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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第7章 下層へ

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【プラベ配信】中層フロアボス討伐戦 Ⅱ




 死霊王の配下である、挑戦者(探索者)を模倣し、身体能力面では強化された騎士たち。

 この騎士たちと戦っている間、死霊王は動かず、数分間は戦いを眺めて待つ。

 およそ10分ほどで妨害系の魔法、騎士の回復といったものを行い、15分ほどで攻撃魔法を放ってくるようになる、というのがセオリーだ。


 今までに記録に残っている映像では、騎士が倒されたというデータもない。

 死霊王が攻撃を始めたところであっという間に瓦解するというものであったため、騎士がいなくなってからの行動パターンは分からなかった。



「――ふ……っ!」



 死霊王の周囲に大量に現れた、紫色の魔法陣。

 そこから次々と襲いかかってくる黒い矢を、踊るように避けながら流霞が魔装のロッドで叩き、砕いて粉砕していく。

 一発一発は銃弾もかくやといった速度だが、それでも踊るように動く流霞には掠りもせずに流霞の周囲の地面に小さな穴を開けて粉塵を舞い上げるばかりだ。


 痺れを切らしたかのように、死霊王がぐるりと杖を回して、地面に石突を打ち付けた。


 広がった魔法陣。

 死霊王の足元から伸びた影が、そのまま槍のように隆起して具現化するというもので、逃げる流霞を追いかけてくるが、これらを逃げて回避。


 その一方で、奏星と美佳里の方にも同じものが伸びてくるが、奏星の〝焼失〟の炎に触れた途端、侵食するように炎が影を伝って死霊王に迫り、慌てて死霊王が自らの影を切り離すようにして炎を止める。


 一方で流霞も、迫り続ける影から逃げ続けていたが、埒が明かないと判断。

 ロッドを地面に叩きつけて石造りの舞台を砕き、強引に影の繋がりを断ち切ってみせると、口角をあげた。



「きひっ! 地続きじゃなきゃ、伸ばせられないんだね」



 空中に浮かび上がった石畳の破片をロッドで殴りつけて、死霊王に向かって打ち込んでいく。

 死霊王は杖を持った手を前に突き出して、魔力障壁を生み出してそれらを防ぎながら流霞を見つめていた。


 その時、虚空に現れた魔法陣から美佳里の魔弾が一斉に放たれ、死霊王の死角を狙って襲いかかる。

 だが、魔力障壁は球状に展開されていたようで、光り輝く膜に守られた死霊王には届かなかった。



「慌てて逃げる様子なーし。魔力量はかなり多いんかもねー。次、強度測定。奏星、いくよ」


「あいよ」



 美佳里の【虚空射撃(ホロウショット)】があちこちから死霊王を襲い、それらを魔力障壁で防ぎ続けている。


 その様子を見つめながら、手に持った細剣に炎を纏わせた奏星がぴくりと眉を動かしてから、流霞に視線を送る。

 流霞もそれに気が付いたようで、ニィ、と口角をあげたかと思えば放たれた矢のように初速でトップスピードに乗って死霊王に迫った。


 死霊王がここで慌てた。

 魔力障壁を使って耐えるだけだった死霊王は、流霞が飛び出してきたことに気が付いて流霞から距離を取るように後方へと滑るように移動しつつ、自身の杖を流霞に翳す。


 紫色の魔法陣が浮かび上がり、黒い炎が流霞へと襲いかかる。


 その炎を見て、流霞が小さく口を開いた。



「――【月露写身(げつろのうつしみ)】」



 刹那、流霞の目の前に死霊王が生み出した魔法陣と同じ魔法陣が浮かび上がり、まったく同じ黒い炎が放たれ、死霊王へと襲いかかった。


 流霞がレベル3になった際に習得した、第3スキル――【月露写身(げつろのうつしみ)】。

 このスキルは文字通りに『流霞の目に映った魔法と同じものを写し出し、発動させる』というスキルだ。


 確かにこれだけ聞けば凄まじく強いスキルにも思えるものだが、しかしその実、流霞から言わせれば使い勝手の悪いスキルだというのが本音だ。

 というのも、映し出せる魔法は自分に向けられたもののみであり、しかもその目でしっかりと見たものであること。さらに、発動可能時間は目で見てから10秒以内という制約がつく。

