クラス名は『特2―Sa』
探索高校と名付けられた高校にも、進級時のクラス替えは発生する。
ただし、通常の学校とは異なり、同一パーティ、クランに所属している生徒をある程度は同じクラスになるよう配慮される。
というのも、探索による公休などが認められている都合上、授業の進捗状況の把握なども考えた場合に手間が増えるという学校側の都合もあるためだ。
余談ではあるが、進級時のクラスの確認は生徒用のログインページから確認できるものだ。一昔前のような張り出し式ではない。
登校する前にそちらを確認して、それぞれに定められた場所へと向かうことになる。
さらに言えば、学校は外履きで出入りすることが推奨されているため、上履きという文化もなくなっていたりもする。
これはダンジョン、魔物という存在が突然出てきたり、万が一の際に即座に外に出て活動することも視野に入っているためだ。
そんな一昔前の学校と現代の学校の変化はともかく、流霞は感激していた。
ついにクラス替えによって話す相手がいなくなり、ぼっち生活に舞い戻る心配がなくなったのだ。
これは流霞にとっては非常に大きい。
それだけで登校に対するストレスが軽減されるのだ。
見ず知らずの生徒が多いクラス、次々出来ていくグループ、取り残される一人ぼっちの時間というものから解放されたのだから。
あっという間にできるグループから疎外され、ついこの間まで喋っていたのに進級すると同時に顔を合わせても会話もしなくなるというような、そういう柵から解放されたのだ。
「……みんな、私と組んでくれてありがとう……」
「え、いきなりどした?」
「突然過ぎてうけるわ」
「たまにるかちーこーゆーとこある」
「それな」
そんな流霞の心情に、知らない生徒がいる方がむしろ友達が新しく増えるかも、ぐらいのレベルの陽キャである奏星たちが気付くはずもない。
そんなコミュ障オタク少女とギャルたちの心温まらないやり取りを他所に、流霞たちは自分たちの教室へと向かった。
高校の敷地はかなり広いが、昔に比べて生徒数が減っているせいもあって、かなり空き教室であったり空き校舎というものがあった。
今回流霞たちが通う教室は、どうやらその空き校舎であった場所であるらしく、ナビに従ってみんなで移動している。
「へー、こっち側ってこんな感じなんだ。あんまきたことないわ」
「どっちかっていうと古い木造系の建物多めな感じかー。でもやけに綺麗になってない?」
「年明けから改装してたっぽいよ」
「へー」
奏星と雅の会話が流れるように進む。
流霞から見ればテンポが早すぎる会話で口を挟む余地がない。
そのため、こうして数名でいる時は口を噤んで聞き役に徹してしまうという、コミュ障ぶりを発揮してふんふんと一人頷いている。
「そういえばさぁ、なんかウチらのクラス名、変じゃなかった?」
「あーね。普通なら『2―A』とかなのに、おかしかったよね」
「『特2―Sa』だって」
一方で始まった雪乃と美佳里の会話。
それならば答えられる、と好機を見出した流霞が自分たちのクラス名を読み上げた。
これだけで会話に参加した気分になるのが流霞である。
とは言え、答えた流霞もクラス名が気にはなっていたが細かくは調べていない。
クラス替えでぼっちにならないことを確認できただけで満足していたのだ。
ぼっちにならないだけであとは些事だとでも言わんばかりの態度、肝が据わっているのかいないのか、なかなかに謎の判断基準を有していた。
そんな中、雅が前を歩きながら振り返った。
「それ、あーしも気になって調べたんだけどさー。去年までこういうクラスはなかったっぽいよ」
「そうなん?」
「うん。つか、ある意味るかちーと奏星、それにミカミカのせいでできたクラスだし」
「は?」
「えっ?」
「なにそれ?」
教室に向かいながら雅が説明していく。
昨年の全国新人探索者パーティ対抗戦。
流霞たち〝金銀花〟たちは、担任教師である三十代中盤の男性教師――織方 勝己から、学校の公認パーティとして参加してほしい、と頼まれていた。
メリットはダンジョン探索の公休日数が増えるというものでしかなかったが、貰えるものは貰っておきたいと考え、引き受けることにしたのは確かだ。
しかし、レベル3パーティとしてぶっちぎりのスコアで優勝した流霞たち〝金銀花〟という存在は、織方が、そして学校側が想定していた以上に名が売れることになってしまったのだ。
これには当然、幾つかの要素が重なっている。
まずそもそも、現状『第3世代』と呼ばれる子供たちのダンジョン因子が特殊過ぎて、なかなか活躍できる探索者が育っていないこと。
そんな中で『第3世代』のダンジョン因子持ちであり、しかも同年代の中で唯一頭が一つ飛び抜けていた〝金銀花〟という存在は、なかなかに注目を集めることになった。
