格付け?
かの有名クラン、『明鏡止水』の協力もあって、世の中には今、少しずつ『第3世代』のダンジョン因子対策が広まり、独自魔法が知られ、魔力感知のためのアーティファクト利用などの機会も増えるには増えている。
しかしアーティファクトはそうそう数も多くはなく、非常に高価で貴重だ。
セキュリティ面での問題、持ち運びできるタイプであるのかどうか、魔力感知に向いているのかどうかといった諸々の問題が多いため、まだまだ世間一般でコネもないような子供たちが、気軽に立ち寄れるような環境は整っていない。
そういった生徒は積極的にダンジョンの最上層で魔物を倒し、魔素に触れ、スキルを利用して地力で魔力感知を覚えていくしかない。
その努力をしていても感覚的に魔力を用いるもの、そうではないものなどもあるため、習熟速度は十人十色といった有様ではある。
そこに不平不満を漏らすだけで努力すらできないようであるのなら、きっと探索者には向いていないだろうし、サービスが行き届くまで探索者にならなければいい、というのが大人たちの意見でもある。
ただ、国としては探索者にはある程度励んでもらいたいというのが本音だ。
ダンジョンで取れる魔石、ダンジョン由来の魔法回復薬や各種素材は、今では生活に欠かせないものなどもあるため、多く手に入れたいというのもある。
よって、教育機関であり、しかも〝全国新人探索者パーティ対抗戦で凄まじい力を発揮した『第3世代』のパーティが所属している学校〟である東京第三区画探索高校には、是非とも『第3世代』の教育を確立してほしいという意向もあり、様々な補助、助成が国から回されることになったのだそうだ。
「――まあそんな訳で、今年からウチの学校は特別クラス、ダンジョン探索や探索支援実績による授業免除なんかが増える、っつーわけだなー。ま、それでも一ヶ月に2日は最低でも出席して、報告レポートの提出があるからなー。それ忘れんなよー」
「おがにゃーん。進学したい場合は普通に授業受ければ良さげ?」
「2年の間はそれでいいぞー。3年になったらまた進学向けクラスと探索者向けクラスで分かれることにはなるから、まあその辺は案内にも目を通しておくといいかもなー」
「うぃー」
相変わらず間延びしたような語尾の伸び方が特徴的な織方が、このサンコーに起こった変化とその背景の諸々を説明していく。
ただ、そんな説明の間でも、ちらちらと周りから視線を送られている流霞たちは堪ったものではなかった。
――せめて私たちの話は暗黙の了解とか、そういう扱いにして説明してくれれば良かったのに……。
そう思ったのは流霞だけではなかったようだ。
要するにサンコーの諸々が変わったのは、流霞たちという成功事例が認められたことが起因となっている、と明言しているのだ。
そんな流霞たちにキラキラとした目を向けてくれるのはまだいい。
だが、何かを言いたげに苛立ったような目を向け、睨まれる筋合いはない。
――どうしよ……。模擬戦でボコボコにしたらちゃんと態度改めてくれるかな……? だいたい施設にいた時も、殴ってボコボコにしたらみんな黙ってたし……。
まさかコミュ障オタク少女が修羅のような考えに行き着いていることなど、彼らには想像もつかないだろう。
しかしそんな風に考えた流霞が何かを言う前に、奏星が口を開いた。
「――あのっさぁー。そっちのアンタたち、さっきからウチらになんか文句あるわけ?」
眉間に皺を寄せ、不機嫌さを滲ませる奏星の一言が、教室の中の空気を一瞬で固まらせた。
苛立ちを隠そうともせずに睨みつける奏星の周囲では、火の粉を思わせるような眩い何かが浮かんでは消えていて、今にも爆発しそうなレベルである。
一方で奏星に堂々と、真正面からそんな風に言われた数名――男子3人組は、まさか真正面から啖呵を切って来るとは思ってもいなかったのか、びくりと肩を震わせていた。
「おーい、姫屋ー。頼むから怪我人とか、校舎の放火とかはやめてくれー。あと、ちゃんと生活できる程度までしか痛めつけないでくれよー」
「……せ、先生。止めないんですか……?」
「いやー、無理だろー。ぶっちゃけ俺から見ててもそっちの3人は態度悪かったからなー。一回痛い目見た方がいいんじゃないかー?」
「えっ」
「探索者ってのはなー、昔はもっと野蛮な連中が多かったんだよなー。普通の人よりも強くなって、力を持つだろー? だから、増長して驕るようなヤツも珍しくはなかったんだよなぁ。そいつら3人、どーせそういうタイプだろー? だったら加減ができる姫屋がどうにかしてくれる方が平和だろー」
