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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第7章 下層へ

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下層の下見を終えて




《ミカミカ、そっちいった!》


《おけおけー、そこはすでに狙ってんだなー》



 木々の枝から枝へと立体的に移動する手長猿を思わせる魔物が、奏星の頭上を飛び越えていく。美佳里を狙って木々の枝をしならせ、蹴り出して加速するように迫っていった。


 が、そこはすでに美佳里の魔法銃の射線上である。

 身を捩って回避しようとしたところで、レバーアクションショットガンタイプの魔法銃は、その見た目通りに魔弾を散弾で撃ち出す代物だ。


 その前に戦った翠風狼と同じような、深い緑色の体毛を持つ猿型の魔物が、咄嗟に選んだのは回避や防御ではなく攻撃だった。

 ギィッ、と鳴き声をあげて自身の周囲に3つの魔法陣を浮かべ、しかし発動よりも先に美佳里の魔法銃が魔物を撃ち抜いた。


 草原の先の森の中は、魔物の種類が変わった。

 凄まじい速さで木々の上を渡ってくる先程の猿型の魔物以外にも、緑色の蝶を思わせる魔物、大蛇に蜘蛛といった魔物たち。

 まさに森の中で遭遇しかねないようなものが多く、攻撃の種類が多種多様だった。



「――という訳で、まあ下層の低階層か、それともこの階層だけかは分からんけど、魔法使ってくるのは風属性縛りっつか、そういう法則があるっぽいよね」


「それなー。ウチらも昨日魔物と戦ってて思った」



 中層突破と下層の下見。

 流霞たち〝金銀花(カプリフォリオ)〟の面々は、中層突破から明けて翌日、事務所に集まってラウンジルームで動画を見ながら語り合っていた。


 昨日の主目的は死霊王の討伐だ。

 下層についてはあくまでも下見という色が濃かったため、そこまで本格的な狩りや探索はせずに魔物と環境を調べて帰る予定ではあったのだ。

 その結果、魔物の種類が豊富で、これまでは同一種の群れであった魔物の出現法則が大きく変わっていることが分かった。


 分かったことはそれだけではない。

 何よりも流霞たちが早めに切り上げることになった理由がある。



「――それに、やっぱどう見ても毒なんだよなぁ」



 映像に映し出されたのは、大蛇や蜘蛛が攻撃を仕掛けてきた際に避けたところ、その場に液体が付着して奇妙な煙を出しているシーンだ。

 当たったその場から溶解するようなことはないが、刺激臭も強く、草や木の表面部分におかしな気泡が浮いていたことから、毒の可能性を考えた。


 毒の効果や威力が分からない以上、無理に進むのは得策ではない。

 そのため、サンプルを取得しては事務所に転送バッグで送り、一通り集めきったところで下見を終えて引き上げたのである。


 これらの解析と下層第1階層で見つかった植物などの解析を行い、解毒薬の作成が可能かどうかといった点を調査し、攻略の際にはしっかりと準備を進めること。

 その必要性などが分かっただけでも充分に収穫はあったと言えるだろう。



「一番厄介なのは、やっぱ蝶々っぽいヤツじゃん? 鱗粉撒いてくるけど、それがほら、猿に当たって猿が痺れたように枝から落ちてんし」


「あぁ、これね。ウチらが全然気付かなかったけど、かなりヤバめの毒じゃんね」


「なんというか、一筋縄ではいかないですね。魔物も、それにこうした対策の必要性も含めて、攻略難易度が跳ね上がっているなと改めて思います」


「ほんとそれ。ま、ウチはどっちかっていうとその点、早めに対処できそうだけどねー」



 奏星と美佳里の説明を聞きながら紅音が総評を呟けば、それに対して奏星が軽い物言いで告げて雅と雪乃に視線を送った。

 その視線を受けた雪乃は「いえーい」と大して喜んでいるような表情も、テンションが上がった反応もないのにピースサインを横に倒して出した。



「あーしの『魔導防具(マギア・ギア)』なら、毒そのものも鱗粉も攻撃判定で弾けるっぽいかんねー」


「ほんとゆっきー神だわ」


「だっしょー? 崇めていいよー? スイーツを捧げよー」


「自分で好き放題買えるぐらい稼いでんじゃん」


「まあそれはそう」



 奏星と一緒になってからからと笑いながら話す雪乃。

 そんな雪乃の横で、雅は話を聞きながら苦笑した。



「ちなみに、蝶の鱗粉とか毒は先に解析済み。さーねぇ(冴香)曰く、鱗粉が『麻痺魔素毒』で、他は『神経魔素毒』だって」


「まそどく?」


「らしいよ。詳しくはさーねぇとお母さんに渡して調べてもらう予定。効果時間とか、回復までどれぐらいでどういう症状が出るのか。それと、あーしの方でサンプルに下層素材で魔法薬作ってみたから、それで打ち消せるのかとかもね。ただまあ、今日はまず返事は来ないと思っておいて」


