検証結果
雅の提案を検証するのに一番手早い方法は、まずは流霞と奏星の魔装を使った実験――つまり、奏星の魔装を流霞が触れてみる、というものだった。
色々とデータを取っておきたいというのが雅の本音ではあるのだが、如何せん〝がちけん〟に今、そこまでの資金力はない。
そのため、今回は必要最低限の情報の確認を優先することにした。
「じゃあ、いくよ……!」
流霞が短く、緊張を滲ませた声をあげて奏星の魔装である鞘に入った細剣を鞘の部分を両手で持つようにして受け取る。
気分は騎士が剣を授かるような、両手の手のひらを上に向けて乗せてもらうような、そんな仕草である。奏星は困惑していた。
そんな中、流霞の銀の棒に奏星が触れた時に起こったような、目に見えての変化は訪れず、流霞や奏星だけではなく、美佳里や雪乃ががっくりと肩を落とした。
しかし、雅だけが真剣な表情を浮かべたまま変わらずに、口を開いた。
「奏星、鞘から引き抜いてから、もっかいるかちに持たせてみて」
「おっけ」
渋る理由などなく、奏星が細剣を己の手に取って剣身を引き抜いた。
扱い慣れた様子でくるりとそのまま細剣を回転させるように動かし、剣身を素手で持って流霞に柄の部分を向ける。
「ほい、るかち」
「か、カッコイイね、それ……!」
「あっはっ、ウケる。るかちだってその銀の棒――ロッドって言うんかな? それ、ぐるぐる回してぶん殴ったりしてたじゃん。あーしのはそれの真似みたいなもんだし」
「そ、そうかな? 棒を回すより剣を回す方がカッコイイと思うけど……」
さすがぼっちのプロ、自分のこととなると途端に卑下して評価を最底辺まで落とすことに躊躇というものがない。
もっとも、実のところはそれに対して「そんなことないよ」と否定してほしいだけの欲しがりムーブだったりもする面倒臭い乙女心がちらちらしているのだが。
そんな反応を誰かが口にするよりも先に、流霞の手が奏星の剣の柄に当たり――そして、奏星の魔装が青白い輝きに包まれた。
「――ゆっきー!」
「ARグラスで撮影ちゅ!」
「ないすぅ!」
雅が言わんとしたことを即座に察して答えた雪乃を他所に、美佳里が即座に動く。
ポケットからダンジョン用のスマホに入っている、魔力濃度計測アプリを起動、数値を確認する。
「っ、雅! 魔力濃度上がってる!」
「ちょっ、ナイス計測! つか、マ!? ってことは、魔法的作用は確定! データ詳細あとで送って!」
「りょ!」
最初から機器のリースを行い、計測状況を整えてからやれば良かった、と歯噛みしつつも、それでも機転を利かせた美佳里と雪乃に感謝して、雅は食い入るように奏星の魔装を見やる。
シンプルな金色の柄がついていただけの細剣。
柄の部分に光が集まっていったかと思えば、直後に光が流霞の魔装である銀の棒――改め、ロッドに描かれた蔦のように伸びていき、金色のナックルガードを形勢する。
そこで終わりかと思えば、剣身の中心にも青白い光が真っ直ぐ伸びて、青白い炎が燃え上がり、それが金色へと変色し、最後には赤い線となって残った。
そうして光が収束して消えた、その時。
流霞が目を大きく見開いた。
「おーっ、ヤバ! なんかめっちゃオシャ剣じゃん! るかちマジ感謝! ……あれ、るかち?」
「……あ、えと、うん。その、なんか今ので私もスキル覚えた、かも?」
「は?」
「ちょっ、情報量多すぎ!?」
「るかちやったじゃん!」
「あ、うん、やっと一つめ……!」
流霞は密かに奏星の【灼火斬】に強い憧れを抱いている。
なんて言ってもカッコイイ。
だから、自分もスキルを獲得するということを願っていたのは確かだ。
ただ、スキルというのは〝獲得すると理解する〟代物だ。
