激動の4月は過ぎていく
5月に迫る中層突破配信に向けて、〝金銀花〟と〝魔女の饗宴〟は平日は雑談であったりの配信を行い、週末は交代で東京第3ダンジョンの中層15階層以降の狩りの配信を行うようになっていた。
その裏で配信していない側の面々が『明鏡止水』のメンバーのスキル拡張に向けたアドバイスや実戦での見本披露、付き添いなどに時間を割いて過ごしていた。
ちなみに学校生活は、どちらかと言えば浮いている日々だ。
2年に成り立てで流霞が同じクラスの生徒相手に〝プチきひり〟をしたせいで、見事に普通の探索者とは一線を画したヤベーヤツ認定。
さらに、雅は気が付いた。
「てか、ウチらもヤベーヤツ扱いされてんわ、これ」
「あー……ね。この前の配信、なんか結構話題になったっぽいかんねー」
「うける。別に襲いかかったりしねーけどー?」
「ま、いいんじゃね? これからまた色々あんだし」
放課後、事務所に向かう無人タクシー内。
雪乃と美佳里、それに奏星にとってみれば、「まーしゃーなし」ぐらいの軽いものであった。
流霞たちはあまり世間の騒動を気にしていないが、確かに中層14階層のヴェーゲルやフリュム討伐はそれなりに話題になったのだ。
何せ一つの階層をまるまる占領している魔物など、異常進化個体の中でも異常と言える。そのような魔物の発見事例は極めて少ない。話題になるのは当然の帰結というものだろう。
ともあれ、その一件で注目される中、〝金銀花〟と〝魔女の饗宴〟はほぼほぼ一方的に完全勝利を収めてみせたのだ。
そんな連中とつるんでいるとなれば、ヤベーヤツ認定レッテルは流霞だけではなく奏星や美佳里はもちろん雅に雪乃にも貼られることになったようで、何やら遠巻きに見られている。
流霞は「ぼ、ぼっちにされる空気……!? いないもの扱いが始まる……。体操とかでペアになれって言われてぽつんとする……」と恐れ慄いていたのだが、雅はそんな流霞の肩を笑いながら叩いた。
「ま、クランやってんだから、一目置かれんのは望むとこだし。これからはもっと大きく話題になるのは目に見えてんじゃん? ビビるならこっちから願い下げだし、かと言って何もできないで媚び売ってくんのも論外だし。ウチらは選ばれるんじゃない。選ぶ側だかんね」
「……カッケェっす」
「んふっ。るかちー、たまに男みたいな反応すんね」
「わ、私にとって、女子高生するのって難しいから……」
「何それ、そんな頑張って女子高生してんの?」
「うん」
「ウケるわ、即答かよ」
相変わらずどこかズレている流霞の反応を、奏星が楽しそうにツッコミを入れながら会話を広げていく。
そんな二人のやり取りを見ながら、雅と雪乃、美佳里が笑っている姿を見て、「自分、今上手くJKしてる」と自画自賛するぐらいには流霞は本気であるのだが。
「そういや雅、結局転送バッグ使わないことになったん?」
「あー、それね。お父さんにも一応説明したんだけど、さすがに配信内でそれを使うのは遠慮したいって言われたんだよねー」
「配信外でなら使うってこと?」
「んー、どうだろ。なんかめっちゃ表情引き攣ってか細い声してたからさあ。配信外でだけ使ったらって言ったんだけど、すっげー反応渋かったんよね」
「へー、なんでだろ」
転送バッグについては雅から傑、そして家族に伝えた。
というのも今回は〝がちけん〟だけではなく、雅と一番歳の近い姉である冴香の協力もあって生み出せるようになった、人工アーティファクトとも言えるような代物であったため、是非ともお披露目したかった、というのもある。
だが、《《何故か》》咳き込んでから《《前傾姿勢になって妙に顔を引き攣らせた》》傑と、険しい表情を浮かべた雅の母である瑤子に、さすがに『明鏡止水』でそれを使うのはどうかと難色を示される結果となったのだ。
雅の一番上の姉の柚芭と2番目の姉、渚沙は探索が楽になるとシンプルに喜んでいたが、傑や瑤子から見れば「なんちゅーもんを放り出してくるんだ……ッ!」というのが本音である。さすがに爆弾具合が度を超えている内容であった。
