【プラベ配信】下層下見 Ⅱ
「あれ、ミカミカー。魔物の名前ってさぁ、確か配信とかで表に出たので決まっちゃう感じだっけ?」
「そそ。答え合わせっつか、本当の名前なんて誰にも分からないしね。あ、でも解析使えば分かるのもいるんだっけ」
「あー、雅のお姉ちゃんのあれかー」
「そ。まあでも、魔物の名前っつったら大体英語名ばっかだねー。ほら、英語圏が一番攻略も早かったし」
「それなー。あとは神話とかに出てくるようなのとかっしょ?」
「そそ。でも中層の魔物だとその国限定の魔物とかも出るから、いきなり和名だったりすんのもいるよね、確か。るかちー、和名の魔物知らん?」
「えっと、足軽骸骨とか?」
「それ! 雅パパンたちが第2ダンジョンの下層に行ってんし、第3ダンジョンの魔物だったらウチらが名前つけて良さげじゃね?」
「さっきの緑色の狼とか?」
「マリモ狼でどうよ?」
「マリモ……。確かに色はそんな感じかも……」
草原を進みながらキャッキャと話す奏星と美佳里に巻き込まれて、流霞が感想を呟く。
魔物の名前は会話にも出た通り、だいたい情報を公開した国の探索者がつけた呼び名で定着していく。
もちろん、変な名前であったり、特徴と合致しないものは対象外となってしまうが、大抵は見た目と出てくる環境に合わせて名付けられていくものだ。
国によってそれぞれに翻訳された名前になったりもするのだが、日本の場合は大体が最初につけられた名前を踏襲し、その名前で周知されている。
カタカナ文化がある日本だからこそ、外来語の受け入れに対しても違和感を覚えることがなかったからとも言えるだろう。
最上層や上層、中層の攻略や情報の公開という意味では、日本は後進国であったと言ってもいい。
そのため、和名がついている魔物は珍しいぐらいで、中層にいる日本特有とも言えるような魔物のみに限定されている。
ちなみに流霞が名を出した足軽骸骨というのは、その名の通り胴と腰周り、脛に簡素な和風の鎧がついて陣笠を被っている、京都にあるダンジョンで現れた魔物だ。
海外ではサムライスケルトンと呼ばれている。
海外では刀さえ持っていれば侍なのだ。定義が広すぎる。
《さすがにマリモ狼はやめてね。風を使う緑色の狼なんだから、普通に考えたら緑風狼とかかな》
ドローンのスピーカーから聞こえてくる雅の声。
チャットでは流霞が見えないため通訳せねばならず、情報交換をしながら進むために通話状態にしたのだ。
「えー、なんか地味っぽくね? 弱そう」
「マリモ狼に比べたらインパクトに欠けるわー」
《そんなとこで張り合うなし》
「るかちー、なんかいい案ない?」
「え゛っ!?」
みんな仲いいなー、ぐらいの感想を抱きながら見守り役に徹していた流霞が、唐突なフリにダミ声で反応した。
このコミュ障オタク少女、目の前の会話に傍観者のつもりでいる気まんまんである。
「え、あ、えっと、いいと思います」
「え、何が?」
「緑風狼……? ちょっと強そうにしたいなら緑を翠っていう字の方にするとかアリ、かな?」
「翠風狼……? おぉ、いんじゃね? はいそれ決定!」
「おぉ、さすがるかちー」
《いいね。じゃあ名付けはるかちーにお願いしよっか》
「え゛。い゛、いや、やっぱりみんなで意見を出し合って……なんなら順番で……」
奏星と美佳里、そして雅が素直に採用を決定することに喜ぼうとしたところで、どうにか滑って変な目で見られずに済んだと胸を撫で下ろそうとしたところで、さらなる無茶振りである。
戦いの中ならば先陣を切って突っ込み、なんなら指示出しまでできるというのに、戦いの外では素が出てしまう流霞の声は、段々と尻すぼみになっていくという特有の喋り方で視線を彷徨わせながら提案した。
「あー、でも言われてみればそーじゃんね。下層一番乗りなんだし、みんなで名前つけるのってなんかエモいかも」
「それありじゃん。じゃあじゃあるかちー、ウチらがぱっと言った感じで他の言い回しみたいのあったら言って」
「あ、うん。それなら」
命名権を与えられるような、なんだか責任が重そうな役目でないのであれば流霞に否やはなかった。
そもそも誰も責任を問うようなことはないのだが、予防線を張っているつもりである。
《いいねー。〝がちけん〟でそういう名前をつけたってなったら、ダンジョンの未知を解明してる感じもあるしわくわくしてきたかも。ウチらもつけていい?》
「どんどんつけてこー。ゆっきーもそうだけど、あかねぇとかななみん、まこっちゃんも考えてねー」
《おっけ、みんな聞こえてる。固まってるわ》
「ウケる。でもそーなってくんと、はよ魔物会いたいわー。ミカミカ、どっかいねー?」
「んー、ちょい待ちー。なんか森の中に反応あるっぽいんだよなぁ」
