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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第1章 〝金銀花〟結成!

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とある論文と




 流霞と奏星の〝金銀花(カプリフォリオ)〟による最上層攻略、そして上層覗き見配信は、突如として引き起こされた魔装の奇妙な発光現象によって終了した。

 そんなちょっとした事件は、公式の〝金銀花(カプリフォリオ)〟の配信チャンネル上でも切り抜き動画が投稿され、拡散されていくこととなったこともあり、世間を大きくざわつかせていた。


 一方、そんな騒動の発端になってしまった流霞と奏星は、今日の配信の反省会兼奏星の完全復帰お祝いということで、部室に戻ってコンビニ菓子やジュースを広げて談笑しつつ、雅と美佳里、雪乃の3人の魔装にも触れてみて軽い確認を行っていた。


 ちなみに、まさか雅がこの短い期間の間に探索者事務所を起ち上げているとは知らなかったため、二人も雅の行動力には軽く引いたりもしていたが。

 特に流霞は、「ギャルやべー」ぐらいの勢いで引くと同時に、なんだかすごく大人っぽいなと憧れもした。この娘、単純である。


 ともあれ、3人はそれぞれの魔装を奏星に、そして流霞に触れてもらったり、流霞から奏星に手渡してもらったりと様々なやり取りをしていたものの、今のところ何も変化は起こっていなかった。



「――ふんふん。やっぱ【太陽】の能力ってわけじゃなさげー。逆に【月】の能力でもあんのかなって思ったけど、ウチらの魔装じゃ反応なし、と」


「条件の分岐多すぎー」


「それなー。まだまだ絞りきるには時間かかりそうだけど、とりあえず〝ECHO〟で奏星の因子が変化を齎すってことはないってショートと一緒にあげとくわー」


「マジ助かる。変にあーしの因子で魔装が強化できる、なんて話になっちゃったら注目浴びるしさー」



 雅と美佳里、雪乃の3人が話し合う内容に、奏星は苦笑するような様子で告げた。


 まだ半日と経っていないにもかかわらず、〝ECHO〟では奏星の因子によって魔装の強化ができるのではないか、なのだろう、強化させたのを見た、という具合に話が広がり、尾ひれと背びれを生やしたついで翼まで生えるような勢いで広まっている。



「――はぁ、まったく。研究すんのはウチらだし」


「お、雅どしたん?」


「さっきからちょいちょい似たようなメールがくんの。ほら、こんなん」



 公式の発表用ショート動画を編集していた美佳里に訊ねられ、雅が映写機を通してメッセージをそれぞれにタブで表示して並べたものを映写機から出力させる。

 それらは〝金銀花(カプリフォリオ)〟の配信チャンネルのメールボックス、〝ECHO〟へのダイレクトメッセージという形で、研究に協力させてほしい、報酬を出すから研究に付き合ってほしいというようなメッセージだ。


 差出人に有名大学の研究室名が書かれていたこともあり、流霞は思わず目を剥いた。



「で、でも、プロの研究者の人たちが手伝ってくれるのは大きいんじゃ……?」


「ダメダメ。つかそんなんで成果出せるような連中なら、もっととっくにダンジョンの色々な情報手に入ってるだけだっつの。アイツらが欲しーのはサンプル。結果じゃなくて、結果を調べたっていう実績とその情報だけ」


「つか、るかち。プロの研究者って何それ」


「ウチらも〝がちけん〟で研究を生業にするんだから、プロの研究者じゃんね」


「確かに……」



 言われてみればそれはそうだ、と流霞は今更ながらに思う。


 プロとはつまりそれを生業にする人だ。

 機関に雇われて給料をもらい、それを仕事にしているのであればそれはもうプロであり、つまり会社となった〝がちけん〟の研究者とはプロではないか、と。


 なんだかプロの研究者がゲシュタルト崩壊を引き起こしそうである。



「うーん、もうちょい条件がありそうじゃね?」


「条件?」


「そそ。まず、ここがダンジョンじゃないってこととか」


「あ、それもあるのか」


「ダンジョンは不思議な力、いわゆる魔力の濃度が濃い場所って言われてっからねー。もしかしたらダンジョン内部じゃないとできないかもしんないっしょ? だから、ダンジョンでみんなで実験ってのは視野に入れた方がよさげ」



