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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第2章 魔力は世界を変える

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反省と決着




「――……なんつーか、あーしなんてまだまだじゃんね」



 父親である傑の記者会見を見終わって、雅が苦笑混じりに呟く。


 雅は、人間の狭量さを知らなすぎた。

 世論を利用しようとする権力者たちの狡猾さ。

 強引な手を打ち、それらが罪であろうと揉み消せる存在の強欲さや怖さ。

 そういった恐怖というものを、甘く見ていたのだ。


 記者会見を観ている最中に母親から送られてきたメッセージには、傑の言葉の意図が、その必要性が、対策と共に記載されていた。

 そうして今、ようやくそれらの対策を打たなければどうなっていたのか、その危険性を理解し、自分の考えが余程甘かったのだと思い知った。


 それは雅だけではなかった。

 雅によってモニターに映し出された、今回の記者会見で傑が口にした数々。

 それらを美佳里や雪乃、奏星、そして流霞も目を通し、改めて理解し、同時に顔を青褪めさせていた。



「……いやいや、だって『明鏡止水』に喧嘩売るとかさ、フツー有り得んくない?」


「……それな。つか、そこまでやる? って感じじゃん……」



 美佳里が、奏星が呆然としながら呟く。

 そこまでのことをしてくる可能性なんて、ここにいる誰一人として最初から想定していなかった。

 日本有数のクランである『明鏡止水』が守ってくれるなら心配はいらないと、そんな風に思い込んでいたのだ。



「……それだけ、あのアーティファクトは世間からも注目されるってこと、だね」



 雪乃が言うほどに、流霞が発見したアーティファクトの価値を正しく評価できていなかったのだと、改めて突き付けられたような気分である。


 雅は〝がちけん〟メンバーの中でも大人びている。

 それは矢ノ沢という家に生まれ、様々な経験を糧に成長してきたおかげのことでもある。

 しかしそれでも、リスクを朧気ながらにしか理解していなかった。


 だが、それは決しておかしな話ではない。

 そもそも女子高生でしかない雅には、いくら大人びているとは言っても、そこまでの体制を敷くべきかどうか、判断するための経験が、知識が、材料があまりにも少なかったのだから。


 しかし一方、傑や瑤子、それに雅の姉たちは、雅が『魔力水の水差し』について率先して相談してきたというのは、非常に冷静かつ正しい判断だと思っている。

 色々な意味で注目されることになるであろうアーティファクトの存在を、軽率に表に出したりせずに相談してくれたからこそ、先手を取って世間に公表することができたのだから。

 だから、家族からの雅に対する評価は「冷静に対応できて偉い」というものであった。


 ――――けれど、雅は納得なんてしない。


 今回は運良く、最悪を回避できた。しかし、だ。


 ――もし、配信している中で見つけていたものだったら?

 ――もし、浮かれ気分で配信しながら実験なんてしていたら?

 ――もし、黙って持ち続け、流霞と奏星だけが〝独自魔法〟を使えるようになり、そこに目をつけられていたら?


