表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第6章 常識を覆せ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

188/239

その頃、支援組は




 崩壊地域内、〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟メンバーが魔素濃度レベル4地域で暴れ回っている、ちょうどその頃。

 魔素濃度レベル1側、魔素濃度レベル2に程近い場所に位置する拠点から少し進んだ先。


 雅と雪乃は膝に手をつく形で魔物たちを蹂躙したその場所で、一緒になって疲れきった表情を浮かべながら荒い息を整えていた。



「にゃははっ! いい感じにゃりにゃんねー。二人とも、少しずつ自分たちの因子を理解できてきたみたいにゃりにゃー」


「……はぁ、はぁ……っ。さす、がに……、キツ……」


「ちょ……、マジ吐きそ……」


「わかる……。喋ると、吐く……」



 上機嫌な様子で称賛の声をあげた〝鴉〟とは裏腹に、その横で激しい運動に身体がついて来てくれずに、体力を削りきられていっそ吐き気すら催す雅と雪乃の二人であったが、そうなるだけの価値は確かにあった、と二人は実感する。


 ふらふらとした足取りで雅が動き出し、投げ置いたリュックの脇から水の入ったペットボトルを引き抜く。

 ごくごくとそれを飲んで雪乃に差し出せば、雪乃も息を整えながらも水を口に含み、ようやく人心地ついた様子で深く溜息を吐いた。



「あー……、っべーわ……。奏星とかるかちー、マジやべー……。それについていくミカミカもヤバ過ぎだわ……」


「語彙力死んでんじゃん。でもホント分かる」


「にゃはは、しゃーねーにゃりにゃー。戦う以上、体力は必須にゃりにゃんね。普段からランニングしたり筋トレしたりもしねーんじゃ、そうそう戦う体力はつかねーにゃりよ」



 当たり前のようにダンジョンに潜り、魔物たちと戦う。

 得物を振るい、身体を捻り、深く踏み込んで、跳んで、切り返す。

 それら一つ一つの動作が体力を削り、使っていない筋肉に負荷がかかって激しく疲労し、それでも魔物たちと戦う。


 配信という形でそれを見ていて、当たり前のようにそれらの動きを見過ごしていた。

 ただそれだけでも常人では想像がつかない程に体力を削られるのだと、雅と雪乃は身を以て知ることになった。


 それでもなんとか戦闘になったのは、やはり〝金銀花(カプリフォリオ)〟の――流霞の動きというものを映像越しに見ていて、知識だけは蓄積されているおかげだろう。

 イメージ通りに再現できているとは言い難いが、それでも優先順位を選ぶ目だけは養われていたようであった。


 おかげで、気分は立派な探索者――と言いたいところであったのだが、そんな二人に容赦なく〝鴉〟が告げる。



「二人は体力より、身体の動かし方を矯正するといいにゃりにゃ。今の二人の動き方、身体の動かし方を分かってない運動しない女子って感じがつえーにゃりよ」



 運動しない女子って感じ。

 その〝鴉〟の表現で思い浮かんだのは、「え~い」とか言いながら内股で膝下を回すように駆ける姿である。

 想像してみただけで、ダンジョン探索者としてはあまりに情けなすぎる。


 そんな風に自分たちが見られていたことにちょっとはイラッとしそうなものだが、しかし雅も雪乃も、実際に動いてみたからこそ実感している。

 自分たちは本当にそれぐらいダメダメだったのだろう、と受け入れる下地は出来上がっていたがために、想像した己の情けなさに笑った。



「ふはっ。それ、絶対ダサくない?」


「あとで映像見よ」


「みんなに見せないでおこーよ」


「それはそう。絶対見せねーわ」


「身体の動かし方は意識していけば少しずつ直るもんにゃりにゃー。かく言うボクも、最初の頃はそりゃ酷かったにゃりにゃー。もっとも――」



 疲れている雅と雪乃の代わりに、〝鴉〟がひゅん、と消えるように動いて、雅と雪乃の背後に移動する。

 同時に、茂みの向こうから飛び出してきた豚のような顔をした人型の魔物――オークが飛び出し、得物である棍棒を振り下ろしてきた。


 そんなオークの前に移動していた〝鴉〟は、片手を白衣のポケットに突っ込んだまま、もう片方の手を振るい、襲いかかってきていたオークが振り下ろした得物を避けつつ片手でその巨躯を投げ飛ばして背中から地面に叩きつけ、その顔を踏み潰してみせた。



「――これぐらい、今となったら朝飯前にゃりにゃけどにゃー」


「うーわ、すご」


「マジかー。かっけーな、鴉ちゃん」



 唖然とした雪乃と、同じ研究者的な立ち位置としてシンパシーを感じていた雅が、素直に尊敬したような声をあげて称賛する。

 その二人の真っ直ぐな反応に、なんとなく照れ臭くなった〝鴉〟がぽりぽりと自分の頬を掻いてから、一つ咳払いをしてみせた。



「雅ちゃんの【魔法薬調合】、それにゆっきーちゃんの【魔導裁縫】は確かに戦闘には向いてねーにゃりにゃ。けど、《《さっきみたいに拡張スキルを使えば》》戦闘に応用していくこともできるようになるにゃりね」


