シリーズ
ダンジョン中層13階層で突如として起こった、魔装変化。
かつて流霞と奏星の間でのみ発生した事象であったそれが、莉緒菜の魔装すらも巻き込んで引き起こされ、さらには奇妙な声まで聞こえたともなれば、もはや3人の魔装だけが偶然引き起こされた、とは言い難いだろう。
「――そもそもるかちーと奏星の一件、それにりおなんがアルカナホルダーがどうのとかって言ってきた時から、こっちでもアルカナにちなんだダンジョン因子持ちと、魔装同士での変化、便宜上共鳴現象と呼ばせてもらうけど、類似の事例があるかについては調べてたんよね」
諸々の説明を聞いた上で、新事務所に集まっている〝金銀花〟、それに〝魔女の饗宴〟メンバーの前で、雅と紅音が調べてきた情報がまとめられた資料を真新しいモニターへと表示させた。
「現在、ここにいるるかちーの【月】、奏星の【太陽】、それにりおなんの【悪魔】以外に公になっている『アルカナホルダー』は《《3つ》》。国外の【皇帝】と【女教皇】、そして、この国内に現れたっつー、【死神】もそうだと思う」
「え……?」
「【死神】って……」
「もっとも、【死神】はもうすでに探索者用監獄に入っているっぽいんよね。探索者としてはレベル2だったみたいだけど、連続殺人鬼として逮捕され、終身刑が決定してんだってさ」
予想していなかった雅の言葉を補足するように、紅音が画面に男の顔を映し出した。
やせ細り、肉という肉が落ちきったような不気味な見た目に、ぎらぎらとした目を持つ男。ぱっと見ただけでも、確かに【死神】というダンジョン因子を持っていてもおかしくはないように思えた。
もっとも、ダンジョン因子と外見はまったくもって関係はないが、連続殺人なんてものを引き起こした人間らしい危うさのようなものが感じられる。
「まあコイツについては、もう外に出てくることはないと思うから、【死神】は一回除外するとして。問題は、そもそも〝アルカナホルダー〟の持つアルカナが、タロットカードでいう大アルカナだけを指しているのか、それとも小アルカナも含めているのかも分かんないし、そもそも大アルカナだけだとして、そういうダンジョン因子だって気付いていない因子持ちの方が圧倒的に多い可能性もあるんよね」
「あー、それはそう。それに、ダンジョン因子って秘密にしてる人多いんじゃなかったっけ? そのまま意味分かんなくてダンジョンに潜らなくなってたりもしそーじゃん」
雅の説明に続いた雪乃が思い浮かべたのは、大アルカナのそれぞれの名称だ。
そもそも大アルカナであるカードは【恋人】や【隠者】、あるいは【節制】や【戦車】など、シンプルな強さに直結するのか分かりにくいものだ。
それらがどんな力を持っているのかと言われると、まったくもって想像がつかない。
流霞な奏星のように力が開花すればいいが、何も掴めないまま「この因子は使えない、ハズレの因子だ」と考えてダンジョン攻略を諦めてしまうような者だっている可能性が高かった。
「んじゃ、ウェブサイトで集めてみるとかどう?」
「さすがに目立ち過ぎるからパスかなぁ。実験の段階ではあるけれど、ダンジョン因子がダンジョン向けじゃないと考えてダンジョン探索をしていない場合、それが理由で反応しない、なんてのも有り得そうじゃん? ほら、今回になってりおなんが衝動に駆られたっていうのも、なんか前提条件みたいなのがある感じだし」
「あーね」
「奏星の案はともかくとしてさ、あんま表立って言わない方が多いのはしゃーなしじゃね。能力を知られて、変なのに対策されて襲われた、みたいなのも昔はあったかんね」
美佳里が言ったのは、ダンジョンが宝の山になると認識され、配信によって様々な情報が発信されるようになったばかりの頃の話だ。
当時はダンジョンに入って帰ってくる力はないものの、その代わりにその実力者の能力を徹底的に調べあげ、対策をして襲いかかるというような事件が一時期増加していたのである。
それ以来、配信をする者たちの中でも自分たちの能力を細かく説明しない探索者が増え、逆に当時からダンジョンに潜っている探索者たちは配信を嫌い、動画も一般公開しないという方針の者が増えた。
「あーしの【太陽】とかるかちーの【月】なんて対策取りようなさそーだからいーけどねー」
「それはそう。ぶっちゃけ【太陽】と【月】とか、何がどうなってるのかさっぱりわからんし。いや、奏星のはまだ分かるけど、るかちーの方なんてびっくり箱みたいなもんじゃん」