 決して有り得ない話ではなかった。

 その危険性をしっかりと把握し、その上で動けていた訳ではない以上、ただただ運が良かったとしか言えなかった。



「……勉強しなきゃ。色んなこと」


「あーしも頑張ろ。ガッコーの勉強は面白くねーけど、こっちは大事だし」


「ガッコーは適当でもそれなりに点数取れっけど、こーゆーのはなー。あーしよくわかんねー」



 雅と美佳里がやる気を見せる中で、一方雪乃は何から手をつければいいのかが分からずにお手上げといった様子で頭の後ろで手を組んだ。

 そんな雪乃にアドバイスしようにも、何をどう勉強していくのかも分からないままだった雅たちを見て、ふと奏星が思いついたような表情を浮かべた。



「それさー、AIでそういう知識持った相談役みたいの作れたりしないん? ほら、リスクと対策を教えて、みたいにさぁ」


「っ、それ採用! ちょっとお父さんとお母さんにも相談する!」


「やべー、奏星ガチめにナイスアドバイス過ぎん?」


「文明の利器は使いこなしてこそ、っしょ? 言うて、あーしそんな使いこなせないけどー」



 昨今のAI技術の発達は凄まじい。

 様々な専門知識、考えられるリスク、その対策などを打ち出しつつ、その対策を提案して相談するなどの方法が取れるようにもなっているのだ。

 それ専用のAIがあれば、判断の要素にもなり、本人たちが気が付いていなかった可能性にも気付ける可能性がある。

 早速とばかりに、雅は両親に相談のチャットを打ち込み始めた。


 ちなみに、先程から沈黙している流霞は、「え、こわ。何これこわ。渡して良かった」と他人事のようにそっと胸を撫で下ろしていたりもする。



「でもさー、なんかワクワクしねー?」


「わかる。〝ECHO〟もトレンド掻っ攫ってんし。やべー、ウチらこの、世界中の人たちが知りたがってる情報の最先端にいるわー」


「それな! どんどん突き放してやろーぜぃ」


「当たり前じゃん? つかるかちーとカナっちの活躍はもちろんだけどさ。でも、すでにウチらだってもう不明因子じゃねー(・・・・・・・・)し」



 目をきらきらと輝かせて語らう美佳里と雪乃、そんな二人がお互いにニヤリと笑い合った。



「んで、いつにするん? ――ミカミカの配信デビュー」


「あー、それなんだけど、その前に色々世間に発表しなきゃじゃん? だからしばらくはるかちーと奏星のプラベ配信だけにしとく予定。ただ、こっちも色々実験中ではあるし、それ始める前に〝金銀花(カプリフォリオ)〟の二人も用事済ませなきゃじゃん? ね、奏星」



 雪乃の質問に答えつつも、美佳里は奏星へと話を振った。


 実際のところ、〝がちけん〟と〝金銀花(カプリフォリオ)〟はそれぞれにタスクを抱えているような状況だ。

 手当たり次第に動けるような状況から一転して、今ではそれぞれのタスクを処理している真っ最中である。


 ある程度は順序立てて行動するという方針になっているのだが、まずは何より、あの〝天秤トラップ〟事件の日に起こった二つのタスクに当たる予定となっていた。



りおなん(・・・・)の方も落ち着いたみたいだから、最短だと明日だったらいいみたいだね。るかちー、明日いけそ?」


「うん、大丈夫だよ。鷺宮さん、だよね?」


「そそ。この前の御礼もだし、ウチらに話があるみたいだしね。りおなんに明日ダイジョブって伝えとくわー」



 まず一つ。

 それが、先日の〝天秤トラップ〟踏破後に出会った少女、鷺宮 莉緒菜からの誘いだ。

 一度会って話がしたいとは言われていたものの、怪我の静養やら何やらに加え、莉緒菜自身の都合がつかないということもあって、延びているというのが現状であったのだが、それが今、ようやく明日に決定した。


 そしてもう一つ。



「そろそろダンジョンでレベルアップ後の初戦闘したいし。それに、ゆっきーお手製の魔法装備(・・・・)も完成次第テストしたいから、ウチらは明後日からダンジョンアタック再開かなー」


「やはー、是非試しておくれー。あーしもそろそろ仕上げ入っからさー。配信でお披露目すんのもうちょい後っしょ? それまでにフィードバックよろー。あ、もちろん素材もねー」


「りょー」



 それこそが、奏星と雪乃が軽い調子で、さながらちょっとした普段のやり取りと同じような物言いで話題にした、未だ世界に存在していない新技術で作った新装備に関するものだ。


 そんな代物の話をしているのだから、当然それを聞いている流霞は緊張で――などでは一切なく、他の要素で顔を青褪めさせながら、雪乃を見つめた。



「あ、あの、私の、で、デザイン、あんな可愛いの着るんですか……?」


「いや、なんで敬語? つかデザインはお任せって約束、破らない、よね?」


「ひぐぅ……っ、は、はいぃ……」



 にっこりと笑っていながらも、その背景には不穏な地響きでも鳴り響いていそうな雪乃の顔。

 まさに蛇に睨まれた蛙よろしく、流霞にはぷるぷると震えながら小さく頷くしかなく、そんな流霞を奏星は苦笑しながら見つめ、遠くを見やる。


 ――いや、あーしも知らなかったんよね……。まさか、ゆっきーが衣装デザインガチ勢だったなんてさ……。


 思い返すのは、つい先日。

 目の下に隈を作って大量のデザイン画を見せつけてきた雪乃の鬼気迫る表情に、奏星も流霞もたじたじになったばかりなのだ。


 装備が完成すれば、文字通りに世界が変わることになるだろう。

 そんな予感を、奏星は確かに胸の内で感じていた。


 そうしたやり取りを終えた、ちょうどその時。



「――よし、お父さんとお母さんに相談連絡かんりょー。ついでに、もう一つのアーティファクトの件とこっちで調べた成果、伝えといたよー」



 一記者会見という一仕事を終えた傑の胃に、配慮や思いやりなど一切ない無邪気で強烈なボディーブローの如き情報が投げ込まれたのだと、雅はみんなに報告した。


本日はここまでとなります。

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