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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第1章 〝金銀花〟結成!

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アーティファクト




 東京第三区画探索高校――通称、〝サンコー〟の中にある〝がちけん〟の部室。

 その中には妙に気疲れした様子の奏星と、同じように気疲れからいっそ脱力したように項垂れた流霞の姿があった。



「宝くじに当たった人が周りの全員が泥棒に見えるってアレ、ホントだったんだ……」


「ウケる」


「ウケないで……」



 燃え尽きた様子の流霞のぼやきに返ってきた、美佳里の一言。

 そんなギャルならではの「とりあえずウケとけ」みたいなノリで返されても困る、と流霞が割と本気のトーンで呟く中、雅と雪乃がテーブルの上に置かれた宝箱の中身(・・・・・)を検分するようにARレンズ越しに眺めていた。


 物体の形状、色合い、サイズ感を調べるべく、ARレンズ越しに見ている〝中身〟には小さな光の四角形が浮かび上がっているように見える。

 そうして一通り輪郭の全てをスキャンしたところで表示された内容を、雪乃がARレンズを外しながら伝えた。



「……ん、雅。やっぱ該当なし」


「こっちも。……そうだとは思ったけど、やっぱり……」


「ってことは……ガチ?」


「うん。あーしも色々なものは見てきたけど、記憶になかったからね。でも、こうしてスキャンしてハッキリしたね……」



 主に精神疲労によって軟体動物さながらにぐにゃぐにゃだった流霞がちらりと雅を見やれば、雅の目は爛々と輝いていて、けれど緊張しているような、なのに楽しそうな、そんな複雑な表情を浮かべて続けた。



「――これ、発見事例のない〝ダンジョン産の魔法道具〟だよ……」



 雅の一言に、水を打ったような静けさが広がった。


 発見事例のない〝ダンジョン産の魔法道具〟――通称、アーティファクト。

 未知の技術が使われており、多種多様な科学技術を用いた分析、解析を行っても、その仕組みも素材も、何一つとして判明しない――いわゆる『分からないことが判った』というような代物である。


 ただし、アーティファクトには共通していることがある。

 それはどれも、人間がこれまで研究し、積み重ねてきた科学も、法則すらも超越した代物ばかりで、再現しようとしておきながらも劣化品すら生み出せない、ということだ。

 しかも、それ一つあれば数十から数百億という金額が飛び交う程の高値で取引されるという、色々な意味で問題だらけの代物だ。


 言葉を失った雪乃と美佳里、それに奏星はもちろん、流霞とてアーティファクトという存在は耳にしたことがあった。当然、その価値も、だ。



「……た、宝くじよりもヤバかった……ッ!?」


「ぶはっ、ちょっ、るかち……!」


「……ふ、くくく……っ」


「ねーわー、ここでその感想はねーわー」


「え、えぇ? そ、そうかな? だって、その水差し(・・・)みたいなのがそんな価値あるなんて言われてもピンと来ないっていうか……」



 庶民根性丸出しの流霞のせいで、止まっていた時間が動き出すように雪乃、美佳里、そして奏星が反応し、流霞が口を尖らせた。


 そう、宝箱から出てきたアーティファクトは、深い青色をしており、意匠の凝った彫刻が施されたアンティーク調の水差しであったのだ。しかし中身は空っぽで、振ってみても水音はしなかった。


