新たな変化 Ⅱ
突然発光する流霞と奏星、莉緒菜の魔装。
それぞれに自分の魔装を見たまま動きを止めていると、徐々に輝きが収まって消えていった。
流霞のロッドは元々、白を基調とした青い蔦のような紋様が描かれた、シンプルなものであった。
奏星が触れたことによる謎の共鳴現象によって、蔦が伸びるように広がるというものだったが、今度はその蔦が黒と金色に染まり、ロッド全体の色が銀色めいた色合いに変化しているように思える。
長さなどは特に変わっていないようだが、先端を地面に置くようにぶつけてみれば、鈍い音がドン、と響いて周囲の砂が僅かに浮かび上がった。
以前よりも重量が増しているような気がしないでもないのだが、残念ながら流霞にとっては変わらない重さであるため実感は湧いていない。
一方、奏星の細剣。
流霞との一件によって金色のナックルガードが生まれ、剣身に赤い線が走ったかと思えば、剣身が僅かに伸びてもいた。
今回は剣身が伸びるようなことはなく、しかし剣身の赤い線に絡みつくように暗いオレンジ色の線が伸びていて、剣身の柄の部分に黒いビー玉のような球体が埋め込まれていた。
そんな二人の僅かな変化とは対照的に、大きな変化を見せたのは莉緒菜であった。
細い鎖を装飾したような黒いレース調のアームガードは、鎖がかなり長くなっているようで、腕を下ろせば垂れてくるほどだ。
しかも鎖自体も、以前は細めの気持ち程度といったところであったのに対し、明らかに太く大きくなっている。
さらに人差し指と中指の根本にリングが現れ、そのリングには人差し指に月、中指に太陽を思わせる刻印がそれぞれに刻まれており、装飾の鎖が繋がっている。
「なにこれぇ……?」
さすがの莉緒菜もキャラが崩壊した瞬間であった。
このような事態に発展するとは予想していなかっただけに、思わず素が出てしまったというところだろう。
魔装が変化するというのは流霞と奏星の配信でも観ていたおかげで、知識としては「そういうこともある」という程度には理解しているつもりだった。
だが、それにしたって変わりすぎているのだ。
全体的にアクセントに過ぎなかった控えめな鎖が、メインになっているような、そんなレベルの変化である。
配信をしていなくて良かったと安堵する余裕すらなく、莉緒菜は唖然としながらまじまじと自分の魔装を見つめていた。
「……なんか声みたいの、聞こえた?」
「うん、聞こえた」
「っ、二人も聞こえてたの?」
「えー、あーしだけハブられてんじゃん、ウケる」
「あ……っ」
この現象、残念ながら美佳里には何も起こっていなかったのだ。
ウケる、と言いながらもなんとなく寂しげな感じの美佳里に、なんだか気まずいものを感じた奏星。
しかし気まずい空気になるその寸前で、ふと、流霞がぽつりと呟いた。
「ミカミカも光ってたら、メガネ光ってたのかな……?」
「ぶふっ!?」
「んふっ、レンズピカーってなるん?」
「ちょっ、やめ……!」
耐えきれずに噴き出す莉緒菜と、悪ノリする奏星、そして想像したせいでツボってしまった美佳里の声がダンジョン中層13階層で響き渡る。なんとも似つかわしくない平和な光景であった。
「いや、冗談はさて置いてさ。これ、るかちーとあーし、それにりおなんじゃん? これ、《《アレ》》じゃね?」
「……反応したのは私たちの魔装。そして私たちは、それぞれにるかちの【月】、奏星の【太陽】、そして私の【悪魔】。……本当に関係があるかもしれないわね」
「【魔弾の射手】、無事なんもありませんでしたー」
「ふっ!?」
「ミカミカそれもうズルじゃん」
「へへ、さーせん」
自分だけが取り残されたような気分はどこへ行ったのか、ネタにしてしまう美佳里のせいで流霞が撃沈し、莉緒菜がさっと顔を逸らした。
肩が震えてしまっているものの、莉緒菜としては隠しているつもりらしい。
ひとしきり笑い合えば、ようやく波が引いていったようだ。
ちょっと沈黙する度に誰かしらが小さく「んふ」と声を漏らしながら肩を揺らせるせいで、なかなかに苦戦していたが。
