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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第2章 魔力は世界を変える

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記者会見 Ⅱ




 混乱が落ち着くまで、傑はカメラの前でにこにことした笑みを浮かべながら「ちょっと喉を」と言ってペットボトルの紅茶を口にして、しばし待つ。

 コメント欄は阿鼻叫喚というところであったが、とは言え実際に画面の向こう側で叫んでいようが何をしていようが、傑には聞こえてくる訳でもないので気にすることはない。


 そうして、傑は紅茶の入ったペットボトルを手元に置いて、一つ咳払いした。



「――さて、このようなものを持っているとですね。やっぱり頭の悪い……おっと、失礼、つい本音が。発想がおかしな方向に飛躍する方々というものが出てくるのですよ。たとえば、研究結果を奪おうとしたり。あるいは、アーティファクトをどうにかして手元に置こうとか、国が持つべきものなのだとか言い出して圧力を、とかですね。いやあ、怖い話ですねぇ」


『いや、確かに怖い話だけど怖がってなくない?w』

『むしろ煽ってる感あるw』

『まあでも有り得る』

『先んじて釘を刺す姿勢で草』

『ただ実際、これはもう一つのクランで持っていていいのかってレベルなのは間違いない』

『奪おうとするヤツは出てきそう』


「えぇ、コメントにもある通り、そういう無体な真似をしようとする方々が出てきそうですよね。それに対し、こちらは日本では少々名の知れたクランとは言え、一クランに過ぎません。そうなると、やはり守るべきはメンバーの皆さんのことでしょう。ですので、私は考えました」


『え?』

『国へ売るとか?』

『どっかに合同研究依頼するとか?』

『なにするん?』


「――まず、研究して得られた成果については、無論しっかりと公開していくことはお約束いたします。これは個人、いえ、一国であっても独占していいようなものではありません。ダンジョンの崩壊によって魔物の領域が広がってしまっている今、技術を秘匿するよりもまずは人類の総合的な成長が求められると、我々は考えています。――まあつまり、そんな我々にゴチャゴチャ言う方々は、利益を、技術を独占している、あるいはそれをしたい方々、というわけですね」



 にこやかに、傑は堂々とそんな言葉を口にする。

 しかしこの一言はある意味、非常に分かりやすい先制攻撃であった。


 私欲に塗れ、しかしそれを隠して世論を動かそうとする者たちが何かを言えば、たとえそれがどれだけ綺麗事であったとしても、全ての情報を提供するという『明鏡止水』の〝正しさ〟を否定することになる。

 ただそれだけで、世の中はあっという間に敵に回ることになるだろう。


 少しでも批難するような何かを発表すれば腹を探られ、隠していることを逆に暴かれるかもしれない。

 場合によっては世間の声が大きくなり、ネットやメディアで取り上げられることになれば、その影響が大きくなったタイミングで自分たちと敵対的な勢力が、存在が、握り潰される可能性が低くなったと考え、動くかもしれない。


 故に、下手に動くことはできなくなった。

 この『明鏡止水』の言葉だけで、表から圧力を使うという選択肢が潰されたことになるのだ。


 ならば裏から手を回して――と考えるよりも先に、傑が続けた。



「当然、世間様に発表するのは実証実験が完了したものからになってしまいます。ですので、時間がかかるということも想定されるでしょう。ですので、〝レベル4以上の探索者には、探索者協会――つまりはギルドですね。そちらを介して申し出ていただければ各種実験のライブ映像視聴パスを提供します〟。あ、これは探索者協会にはすでに合意いただいております」


『え』

『マジで?』

『なんでレベル4以上なんだよ! 不公平だろ!』

『どうせならそっちも公開してよ』

『いや、実験映像なんて普通は表に出ないだろw』

『厚かましいわw』

『レベル低い内はちゃんと成果が出たものだけってことか』

『いいなぁ、レベル高い人』



 コメントでは素直な感想が、一部では不平不満を垂れ流すようなものも出てくる。

 しかし一方、その公開の裏に滲んだ真意(・・)に気が付いた者たちは、苦虫を噛み潰したような表情で忌々しげに配信を見つめていた。


 ――してやられた……ッ! これでは高位探索者を動かせないではないか……ッ、と。


 そもそも『明鏡止水』とは、日本では有数の高位探索者が在籍しているクランであるのだ。そんなところに銃器や毒ガスなんてものを持っていったところで、あっさりと対処されてしまうのが目に見えている。

