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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第6章 常識を覆せ

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グラトノス戦 Ⅰ




「――そこで自分だけでなら勝てる、みたいに言われたら、さすがのあーしもキレてたわー」


「るかちー、マジでやる気ありすぎ」



 流霞を追いかけるようにして歩いてきた奏星と美佳里。

 笑いながら流霞と並んで立ってみせると、奏星は細剣を、美佳里は魔法銃を手にグラトノスを見つめた。



「ウチらの攻撃が効くのかも試したいなー」


「いけそうじゃね?」


「どうだろ。〝超常級〟ってなるとそう簡単にやられてくれると思えないけど」



 先ほど見せた雅と雪乃の連携による、レッドヒュージスライム討伐。

 あれがもしもグラトノスにも通用するのであれば、あるいは二人だけでも勝てる可能性もあるだろう。


 奏星と美佳里に続いて前にやってきた雅と雪乃。

 しかしその横に並んだ〝鴉〟が、溜息を吐いた。



「確かにレッドヒュージスライムには通用したけど、グラトノス相手じゃ倒しきる前に対策されるのが目に見えているにゃりにゃ。ま、試すだけならやってみるといいにゃ。ボクと〝影〟でフォローはしてあげるにゃりよ」


「さっすが!」


「よろしくー」



 まさかの生産職、しかもレベルの低い状態で〝超常級〟に挑もうとするという、あまりにも予想外な行動に驚愕している中、勝手にフォローに回る約束まで〝鴉〟に取り付けられていた〝影〟が唖然とする。

 もちろん実力的にはその程度は確かに造作もないことではあるのだが、それはそれとして勝手に決めないでほしい、と〝影〟は思う。


 だが、言えない。

 この状況でやりたくないなどと言えば、ギャルたちからノリが悪いと叱られ、冷たく睨まれると容易に想像(妄想)できてしまうからだ。


 もっとも、実際にそんなことを言ったとしても誰も責めたりはしないのだが。



「私たちも、どこまでやれるか試したいと思っていたわ」


「せやな。さすがに一体寄越せなんて言わへんけど」


「ふふふ、相性がもう少し良い相手なら、試したいところよね~」


「ん、その速さに勝てるか気になってた」



 さらに〝魔女の饗宴〟もやってくる。


 聖奈が言った通りではあるのだが、今回ばかりは〝魔女の饗宴〟のメンバーとは相性の悪い相手だ。もう一体を寄越せとは瑛里華ではなくとも言わない。

 とは言え、これからもダンジョンを探索し、強い魔物と出会うのであれば、相性が悪いからというだけで戦いを避けられるとは限らない。


 そういった時に対応する方法を戦いの中で見つけられなくては、探索者として生きていくのも難しくなるだろう。

 故に、〝魔女の饗宴〟もまたこの戦いに参加するべく、流霞らと共に並び立った。


 そうした彼女たちの決意は、グラトノスにしっかりと伝わっていた。


 ――忌々しい。

 そう言わんばかりに〝虎〟に殴り飛ばされ、まともに戦えずにいた巨狼型のグラトノスは、さながら巨狼そのものを思わせるように牙を剥いた。


 先ほどまで相手していた〝虎〟は強すぎた。

 このまま戦ったとて、勝ち目がなさそうだとグラトノスも薄々と実感していた。

 だが、流霞たちからはそこまでの強さを、脅威を感じてはいなかった。


 だからこそ、グラトノスは余計に腹立たしいと感じていた。

 舐められている、と。

 そんな風に思えてならなかったからだ。


 ――叩き潰してくれる……!