柚芭と渚沙は、今回の中層突破探索のメインパーティとサブパーティにそれぞれ組み込まれている。
矢ノ沢家の娘として、『明鏡止水』を支える一族の娘として必死になってスキル拡張に挑み続け、どうにか形になるところに辿り着いたのだ。
我が姉ながら普通にすげー執念だわ、と雅は素直に感嘆した。
「ま、こっちでは使うけど」
「それな。テントとか持ってくのしんどいし」
「せっかくあーしが作ったんだから使ってけー?」
「まあ作った以上は使わせてもらうよ。ウチらはるかちーがいるから荷物重くても移動は問題ないんだけどねー。りおなんたちは使いたいって言ってたしね」
傑とは違って女子高生組は使う気まんまんなようで、雅と美佳里はあっさりと使用を宣言、雪乃は推奨。さらに奏星も隠すつもりはないようであった。
ちなみに流霞は「使えるなら使いたい」が本音である。
なんだかんだで荷物を一緒に運び続けるというのも面倒ではある上に、深い階層に進めば進むほど、戦闘の余波も必然と大きくなってくる。
少し離れたところに置いた程度では、余波に巻き込まれて破損してしまったりするリスクもある。必要な時だけ取り出せるに越したことはないのだ。
特に流霞の場合、魔物を殴り飛ばすこともある。
そのせいで荷物を破壊してしまったら責任が大きい。
「ダンジョンと事務所間での転送実験は成功したし、距離の制限も今んとこない。けど、欠点もあるんだよねー。ほら、あの転送バッグって、同調する魔法陣を設置して、その上に物を置かなきゃいけないから。その辺は事務所メンバーが配信越しに確認して順番に魔法陣に乗っけたりすっけどさ」
「対になる魔法陣を設置した転送部屋だっけ? あそこで荷物乗せたりするんっしょ?」
「それなー。逆にダンジョンで拾ったのを転送してもらって、それを移動させたりって感じ。どうしたってそういうとこはマンパワーに頼る感じだから、大量に物を移動したりっていうのがどうにも難しいんよね」
美佳里に質問に答えた雅が肩をすくめる。
転送バッグは〝対になる魔法陣同士でのみ転送を可能とする〟という代物だ。
魔法陣の上に複数の物が乗っていると、その全てが転送されてしまい、しっかりと受け取った側、送る側でそれぞれに必要なものだけを魔法陣の上――転送指定範囲内に置いておく必要がある。
そのため、どうしても事務所側でその対応をできる人材が必要になってしまうのだ。
ちなみに、人が転送されるのか、という疑問もあって生き物を使って試してみたのだが、そちらについては現状失敗している。
そちらができれば、さらなる革命に繋がりかねないため、雅たちは残念がり、傑と瑤子は深く安堵のため息を漏らしていた。
「その辺もクリアできたらいいよねー」
「自動でどれを転送するか選べるようにする、みたいな?」
「んー。ゆっきー、あれって指定したものの転送とかできないよね?」
「無理だねー。あーしも色々試してんけど、【魔導付与】ってちょっと後付け工夫して大幅に改善って難しいっぽいんだよなー」
もちろん、今の段階でもマンパワーで補えるのであれば充分に有用性は高い。
だが、それでもどうせならもっと便利にしたい、と考えるのは当然のことで、雅や雪乃も色々試行錯誤はしているのだが、成果は芳しくなかった。
そんな会話を聞きながら、流霞はぼんやりと思う。
――SF系のアニメとか漫画だと、ビー玉サイズまで圧縮したりとか、ワープさせて装備したりが多いんだけどなぁ……。あとはなんかちょっとぶっ飛んだ作品だったりすると、個人個人で自分だけが干渉できる亜空間とかいうのがあったりするとかなんとか。
個人所有の亜空間という、謎のパワーワードが出てきて思わずニヤニヤしてしまう流霞は、必死にそんな表情を隠すように、事務所に向かう無人タクシーの中から一人、外を見て表情を隠すのであった。
そうして、4月は慌ただしく過ぎていき。
そしてついに、『明鏡止水』の中層突破配信の日がやってきた。