ポータルから真っ直ぐ、まずはポータルから見える位置にあった森の近くへ近づいているものの、先程からマリモ狼改め、翠風狼ばかりが襲ってくるばかりだ。
――下層の魔物は全部が魔法ありきになる。それって、ある意味ここからがダンジョンの本質っていうか、本当の魔物になっていっているような……。
ふと、流霞が相変わらずの無表情でそんな思考を巡らせてぼーっと虚空を眺めていると、そこにドローンが近づいてきて、流霞の顔をアップで映し出した。
《どしたん、るかちー? なんか考え事してたっしょ? 言ってみ?》
「え゛っ、いや、その、なんでも――」
《――それなしで》
「えぇ!?」
いつも通りに自己完結しようとする流霞であったが、雅はそれを許そうとはしなかった。
《ダンジョンに全く関係ないことだったら、別に喋んなくてもいーよ。けど、ダンジョンに関係することなら、色んな可能性があちこちにある。あーしや他のみんなが気付かないこととかもあるかもしれないっしょ?》
「み、雅が気付かないことなんて私なんかが……」
《それは違うよ、るかちー。むしろ、ウチらん中だったら、多分だけどるかちーが一番ウチらと違うとこに気付くと思ってんだよね》
「へ? なんで?」
流霞から見ても、雅は非常に頭がいい上にAIなどを駆使しているため、なんでもすぐに概要をキャッチできてしまう。
そんな雅が気付けないことに自分が気付けると思われていると聞いた流霞が、目を丸くしてドローンを見つめた。
《るかちーの視点って、マンガとかアニメとかの影響もあったりするんっしょ? だったら、そういうのでウチらが触れないような知識とかあるかもじゃん。そーゆーの知らないウチらじゃ辿り着かない何かを、るかちーだけが色んなもんに触れてっから知ってるとか、結構あると思うんよ》
雅の知識はあくまでも現実に則したものだ。
自分が〝がちけん〟を立ち上げ、ダンジョンに対して熱意を持って色々と調べてきたが、それらはあくまでも現実的なことであったりに限られる。
そういった知識の拾い方は、奏星たちも同様だ。ダンジョンについて知ろうとすれば、当然、現実の出来事や物事から情報を拾うことになる。
その点、オタク少女要素の強い流霞は、浅く広い知識を持っている。
ハマったジャンル次第では、より世界観を知りたくて色々と調べたりもするが、使い回されたジャンルの、いわゆる〝お約束〟や〝テンプレ〟への理解――つまり、〝一般的ではないルールに対する付き合い方〟については、いちいち調べなくても理解が及んでいたりもする。
ダンジョンの下層は、すでに未知の領域だ。
これまで培ってきたダンジョンにおける常識から推測できたとしても、そういった法則とは全く異なる未知の何かがあってもおかしくはない。
そういったものに対して、既知を用いて対応するだけでは固定観念に囚われかねない、とも雅は考えている。
だから、もしも流霞が「もしかして」とか、「アニメとかでこういうのに似たのがあった」といった発想が生まれるのなら、そういった発想、考え方、着眼点については是非とも意見として聞いておきたい、というのが雅の考えであった。
実際に、流霞は『魔力水の水差し』を初めて使った時や、独自魔法に至った際に、そういった力に誰よりも早く順応し、誰よりも早く発展させ、実用化している。
柔軟な発想、目から鱗が出るような着眼点に自分たちはもちろん、『明鏡止水』への指導でも成果をあげていたりもするのだ。
それはある意味、〝ダンジョンに向いている〟と言ってもいい、というのが雅の評価であった。
「……で、でも私、そんなこと喋ったら多分変なこと言うよ……? 引かない? その場では笑って聞いてくれてるのに、喋りかけてこなくなったり、声かけても用事があるとか言いながらさっさと切り上げたり、みんなだけのグループチャットとか……」
「お、おう……?」
段々とじめじめした空気を放ちだす流霞に若干引いた美佳里の横から、奏星が腕を伸ばして人差し指で流霞の額を押した。
「今更そんなん気にするわけないっしょー? つかあれだ。そしたらさ、るかち。るかちーの〝推しアニメ〟、〝がちけん〟全員で観て勉強しね?」
「え……っ?」
「あ、それいーじゃん、奏星。ウチらもるかちーみたいに色々知ってれば、知らん話とかじゃなくなるし、あーあれねーってなるじゃんってことっしょ? そしたら、るかちーが気付いたこともどーゆー話か分かりそうじゃんね」
「そそ。雅、どう?」
《ありだね。るかちー、それするからるかちーのお勧めとか色々チャットして?》
「それってつまり――布教していいって、ことっ!?」
コミュ障オタク少女。
推し友、オタ活仲間が増える予感に今日イチ嬉しそうな声をあげた瞬間であった。




