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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第6章 常識を覆せ

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第6章 エピローグ



「――ま、それが妥当やな。ただでさえ、この短い期間でレベルが2も上がったっちゅーんは普通やない。ましてや……」



 瑛里華が言葉を区切って視線を向けた先。

 そこにいたのは、配信時のクールさを引っ込めた普段の莉緒菜であり、今はなんだか所在なさげに乾いた笑みを浮かべている。


 そんなパーティリーダーの姿に力が抜けたような笑みを浮かべて、瑛里華が肩をすくめた。



「レベル2アップどころか、3アップしてウチらに並んできおったからな。ウチのリーダーは」


「あはは……。いやぁ、さすがに驚いたよ、私も……」



 そう、莉緒菜はこの遠征でレベル6にまで上がってしまったのである。

 お陰様で念願のパーティ全員横並びにはなったと莉緒菜は喜んでいたのだが、そんな莉緒菜の喜びに水を差すつもりはないが、一気に上がり過ぎてしまっているのは否定しようがない事実だ。


 この短い期間中にレベルアップできたとなれば、まず間違いなく騒動になる。

 それどころか、効率の良いレベルアップ方法を秘匿し、〝金銀花(カプリフォリオ)〟を鍛え、虚偽のレベル報告で全国新人探索者パーティ対抗戦に参加していたのではないかと騒ぎ立てる者も出てきそうだ。


 どう転んでも公表する旨味がなく、いっそ面倒が増えるしかないとなれば、隠す方が妥当だろう。



「ま、ウチらも尋常やないけど、それよりるかちーたちの方があかんやろ」


「……高校1年生でレベル3でも稀ですからね。それがレベル4を通り越えて全員がレベル5にもなってしまえば、さすがにいらない騒動を招くことになるでしょうからね」



 瑛里華に同意し、改めて紅音がぽつりと呟く。


 莉緒菜が一気にレベルアップしたというのは、百歩譲って有り得なくはないことだ。それだけの年月を探索者として過ごしており、かつ、これまでにレベルアップのための何かが足りず、それを解決したことで一気にレベル6になった、と言われれば、まだ有り得なくもない、とも言えるかもしれない。


 だが、高校1年生、しかも高校1年目の年末にレベル5になりました、なんて話はあまりにも表の現実との乖離が激しい。到底受け入れられないだろう。



「しかも雅とゆっきーもレベル3って、普通に上がり過ぎだし」


「にしし、やったぜ」


「こんな上がるとは思わんかったわー。できること増えてヤベーって」



 改めてレベルアップの道のりを考え、自分はレベル3になるのに修羅場を潜ったのに、とでも言いたげにツッコミを入れた美佳里に、雅が満面の笑みを浮かべてみせ、雪乃も満足げに告げる。

 最初から毒気があったわけではないが、二人のそんな様子に毒気があったとしても抜かれそうだ。


 そんな二人もさっきまで身体を動かし続けていたのだが、二人は力の加減はそこまでおかしなことにはならなかったのか、すぐに感覚を取り戻して早速とばかりに作業に没頭していたようであった。

 どうやら新たなスキルが色々と幅を広げるに至ったようで、ほくほくとした表情を浮かべている。


 そんな一連のやり取りを見て、紅音が苦笑した。



「結果だけ見れば今回の遠征は大成功ですが、配信では注意が必要ですね……。〝金銀花(カプリフォリオ)〟には《《強火ファン》》もいるので、誤魔化しきれるかは分かりませんが、アレならば無理に追及してくる可能性は低いので無視で問題ないでしょう。それより、今回の遠征でレベルアップのメカニズムを知れたのは大きいです」


