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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第7章 下層へ

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【配信】氷の繭討伐 裏




《――本日はお忙しい中、お時間を頂戴致しましてありがとうございます》


「こちらこそ。霧島くん、キミの活躍は雅から聞いているよ」


《まだまだ活躍と呼べるほどのことは。それよりも、改めて良い職場を紹介いただきましてありがとうございます、矢ノ沢様》



 堅苦しくならない程度に短く挨拶し合うのは、このオンラインミーティングに参加しているそれぞれのグループの取りまとめ役を務める、紅音と傑の両名だ。

 今回のオンラインミーティングは〝がちけん〟からは紅音と雅、『明鏡止水』からは傑の他に、『明鏡止水』の第一線級メンバー数名が参加していた。


 それぞれに参加者の紹介を簡単に済ませたところで、改めて傑が口を開いた。



「急な申し出で、すまなかったね」


《こちらとしましても都合が良いという点もありますので、どうかお気になさらず》



 ――相変わらず、人によっては冷たく受け取られかねないなぁ、霧島くんは。


 オンラインミーティングのカメラ越しに見る紅音に、傑は素直にそんな感想を抱きつつ会話に応じる。


 今回、何故〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟が突然中層14階層の氷の繭とフリュムの軍勢に挑んだのかと言えば、実のところ『明鏡止水』――否、正確に言えば、傑からそういった打診があったからだ。


 下層攻略に向けた合同探索。

 この提案を〝がちけん〟側は呑むことにしたが、『明鏡止水』の主力メンバー側が承服しかねるような空気を出していたのである。


 実際のところ、流霞たちの実力を見せつけるのであれば崩壊地域の動画を見せればそれで事足りるだろう。

 だが、あちらの動画には『亡霊の庭園(ニヴルヘイム)』の存在が映っていること。それに加えて、少々表だけで活動している探索者には刺激が強すぎる映像であるということもあって、今度の合同探索対象者には見せることができなかった。


 そこで、『明鏡止水』内でも話題になった、東京第3ダンジョンの中層14階層にいるフリュムと氷の繭という、明らかに通常の異常進化個体以上の力を持っているであろう魔物たちとの戦いを見せることで、納得してもらおうと考えての提案であった。



「しかし、良かったのかい? 僕らはプライベート配信で、という話をしたはずだけれども」



 傑がこの提案をした際にはプライベート配信――つまりはアクセス権を発行し、そのURLにアクセスした者のみが観れる配信で、という提案をしていた。


 今の〝金銀花(カプリフォリオ)〟、そして〝魔女の饗宴〟は実力を隠して配信を続けている状況だ。

 ただでさえ通常の探索者のペースを上回るレベルアップの早さを誇っている〝金銀花(カプリフォリオ)〟たちが、先日の崩壊地域での大幅なレベルアップを果たしてしまっている。

 それに加えて、傑から見ても〝金銀花(カプリフォリオ)〟、そして〝魔女の饗宴〟の力は異常だ。通常の探索者では有り得ない領域に足を踏み入れていると言ってもいいだろう。


 これを世間に出してしまえば、余計な注目を集めてしまうであろうことは明白だと判断し、自重する形だ。


 傑もそれは雅から聞いていた。

 だというのに、蓋を開けてみれば今日の配信は一般公開の配信となっている。

 実力の片鱗を見せつけるようなことは避けていたはずなのに、一体どういう風の吹き回しなのかが読めずに改めて問いかけた。


 対して、紅音は涼しい表情を浮かべたまま続けた。



《こちらにとっても、力を見せつけるにはちょうどいい機会であると考えました》


「というと?」


《まず、最近は『魔導防具(マギア・ギア)』に関する問い合わせに、権力や数の力などを仄めかしているような文言が混ざり始めています。弱小クラン、それも若い女だらけの集団ということで、多少の横暴が罷り通ると思っているような者たちがいるようです》


「……なるほどね」



 有り得ない話ではないな、と傑は思う。


 良くも悪くも〝金銀花(カプリフォリオ)〟は人為的『魔物氾濫(スタンピード)』事件の影響で目立ってしまっている。

 いくら〝魔女の饗宴〟が入ったからと言って、新しい技術を、革新的な防具を若造が独占しているなんて、と考えるような増長した輩が現れるというのは自明の理だ。


 それに対して、一般的な探索者よりも強いと示すことができれば、安易に力でどうこうしようという選択は躊躇われるようにもなるだろう。

 権力であれなんであれ、最終的にそれを振るえるのは暴力を味方につけているからだ。

 だが、〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟が力を示せば、権力を振り翳そうとするのも躊躇われる。


 それに、それだけの話ではない。



「……力を示せば、振り上げた拳を引っ込める者も出る。それでも強要しようとする者もいるだろうが、ある程度は篩にかけられる。それは狙いだろうけれど……さて、それだけではないだろう」



 一度言葉を区切り、傑はモニターに映る雅に目をやってから続けた。



「実力を証明したキミたちには、当然、この国だけではなく海外からも注目されることになるだろう。そんなキミたちに無理を強いれば、最悪、キミたちが海外に流れてしまうかもしれない。そう考える者たちも出てくる、というのも狙いだね?」


