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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第7章 下層へ

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さぷらーいず




「さて、これからの動きについてなんだけど、『明鏡止水』側の中層突破トライは、予定通りゴールデンウィーク中――5月の頭の予定。それまで、毎週末〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟のどちらかが『明鏡止水』の主力メンバーについてって、拡張スキルを見せたり、考え方の指導に入る予定ね」


「『明鏡止水』の特訓だけは、東京第3ダンジョン――つまり、いつも〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟で暴れているダンジョンで行う予定です。ただし、中層突破は東京第2ダンジョンでトライするようです」


「あばれているダンジョン」


「まあ否定はできないわなー……」



 雅に続いた紅音の表現があまりにもストレートであったせいで、思わず流霞が反芻しながら呟き、奏星が苦笑する。


 フリュムやヴェーゲルの一件の際にもあったが、東京第3ダンジョン〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟の注目、その人気にあやかろうとしたのか、トライする中堅どころの探索者は一時期は増加傾向にあった。

 もっとも、誰もまともな成果に結びつかず、春になる頃にはすっかり第3ダンジョンの過疎ぶりは戻ったが。


 蠱毒が生み出される中層も、〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟が道を切り開いたこともあり、中層12階層あたりまでなら探索者も進出してきている。

 長い期間放置さえされなければ、再び蠱毒の壺のようになってしまうこともないだろう。


 ちなみに余談ではあるが、流霞たちが中層14階層のヴェーゲルを倒したことに乗じて、中層15階層にトライした探索者パーティもいた。

 しかし、そこも蠱毒の舞台となってしまっていたため、結局敗走。

 視聴者からも「女子高生に道を切り拓いてもらっておきながら、調子乗って突撃したくせに何もできないとか、それ探索者としてどうなんよ」といった反応が向けられ、チャンネル登録者数をガッツリ減らしてしまったのだとか。


 なお、そのパーティは『魔導防具(マギア・ギア)』の件で割と上から目線で色々やってきた中堅クランの所属であったこともあり、紅音と真琴、それに那波が鼻で笑ったという。

 勝手に絡んできて勝手に追い込まれるとは、まさに《《自産自消》》の極致である、と。



「ま、そんな訳で東京第3ダンジョンは浅い階層を探索する探索者ばっかだかんね。お父さんが言うには、この前みんなが倒した氷の繭みたいなのとかを含めて、異常進化個体が群れを作ってる可能性の高い第3ダンジョンはさすがに中層突破トライでは使いたくないみたい」


「なーほーねー。ま、第3ダンジョンで訓練するっていうならいんじゃない? どうせその時にもう片方のパーティは15階層から先の攻略することになるんだろうし。りおなんたちもそっちはそっちで進んだりしたいっしょ?」


「せやな。1階層まるまる占拠しとるようなヤツやったらアレやけど、1パーティで充分やろ」


「いざって時にすぐ近くに予備戦力がいると考えれば悪くないですね。……もっとも、予備戦力が必要か、というと些か疑問にも感じますが」



 改めて〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟の力を考えて、紅音が呆れたような笑みを浮かべて呟いた。


 事実、今のそれぞれのパーティの戦闘能力を考えれば、本気を出してしまえば中層突破は容易に可能だろう。『亡霊の庭園(ニヴルヘイム)』の〝虎〟や〝椿〟、〝鴉〟からも太鼓判を押されている。

 彼らからも聞いているが、中層のフロアボスはヴェーゲルのような〝超常級〟もどきよりも弱い。すでに〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟はそれぞれに下層に足を踏み入れられる強さは確実に手に入れていると言えるのだ。


 異常進化個体が作り出した群れは通常の魔物よりも強く厄介だが、いくらそのような魔物であっても、もはや流霞たちが相手では勝ち目は薄いというものだ。



「ま、それは置いとくとして。『明鏡止水』との合流はダンジョンの中層14階層。あの階層の入ってすぐ、崖になってるとこを降りてったとこね。基本、ウチらは土曜の昼ぐらいに着けばいいってさ」


「あれ、『明鏡止水』のメンバーって日帰りすんの?」


「さすがに無理だって。だから『明鏡止水』は金曜の夕方からアタック開始して、日曜の朝になってから戻るって形みたい」


「うわぁ、それ毎週やんの?」


「るかちーみたいにみんなで一気に移動できるならともかく、さすがに『明鏡止水』にそういうスキルとか持ってる人いないかんね」



 雅と美佳里の会話を聞いていた全員の目が流霞に向けられ、一瞬きょどった流霞が「へ、へへ、ども」と下手くそな反応をしてみせる。相変わらずまだまだこういう時の対応力が足りていないようである。