織方が言う通り、一昔前はもっと治安は悪化していたのだ。
思春期の少年少女が、身の丈に合わない力を手に入れてしまうことによって、無意味に声が大きくなってしまったり、あるいはその力を振るって周囲を従えようとしたり、だ。
そもそも、そんな力がなくても仲間とつるんで馬鹿な真似をするような年代である。
当然のように自制心が足りていない者は多かった。
そういう者たちは、大抵もっと強い年上に抑制されることになった。
出る杭は打たれる、とまでは言わないが、やり過ぎてしまって自分よりも強い相手にぶつかり、痛い思いをしながら学ぶ、というのも思春期には珍しくもないことではあった。
今回のケースで言えば、奏星がそれを担ってくれるのであれば、それはそれでちょうどいいだろう、というのが織方の本音であった。
このままむすっとして授業を受けられたりしたら教師という立場の織方の苛立ちも募るであろうし、何より面倒臭い。
そして何より――――
「あのなー、おまえらー。分かってないかもしんないけどなー。姫屋より八咫島の方が圧倒的にヤバいからなー? アイツ、ロッドで撲殺する系女子だぞー? あっちがキレたらもう止まんねーんじゃねーかって俺は思ってるぞー」
「っ!?」
――――織方から言わせれば、圧倒的にヤバいのは流霞なのだから。
そう思いながら織方が声をかけてきた女子生徒に言えば、女子生徒たちは恐る恐る流霞を見て、そして身を震わせた。
――ひ、ひぃぃ……っ!? こ、ここ、口角あがってるううぅぅ……! き、きひ子ちゃんになってるううぅぅ……!?
この教室にいる者たちは、当然ながらに〝金銀花〟の配信をチェックしている。
そんな彼ら彼女らが抱いている流霞への印象は、「きひ子ちゃんはきひってるとヤバいけど、普段はちょっと小動物っぽい感じがして可愛いかも」ぐらいの印象でしかなかった。
だが、不機嫌そうな奏星の後ろの席にいるらしい流霞は、すでに顔を少しだけ俯かせながら、先ほどまでは無表情を貫いていたはずなのに、今となっては口角が数センチばかり上がり始めているのだ。
「っ、お、俺たちは、別にそんなつもりじゃ……!」
「はぁ? そんなつもりもないのにあんな睨んでたっつーわけ? 目悪いから眉間に皺寄ってましたーとか? そんなん通じるわけなくね?」
「そ、それは……っ」
「別にさー、ウチらは全員に好かれようとか思ってねーから、アンタたちが嫌ってようがなんだろうがどうでもいいんだよ。けどさー、さっきから睨んできたり不機嫌そうにしてくんの、こっちだってムカつくんだわ」
轟、と奏星の目の前で炎が噴き出す。
同時に、教室全体を圧迫するような強烈な存在感が放たれて、その場にいた生徒たち――その中でも、クランに所属して支援活動に従事しているレベル1の生徒たちは、息ができないような重圧感に襲われた。
咄嗟に織方が声をあげようとして――しかしその寸前で、流霞が奏星の前に立った。
「――奏星、落ち着いて」
「……るかちー」
「別に、いいよ。文句があるなら、殴ろう?」
――えっ?
教室中の生徒たちの心の声が、まったく同じ言葉を思い浮かべる。
そんな中で流霞は淡々と続けた。
「でも、ほら。わ、私たちに何もしてない人を巻き込むのは可哀想、だから……。あの3人だけ二度とそんな態度取らないように、全員殴って終わらせればいいかなって――」
「――すみませんでしたあああぁぁぁっっっっ!」
先ほどから睨みつけるような目をしてきた男子たちが、流霞が「殴って終わらせればいい」と言った瞬間に立ち上がり、直角に頭を下げて声をあげる。
その様子を見て雅と雪乃、美佳里は腹が痛いとばかりに笑いを堪える。
彼女たちは知っているのだ、流霞のバーサーカーぶりを。
育った環境が環境だったせいか、見た目とは裏腹に「殴って黙らせる」ぐらいのことは許容するし、やるタイプである、と。
織方も「やっぱそうなるよなー」と相変わらずの脱力ぶりを発揮。
巻き込まれかけた他の生徒たちからは「もっとちゃんと謝れ、土下座しろ!」という気持ちを込めて、冷たい視線が3人組へと集まった。
そんな中、流霞がきょとんとした表情で首を傾げた。
「……えっ? その、本気ではやらないから安心していいよ? ちょっと気絶したりとかはすると思うけど――」
「――勘弁してくださいっっっっ!」
さすがに目の前でこんな光景を見せられて、奏星も苛立ちを引っ込めるべく溜息を吐き出したのであった。




