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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第7章 下層へ

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分かりやすい証明




「――俺らはその、この前の対抗戦出てたんだよ……」



 そんな一言から始まった、男子3人組による説明。

 遺恨を残さないようにという理由で他の生徒たちも見ている中で洗い浚い語らされることになった3人だが、まさに針の筵といった様相を呈していた。


 彼らが流霞たちに対して厳しい態度を取っていたのは、どうやらその対抗戦で話題を完全に掻っ攫われてしまう形となったことが起因しているようであった。

 高校生になって探索者デビューして半年と少し、レベル2になった彼らのパーティは、一般的にも成長が早いと言われるような部類に該当する。


 だから、大会で活躍して大手クランに拾われて、これからスターへの道を――という夢を見ていたものの、蓋を開けてみれば話題にすらならなかったという。



「――で、アンタたちのパーティ名は?」


「えっと、〝風の道〟っていうんだけど……」


「ランキング7位、中の上ってとこ。同じレベルの〝十字星〟に倍ぐらい差つけられてるじゃん」


「うぐ……」


「ちなみにその倍以上を中層で稼いだのがウチの〝金銀花(カプリフォリオ)〟なんだけど、まあそれはいいとしてさ。アンタたちが話題にならなかったの、単純にアンタたちが大して強くないからでしょ」


「がは……っ」



 ARグラスに大会の結果発表ページを久々に映し出した雅が、淡々と結果を見て断言すれば、当の男子たちは見えない何かに刺されたかのように胸を押さえた。


 はたしてそんなことをしている場合なのだろうか、というのが雅の本音である。

 実際、雅が成績を持ち出して正論をぶつけてみれば、教室内の空気が一段と冷え込み、彼らに向けられる目の温度の下がり方が尋常ではなくなっている。


 それを彼らも察しているのだろう。

 彼らが取った行動は、あまりにも稚拙だった。



「おっ、俺たちのことはいい! それよりおまえらだ!」


「は?」


「アンタにおまえとか呼ばれる筋合いないんだけど?」



 他責思考もここに極まれり、といったところだろう。

 そんなものをぶつけられて苛立った奏星の声と、美佳里の静かな、けれど苛立ちを隠しきれないような棘のある声が響き、少年たちがたじろぐ。


 先ほど謝罪の声をあげた男はまだしも、まだ納得いかない様子を見せて叫んだ少年は、ここまで来て引っ込みはつかなくなったのか、さらに続けた。



「うるせぇ! おまえら、なんか卑怯な手使ったんだろ!?」


「はぁ?」


「うける。〝なんか卑怯な手〟とか、そんな具体性のない指摘あり? 〝なんか嫌な感じだから〟が通用したら裁判とかいらねーわ」



 正気でそれを言っているのかと訝しむ雅と、毒舌を突き返す雪乃。

 そんな二人に冷たく言われ、少年は吐き出すように続けた。



「レベル3になったのも、その意味わかんねー強さも、どうせそっちの矢ノ沢が親父さんに泣きついて色々教わったとかそんなんだろ!」



 その一言に、教室の中の音が奇妙に止んだ。


 ――あぁ、やっぱあーしが関わるとこういうこと言い出すヤツ、出てくるかぁ。


 雅は一人、この状況を予め想定していたような様子で嘆息する。


 日本のトップクランの一つ、『明鏡止水』のクランを束ねる矢ノ沢家の血を引いているのは、今更否定のしようもない。

 人によっては「自分だって望んでこの家に生まれたくなかった!」みたいな流れになったかもしれない。もっとも、雅はそれを毛嫌いしているどころか、いっそのこと上手く利用しようとする程度には割り切って付き合っていられるタイプだが。


 いつかこういう日が来るであろうことは想定していた。

 かつては自分もそんなことを言われても言わせておけばいい、相手にしなければいいとは思っていたが、今では少し違う。


 雅の仲間である〝金銀花(カプリフォリオ)〟のメンバーは、みんな本気で頑張ってきているのだ。

 その頑張りを否定して、コネでどうにかなったなんて言われるのは、侮辱以外の何物でもない。


 雅から言わせれば、これから1年は同じクラスに在籍するのだ。

 新学年早々こんな問題を大事にしたくもない。

 だから、ある程度は穏便に済ませた方がいいのかもしれないが、さすがにこれは、仲間を侮辱するようなそのセリフだけは、看過できない。


 意を決して口を開こうとしたところで、流霞が小首を傾げた。



「ねえ、雅。いいよ? 一回やろう?」


「えっ」


「多分だけど、言っても納得しないと思うんだ。だから――」



 刹那、ずんっ、と大気が揺れるような音がしたかと思えば、男子3人が座っている周辺一帯を含めたテーブルが、椅子が、床と天井がギシギシと音を立てた。



「――これで立てるなら、話は聞いてあげる。でも、立てないなら、それはあなたたちの力不足。それ以上でもそれ以下でもないと、素直に認めてくれればいい。でも、立てないのにそれでも認めないなら、今度こそ殴る」