「――来る」



 真っ直ぐ、爛々と目を輝かせた流霞が呟くとほぼ同時に、巨狼型のグラトノスから触手のように身体の一部が伸びて殺到する。

 何本、何十本というそれが伸びて迫る中、それぞれにスキルと魔力障壁を上手く使いながら回避、迎撃する。


 奏星は魔力を〝焼失〟の対象にした炎を放って自分たちに向かってくるものを燃やし、美佳里は【色彩豊かな魔弾ヴィヴィッド・カラーズ】の【凍結弾】をぶつけ、凍らせて自由を奪う。


 さらにその横から、雪乃が魔装を構え、魔力を練り上げる。



「――【裁断】!」



 叫び、魔装の鋏を閉じる。

 同時に複数の触手が切断され、それらを雅がすでに発動させていた【魔法薬素材指定/酸性魔力水/抽出】によって集め、魔力液体の支配権を奪っていく。


 しかし、〝鴉〟の読みは正しかった。

 グラトノスは雅のスキルによる現象を理解していたのか、それともただ単純にこの場で読み切ったのか。

 どちらにせよ、無防備に受けるつもりはないと言わんばかりに、あっさりと対象となった魔力液体の触手を自ら切り離してみせたのだ。



「っ、対処された!」


「だから言ったにゃりよ。〝超常級〟は頭が回るにゃりにゃ。一瞬でこちらの動きに対応してくるのも珍しくはないにゃ」


「とりあえず攻撃してくるのは切るから、処分よろ! ――【裁断】!」


「りょ!」



 元々、倒せればラッキーぐらいの感覚でしかなかった雅や雪乃は、対処されたからと言って大して気にする様子もなく思考を切り替えていた。

 その芯の強さと言うべきか、あるいは神経の図太さとでも言うような態度に素直に感心しつつも、〝鴉〟は改めて「いいチームにゃりね」と〝金銀花(カプリフォリオ)〟を見て評価を下す。


 さらにその一方、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の相棒である〝魔女の饗宴〟たちもまた迫る触手の数々をしっかりと対応して防ぎきっていた。



「――下僕よ、聖奈を守って。他は前へ。瑛里華、下僕を盾に使ってちょうだい」


「まかせとき!」



 莉緒菜が生み出した黒い影の戦士たちと、魔物の影。

 それらが向かってくる触手を迎え打ちながら、聖奈の周りを囲む。

 その中から聖奈の【支援魔法】が瑛里華と菜桜、そして莉緒菜に――そして奏星や美佳里、さらには雅や雪乃にまで届いた。


 残りは流霞だけ、と考えたところで聖奈は視線を彷徨わせた。



「あらあら、流霞ちゃんがいないわね~……。私の魔法は視認相手が対象だから、見える位置にいかないと……」


「大丈夫、せーなん!」



 流霞にも支援を届けようとしていた聖奈に声をかけたのは奏星だった。

 魔装の細剣から鞭のように先ほどのスキル――【紅炎穿(プロミネンスレイ)】を伸ばして振るい、グラトノスの触手を一瞬で蒸発させながら、笑って続ける。



「るかちーなら、もうとっくに《《アイツの目の前》》だから!」


「え……?」



 誰もがグラトノスの猛攻を凌ぐことだけを考えて対応していた。

 菜桜でさえ、支援をもらって攻撃しに動くまでは回避を優先して対応している。

 それぐらい、集中して対応しなければ避けきれない程に激しい攻撃だ。


 グラトノスもまたレッドヒュージスライムと同じ、魔力液体によって身体を構成された存在ではある。そんなグラトノスの触手に捕まりでもすれば、あっという間に強烈な強酸によって身体を焼かれてしまう。


 そんな危険度の高い代物が、こんなにも大量に、一斉に襲いかかってきているのだから、回避や防御に集中するのは当然と言えば当然である。だから、誰もが大きくは動けないはずだった。