「『因子の活性化』、『因子の方向性の成長』、『肉体の魔素汚染度の上昇による因子成長』。で、レベル7になるために必要なのが……」


「〝《《因子成長》》〟、だっけ」


「〝鴉〟ちゃんが言うには、そうらしいね。スキル拡張が因子に影響を与えて、因子そのものが一つ上のステージに上がるとかなんとかって」



 崩壊地域から戻る最中、レベル6からレベル7に上がるために必要なこととして〝鴉〟から聞かされたのが、その〝因子成長〟という要素だった。

 レベルアップの3要素、その全てが一定の水準に達して初めて可能になるもの。

 表の探索者が明確にスキル拡張に至れていないために突破できない、レベル7への鍵だ。



「〝鴉〟ちゃんが言うには、ウチらはもうスキル拡張に届いているから、特にぶつかることもなく突破できるんじゃないかっつー話じゃん?」


「っぽいねー。けどさー、ぶっちゃけ〝鴉〟ちゃんたち見ちゃったから、レベル7って聞いてもすげーってなるけど、ぶち上げるような感じにならんくね?」


「……まあ、それはそうだわ」



 まだ『亡霊の庭園(ニヴルヘイム)』を知らなかった頃だったなら、レベル7になれればそれこそ世界最高の探索者になれたと喜んだり、尊敬したりもしたかもしれない。

 だが、雅と雪乃が言う通り、今になってレベル7と聞かされても、努力したんだなぁ、すごいなぁ、ぐらいの感想は抱くだろうが、かと言って憧憬を抱くほどとは言い難いな、と流霞も思う。


 この瞬間、どこぞの〝不法探索者(アビューザー)〟たちのせいで、レベル7になれたとしても末娘からは「へー、おめっとー」ぐらいしか返ってこなくなったことが確定したパパンは泣いてもいい。


 とは言え、表にいる人間がレベル7になれば、当然スキル拡張も世の中に言及されることになるだろう。

 その時に傑か、あるいは雅の姉がレベル7に至り、スキル拡張というものを公表したい、というのが雅の母である瑤子と傑の構想にはある。


 もっとも、本音を言えば「そろそろどっか他からそういう発表してほしい」というのが本音ではあるのだが。

 独自魔法に続いてこうした情報も『明鏡止水』が発表することになれば、必然、注目をさらに集めて色々と面倒事が増えてしまう。


 そろそろ似たような注目を浴びるという苦行を味わい、胃の痛さを共有できるフレンズが欲しい傑である。



「〝がちけん〟としては、今後もダンジョン探索とダンジョンの謎を解き明かすことが第一目標ですからね。〝金銀花(カプリフォリオ)〟、そして〝魔女の饗宴〟の皆さんが強くなり、下層にもトライできるようになれば、より多くの未知が待っているのは間違いありませんね」


「それな。まだ誰も見たことないようなトコとか、やっぱ解き明かしていきたいよなー」


「下層素材気になるわー」



 締め括るようにして紅音が言えば、雅が未知に対して胸をときめかせて目を輝かせ、雪乃が楽しそうに声をあげる。

 そんな二人に周りからやんややんやとツッコミが入ったり、盛り上がったりもする中で、流霞だけはぼんやりと考え事をしていた。


 今回世話になった『亡霊の庭園(ニヴルヘイム)』の面々の悲願は、神奈川の奪還。

 彼らにとっても戦力、そして表側の協力が欲しいというところから、今後は色々と協力していくことも多くなる。


 それに加えて、人為的『魔物氾濫(スタンピード)』事件の騒動の終息後、不気味に沈黙している探索者協会についても、流霞はまだ終わっていないような気がしていた。


 最近ではすっかり静まってはいるが、どうにもスッキリとしない解決を見せたあの一件で探索者協会は揺れたが、しかし妙に立て直しが早かった。


 いや、早すぎたと言ってもいいだろう。

 まるで何かもっと裏の、奥の方で蠢いている何かによって整えられた道筋を辿ったような、不気味さがあるような気がしてならなかった。


 もしも本当にそんな存在がいるとしたら、最悪の場合、『亡霊の庭園(ニヴルヘイム)』と同じぐらいの強さを持つ者たちもいるかもしれない。

 そんな存在が現れた時に、降り掛かった火の粉を払えるだけの強さを手に入れなければ安心などできないと、流霞は強く感じている。


 ――もっと。もっともっと、強く、ならなきゃ。


 きゃっきゃと盛り上がる雅や雪乃、一緒になって笑う奏星や美佳里と、そんな面々の話を聞きながらもくすくすと笑う紅音。

 一方で、長い付き合いから気安い関係を築いて話し合い、なんだかんだで先輩としても色々と支えてくれている〝魔女の饗宴〟の面々。


 ――この光景を守るために、私は、もっと強くなりたい。


 何が立ち塞がっても、何が牙を剥いてこようとも、それらに負けず、跳ね返せるように。

 そんな風に、流霞は改めて強く意識していた。




 やがて年は明けて、流霞たちは比較的穏やかに配信を再開した。

 力の加減はともかく、まずは強くなることを意識するという名目で時間をかけて、冬の間は中層で魔物狩りを続けながら、それぞれにスキルを意識して活動を続けていく。




 ――――そうして、流霞たちの最初の1年は終わって、春がきた。






第6章 〈了〉





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