ようやく落ち着いた頃には若干の疲労感と虚無感を覚えつつ、改めて莉緒菜が仕切り直して咳払いしてみせた。
「――さて、この現象だけれど。るかち、それに奏星。あなたたちは過去に経験したはずよね?」
「うん。でも、声が聞こえたのは初めてだった」
「それな。ウチらの時はいきなりペカーってなっただけだし」
「……何か条件でもあったのかしら。それとも、最初だったから、とか? ダメね、ハッキリしないわ。一つずつ整理していきましょう。二人は私の魔装に触れたいとか、そういう強い衝動は感じたことないわよね?」
「んー、そんなことはないかなぁ。るかちーは? どう?」
「ううん、私もない」
「となると、今回のトリガーは私が触れたこと、で間違いなさそうね」
「どゆこと?」
奏星と流霞の答えを聞いて莉緒菜が導き出した答えに、美佳里が首を傾げた。
唐突に感じた、流霞の魔装に対する強い興味。
衝動とも言っても良さそうなそれは、莉緒菜の気持ちを操ってすらいるかのようだった。
――――に―――触れろ。
――を――――応えろ。
ハッキリとはしないものの、間違いなくそれは訴えかけてきていたのだ。
そうして触れた瞬間に引き起こされた変化。
間違いなく莉緒菜の行動が引き金となったのは確かだった。
「私が聞いた声は、〝【月】と【太陽】が出会い、【悪魔】は『光』を知った〟だったわ。二人はどう?」
「あーしは〝【太陽】と【月】は互いに調和し、【悪魔】は試練を乗り越えた〟だったっけ」
「あっ、それ私も同じ!」
「そう、二人は同じ内容なのね……。間違いなくお互いに作用して、新たな何かが生み出された、というような状態であるのは間違いなさそうね……」
「だよねー。あー、『運命に導かれし者』、ガチ説かぁ」
「なんそれ?」
莉緒菜が最初に出会った際に口にした言葉であり、しかし莉緒菜のいわゆる〝設定〟でしかなかったはずの言葉、『運命に導かれし者』。
その話を改めて奏星が美佳里に説明していくと、美佳里は「ほへー」と納得したような、よく分かっていないような、奇妙な声を漏らした。
「なーほーねー。つかさぁ、それに加えてさっきの声? だっけ? その内容考えるとさ、もしかしたら出会う順番っつか、そういうのも関係あったりしそうじゃね?」
「へ? どゆこと?」
「いや、ほら。奏星とるかちーが聞いた、調和して【悪魔】が試練を乗り越えたってのはさ、もしも調和してなかったら試練とか乗り越えてないかもってことじゃん? ってことは、順番とか関係性とか、なんかそういうのがしっかり揃ってないと、逆に悪い結果になったりするかもしれんくない?」
「――っ、それは……」
第三者という立場で話を聞いていたからこそ、美佳里にはそう思えてならなかった。
もしも流霞と奏星が出会っておらず、今のようになっていなかったら、【悪魔】である莉緒菜が『光』を得なかったら、一体何がどうなったのか。
その答えは未だに見えていないものの、何故か、そうならなくて済んだことに対する強い安堵感のようなものが胸の内に広がっていることに莉緒菜は気が付いていた。
「……分からないことが多すぎるわね。でも、こういうことが起こった以上、おそらく『アルカナ』のダンジョン因子には何かがあるのは間違いないわ。いずれにせよ、何がどう変わったのかも分からない以上、さすがにこの状態でこの階層での戦闘を続けるのはリスクだわ。一旦戻って、雅たちと相談しましょう」
「おけー。つか今日、雅たちも新事務所の諸々で限定公開もしてないけどさ。さすがに帰ったらビビるっしょ、これ」
「それなー。絶対録画見ながら考察すんだろーね」
そんな話をしながら戻る中、流霞は一人ぼんやりと考える。
――もしかして、〝虎〟さんたちなら何か知ってるのかな。
自分たちの知らない何かを調べ、ダンジョン因子を汚染度と称しているという研究者のような者が仲間にいることは聞いている。
彼らならば、何か思い当たる節があるのではないだろうか、と。