「びっくり箱……」
雅からまさかそんな表現をされるなんて、と思うと同時に、我ながら色々な力を使っているので確かに上手い表現かもしれない、なんて余計なことまで考えてしまうコミュ障オタク少女の流霞である。ちなみに、話を振られただけでちょっと心が弾むちょろさも健在である。
そんな流霞が一人小さく口角をあげているとは露知らず、紅音が続けた。
「アルカナについてはともかくとして、新たに調べた情報によると、どうやら魔装の共鳴現象というのは皆無ではない、ということが分かりました」
「え?」
「ほんまに?」
「はい。これは探索者協会を脅し……げふん、交渉して提出してもらったデータなのですが、こちらを御覧ください」
――脅したって言った、絶対言った。
一同が同じことを考えている中、紅音はしれっと何事もなかったように映像をモニターに映し出した。
映し出されたのは、海外の探索者であるようだった。
スペイン系の男女がお互いに戦いの中で魔装に触れ合い、強い輝きを放ってから魔装の姿が変わる。
驚いたような表情を浮かべていたものの、すぐに戦いに意識を切り替え、その後どうにか戦いを切り抜け、喜び合いながらハイタッチをするという映像であった。
「こちらは探索者協会から提供いただいた、スペインの姉弟探索者の映像です。ダンジョン因子は姉の方が【Acuario】、弟の方が【Tauro】。日本語で言うところ、水瓶座と牡牛座ですね」
「星座……というより、黄道十二宮って感じの方がしっくり来そう」
「イギリスでも【Libra】――天秤座のダンジョン因子も見つかっているようですので、星座というよりは黄道十二宮との表現が正しいかと。こちらが『アルカナシリーズ』だとすれば、向こうは『ゾディアックシリーズ』といったところでしょうか」
紅音と雅の会話に、ついつい「その名称、なんかカッコイイ」と思わずうずうずとしてしまう流霞と莉緒菜であった。
莉緒菜は「演技的に使えそう」という発想ではあるが、流霞の方は眠れる中二心に火が点こうとしているようである。
「現段階では、『魔装はシリーズ同士が出会い、交わり合うことで変化する』ということ。それに、『シリーズは幾つもの種類がある』ということは確定でしょう」
「それだけじゃないよ、あかねぇ。こういう系統のダンジョン因子って、全部『第3世代』に集中してる」
「……言われてみれば、スペインの姉弟もイギリスの青年も、全員が『第3世代』に該当しますね」
元々のダンジョン因子は分かりやすいものだった。
ここまで複雑と言うべきか、迂遠な表現のものばかりではない。
だからこそ、『第3世代』のダンジョン因子に人類が苦戦しているというのもあるのだ。
そんな中で生まれた、シリーズによる新たな変化。
それらが『第3世代』特有のものであるとしたら、これはきっと、ダンジョンの意思によって引き起こされている事象である可能性が高い。
この場にいる誰もが、そんなことを考えずにはいられなかった。
とは言え、悩んでいてもしょうがない。
「――ま、これはこれとして調べていこ。ウチらにできんのは、一歩ずつ進んでくこと。ぼんやり考えたってしゃーなし」
分からないものはどれだけ考えたって分からない。
そもそも、ダンジョンはまだ中層までしか攻略されていない上に、現実的にまだまだ情報が足りてすらいないのだ。
手探りで進み続けなくちゃいけない事態に不安になることもない。
何せ、この〝がちけん〟が始まった頃となんら変わらないのだから。
そう考えて、雅が手を叩いて全員を思考の海から引き上げた。
「それに、ウチらが知らない情報を知ってる人たちと明日には会うんだし。ちょっと情報交換してみるってのもありじゃん?」
「〝不法探索者〟として活動しながら、スキル拡張を教えてくれた人物たち、ですね。私は当時を知りませんが、録画データは確認してあります。彼らならば何かを知っている可能性もありそうですね」
「だっしょー? とりあえず、まずは分かることから! はい、各自解散! 動こー」
「あっ、じゃあ中層素材おくれー。あーしの『魔導防具』ちゃんに使えそうなもん探すー」
あっという間に気持ちを切り替えて、それぞれに動き出す。
わちゃわちゃとそれぞれに話し合い、お喋りをしながら、流霞と奏星と莉緒菜は新しい魔装の性能テストを行い、他の面々もまた思い思いに過ごす。
そうしてついに、〝椿〟と〝虎〟との再会の日はやってきた。