《ご慧眼、恐れ入ります》


「なるほど。つまりキミたちに無理を強いようとする短絡的な者に、上からの釘が刺さるようにもなる、というわけだね」


《はい。そういった抑止力を働かせるためにも配信である程度は明らかにしておくべきと考えました》



 実力を示した探索者たちに、国は崩壊地域の奪還を期待する傾向にある。

 現実的に、どこの国にとっても崩壊地域の奪還は悲願とされている。

 優秀な探索者を引き抜こうとする動きはこの島国にも及んでおり、実際に海外から良い条件を出されて海外へと渡った者も少なくはない。


 こうした動きを、日本政府も軽く見てはいなかった。

 最近では実力を示した探索者たちには政府側も相応に融通を利かせて、どうにか日本国内に留まって活動してもらうよう働きかけているようではある。


 もっとも、安房地域奪還作戦を安易に考えるような愚かな者もいない訳ではないが、そういった者たちに馬鹿な真似をさせないよう、しっかりと釘を刺してくれるだろう。


 そこまでを考えて決断したのであれば、傑も特に言うことはない。



「……だから、《《見せるための配信》》というわけか」


《その通りです。気付く者には気付いてもらった方が、我々としても都合が良いかと》



 紅音の言葉に傑が深く深呼吸する。

 その一方で、この会話を聞いている『明鏡止水』のメンバーは、一体何が起きているのかは分からず、どこか置いてけぼりを受けているような状態だ。


 カメラ越しにそのことに気が付いて、紅音が配信画面を共有した。



《失礼いたしました。他の皆様には、いまいち伝わりにくい話題となってしまいましたが、論より証拠とまいりましょう。画面を共有させていただきましたが、これが、我々〝がちけん〟の〝金銀花(カプリフォリオ)〟、そして〝魔女の饗宴〟です》


「な……っ!?」


「……有り得ないだろう……。こいつらは確か……」



 共有されて映し出された映像は、今まさに奏星が【紅炎穿(プロミネンスレイ)】で焼き切り、着地と同時に流霞が踊るように突っ込んで、フリュムを蹂躙している姿であった。

 直後にフリュムたちが黒い闇に呑まれ、闇を纏ったような存在が起き上がり、フリュムの集団に襲いかかっていく。


 一騎当千の猛者のような働きをする奏星と流霞。

 そして、数的不利を覆す力を持った莉緒菜の凄まじい力に、コメントが尋常ではない勢いで流れていくのが見えた。


 その力の異常性をこの場にいる誰もが理解し、言葉を失っている中、紅音が淡々と続けた。



《解析魔導具で解析したところ、氷の人型ゴーレムはフリュムという魔物です。戦闘能力は、すでに他の探索者が敗走していることもあり、ある程度は算出されています。魔物としては中層最深部クラス――つまり、探索者であれば一体あたりにレベル6が相性次第では一人と補助が一人。もしくは、レベル5が四人で倒せるクラスの魔物です》


「っ、そんなにか……!?」


「……そんな魔物の集団を……」


「一方的ね……」



 赤い霧が、フリュムの身体を削りながら進む。

 その中心で流霞がくるくるとロッドを頭上で回してから、ズドン、と地面に叩きつけると同時に、周囲の空間が僅かに歪んだように見えて、フリュムたちが見えない力によって地面に叩きつけられるように体勢を崩した。


 直後、駆け抜ける紅い光線。

 容赦なく放たれたそれが、大地に赤い線を残して駆け抜けていったかと思えば、凄まじい爆発を引き起こしてドローンの映像が歪む。


 ――なんだ、この力は。


 配信を見ながら、『明鏡止水』のメンバーはそんな感想を抱いた。

 同時に、思う。


 ――これだけの力に近いものを、俺たちも得られるのかもしれないのか、とも。


 知らず握った拳は震えていた。


 そんな仲間たちの様子を横目にちらりと確認して、傑が苦笑を浮かべたところで、紅音が改めて続ける。 



《幸い、フリュムの力は正確には伝わっていません。というのも、有名で強い探索者パーティが挑戦しなかったのが幸いした形ですね。おかげで一般人視聴者からは〝強い魔物〟という、それ以上でもそれ以下でもない状況です》


「ちょ、ちょっと待ってくれ。さすがにこの実力は、同じレベルの高い探索者には普通ではないと一目瞭然です。これだけの実力を見せてしまって良いのですか?」


《――構わないわ》



 声をあげた『明鏡止水』の主力メンバーに答えたのは、雅だった。

 この場にいる『明鏡止水』のクランリーダー、傑の末娘である雅を見知った者たちもいたが、そんな彼らでも、カメラ越しに真っ直ぐ雅から向けられた、覚悟を滲ませた鋭い眼光に思わず息を呑む。



《正直言って、こんなのはみんなにとってはまだ《《序の口》》だもの。今更隠したところでメリットは薄いのよ》


「な……ッ!?」


《どうあれこの実力を見たら、ゴチャゴチャ言っている連中は一度動き方を再検討することになるでしょう? だから、その間に一気に突き放す予定。私たちの短期目標は、夏までにレベル7に到達することなのだから。ダラダラと腹の探り合いをしているような連中に付き合う気はない。それが、〝がちけん〟の総意。これに、『明鏡止水』にも付き合ってもらう》



 堂々と言い切る雅の言葉に、『明鏡止水』の主力メンバーは言葉を失った。


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