「ホント予想外だったわー。まさかあんな使い方があるなんて思わんかったし」


「〝鴉〟ちゃんのおかげだわ、ガチで」


「にゃはは、気にしなくていーにゃりにゃ。ボクも昔、ボクのダンジョン因子は戦いには向いてなくて困ってたこともあったにゃりにゃー」


「え、〝鴉〟ちゃんのダンジョン因子ってなんなん? あ、これ聞いていいヤツ? ダメだったら言わなくていいから」



 ダンジョン因子を言いたがらない人というのは一定数存在しているため、最近ではダンジョン因子を一方的に訊ねるというのは忌避される傾向にある。

 そういう意味で、軽い気持ちで質問してしまった雅が慌てて言葉を付け足せば、〝鴉〟はひらひらと袖が余った白衣の下で手を振ってみせた。



「そんなんいちいち気にしてねーにゃりにゃ。ボクのダンジョン因子は【演算能力強化】にゃりにゃよ。お世辞にも戦いには向いてねーにゃりにゃんね」


「【演算能力強化】……」


「確かに、なんか研究者向きって感じかも」


「そうにゃりにゃ。けど、この【演算能力強化】を拡張させることで、今じゃレベル9にゃりにゃ」


「っ、レベル、9……!?」



 世間一般の常識を大きく超えた数値に、雅が思わず息を呑んで声をあげ、雪乃は目を大きく見開いた。


 そもそも二人は、表の常識――つまり、『ダンジョン因子が生産型、解析系に特化している者は戦いに向いていないため、レベルを上げることは滅多にない』という常識の中で生きてきたというのもある。

 だが、それ以上にレベル9という、表の世界の常識を超えてなお、明確に差が開ききっているのだという事実に言葉を失った。


 しかし〝鴉〟は冷静に続けた。



「ボクら『亡霊の庭園(ニヴルヘイム)』の面々は、みんなレベル9にゃりよ。けど、そこで止まってしまっているというのも事実にゃりにゃ」


「……いや、レベル9もあれば充分じゃね……?」


「うん、あーしもそう思うんだけど……」


「残念ながら、そんなにダンジョンは甘くねーにゃりよ。というより、実際に充分って言えるぐらいなら、とっくに神奈川を僕らは取り戻しているにゃりにゃんね」


「あ……」


「……そっか」



 雪乃と雅の言葉をあっさりと否定してみせた〝鴉〟は、冷静に冷たく現実を突き付けたつもりであった。


 初めて顔を合わせてから何度もメッセージを交わしたりもした。

 この場所にきて、色々な知識を交換したりもしたのは確かだが、レベル9という情報は一切伝えてこなかった。


 いくら雅や雪乃が、〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟が、一般的な探索者のそれとは異なる強さを得て快進撃を続けているとは言っても、まだまだ上には上がいるのだ。


 ここまで運良く何もかもが上手くいっているかもしれないが、どうしようもない強敵が存在していることを知り、それにぶつかって足を止めてしまった時が心配だった。

 運が良いということは、それだけ、何かが起こった時にあっさりと心が折れてしまうリスクを抱え続けることにもなるからだ。


 圧倒的な強さを持つ存在である『亡霊の庭園(ニヴルヘイム)』のメンバーのレベル。

 それでも超えられない相手がいるという現実。

 それらを知った結果、場合によっては途方もない現実に心が折れる可能性がない訳ではなかったからだ。


 だから、なるべくあっさりと、当たり前のことを告げるような物言いで、〝鴉〟は伝えてみせた。

 彼女たちならば乗り越えてくれるとは思いつつも、しかし、心のどこかで燻る不安を抱えたまま。


 だが、そんなものは杞憂でしかなかった。


 雅と雪乃は、その情報を聞いて心が折れるどころか、むしろ《《燃えていた》》。



「つまり、ウチらが追い付いて、追い越せるかもしんねーってこと?」


「ひゅー、いいねー。雅ぃ、追い越してやろーぜー?」


「その気だし。つか、レベル9で止まってる謎っていうのも気になるし、あーしもそうなることを念頭に入れて考えてみなきゃ」


「あーしも、もっとこの拡張スキルと付き合っていい装備作ったりするわ」



 返ってきたものを見て――〝鴉〟は上機嫌に笑った。


 ――くふ。もしもこれで心があっさりと折れるようなら、この子たちには期待するつもりはねーんにゃりにゃけど……《《笑う》》とは思わなかったにゃりにゃ。しかも、ボクらを超えるとは、言ってくれるにゃりにゃー……。



「にゅふっ。いいね、そうこなくっちゃ面白くないにゃりにゃ」


「お、〝鴉〟ちゃんもやる気?」


「あったりめーだにゃ。ボクらだって負ける気はねーにゃりにゃんね」


「そうこなくっちゃ。あ、でもでも、色々情報交換しよーぜー」


「競争じゃないんかい」



 面白い、とでも言わんばかりに〝鴉〟の言葉に笑っていたのに、雅があっさりと情報交換を申し出たことに思わず雪乃がツッコミを入れれば、雅は真顔で頷いた。



「そんなんナンセンスっしょ。神奈川を奪還したい〝鴉〟ちゃんたちと、それに追い付いて追い越したいウチら。目的は一つ、強くなること。それは一緒じゃん? お互いに情報を共有して交換して、色々試しながら一緒に強くなっていく方が効率的っしょ」


「それはそうなんだけどさー。ほら、ライバルだったらこう、そーゆー感じじゃなくなったりしそうじゃん?」


「まあまあ、ゆっきーちゃんの言いたいことも分かるにゃりにゃけど、ボクらとしても雅ちゃんの申し出の方がありがたいにゃりにゃよ。正直、行き詰まってるのは感じてるにゃりにゃー」


「お、じゃあ訓練終わったらそっちの話し合いね」


「おけおけにゃりにゃ」



 なんだかんだ上手くやっている雅と雪乃、それに〝鴉〟の3人であった。


 なお、この時には〝影〟が偵察を終えてすぐ近くに戻ってきているのだが、なんだか会話が盛り上がっているせいで「今行ったら邪魔になるかも」と思って会話が途切れるのを待ち続けていたという。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