花〟だけに依存しない形にしたい、っていうのがウチらの考え」
雅の言う『特殊ダンジョン』とは、入場人数によって難易度が変わる特別なダンジョンであり、その中に入った者たちが踏破することで消えるダンジョンだ。
通常のダンジョンとは違い、人数が二桁に届いたとしても一方的に蹂躙される程の魔物の強化や増加はなく、その代わり、入った人数に応じて難易度が変化するという特殊な性質を持ち、内部構造もばらばらだ。
そういった『特殊ダンジョン』は、探索者協会がクランやパーティを名指しにして早急に対応を依頼する〝指名依頼〟と、早いもの勝ちで受けられる通常依頼に分かれている。
こうした依頼を受けることで、探索者協会との協力関係を築いていけば、何かあった時に力になってもらえたり、便宜を図ってもらうこともできる。
雅は傑に言われ、そうした対応力を磨くことも視野に入れて〝魔女の饗宴〟を誘っているのだ。
「元々、ウチは実験や研究がメインだったりもするから、素材はなるべく回収したいんよ。でも、あの二人だけに素材回収を頼んだりするのは、やっぱしんどいじゃん? それに、クランとして名を売っていくには、『特殊ダンジョン』へのアタック以外にも、指定ダンジョンへのアタックなんかの依頼も受けることになるってのは知ってるよね?」
「『魔物氾濫』対策のアタックだね?」
「そそ。さすがに二人だけだとキツいっしょ。まだレベル2だからそういう系の依頼は来ないけど」
「うん、それは……あの二人ならいつかは指定レベルのレベル4にもなるだろうね」
「なあ、ちょい待ちぃや。なんで別パーティで動くことが前提になっとるん? ウチの4人とあの二人、全部で6人やろ? 普通のダンジョン攻略で組めっちゅー話にはならんの?」
瑛里華の言い分はもっともだ。
確かに6人パーティならば珍しくはないし、組んでもいいだろう。
ふっと笑って雅が配信に目を向ければ、それに釣られるように莉緒菜と瑛里華も配信を見やる。
《――きひっ、ざんねーん》
『は!?』
『たっかwww』
『なんか浮いてねぇか?』
『もしかしてきひ子ちゃん、重力なら好きに操れるん?』
『いや待って、意味わからんて』
『そんなんもうレベル2とかじゃなくね?』
『レベル5とかでもここまでの自由度はなかったはずだぞ』
《るかちー、そのまま。――燃えろ》
『ほらあああ!』
『カナっちまでやりたい放題じゃんんんん!』
『もうなんなんだよこの二人いいいい!』
『魔法だよな? でも叫んでないよな? でも魔法だよな?』
『意味わからんってえ!』
「……遠慮しなくていいとは言ったけど、やり過ぎじゃん」
「これ雅のパパンだいじょぶそ? お腹痛くなるんじゃね?」
「……ま、だいじょぶっしょ。お父さん、なんだかんだやってくれるって」
ちらりと配信を見せて、「あの二人ならば二人だけであなたたちにも追いつくので」ぐらいのことを言ってやろうと思った雅であったが、配信を見たらそれ以上のことを、本当に遠慮なしにやらかしているようで、雅が一瞬言葉に詰まる。
そうして咳払いした後で表情を消し、すっと莉緒菜と瑛里華に振り返った。
「あの二人と、足並みを揃えて戦えるん?」
「無理」
「無理やな」
莉緒菜と瑛里華、二人の口から一斉に否定の声が上がり、雅は苦笑を浮かべつつも、改めて口を開く。
「――〝魔女の饗宴〟が入ってくれるんなら、あの二人があんだけやりたい放題できる技術。さらに、先程見せた魔力障壁付きの魔法防具の提供。それに今後もこーゆー破茶滅茶なことをどんどんやっていった時、誰よりも早く新たな技術が共有されること。それらが、〝がちけん〟に入るに当たっての分かりやすい〝魔女の饗宴〟のメリットってわけ」
「いや、それ断る人いなくない?」
「せやな。そんな餌ぶら下げられて断るアホおらへんて」
「ですよねー」
こうして、配信の裏にて〝魔女の饗宴〟の〝がちけん〟加入は、思っていた以上にぐだぐだな感じで決定したのであった。




