【プラベ配信】下層下見 Ⅲ
《布教って、言い方ウケるわ。ま、それはそれとして、るかちーはさっき何を考えてたん?》
「へ? ――あっ」
「忘れてたっしょ、これ」
「それな」
オタ活に付き合ってくれると言う喜びに思わず本題を忘れかけていた流霞に、奏星と美佳里の二人が苦笑する。
それもしょうがないことではあるのだ。
流霞は自分と一緒にオタ活できる友達すらいなかったのだから。
奏星たちは確かにあったけぇ仲間ではあるが、それはそれとして推しやその仲間たちについて語り合える相手が欲しかったのである。
そんな喜びを噛み締めつつも一つ深呼吸してから、流霞は改めて、さっきまで自分がなんとなく考えていたことをゆっくりと語り出した。
「ダンジョンの魔物って、普通に存在する動物が強く、おっきくなったりとかしたのと、普通の生物にはいないパターンの二種類があるでしょ?」
「うん」
「それで、この東京第3ダンジョンだと、最上層から下層に来る間、《《明確に魔法を使った魔物》》は《《現実にいない生物》》……つまり、ダンジョンにしか存在しないゴブリンとかオークとかのメイジ系統とか、あとはレイスとかだけだよね?」
《――……ッ! ちょっ、ちょっと待って! 調べる!》
「あ、はい」
流霞が言わんとすることの仮説、その前提について語り出したところで、雅が慌てた様子でAIを利用して魔物情報をピックアップし、そして、目を大きく見開いた。
流霞の言っている言葉は、正しかったのだ。
確かにこれまでに出会った魔物、そして、これまでに見つかった魔物で、ダンジョンとは関係なく地球に棲息している昆虫系、動物系などを含めて、全ての存在が魔法らしい魔法は使わず、強く、大きくなっているだけだ。
せいぜい魔法を使っている可能性があるとすれば、身体能力を引き上げる強化系魔法を使っている可能性が考えられるものの、それだけだ。
《ごめん、おまたせ。るかちーの言う通りだわ……》
「あ、うん。でね? 多分なんだけど、地球にいる昆虫とか動物とかがダンジョンにいるタイプって、その存在がダンジョン内の『〝魔素濃度〟の適正まで汚染された動物が成長した姿と能力』なんじゃないかなって」
「……ごめん、どゆこと?」
流霞の言葉の意味がいまいち判然とせずに首を傾げる奏星。
一緒になって美佳里も首を傾げていると、ドローンのスピーカーから雅の声が聞こえてきた。
《……つまり、人間でいうところ、地球にいる生き物がレベル1で、それらがダンジョン内に入ってレベルアップした、みたいな話ってことだよね?》
「そう、そういう感じ。上層と中層じゃ、魔法を使えるほどの汚染には至らなかったんじゃないかな? 中層の最深部あたりまで行って、ようやく〝魔素に汚染されて、思考して狩りをするような頭のいい動物の系統だけが魔法を使える〟ようになってたんじゃないかな」
《動物だけ?》
「うん。魔法って、イメージとかで構築しなきゃいけないから。本能だけで生きているような昆虫とかだと魔法を使う程には至れないんじゃないかなって。それに、『指定ダンジョン』で中層深部に飛ばされた時に、魔法っぽいのを使ってくる狼なら見たことあるから」
《っ、ちょっと待って。そっち調べるから》
「あい」
《……世界各国の中層の魔物データをAIで洗い出して、その特徴に魔法があるかを検索させたけど、るかちーの予想は当たりっぽい。動物系で中層最深部あたりで何件かヒットするぐらいだわ》
「雅、調べんの早すぎない?」
「もうちょい時間かかるかと思ったわ。けど、マジか。るかちーの予測ガチめにありってことじゃん」
雅が調べて答えた内容に、奏星や美佳里はもちろん、通話越し――雅の近くにいた雪乃や紅音たちもまた驚愕していた。
流霞が感じ取ったような共通点なんて、聞いたこともなかったのである。
そんな中、奏星や美佳里のARレンズにコメントが表示された。
