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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第6章 常識を覆せ

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【接続/死霊召喚】




「――るかちー!」


「せあッ!」



 銃弾が着弾、氷の槍が周囲に放射状に伸びた。

 おかげで、魔物が密集しているその一角に道ができた。


 魔装のロッドを大鎌形態に変えている流霞の一撃が、迫っていた青色がかった肌色をしたブルートロールを縦に下から両断し、慣性に身を任せて後方宙返りしつつ後方へと跳ぶ。

 同時に奏星の細剣がブルートロールの身体へと向けられたかと思えば、突然ブルートロールの身体が燃え上がるように炎が噴き上がり、一瞬で炭化していき、流霞が周囲に迫るブルートロールたちを【潮汐破断(ちょうせきはだん)】で一気に両断した。



「これ、結構魔力使うわー……」


「だいじょぶそ?」


「死んだ魔物ならなんとかって感じ。けど、できれば魔石狙ってほしいかも」


「うわ、無茶振り」



 軽口を叩き合いながらも、奏星と美佳里は動きを止めることはなかった。

 ブルートロールの身体を焼いた炎が奏星によって操られ、大蛇のように木々の間を抜けてブルートロールたちを貫き、焼き尽くす。

 逃げようとした他の魔物たちは美佳里に足を撃ち抜かれ、倒れ込むと同時に炎の大蛇に呑み込まれていった。


 その一方で、流霞もうまく周囲を破壊しないように大鎌を器用に回して駆け抜ける。

 木の幹を足場にするように三角跳びよろしく移動しながら、魔物を次々排除していっては、【潮汐破断(ちょうせきはだん)】を駆使して魔物たちを破壊していった。


 ――ったく。こいつらがレベル3なんざ詐欺だろうがよ。


 戦いの推移を見守っていた〝虎〟が、密かに苦笑を浮かべながら胸の内でそんなことを呟くのも無理はなかった。


 魔素濃度レベル4地域。

 ダンジョン中層後半クラスの魔物たちがいる地域は、もともとこの場所が『亡霊の庭園(ニヴルヘイム)』の狩り場という訳でもないため、放置された一帯は相応に魔物の数も多い。


 ブルートロールと戦って討伐しようとするならば、従来の一般的な探索者であればレベル5は求められる。


 分厚い脂肪の下に隠れた鋼鉄のような筋力もあって、耐久力もかなり高く、膂力は一撃必殺級。

 倒すのであれば時間をかけるか、超火力で一発、というのが一般的な探索者の基準になる。


 だというのに、流霞は一閃してその肉体を斬り裂き、しかしそれも本気ではないと見れば分かる。

 もっと派手に戦って良いのであればともかく、周囲を破壊し過ぎると目立ってしまうため、最小限の攻撃範囲に留めている。


 奏星も魔力を抑えて省エネで戦い、細剣を刺して内部に炎を流し込んで焼き尽くし、美佳里は【色彩豊かな魔弾ヴィヴィッド・カラーズ】を上手く使いこなし、たった一発でブルートロールの足止め、攻撃の阻害を冷静にこなしては、レバーアクションライフルを手慣れた様子で回している。


 要するに、まだ余裕があるような有り様なのだ。


 ――まあ、コイツらに関しちゃ分かっていたことだ。眼鏡の嬢ちゃんが強くなってるってのも予想外だったが。だが、予想外って意味じゃああっちだな……。


 ちらりと〝虎〟が遠方を見やれば、そちらでは〝魔女の饗宴〟の面々が魔物たちを容易く討伐しているのが見て取れた。

 視線の先には、〝虎〟にとっても、そして同行している〝椿〟にとっても「そんなのありなのか」と言いたくなる存在がいるのだ。



「――眠るにはまだ早いわ。起きなさい、私の下僕たち。【接続/死霊召喚】」



 地面から生やした巨大な悪魔の手を彷彿とさせる、指先の尖った真っ黒な手を椅子代わりにして腰掛けながら、莉緒菜が涼しい顔のまま手を前に突き出して静かに告げる。


 次の瞬間、ずずず、と真っ黒な闇が魔物の死骸を包み込んだかと思えば、その魔物の見た目をした闇色の人形たちが生み出され、無事な魔物たちに襲いかかった。


 倒れていく魔物たち。

 その度に、莉緒菜が手駒を生み出して、あっという間に数的優位を作り上げる。

 その間に、瑛里華と菜桜が聖奈の支援を受けて魔物たちを次々に倒していき、再びそれらが莉緒菜の手駒となっていく。


 数の優位性が、みるみる覆っていく。



「いや、仲間やねんけど言わせてもらうわ。めっちゃズルいわ、これ」


「初めて見るスキルだけど~、こんなスキルあったのね~」


「ダンジョンでは使えないみたいね。死体に魔力が残っている間だけ手駒にできるし、魔力効率も凄く良いのだけれど、永続的に使役ができるようなものではないみたい。それに、どうも私自身が勝てる相手ではないと利用はできないみたいね」


