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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第6章 常識を覆せ

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外の魔物




 翌朝、時刻は9時。

 ついに崩壊地域の本格的な探索を行うべく、目的地へと一行が進む。



「――今日の目標地点は、魔素濃度レベル4の地域だ。魔物は中層後半から最下層手前クラスが多い。基本的に俺と〝椿〟は護衛兼〝超常級〟の監視で動くからな。そっちはそっちでしっかり戦えよ」


「補足するが、現地では〝《《かぷりふぉろぉ》》〟には〝虎〟が、〝魔女の饗宴〟には此方が入るような形になる。いざという時はそれぞれにどう動くのか指示を。此方たちは場合によっては指示も出すが、連携が取れないため基本は遊撃として動く」



 戦闘班となっている〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟の面々を連れて、鬱蒼と生い茂る木々に阻まれる山の中を駆けていく。


 手つかずの森を普通に走り抜けるのは難しい。

 まずそもそも、足元が悪すぎる。

 あちこちに自由に生えた植物があり、歪な石が落ちていて、木の根が飛び出していたり、枯れ枝を踏んだと思ったらその先が飛び出して逆の足を引っ掛けてしまったり。

 そんなことが当たり前にあるのが、手つかずの自然というものだ。

 

 さらに、方向感覚が簡単に失われる。

 真っ直ぐ進んでいるつもりでも目印にしているものがそもそもズレていて、そのまま気付かぬ内に全く違う方向に向かってしまう、なんてことも当たり前に起こり得るのだ。


 だから、時間と太陽の方向というのは非常に大事なのだと〝椿〟は語っていたが、こうして速く移動しているとなおさらそれを実感する。


 移動方法は、基本的に木の枝から枝へと飛び移るというような方法だ。

 ただ、美佳里と聖奈は流霞の重力操作によってずっと浮かんでいる。

 暇を持て余しそうなものだが、身体がふわふわと無重力状態に晒され、そんな中で速い速度で移動を続けるというのはちょっと怖いものもある。


 とは言え、それもすっかり慣れて、今は周囲に魔物の影がないかを見張っている。


 そうして森を進んでいる中で〝虎〟と〝椿〟から聞かされた行動の段取りに、それぞれに頷きを返していく。


 魔素濃度レベル4。

 これは〝鴉〟が計測した魔素計という腕時計型の装置を利用し、周辺の魔素濃度を測った時の数値を表すものだ。

 魔物のいない都市部をレベル1と設定し、レベル2が上層の浅いレベルの魔物が徘徊するポイント。レベル3が上層深部から中層中部までの魔物、というように大まかな徘徊範囲でレベル分けしている。


 レベル4は中層深部クラスの魔物たちが出る場所。

 通常の探索者ならば、レベル5クラスでどうにか相手にできるというような相手ではあるが、すでにスキル拡張に至った流霞や奏星、〝魔女の饗宴〟メンバーであれば充分に渡り合えるレベルだと〝虎〟も〝椿〟も確信している。



「ダンジョンの魔物と外に出てきた魔物の違いは、忘れてねェな?」


「あ、中層より先の魔物になってくると死んでも消えないっつーアレ!」


「そうだ。ダンジョン内の魔物は死体が魔石とドロップアイテムを残して消える。が、外に出てきた魔物たちはそうはならねェ。対処するべきことは?」


「魔石を抜くか死体を焼く!」


「正解だ。――おい流霞、もしそれをしなかったらどうなる?」


「えっ。ゾンビになって、蘇る……?」


「おう、正解だ。っつー訳で、基本は奏星、おまえさんが焼いて処理しちまえ」


「りょ!」



 改めて〝虎〟から確認するように外での戦いにおける注意点を教わる。


 ダンジョン内の魔物は死体が消えるというのに、外に出てきた魔物の死体が消えないというのは、過去の『魔物氾濫(スタンピード)』による騒動でもかなりの話題となった。


 一時はこれを利用して魔物の生態などを調べようという試みもあったのだが、胸部、または頭部にある魔石を抜かなければゾンビ化――一般的にはアンデッド化とも言う――してしまい、一日と経たずに素材が劣化し、朽ち果ててしまうという性質のため、研究らしい研究もできていない。