だから、流霞には自分のスキルが即座に理解できた。できてしまった。
故に、なんとなく喜べないというべきか、少しばかり迷うところである。
「それでそれで、るかち。スキルどんな感じ? 良さげ?」
「準備おっけー! るかちー、スキル初お披露目よろ!」
「え゛……っ」
向けられる好奇の視線。
願っていたような派手でカッコイイ代物とは全く違う類のスキルであるせいで、なんとなくちょっとお披露目を遠慮したい気分になる流霞であったが、かと言ってここで断れる程の強気な態度など取れるはずもなく。
「じゃあ、やるね……」
ブレスレットに戻していた魔装を展開し、銀のロッドを両手で握り、真っ直ぐ自分の前で立てるように構えて、流霞がスキルの発動を意識し、口を開いた。
「――【朧帳】」
「……え?」
「あれ、るかち?」
僅かに霧がかったような、霞んだような流霞の姿。
ただ、そのまま動かずにいる流霞に美佳里と雪乃の二人が思わず声を漏らした、その瞬間。開け放っていた部室の窓から流れ込んだ風に揺られて、流霞の姿が風の中に溶けるようにその場から消えていく。
「は……!?」
「えっ、消えた!?」
「――あの、こっち」
「うひゃぁっ!?」
「っ!? えっ!? なんで!? 瞬間移動した!?」
全く違う方向から声が聞こえてきて、慌てて全員が声の方向へと振り返ると、机の反対側、ホワイトボードの近くに立っていた流霞が、注目を浴びることに恥ずかしそうにちらちらと視線を泳がせながら立っていた。
「る、るかち、今のって一体……?」
「その、【朧帳】っていうの。私の幻影だけを残して私自身を一時的に消してしまうスキルみたいで。なので、発動した直後からみんなが見ていた私の姿は、幻影だったの」
「は? ……は?」
「使い勝手良さそうじゃん!」
「え、私としては【灼火斬】みたいなカッコイイのが良かった」
「うける」
「いやいやいや、るかちーおかしいから! そんな破格のスキル、滅多にないから!」
唖然としていた雅が奏星と美佳里の二人と会話する姿に、思わず雅がツッコミに回った。
「隠密系のスキルって今までに確認されてっけど、せいぜい気配が悟られにくくなるとか、そういうのだけなんよ。るかちーみたいに幻影を残して本人が消えるって、それるかちーが思ってるよりずっと強力だかんね!?」
「そうなの?」
「そうだよ! 第1スキルって基本技って言われてて、基本的に地味で弱いのばっかなんだけど!? なのに二人してなんか凄いし! 最高かよ!」
「雅のテンションがおかしくなった」
実際のところ、スキルは数が増えるにつれて威力も上がり、見た目も派手なものが増えていく。特に第3スキルなどになると規模も大きいものになりがちだ。
しかし、そんな派手なスキルを持っている者であっても、第一スキルは派手なものではない。
そんな一般的な探索者に比べて、流霞も奏星もかなり派手で強力だ。
そうなれば、今後のスキルの強さは約束されていると言っても良く、雅のテンションがおかしくなるのも無理はない。
そんな中、ぽつりと奏星が呟いた。
「まあ実際、るかちが姿を消してからきひって殴ってくるとか、それもう死刑確定なんよ」
「ぶふっ!? ちょっ、けほっ、奏星! ジュース気管はいった!」
「あっははっ、ごめん、ミカミカ」
「いや、でも奏星の言うことってガチじゃね? 今のでるかちーが姿を消して、気が付いたら斜め後ろとかできひってるとかさ」
「るかちーホラー枠じゃん」
「えっ!?」
考察の検証による魔装の強化、そして新しいスキルの獲得。
そんな一大事とも言えるような出来事に対する感想が、「ホラーるかち爆誕」というイメージに塗り潰されることになった瞬間であった。