『ちょっと面白そうな話で気になるにゃりから、明日あたり、改めて話す時間がほしーにゃりにゃ。こっちも崩壊地域の分布調べてみるにゃりよ。とりあえずるかちーの気付いたことについてそのまま話してほしいにゃりにゃ』
「あ、〝鴉〟ちゃん、りょー」
奏星がコメントに返事をして、流霞にも伝言を伝える。
頷いた流霞が、改めて続ける。
「――えっと、そんなに凄い発見とかじゃなくて、ただの思いつきなんだけど……。その、私が戦った『指定ダンジョン』にいたブリッツウルフは、魔法の使い方があまり上手いとは言えなかったし、単発の攻撃としてしか使ってこなかったんだよね。でも、さっきいた翠風狼は違った」
独自魔法は自分の魔力を操って、己のダンジョン因子の力を放出するというような代物だ。
何故流霞の【月】が重力操作であるのかなどは未だに不明な点は多いが、それはともかくとして、発動させるためには己の意思とイメージ、そして魔力を流し込むことで初めて扱えるようになる。
かつての『指定ダンジョン』で出会ったブリッツウルフは、魔法が使えるとは言え、それを戦術には組み込んでこなかった。
あくまでも単発で、その一撃はその単体として利用されるだけで、先程の翠風狼らのように、牽制と誘導に使ったりというほどには当たり前に使いこなせてはいなかったとも言えるだろう。
流霞の言わんとした内容を理解、共感したのは美佳里だった。
「確かに、それあーしも感じたわ。風弾を牽制に使いながら攻撃を組み立ててきた、って感じだったね」
「うん、そう。全然違った。なんていうか、行動の中に自然と取り込まれて活かせてる、っていうのかな」
「そう、それ! あれ対処できなかったら多分ウチら一気に追い込まれてたよ」
「マ? あーし全然分からんかったかも。全部燃やしちゃったし」
「狙ってきた方向が、ウチらに攻撃するためだけって感じじゃなかったかんね。群れとして動きながら、その群れの動きを補助するみたいに逃げる方向を限定させるような弾道だったんよ」
面で燃やして魔法をかき消すような奏星とは違い、美佳里は翠風狼の魔法を撃ち抜いて消している。
彼女の【鷹の目】の効果もあるため、魔法陣が発動した際の向きや角度から弾道が予測でき、そういった方向に向けられたものであることを察していたようであった。
そんな両者の反応を見て、流霞も頷いてから続けた。
「うん、私もそれ感じたんだ。だから、ダンジョンの下層になった途端に魔法を的確に使ってくるようになったな、って。つまり、『下層に入ったことでようやくダンジョン側の法則が完全に機能し始める』ってことになるんじゃないかなって」
「……マジか。それ、めっちゃしっくりくるんだけど……」
「……うわ。なんか鳥肌立ったわ」
《……こっちもそれ、ガチめに納得しちゃったわ。まだ下層の魔物のサンプルが足りないからアレだけど、なんつーか、それが正解だって感覚的に理解できるっつーか……》
奏星と美佳里、そして雅が流霞の推測を聞いて、言葉を失った。
昨年末、〝鴉〟が言っていた魔素濃度という言葉を思い出す。
魔素濃度はダンジョン因子に密接に関係しているものであり、その〝汚染度〟がレベルアップの重要な要素になる、という話だ。
下層に入ったことで、魔法が当たり前のものになるというのであれば、そこからが本当の意味でのダンジョンであるというのは、納得できない話ではない。
しかし、だ。
そうなってくると、中層までの世界がまるで――――
『それ、ボクも言われて納得しちゃうにゃりね。実際、崩壊地域の奥に行けば行くほど、普通じゃなくなるにゃりにゃねー。そう考えると、中層までがダンジョン側にとっちゃ《《チュートリアルレベルでしかなかった》》と言えるにゃりよ』
――――誰もが感じていた中層突破までの道のりに対する感想を、遠慮することもなく〝鴉〟がコメントした。