 表情もなく、ただただ淡々と流霞が告げる。

 魔力を操っている影響なのか、淡い光を放った手を翳す。

 銀色の髪を重力から解き放たれたようにふわりと浮かばせながら、静かに少年たちを見つめた。


 その姿に対する反応はそれぞれに分かれた。


 奏星たちは「あー、やっちゃった」と言わんばかりの表情を浮かべており、クランに所属して生産系、支援系のダンジョン因子を持っていたり、裏方に回る生徒は何が起こったのかと目を丸くする。

 そして、戦闘系のダンジョン因子を持ち、独自魔法というものに少しずつ慣れてきた他の生徒たちは、その発動の早さと加減の上手さに舌を巻いた。


 独自魔法、まだまだ実用レベルに達した者の方が少ない。

 配信で独自魔法を使っている姿を見ていたが、その難しさに呆気に取られ、どこか現実味のないフィクションの映画でも観ているような、そんな気分で受け止めていた。


 だが、今目の前で行われているそれは、あまりにも精緻だ。

 ゼロか百か、あるいは半分ぐらいのものしか出せない者が勢いで出したものでもなく、見事に安定して制御しきっている技術の塊だ。


 流霞が、そして流霞と組んでいるせいか、当たり前にそれを受け止めてみせている〝金銀花(カプリフォリオ)〟のパーティメンバーが。

 そして、そんな〝金銀花(カプリフォリオ)〟を支援していると思われている雅と、いつも一緒にいる雪乃が。

 その誰もが、一切驚きもしていなければ、焦りもしていない。


 つまり、流霞のあの独自魔法は彼女らにとってはなんら特筆するようなことでもなく、《《当たり前にできる範疇》》であるということに他ならない。



「ぐ……っ、があぁ……っ!」


「お、も……!?」


「う、ぐううぅぅ……!」


「無理な姿勢で立ち上がらない方がいいよ? 折れるから」



 無感情に告げた流霞の一言を聞いて、男たちの身体から力が抜けた。

 倒れ伏し、潰れないようにどうにか耐えながら、一人の男が声をあげる。



「……わ、わる、かった……! 俺たち、が……悪かった!」


「何が?」


「ぇ……」



 謝罪の声をあげた男に、流霞が感情を動かさない様子で訊ね返した。

 その意図が読み取れずに困惑した少年に、流霞は続けた。



「何が悪かったの? このクラスの空気を悪くしたこと? 私たちを睨んでいたこと? 私たちがズルをしたって難癖をつけようとしたこと? 自分たちの弱さが原因だって認めなかったこと? 自分たちが弱かったことそのもの? それとも、雅がズルをしたって疑ったこと? ――ねえ、何が、悪かったって言っているの?」


「ひ……っ」



 悲鳴をあげたのは、この騒動を見守っていた他の生徒である。

 声は小さく、なのに淡々と少し早口で、無感情に訊ねた姿が、なんだか理解できないものを見ているような気分になって恐怖した。



「ズルだけで強くなったと思っているの? それとも、本当は私たちも強くないって思ってるの? ――だったら、もうちょっと重くしてあげようか? 骨が砕けて、内臓が潰れるぐらいまで重くすれば、実感する?」


「よーーし、そこまでだぞー、八咫島ぁー。姫屋ー、止めてくれー。せんせー怖すぎて漏れそうだからなー」



 ふと、間の抜けた織方の声がその場に割って入ったおかげで空気が弛緩する。

 それと同時に流霞も奏星に腕を引っ張られ、重力操作を解いたようであった。


 少年たちが気絶して崩れ落ちたのは、そのすぐ後のことであった。


 この瞬間、流霞が奏星たち以外の面々から避けられるようになる未来が確定したことは、今さら言うまでもなかった。


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