 威力の調節もできず、そのコピーした魔法を強制的に発動させるため、思いがけず魔力を消耗しかねない。


 そうした制限はあるものの、こうして相手の魔法を相殺することができたり、相手の意表を突けるという意味では使えそうだ、とは流霞も思っている。

 使う場面はこれまでに一度もなかったのだが、下層以降では出番があるといいな、ぐらいに思っているスキルでもあった。


 そんな流霞の希望が寄せられた【月露写身(げつろのうつしみ)】だが、確かに驚かれていた。

 特にこのスキルを見たこともない、雅たちに、ではあるが。



「ええぇぇぇ!?」


「るかちーが火ぃ噴いた!」


「えぇ!? あれ口から出てました!?」


「死霊王と同じ魔法!?」


「るかちーは死霊王だった……!?」



 雅と雪乃、紅音と那波、それに真琴の5人の反応はもはや自分たちでも何を言っているのか分からない程の大騒ぎとなっていた。


 そんな風に言いたい放題言われていることなど露知らず、驚愕して動きを止めた死霊王の懐に流霞が踏み込む。

 死霊王が咄嗟に放った黒い矢が流霞の顔面へ襲いかかり、首を逸らして避けた流霞が振るったロッドが、死霊王の魔力障壁にぶつかり、強烈な音を立てた。


 それでも衝撃までは殺しきれず、死霊王の身体は魔力障壁に包まれたまま後方へと吹き飛ばされるように飛んでいき、壁に叩きつけられ、がらがらと崩れた砂塵の中に姿を消した。



「るかちー、強度どう?」


「……多分、破れなくはないけれど、打撃には結構強いと思う。むしろ点か線、刺突か斬撃の方が通りやすいと思う」


「おっけーぃ。んじゃ、次はあーしね」


「あ、待った。強度計測、次は威力あげさせてー」


「あ、そだね。りょー。攻撃パターン変わっかな?」



 死霊王が使っている魔力障壁の強度に関する質問に、流霞が答える。

 まだまだ本気で殴りつけたわけではないが、それでも衝撃が逃げていくような、そんな感触を感じ取った流霞が淡々と答えた。


 そうして次に奏星が動こうとする前に、美佳里が先に強度を計測すると言う。


 まるで実験でも行って観察しているかのように喋っているが、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の3人にとってみれば、これは下層への挑戦ではあるが、それ以前に文字通りの観測が目的となった戦いだ。


 現在、『明鏡止水』が中層に向かって移動している。

 その間に死霊王の戦闘データを撮って、その情報を傑に渡し、『明鏡止水』の攻略成功をお膳立てするための挑戦でもある。


 傑も、そして今回の攻略に同行している柚芭と渚沙も、雅の大切な家族だ。

 探索者である以上は怪我はもちろん、命を落とすことだって当然珍しい話ではない。それを覚悟し、踏まえて挑んでいるのは間違いない。


 今回の中層突破は『明鏡止水』でもスキル拡張に至り、どうにかクリアできるであろうラインは突破しているが、死霊王の強さは未知数だった。

 そこに挑むというのなら、せめて表立って支援できない代わりに、死霊王の攻略に役立つ情報を渡そうと考えたのである。


 雅の心配を、少しでも和らげることに繋がるのならと考えて。



「……ま、こっからが本番って感じみたいだけどね」



 流霞が殴り飛ばした先で、魔力が集まっていく。

 ビリビリと大気が震え始めたかと思えば、突然、死霊王のいたその場所を中心に暴風が吹き荒れて、舞い上がっていた砂塵を吹き飛ばし、黒い球体が姿を見せた。


 先程までの、どこか余裕のある佇まいとは異なる強烈な殺気を伴って現れた死霊王は、骸骨であるために表情は読み取れない。

 だが、明らかな怒気を孕んだ気配を隠すこともなく、3人を睥睨していた。



「あんなんで終わりだったら拍子抜けもいいとこだってーの。――やるよ、るかち、ミカミカ」


「遊撃で注意を逸らす」


「おけ。んじゃ――散開!」



 流霞が右へ、奏星が左、美佳里が後方へと一斉に散開。

 死霊王が、先程までの緩慢な動きから一変して、ふっと姿を消した。



「――ッ、消え……!?」



 奏星が驚愕して周囲を見回した、その時。

 美佳里の背後に姿を現していた死霊王の姿を見つけ、奏星が叫んだ。



「――ミカミカ、後ろッ!」


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