山の洗礼
――二人一組を作って。
それはコミュ障人材に唐突に訪れる、集団における公開処刑の時間。
学生時代を過ごしたはずの人間が、学生という期間の思春期時代の機微を忘れ、己の手間を減らすことのみに終始し、「学生の自主性を重んじて」という理論武装でお茶を濁して正当化された死の宣告。
周囲からは「えー、アイツまた組むヤツいないのー?」みたいな目を向けられたり、勇気を出して声をかけようとすれば「え、なんでこっちに声かけてきたの? 友達だと思われてんの?」みたいな顔を向けられながら無視されるか、敢えて大きな声で「ごっめーん、アイツと組むからさ」みたいな反応をされて、その間に一人ぼっちになるというシステムが――――。
「るかちー、ミカミカー。一緒いこー」
「お、3人っていいのー?」
「二人一組ぐらい、っしょ? どうせりおなんたちも二人ずつに分かれんだろうし、ウチら3人だから分けらんないじゃん?」
「あ、それはそうだわ。るかちー、いこーぜー」
「……神はいた」
「なんて????」
奏星と美佳里に声をかけられ、流霞ははっと我に返りつつぽつりと呟く。
地獄の中で光を見たかのような反応ではあるが、意味はさっぱり分からない。
奏星と美佳里からはきょとんとした反応しかされていないが、そんなことを流霞が構うつもりもはなかった。
ただ、ギャルでコミュ強な奏星と美佳里に、流霞の心情が分かるはずはなかった。
彼女たちは自分から声をかけられる人種なのだから。
断られても他の誰かに、話したことない相手でも「話したことなかったしー、たまには良くない?」ぐらいのノリでいけてしまう陽の存在であるのだから。
ともあれ、そんなこんなで〝金銀花〟の3人は一緒になって拠点設営予定地から少し離れた藪の中へと足を進めていった。
「薪集めってさぁ、こーゆー木一本ぶった切ったりしたらダメなん?」
「あ、生木ってその、意外と水分が多くって。燃えにくいし、煙もたくさん出るから薪には向いてない、かな……」
「えー、そうなん? るかちーめっちゃ詳しいじゃん」
「なんでそんなん知ってんの?」
「んと、孤児院で習ったよ? ダンジョン崩壊に巻き込まれた時のためのサバイバル訓練で」
「えっ?」
「え?」
流霞と同じ、ダンジョン災害孤児であった美佳里が思わず声をあげ、そんな美佳里の反応に奏星が疑問の声をあげる。
普通の孤児院でそんな訓練はしていない。
美佳里もそんな教育を受けた覚えなんてないので、奏星に「そうなの?」と言わんばかりに視線を向けられてもぶんぶんと頭を振るった。
普通の孤児院の水準を流霞の孤児院基準にされては堪ったものではないだろう。
相変わらず何かがおかしい流霞の孤児院時代ではあるが、しかし、先程の〝鴉〟の話――つまり、いずれは間違いなく魔素濃度が上昇し、魔物がどこであっても堂々と闊歩するような時代が来るという話を考えると、むしろ先見の明があったようにすら思えた。
気のせいでしかないが。
「薪拾いついでに魔物とかがいるか確認しといた方がいいよね?」
「うん。できれば見つかって先手を取られるより、先に叩いておいた方がいいかも」
「おけおけ。ちょっと探してみよ」
手つかずの自然と言えば聞こえはいいのだが、人の手が入っていない山道は縦横無尽に草が生い茂り、絡み合い、視界を塞いでいるものだ。
そういった場所を堂々と通り抜けるのは、普通に暮らしていれば抵抗感がある。迂回して普通に通れる場所を探したり、あるいは少しだけ草を退けて通れるかを確認し、難しそうならば避けたいところではあるものだ。
だが、一方で魔物にそんな考えはない。突然藪を切り裂いて出てくる、なんてことも充分に有り得る。
魔素濃度の話を聞く限り、魔物も弱い魔物が多い地域だ。
先程の武装ゴブリンたちのような魔物たちならば、先手を取られてもある程度は対応が可能ではあるのだが、囲まれて後手に回るのは面白くはない。
崩壊地域だけではなく、今後ダンジョンでも視界の見通しが悪いような場所などに行く可能性もあるため、索敵能力を磨く必要があると考えて、美佳里はもちろん、流霞と奏星も慎重に周囲の音を拾っていく。
「……なんつーか、ダンジョンより音が多いって感じ」
「それな。風とか鳥とか、そういうの」
「うん。ミカミカ、木の上から眼鏡を使って見たりできる? 多分、肉眼より見つけやすい機能とかあったと思うんだけど……」
「あ、そういやサーモグラフィーみたいなのもあったわ。やってみる。るかちー、飛ばせてー」
「うん、ちょっといい場所ないか見てみるね」
美佳里の魔装である眼鏡は、かなり多彩な機能を有している。
その一つにあるサーモグラフィーカメラがあれば、肉眼よりも魔物の影などを捉えやすくもなるだろう。
早速とばかりに流霞は周囲を見回して、背の高い木を探し、一際背の高い木の枝を見つけると、一人で先に確認するべく枝の上へと跳び上がった。だが、視界が確保できるものではなく、再び他の枝へと移動。
何度かそんなことを繰り返している内に、ちょうどいい具合に視界が確保しやすい木を見つけ、その木に目印をつけるようにロッドを取り出し、大鎌化させてバツ印を刻んでから、奏星と美佳里のところへと戻っていく。
「ちょうどいいとこ見つけたよ」
「おかー。マ? どの辺? 結構進んだっしょ?」
「この辺りは竹藪とかもあって見えにくかったから。あっちの方――わっ!?」
「るかちー、全部重力でぶっ潰してー」
「え、えぇっ!?」
自分が見つけた木のことを美佳里に伝えている流霞に背後から覆い被さりながら、奏星がぐでーっと体重をかけながら訴えた。
歩く度に引っかかる蔦や葉が煩わしくて耐えられなくなってきたシティガールならぬシティギャルの奏星のフラストレーションはかなりのものであったようだ。
「んあー。るかちーの重力がダメならガチめに燃やしたいわ、この辺」
「山火事じゃん」
「だいじょぶだし。あーしの炎なら一瞬で炭化させれっから」
「言ってることだいじょばねーんだわ」
「でも、冬で良かったね」
奏星と美佳里の二人が軽い調子で言い合う横で、流霞がぽつりと呟いて、二人の視線が流霞に向けられた。
「なんで?」
「え。だって、夏とかだと多分、虫とか凄いと思うよ……? ダンジョンと違ってそういうの普通に出てくるだろうし……」
途端に、ぴたりと二人の動きが止まった。
「……奏星、虫だけ対象にして焼く炎よろ」
「ガチで夏までにぜってー完成させるわ、それ」
「それな。あー、なんか虫がいっぱい出るって聞いて早くこの茂みから出たくなってきたかも。るかちー、はよいこ」
「あーしも行く! 早く終わらせよ! はよ!」
「え、あ、うん」
崩壊地域で魔物が出てくることよりも、虫がいっぱい出てくるような場所であるということの方が、奏星や美佳里にとっては嫌であったらしい。
そんなことを思いながら、流霞は二人を連れて重力操作を開始し、先程印をつけた木まで一気に移動していくのであった。