 裏から『明鏡止水』を襲わせ、アーティファクトを奪わせようとするのであれば、そこにぶつけて可能性があるのは高位の探索者しか有り得ないのである。


 しかし、その高位の探索者たちはお金では動かない者が多い。

 何せ高位の探索者とは即ち、希少素材を手に入れられる者たちであったり、すでに未踏破区域でアーティファクトを持ち帰っていたりと、資金面で苦しむようなことはないのだ。


 そんな高位探索者に提供できるメリットとして、アーティファクトを用いた高位探索者への実験参加や、情報の提供を餌にすることも封じられたのである。

 何せ高位探索者は、これによって苦労なんてせずにアーティファクトの実験映像を観ることができるのだから。


 レベル3以下ならば刺客として使えるには使える。

 だが、そもそも『明鏡止水』の戦力がレベル5が複数名おり、その下のレベル4もわんさかいるような有り様だ。

 つまり、『レベル3以下が襲ってきても御せると判断しているからこそ、レベル4以上に限定した』とも言える。


 そんな事実に気が付いて臍を噛むような思いをしている者たちを他所に、傑は続ける。



「保管場所についてですが、一つ明言しておきますね。我々はこの配信が終了した時点で、このアーティファクトを複数のチームを通して保管場所を移動させます。しかも、誰が本物を運んでいるのかも伏せた上で、です。その状態のまま、『明鏡止水』のメンバーが何かを誰かのところまでは運び、それがまたどこかへと運んでいきます」


『え?』

『つまりバケツリレーみたいな感じ?』

『うわぁ』

『それはまた』


「そうして辿り着いた先、それが果たして本当の保管場所であり実験場なのか。それとも汚い連中を手ぐすね引いて待っている者たちの防衛地点であるかも分からない状態になりますので、『明鏡止水』の関係者でもアーティファクトの保管場所を知るのは極一部になるでしょう。あ、ちなみに私たち家族はこの運び屋から外れます。私、奥さんと娘たちを巻き込みたくないですし」


『草』

『ブレないw』

『でもそれが一番いいかも』

『実際、矢ノ沢一家は有名過ぎるからな』

『探索者じゃない人を人質とか取られても厄介だしな』

『でも、誰がどこにあるかも分からないんじゃどうしようもないわなw』



 直接的に制圧できないのなら、武力を持たない関係者を人質に取って脅せばいい。

 そんな発想すら、傑は見逃すつもりはないようで、二重三重に罠を張ることにしているのだと明言する。

 そうしてコメントを眺めてから、傑はさらに続けた。



「あぁ、そういえばサイバー攻撃とかは諦めた方がいいですよ。ウチ、情報対策として大事なデータは独立したネットワークにしか保存していないので。外からどれだけ頑張っても、最終的には『お疲れさまでした。逆ハッキングが完了しました』と表示されて、こちらが相手のデータを抜き取る結果にしかならないので。まあ試したければどうぞ。敢闘賞にお名前公表させていただきますね」


『こわw』

『まあ情報漏洩は怖いよね』

『そういうの普通にあるからな』

『危機管理意識高すぎて草』



 そもそも雅が家族に連絡した時にも独自回線を利用したように、大切な情報やそのやり取りをする場所には、家族以外に外部環境から入れるような経路が存在していないのだ。



「さて、アーティファクトを用いた実験では様々なデータが欲しい、とも言われておりましてね。ですので、こちらも探索者協会と協力してですが、実験への善意の協力なども場合によっては募らせていただくかもしれません。無論、レベルが低い方々も、です。まあ、それは追々のお話になるかとは思いますけれども。とはいえ、応募受付自体は探索者協会にある端末からできるようになるとのことなので、そちらは続報をお待ちください」


『おぉー、そういうの応募すればなんか色々知れるかもってこと?』

『応募しなきゃ』

『すげーな』

『ってかよくこんなん堂々と公開したな』

『逆じゃね? 公開しなきゃかえって危険でしょ』


「まあまあ。我々は先程も言った通り、このアーティファクトを用いて魔力というものを理解するというのは、この世界の発展のために必要だと判断しました。だからこそ、我々の意志でそれらを公表していくと決めたのです」


『傑パパンすげーよ』

『みんなのパパだわ』

『パパ―!』

『うっせぇ働け』

『草』

『この大量コメントの中でコントあって草』


「それはそうでしょう。あ、ちなみに、一週間以内に〝新事実の実証実験〟が一つ終わるそうなので、近い内にまた大きな発表があると思いますよ」


『は?』

『何か見つかってるん!?』

『マジかぁ!?』

『うわ、マジか……!』



 そんな言葉で新たな混乱を引き起こしつつ、記者からの質問の応答がようやく始まり、『明鏡止水』の配信は終わったのであった。



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