「いやいや、てか昨日の内にそれ渡したりしたことに驚きなんだけど。だって、今日じゃん。雅のお父さんと姉ちゃんたちの挑戦」


「さーねぇはお父さんとユズ姉なら勝てるって信じてるからそこまでじゃなかったんだけど、お母さんは心配みたい。今日もちょっと寝不足そうな顔してたし」



 雪乃が指摘した通り、今日は本番――『明鏡止水』が中層突破のために死霊王らに挑む日だ。

 すでに配信は始まっており、まだ昼前であるというのにダンジョンを進んでいるところであるのが、モニターの隅に表示された小さな画面で見て取れる。



「ユズ姉が言うには、死霊王との戦いまでは余裕だってさ。だから今の内に、下層について分かったことを纏めとこ。昼からは〝鴉〟ちゃんとも話す予定だし」


「ん、りょー。っつーわけでるかちー、まずは感想よろ」


「え゛」



 雪乃から唐突に振られる形になった流霞が、相変わらず自分は蚊帳の外にいるとでも思っていたのか、驚いたようにおかしな声をあげた。

 ちなみに雪乃は、流霞がこういう反応をするであろうことを予測していた節もあるため、くすくすと笑っていたりもする。


 ともあれ、話を振られたからには話さなきゃ、と流霞は昨夜、家に帰ってゆっくりしていた時に思ったことを口にした。



「……んと、もしかしたらなんだけど……」


「お? さすがるかちー、なんか気付いた?」


「全然まだまだ分からないのは確かなんだけど、《《草原だから風属性なのかな》》って」


「へ?」


「どゆこと?」



 美佳里と雪乃の反応に一瞬「あ、なんでもないですやっぱいいですごめんなさい」と言いたくなった流霞である。


 だが、彷徨わせた視線の先で奏星と目が合い、頷かれてしまった。

 喋っても大丈夫だと太鼓判を押してくれたらしいことに気が付いて、流霞は口を結んで僅かにむにむにしてから、改めて口を開いた。



「あの、推しアニメに色々な惑星が出てくるんだけどね?」


「ふむ」


「その惑星の環境に応じた不思議な力を持っている動物とかって、結構お約束なんだ。たとえば、活火山に住んでいる動物たちは火が使えたり、マグマの中から飛び出してきたり」


「マグマから飛び出したらマグマ冷えて固まりそう」


「そ、そういうのはほら、創作だから。細かいこと気にしてもしょうがないっていうか、ね?」


「あ、うん。ごめんごめん」



 ――創作物でそういう風に描かれているのなら、そういうものだと割り切って見るのが正しい付き合い方なのだ、と。


 流霞が一般的創作物との付き合い方講座の講師を自認しているかのような、毅然とした態度でやんわりと釘を刺した。

 このコミュ障オタク少女、ここだけは譲るつもりがないようである。

 なんだか目線が妙に真っ直ぐ向けられたものだから、雅も思わず言葉を飲み込んだようであった。



「で、話を戻すんだけど、草原って風の動きが草とか木々の揺れ方とかで視覚的に分かったりするから、風を表した階層なんじゃないかなって。だから、魔物も風属性」


「……それってつまり、今後活火山みたいな階層とかだと火を使ってきたり、氷の世界みたいな階層だと水とか氷を使ってきたりする可能性があるってこと?」


「イメージとしてはそんな感じかなって。実はこれ、もしかしたら当たってるような気がしたんだ。ほら、雅が前に【魔銘抽出液生成】で作った【環境耐性魔法薬】って、もしかしてここで出番が来るかもって」


「……うわ、なんか鳥肌。昨日に引き続いて今日もだわ」


「鳥肌……」



 別に本当にあった怖い話を披露している訳でもないのだが、流霞が思いついたことを言う度に、美佳里の身体に鳥肌が立っているような気がして、ちょっと複雑な気分になる流霞であった。


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