 前線に近い場所に研究所を設けようと息巻いていたこともあったようだが、建設中に魔物に襲撃されて頓挫したというケースもあったりと、なかなか上手くいっていないというのが実状だった。



「魔物の肉は美味いんだが、半日も経つと味が落ちて砂っぽくなりやがる。倒してすぐに食うならともかく、そうでもないのは全部焼いておけ」


「え、魔物食べんの?」


「俺らは全員食ってたからな。まともな食料も手に入らねェような環境にいたら、そういうのでも食っていくしかねェんだよ」



 魔物を食べる、という概念自体が考えられない奏星や美佳里は顔を引き攣らせていたが、その一方で流霞はむしろ納得していた。

 神奈川の生き残りであったという『亡霊の庭園(ニヴルヘイム)』の面々が、どうやって食い繋いでいたのかというのは純粋に疑問だったのだ。


 崩壊直後ならば店頭や倉庫にあるような食べ物、缶詰などを手に入れることもできただろう。

 新鮮なものから順に、消費期限の短いものから食べていけば、それなりの期間は食に困らないだろうし、野菜や葉物であれば、放棄された畑などで自生したものも得られるだろう、とは思う。


 だが、神奈川崩壊からレベル6になって頭打ちになって、そんな状態になるのは何年も崩壊地域で過ごしていたと予想できる。

 外に住居があり、お金があり、外で物資を調達してきたというのであればともかく、そういったことをしていたようには思えなかったのだ。


 けれど新鮮な魔物肉は食べられるというのであれば、それだけで食糧事情はだいぶ変わってくる。



「ねーねー、どんな魔物が美味しいとかあんの?」


「あン? そうだな……、普通に食うような動物に似た系統は美味いぞ」


「牛とか豚とか?」


「だな」


「え、じゃあオークとか食べんの?」


「さすがに人型に近いのは食わねェな。それに、オークの肉はクセェんだよ」


「へー、そうなんだ。――ミカミカ」


「おけー」



 移動しながらこちらに向かってきた狼型の魔物を美佳里が撃ち抜く。

 中層の浅い階層あたりにいるようなレベルだと判断して、奏星がさらにその魔物を炎で包み、一瞬で炭化させた。

 周囲の木々、落ち葉などを対象にしない炎は、魔物たちの身体だけを一瞬で焼き切ったようであった。



「……便利だな、その炎」


「え?」


「魔石は魔物と個体によって場所が多少変わったりもしやがるからな。いちいち魔石だけ引っこ抜いたりってのも手間だろ。アンデッド化されても面倒だから、俺の場合は魔物を倒すならしっかり叩き潰すしかねェんだよ」


「あー、そゆことかぁ」


「ライターとかで着火して燃やしたりしないん?」


「こういう場所じゃまずできねェな。山火事になったりしても厄介だ。それに、生焼けだとそのままアンデッド化しやがる」


「うぇえ……、めっちゃ大変そうじゃん……」



 しみじみと〝虎〟が溜息を吐いて語った、後処理の面倒臭さ。

 その点を一瞬で解決できるという点だけを見ても、奏星という存在は実に崩壊地域向きの能力を持っていると〝虎〟は評価する。



「〝椿〟やったらどないするんや?」


「此方の場合は細切れにして魔石を出せば良いからな。手間ではあるが、大して時間はかからない」


「……それもまた、人を選ぶ対応になるわね」


「なかなかできそうにないわね~……。菜桜ならできるかしら?」


「ん、にんにんすればいける」



 ――にんにんすれば、とは……?


 魔素濃度レベル3地帯に入ってしばらく、流霞の頭にはその一言が妙に残って困惑させられることになったのであった。


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