 そんな流霞の反応に軽く和んだところで、雅がにやりと笑った。



「――で、さ。これから下層とかに行くようになると、やっぱ日帰りって難しくなるじゃん? でも、荷物を大量に持ち込むのも結構手間って思わん?」


「そりゃそうだけどねー。え、大手みたいに運び手(ポーター)でも雇うん?」


「あー……、まあ普通に考えたらそういうのも考えなあかんわなぁ」



 雅の問いかけに奏星や瑛里華が反応するように、他の面々も改めて考える。


 これまでは、中層ならまだなんとか日帰りで強行することもできた。

 もちろん、〝魔女の饗宴〟は何度かダンジョン泊も経験しているし、長期的にダンジョンに潜るプランを立てて実践してきたが、そうなると必然的に荷物は大荷物になってくる。


 最近は流霞の重力利用移動のおかげで当たり前に日帰りできているが、普通の探索者であればそうはいかないのが中層深部の探索になってくる。

 中層深部で狩りをするならば、基本的には最低でも1泊、平均的には今回の『明鏡止水』のように、2泊3日の予定を立てるのが一般的で、荷物についても奏星が口にした通り、専属の運び手(ポーター)などをサポートメンバーに入れて挑むのが常だ。


 下層に潜るようになれば、なおさらそういった対策も考えていかなければならないのか、と一行が難しい表情を浮かべると、何故か雅が少し得意げな顔をして頷いているのが目に入った。



「うんうん、そーだよね? やっぱ荷物の問題ってどうしたって付き纏うよね?」


「ふっふっふー、そんな悩みを解決できる方法があるなら、それは素敵なことだよねー?」


「なんか始まったわ」


「え、ゆっきーまでノリノリでどしたん?」


「へ? ちょ、莉緒菜までなんでそっち行くんや?」



 何故かもったいぶった物言いをする雅と、そんな雅の横にゆっくりと歩きながら近づき、得意げな顔をする雪乃。

 そんな二人の小芝居に奏星や美佳里が反応する横で、今度は横合いから瑛里華の声が聞こえてきて全員がそちらに目を向けると、莉緒菜が苦笑を浮かべて立っていた。



「あ、あはは……。いやー、んん゛っ! ――それはもちろん、私も今回の件には一枚噛んでいるからよ」


「なんやねん急に」


「ん、怪しい流れ」


「あらあら~、なんだか面白そうね~」



 何やら雅や雪乃と共に噛んでいると言い出す莉緒菜に、瑛里華と菜桜、聖奈も反応する。

 そんな一連のやり取りを、なんだか面白い見世物を見ているような気分で何も言わずにわくわくしながら見ている流霞の前で、雅が腕を組んだ。



「――さて、諸君。ここでウチらからのサプライズ商品の発表だ! ゆっきー!」


「あいよー!」



 とてとてとラウンジルームの隅に行った雪乃が、隠すように置いていたリュックサックを持って戻ってくる。

 その横で莉緒菜がパチンと指を鳴らすと、黒い闇人形が浮かび上がり、これまたラウンジルームの隅に置かれていたワゴンを押して近づいてきた。


 唐突に始まった小芝居に、何も聞かされていなかった紅音や那波、真琴までもが目を丸くして事の次第を見守る中、雪乃がリュックサックを掲げるように持ち上げた。



「荷物を持ち運ぶのが面倒なら、どこからでも出し入れできるようにすればいいじゃない! ってことで、ゆっきーの【魔導裁縫】のレベル3スキル、【魔導付与】のおかげで、こんなん作れた!」



 雅がそこまで言うと同時に、雪乃が手に持ったリュックサックの中が空っぽであることを示すように全員に見せてから地面に置くと、今度は莉緒菜の操っていた闇人形が、押してきたワゴンの上に水が入ったペットボトルを置いた。


 雪乃がそれを確認して、リュックサックの背中に当たる側を向けた。

 そこにはポケットが取り付けられており、そのポケットに魔石が入っているようだ。

 雪乃が魔石に手を当て、魔力を流し込んだ。



「この魔石の当たってる場所、つまりバッグの内側には魔法陣が仕込んであってねー。これをこうして起動させると……」



 雪乃がそこまで言ったその瞬間、ワゴンの上が突然淡く光ったかと思えば、ペットボトルが吸い込まれるように落ちていき、バッグの中で何かが動いた。

 雪乃が中に手を突っ込んで引き抜いてみせると、雪乃の手には今しがたワゴンの上から消えたはずの水の入ったペットボトルが握られていた。



「……は?」


「じゃじゃーん! りおなんの『拡張タイプ:接続』をウチのさーねぇ(冴香)に解析してもらって、魔法陣化して付与することに成功したぜー! 名付けて、転送バッグ! これで荷物問題はほぼほぼ解決したって言えるくね?」


「はぁ!? なんやそれぇ!?」


「ちょっ、待って!? 転送!?」


「マ!? え、何それ、すご!」


「……あの、ちょっ、え? しょ、所長? そんなの聞いてませんけど……?」


「え? だって完成したの今朝だし、サプライズだかんね。言ってなかったんだから、そりゃ知らないんじゃね? いやー、これお父さんたちにも使ってもらおっと」



 傑の胃が、今回こそほぼ確実に破壊されることが決定した瞬間であった。


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