さらに、そんな〝金銀花〟を調べていけば、この1年で数多くのダンジョンに関する新発見を発表している、日本の大手クラン『明鏡止水』の矢ノ沢家の末娘が、そんな〝金銀花〟と懇意にしている、という話もちらほらと流れているのだ。
そこで多くの学生は考えた。
つまり〝金銀花〟とは『明鏡止水』の恩恵に与って成長したパーティであり、末娘のために『明鏡止水』がサンコーに対し、『第3世代』教育のノウハウを与えているのではないか、と。
さらには、そんな実績がある者たちならば、『第3世代』のダンジョン因子を手に入れても大成できる近道になる、または一緒に組むこともできるのではないかと考える探索者希望の中学生たちが、東京第3区画探索高校ことサンコーを進学先に選ぶことになったのだ。
そしてさらに、2年目からの転入希望の数々だ。
ダンジョン探索者を目指しながら、しかし『第3世代』のダンジョン因子によって何も分からないまま燻っていた生徒が、一縷の望みに縋るように転入してきたという者もいる。
「――で、この学校としても生徒を多く引き入れたかったってのは事実だけど、それがあまりにも多すぎっから、特別クラスを増やしてるっぽいねー」
「へー。よく知ってんね、雅」
「……いちお言っとくけど、生徒向けのお知らせページに『入学・転入希望者の増加によるクラス制度の変更について』っつって書いてあっからね?」
「マ? ……うわ、ガチじゃん」
「こんなん読まねーわ」
「いや、メールで読むようにって回ってきたじゃん。……うわ、全員目ぇ逸らしてんし」
奏星に冷静なツッコミを返した雅を他所に、該当のページを確認した雪乃と、追従した美佳里がそれぞれに感想を漏らす。
ちなみに流霞も学校からのお知らせメールなんてものはいちいち読んだりしない。流し読みして読んだ気になって即閉じ、忘れてしまうタイプであるため、視線をそっと逸らしていた。
このJKたち、雅がいなかったら色々な部分で問題にぶつかり続けていたに違いなかった。
「ま、契約とかならウチらがフォローすっから、その辺はテキトーでもいーけどさ。それより、ここからが大事な話なんよ」
「うん?」
「ウチらのクラス、『特2―Sa』ってのだけど、このクラスはクランとパーティに所属している生徒だけのクラスっぽいんよね。だから、ダンジョン探索に慣れてる人が多いってこと」
「ほうほう。……うん? それ、何が問題なん?」
「手合わせっつか組手っつーか。そういうのが授業に入ってきたりすっから、実力差あり過ぎてレベル疑われる可能性あるんよ」
「……ガチ?」
「ガチ」
ある意味、〝金銀花〟のメンバーたちにとっては面倒な状況になるかもしれない。
そんなことを改めて考えながら話している間に、一行は『特2―Sa』のクラスが利用する教室の前へと到着した。
「――おー、来たなー」
「あれ、おがにゃんじゃん」
「なんでいんの? つか早くね?」
「おう、おっさんにおがにゃんは辞めろって言ってんだろー? このクラスの担任は俺になったからなー。今年こそ、ちゃんと織方先生って呼べよー」
「マジかー。よろしく、おがにゃん」
「話聞けー?」
相変わらずの何処か間延びしたような喋り方が特徴的な教師である織方に声をかけられて、雅たちが教室にどかどかと入っていく。
その一番後ろで、流霞も教室に入って教室内をちらりと見回した。
教室は、かつては視聴覚室として使われていた一室だ。
横長のテーブルが奥に行くほど高い場所に置かれていて、一般的な教室の平面型の造りとは全く違う。
生徒の数は13人。
流霞たちがやって来たことに目を輝かせる者、何か不満でもあるのかむっとした表情で見つめてくる者、興味のない者など、視線の種類は様々ではある。
「ほら、まだ生徒きてないじゃん」
「さてはクラス分けのページでクラスの名簿見てねーなー? 矢ノ沢たち含めて18人。『特2―Sa』はそれで全員だぞー」
「え、すくな」
「このクラスは特殊だからなぁー。ま、色々説明してやるから、適当に座れー。席順とかないから、適当に空いてるとこにまとまって座っていいぞー」
「お、マジで? んじゃ空いてんとこいこー」
「あそこ良くね? 右奥んとこ」
「おけおけ、いこー」
奏星と雅が話しながら席を決めて移動を開始する。
雪乃や美佳里と共にそれについていきながら、流霞は内心で困惑していた。
――えぇ……? なんかすっごい不満そうな顔してる人いる……。
若干3名ほど、流霞たちのことが面白くないのか睨むような目をしている者たちがいるようだ。
視線には敏感な流霞だけが、それに気が付いているようであった。