 ただ一人、その迫りくる攻撃の中、回避し、できないものはロッドで殴りつけ、振動を付与して爆散させながら間合いを詰める流霞を除いて。


 グラトノスの意識は、眼前に迫ってくる流霞へと集中した。

 先ほどの流霞の攻撃はレッドヒュージスライムを容易く屠るようなものばかりであった。

 その力を自分に向けられては、いくらなんでも耐えられない可能性もあるとグラトノスは思考し、流霞に対する警戒を引き上げていたのだ。


 ――間合いに入られる前に、攻撃を。

 そう考えたのか、グラトノスが一斉に流霞へと大量の触手を伸ばして殺到させる。

 その瞬間に、奏星や美佳里、そして〝魔女の饗宴〟の面々もまた、即座に散開、遠距離攻撃を仕掛けるべく動いた。


 その一方で、攻撃を一手に引き受ける形となった流霞は――「きひっ」と喉を慣らしつつスキルを発動させた。



「【潭月鏡身(たんげつのかがみ)】、それに、【朧帷】……!」



 一斉に迫っていた触手が、流霞の身体を捕らえ――貫くように大地へと突き立った。

 じゅうじゅうと強烈な音を立てる強酸化した魔力液体が、煙をあげながらアスファルトを溶かす中、貫いたように見えた流霞の身体が霧散するように消えていく。


 次に現れた影に、また触手を伸ばす。

 だが、それもまた当たっても消える。


 それらが幻だとグラトノスが気が付いた時には、すでに流霞がグラトノスの斜め後ろから飛びかかり、ロッドを大きく振り被っていた。



「――シィッ!」



 ズダン、と凄まじい衝突音を奏でた一撃がグラトノスの身体に当たる。

 グラトノスの身体の内側を流霞によって操られた振動が進み、核へ――と思われた次の瞬間、振動がまるで勝手に逃げたかのように体内から背中の方へと動きを変えて、グラトノスの背中を爆発させて消え去った。



「え……っ?」


「自分の魔力液体を振動させて振動同士をぶつけ合って外に逃がしたにゃりにゃ」


「マジか」



 何が起こったのかと困惑した奏星に、〝鴉〟が冷静に観察していた内容を告げる。

 もっとも、そのような対応を可能にしたグラトノスに〝鴉〟も驚かなかったわけではない。

 冷静に解説してみた〝鴉〟の表情は、真剣なものであった。


 ――〝超常級〟は確かに普通の魔物よりもずっと賢いにゃりにゃ。けど、それでもこんな一瞬で対応してみせる程の実力があるっていうのは、ちょっと意外にゃりよ。


 そんなことを考えながら〝鴉〟がちらりと見れば〝虎〟や〝椿〟もグラトノスの対応力は無視できないものだと考えたのか、真剣に動きを見ている。

 これまでにはない程の思考能力を有した個体である可能性が高いのだ。

 ただの偶然などと決めつけるほど、彼ら彼女らは崩壊地域の魔物を甘くは見ていない。


 そんな風に『亡霊の庭園(ニヴルヘイム)』が注視している中で、戦いは動いていた。


 流霞の【潮汐破断(ちょうせきはだん)】がその場で放たれ、グラトノスの身体を両断したのだ。

 振動のせいで奇妙な甲高い音を奏でながら、爆発するようにグラトノスがバランスを失う。



「やった!」


「いや、まだだ」



 声をあげた雪乃に、〝虎〟が冷静に告げる。


 確かにグラトノスは爆発しながら両断されたが、直後に両断されたはずの魔力液体の身体が、核のある方に引き寄せられ、吸い込まれるように元の姿に戻ってみせたのだ。

 思わず目を見開いた流霞に、今度はグラトノスが流霞の身体を呑み込むべく、脇腹部分をクリオネよろしくばくりと開けて襲いかかった。


 だが、重力を真横に倒すように背後に向けていた流霞が、後方に下がりながら一気に距離を取って立て直す。


 滑るように地面に足をつけて着地した流霞が、グラトノスと睨み合うような形となった。



「きひひ……っ! 一筋縄じゃいかないんだね……!」



 せっかくの攻撃を耐えきられ、対応されてもなお、流霞は心が折れるどころか、いっそ燃え上がるように笑い声をあげた。


 一方でグラトノスもまた、今の応酬で流霞たちの脅威度に対する認識を改め、冷静さを取り戻していた。

 先ほどまでは苛立ちもあって一辺倒な攻撃に頼っていたが、これからは相手を屠るために頭を使おうとしているようであった。


 前哨戦はここまで。

 本当の意味での戦いは、ここからだった。


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