「ん、それでも強すぎる」



 瑛里華が呆れ、その横で質問してきた聖奈に莉緒菜が淡々と答え、菜桜が締め括る。


 確かに莉緒菜の言う制限は厄介ではあるが、しかし莉緒菜自身が強くなり、さらにダンジョンではなく崩壊地域で考えれば、その力の制限などあってないようものだ。

 魔物を倒すにつれて数的不利を覆せるようになれば、主力級の魔物に集中できる環境が作りやすいのだから。


 崩壊地域は魔物の数も非常に多く、数百単位の魔物が密集するような場所を抜けて進まなければならないような場所もある。

 広範囲攻撃による一掃はどうしたって大きな音や地響きを伴うため、他の魔物を惹き寄せてしまうため、あまり好ましくはない。

 莉緒菜の力を使えば陽動に利用したり、場合によっては正面突破でも数的不利を覆せる大きな一手にもなるだろうことは明白だ。


 そんな背景もあって、今までは流霞と奏星、それに美佳里といった〝金銀花(カプリフォリオ)〟だけを引き入れられればいいと考えていた〝虎〟と〝椿〟の二人であったが、そんな二人も評価を改めていた。



「ふぃーっ、片付いたー。りおなーん、そっちどうー?」


「えぇ、こっちも片付いたところよ。さすがに多かったわね」


「だねー。3桁いったんじゃね? こっち焼いて良さげ?」


「えぇ、お願い」



 お互いに近くの魔物を討伐し終えて、両者が合流する。

 魔物の処理を行う奏星を他所に、〝虎〟と〝椿〟もお互いに視線を交わらせて頷いた。



「昨日より広がってやがるな」


「うむ、此方もそう感じる。おそらく〝超常級〟がこちら方面に移動しているのであろう」


「押し出されるように出てきやがったか」



 昨日の段階で偵察に出ていた〝虎〟と〝椿〟であったが、この辺りはそこまで魔物が大量に溢れてはいなかったはずなのだ。

 だというのに、一晩経ってこの場所に来てみれば想定以上の数の魔物の群れがうろついており、それらとぶつかり合う形となってしまった。


 二人はその原因こそが、〝超常級〟が移動したことによって魔物たちが〝超常級〟から逃げてきたという結論に至っているようであったが、そんな二人の話を聞いた流霞が首を傾げ、話を聞いていた瑛里華が口を開いた。



「なあなあ、〝超常級〟が移動したからってなんで魔物が大移動するん?」


「〝超常級〟の魔物は自らの配下以外の魔物を敵と考えて襲う傾向にあるからな。そいつから逃げるために魔物たちが移動する」


「魔物が魔物を襲うんか。中層の蠱毒魔物と一緒やな」


「魔物の本質がそちらに寄っている可能性が高い、というのが〝鴉〟の見解だ。もっとも、それすらも〝超越級〟となるとまた話が変わるんだがな」


「話が変わる?」


「あぁ。〝超越級〟は周辺の魔物を含めた王のような存在になる。魔物の種族も関係なく、全てが〝超越級〟に従う軍勢になると思っておけ」


「……ほんまに?」


「冗談みてェなヤツだが、それが事実だ」



 あまりにも話のスケールが違う事実を語られて、瑛里華が半ば放心した様子で訪ね返せば、〝虎〟があっさりと言い放った。

 それだけ〝超越級〟という存在は異常で、異質なのだ。



「ま、ともかく今は〝超常級〟の方が問題だ。この辺りじゃ足場が悪すぎる。〝椿〟、できれば道路方面に移動するぞ」


「うむ。ここからならば、南南東方面にちょうど広めの道路がある。あちらに行って改めて〝超常級〟の動きを確認しよう」


「そういうこった。全員、移動するぞ」



 短くやり取りした〝虎〟たちに頷いて肯定を返し、一行は〝椿〟の先導に従い、大きめの道路が伸びるルートへと移動を開始した。



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