 まさかアーティファクトだったとは思いもしなかった、と素直に驚いている流霞と奏星であったが、その一方で、雅は件のアーティファクトをじっと見つめたまま固まっていた。

 そんな雅の姿を一瞥して、美佳里がぽりぽりと頬を掻いてから両手を頭の上で組んだ。



「んで、雅、どするん?」


「どうって?」


「いや、それ。売らないっしょ? 何から実験すんのって話」


「え……」



 美佳里からの問いかけ、そして告げられた言葉に、雅が目を丸くして雪乃、それに奏星と流霞にも視線を送って、気が付く。


 その場にいる誰も、売らないという言葉を聞いても何一つ疑問に思っていない。

 当たり前のように実験の内容を聞きたがっていることがよく分かる、そんな表情をしていることに。



「ちょ……、ちょっと、待って……? みんな、これ、売らなくていいん? だって、これ、売ったらみんな一瞬でお金持ち、だけど?」


「はー? ヘイヘイ、ゆっきー。雅、頭おかしくなってんけどー?」


「それなー。いや、雅の言いたいことは分かんよ? そりゃあ、みんなだってお金は欲しーし、大切じゃん? けどさ、そんなんだったら〝がちけん〟じゃないっしょ?」


「それはあーしもそう思う。るかちは?」


「お、推し活できる程度のお小遣いは欲しいけど、大金はちょっと……なんか怖いし」


「おしかつ……? なんそれ? 串カツ的な?」


「あっ、えっ、ちが……! そ、そんなことよりほら、今はやっぱり実験の方が大事だと思う! 私も分からないことだらけだし!」



 美佳里は言うまでもないと言いたげに、雪乃は〝がちけん〟の在り方を説くように。

 奏星はそんな雪乃の言葉が当たり前のものだと言いたげに同意し、流霞もまた、ナチュラルな小心者らしいものの、けれど順番は間違えない。

 誰もが当たり前のことを当たり前のように、口々に告げてみせたのだ。



「じ、実験して壊れたりするかもじゃん……!? そうなったら、損だよ!? 分かってんの!?」


「そりゃそーだけど、公開配信してなかったんだし、別に誰も文句言わないっしょ?」


「は……?」


「んなことより、ウチらの因子早く使えるようになりたいし。壊れたら壊れたで、まあしゃーなしじゃん?」



 これが5年後だったとしても、きっと誰も、何も変わらなかっただろう。

 10年後だったら、20年後だったのなら、きっとお金を手に入れてそこであとは趣味程度に研究を、というような大人らしい道(・・・・・・)を探ろうとしたかもしれない。


 けれど、ここにいるのは。

 他ならぬ雅が集めたこのメンバーたちは、誰もが今を一生懸命に駆け抜けようとする、実に子供らしくも真っ直ぐな者たちだった。


 そのあまりの真っ直ぐさに、雅が硬直する中、奏星が何かを思いついたように立ち上がり、アーティファクトの水差しを手に取った。



「るかち、るかちだったらこれ、まず何する?」


「えっ? えーっと、とりあえず……水入れる、とか? 水差しだし」


「おけ。廊下の水道行って入れよー」


「あ、うん」



 これからプランターのお花にジョウロで水をあげます、とでも言うような軽いテンションでアーティファクトを持ち上げて歩き出す奏星が、流霞を連れて廊下へ出ていく。



「は……、ちょ……っ!?」


「それ水漏れたりしないー?」


「雑巾あったっけ? ゆすいで綺麗に拭こうよ」



 困惑の声をあげる雅を他所に、今度は雪乃までもが廊下に出て、さっさと奏星と流霞について行ってしまった。

 そうして部室に残されたまま呆然としていた雅に、美佳里が笑いながら告げる。



「雅ぃ、ウチらがお金ぐらいで満足すると思ってんの? あのさ、アンタが集めたウチらのこと、あんまナメんなよなー」


「ぇ……」


「アンタが見た夢はウチらの夢でもあんだよ。アンタさ、ウチらがお金だけもらって満足して、もしここからいなくなっても、それはそれでしょうがない、なんて。そんな風に思ったんでしょ」


「っ、そ、れは……」


「バーカ。お金なんかより、色んなこと知って、因子が使えるようになって、もっと色んなことできた方が楽しいに決まってんじゃん。変なとこで遠慮すんなよ、バカ雅」


「……ごめん。もしかしたらって、そう思っちゃって……」


「はぁー。地味に雅って根っこは真面目ちゃんすぎん? むしろさー、こう、アーティファクトは使わせろー! そんかし、アーティファクト売ったより稼げるようにしてやっからついてこーい! ぐらい言うような女になれー?」


「……んふ、なにそれかっけー」


「だろー?」



 美佳里の言葉は、いちいち雅の内心を言い当てていた。


 アーティファクトを売れば、確実にお金になる。

 だから、それを売って実験を続けて、研究を重ねていくのも悪くないだろうし、それが現実的な道なのだと。それこそがみんなのためになるのでは、と、雅はそんな風に考えていたのだ。


 けれど、美佳里も雪乃も、奏星も、それどころか流霞でさえも、そんなことは気にしてはいないのだとさっさと動いてしまった。


 利口じゃないかもしれない。

 成果も出ないものに期待して、目の前のアーティファクトを無駄にするかもしれない。

 それでも、誰一人として迷ってすらいないまま、動き出してしまった。



「……分かったよ。あーしも腹ぁ括るわ。見とけよー、ミカミカ。あーし、ガチでそれやっから」


「お、やっちゃう?」


「うん。どうせならとことん、やるだけやってみよう。今すぐには無理でも――」



 と、熱く決意を語ろうとした、その矢先に廊下から叫び声が聞こえてきた。



「わー、みてみて奏星、ゆっきー! この水、魔力に反応して光ってるっぽい! きれー!」


「え、マジ!?」


「というかなんで魔力流したし!?」



 流霞の珍しい明るい声。

 その珍しさのせいではなく、むしろその流霞が口走った内容(・・)のせいで、美佳里と雅の二人が見事に固まった。



「え、だってアーティファクトって言うぐらいだからスキルみたいに魔力流さなきゃなのかなって。あっ、でね、もっとスキル使う時みたいにぎゅんってすると、ほら!」


「眩しっ!? は!? えっ!? なにそれ!? なんでこんな眩しくなったん!?」


「絞る感じだと……あ、やっぱ弱くなった。これ、中に入った水を『魔力に反応する水』に変換してるのかな? 注ぐ魔力で光り方も変わるみたい」


「――……は?」



 流霞の言っている言葉が本当なのだとしたら、それがどれだけ重要なもの(・・・・・)であるのかを理解している美佳里と雅の二人は、一斉に顔を見合わせ、同じ疑問を抱きつつ、同じ声を発した。


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