 雪乃の言い分はもっともで、雅はメールは見なかったことにして早速条件と成り得るものを書き出していく。

 ダンジョンという場所だけではなく、そもそも一緒に危機を乗り越えた相手にのみ有効だとか、そうじゃないだとか、思いつく限りの考え得る条件を全て否定せずに、次々とメモに箇条書きよろしくまとめていった。



「うっし、これを今までの魔装に関する研究論文とかとAIで比較させるようにして、と。おけ、これで今までの類似実験とかは一旦弾くようにした」


「雅、ホントそういうの強いよね」


「便利なツールは使えるようになった方がいいからね。元々そういうの興味あった方だし」


「はえ~~……」



 完全かつ純然たる2次元オタクでしかない流霞には、AIなんて分かるはずもなく、ただただカッコイイ、という称賛しか生まれていなかった。


 そんな感想を抱きながらポテトチップスをちまちま口に運び、ぼへーっとした表情を浮かべていた流霞に、奏星が横から近づいて声をかけた。



「ねー、るかちー。るかちーの銀の棒ってガチで軽いん?」


「え? あ、うん。なんかもう、学校の箒なみに軽いよ?」


「そんな軽いのであんな音鳴るん?」


「るかちの武器……――ッ! それッ! もしかして!」



 突然叫んだ雅がARレンズで映像を見つめながら両手を動かして操作しつつ告げれば、二人だけではなく、美佳里と雪乃もまた雅へと顔を向けた。

 そんな視線を受けながら雅はしばし何かを探るように声を漏らし、そうして映写機に再び映像を映し出した。



「あったあった! これ! 『因子親和性による魔装の強化効果に関する研究』ってヤツ!」


「なんそれ?」


「難しそう……」


「えっと、要約すると、因子と本人の親和性――つまり、相性の数値みたいなものがあって、その数値が高ければ高いほど、魔装は強い力を持つし、因子の持ち主に最適化されるのではないかって話なんよ」



 それは一人の研究者が発表したものの、まだ実際にそこまでの研究が行われていない一つの仮説を導き出した論文だ。

 雅自身、己の因子をどうにか使えるようにするために様々な論文に目を通していたが、その中で目に留まったものである。



「ほら、奏星の剣だってさ、普通に鉄とか加工して作ってたら、1キロ弱から3キロぐらいにはなるんよ。それを軽々振るえてるっしょ? そんなに重いもん、普通に振り回したり、あっさりと軌道を変えたりなんてできるはずなくない?」


「え? あー、言われてみればそうかも」



 見た目的には、細剣というものはそこまで重くなさそうに見える。

 だが、斬撃に使えるということはそれなりの硬度があり、見た目も鉄などが使われているようにも見える代物だ。

 通常で考えれば、身体を鍛えていない一般人がそんなものを使って戦えば、力を入れて振るうことはできても大振りになったり、振ったものを引き寄せるような動き方はそうそうできるものではない。



「実際、魔装は自分には軽く感じる、なんて話は割とよく聞くんよね。ただまあ、るかちみたいに音からしてどう考えてもヤベー重さしてそうなのが、そんな軽々と振れるってのは初耳だけどさ。――ま、それを前提として、この論文なのよ。特にあーしが今めっちゃぴぴっと来てんのが、この〝相性〟っつー言葉なわけ」



 雅がカーソルを動かして強調したのは、確かに相性と記された部分だ。



「ここに書いてある『因子と本人の相性が良くて、その数値が高ければ高いほど、本人だけにとっては重さをあまり感じないものになるんじゃないか』っつー話。つまりさ、魔装ってのは〝相性で化ける〟ってのが前提になってんだとしたら、奏星と流霞――つまり、【太陽】と【月】が相互に働き合う可能性があるくね……!?」



 確証はまだない。

 だが、雅のその発想は、何故かその場にいた誰もがそれが正しいのだと思わせるような、そんな天啓のようなものがあった。



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