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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第5章 蠱毒の王

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4つの狙い




「――配信、ですか。なるほど、人気が爆発している未成年者の〝金銀花(カプリフォリオ)〟が配信で、〝お国の命令〟の実状を語ることで、民意を煽ると?」



 配信の許可を取ってくれ、と言われた紅音が最初に思いついたのはそれだ。


 かつての自衛隊問題もそうだが、根本的な問題は〝国のために命を懸けろという命令を出したという横暴さ〟に対して民衆が怒ったことが問題だ。

 任務のために、国のために戦いの中に身を投じることもある自衛隊という組織ではある。だが、それはある意味で〝譲れない一線〟を守るための尊い犠牲とも言える。


 しかしダンジョンに身を投じ、命を懸けて強くなれ、というのは違う。

 命を落とす、大怪我で後遺症を残す、PTSDになって精神的に不安定になってしまう。

 そんな場所に火急の事態でもない状態で入れというのは、話が変わる。


 それ故に、ダンジョン関連からは基本的に足を洗っている状態だ。

 それでも一部の部隊では〝ダンジョンブレイク〟時の対応のため、探索者出身の専門部隊などを設けてはいるが、大多数は一般的な自衛隊任務を行う者たちでしかなく、探索者のようなレベルアップ方式での鍛え方はしていない。


 余談ではあるが、警察でも〝元探索者犯罪対策課〟という、レベルアップした犯罪者に対応するための特別班を用意していたりもするのだが、それはさて置き。


 ともあれ、表向きには〝そういう住み分け〟が成立してしまっているのだ。


 ダンジョンのことはダンジョンの専門家であり、戦いを知る探索者たちが主導する。

 その代わりに、人と人との戦争が起こった際や、有事の際の〝数の力〟を自衛隊が主導するという役割に落ち着いた結果でもある。

 もっとも、突出した探索者が国のために戦う、或いは動くというケースもある国は存在しているのだが。


 結果的に、今となってはそうした役割分担が完了しているような状態だが、しかしそれはあくまでも、〝ダンジョン出現当時からの数年間〟――いわば黎明期とも言える時代に決定したことである。


 今の時代、探索者として活動する世代も当時よりも幅広くなった。

 配信によって探索者たちは一種のインフルエンサーにもなり、同時にヒーローやヒロインのような活躍を見せて人気を博している者もそれなりにいる程度には、一般人にもしっかりと探索者という存在が認知されている。


 今時分『探索者だからお国の命令に従え』というようなルールを適用するのは難しい。そんなルールを利用して女子高生でしかない、成人認定すら受けていないような世代の子供が参加させられようとしていると知れば、当然、民衆もまた色々と思うところは出てくるだろう。

 そういう意味で、民意次第では改正の余地は充分にあるとも言えるだろう。


 背景を理解し、雅の思惑を把握しつつ紅音が訊ねてみれば、雅は頷いた。



「そそ。けどまあ、そんだけじゃないけどね。ぶっちゃけ、他にも3つばかり目的があるんよね」


「は……?」



 単純にそれだけと言われても、充分に効果は見込める。

 だというのに、さらに他にも3つも目的があるという、予想すらしていなかった雅の言葉に、紅音は思わず固まり、話を聞いていた全員もまた唖然とした様子で雅を見やる。



「確かにそれにも期待してっけど、あーしが狙ってんのは大きく4つの狙いがあるんよ」


「4つ、ですか」


「そそ。その1つが今あかねぇが言った『民意を煽る』っつー方法。で、それに近いんだけど、配信をすることで《《探索者の声が大きくなること》》も狙ってる」


「探索者の声、ですか?」



 それが一体何を指しているのか分からず、紅音が訊ねる。

 他の面々も、雅が言っている言葉の意図が読み取れていないようであったが、それらを受け止めた雅は淡々と続けた。



「今あかねぇが言った通りだけどさ、今回ウチらは〝女子高生で子供なのに〟ってのを前提として声をあげれば、当然普通の人たちは憤慨するわけじゃん? でもさ、その代わり、〝じゃあ成人になったら文句はないんだな〟って言われんのも違うわけ」


「それは……。確かにそうですね」


「だっしょ? 大人になったから従えってのもおかしい。だったら、この制度自体がどうにかなってくんなきゃ意味がない。だけど、なくならなかった。なんでだと思う?」



 言葉を止めてみるも、返事はない。

 そこで雅は一つ咳払いをしてそのまま続けることにした。



「これ、そもそもこの制度に大人が声をあげるチャンスっつーか、声をあげられる人ってのがいないんよ」


「え……?」


「だって、一般人が大人になったって、関係ない法律だから知らないって人多いじゃん? で、内容知ったって、さっき言ったように自分たちより税金で優遇されてんだからズルい、やれ、って気分になるっしょ? でさ、そんなんだから探索者の大人が文句を言ったら、今度はそれが臆病者とか、優遇だけされて文句言ってる、ってまた一般人とかからも叩かれるじゃん。ほら、誰も口に出せんくない?」


「っ、そ、れは……」



 言われてみれば、それはそうだ。


 確かに、自分には関係のない制度である以上、一般人は不満を口にはしないだろう。

 するとすれば、そういうところにつけ込んで文句を言って騒ぎ立て、それで得をするような者たちぐらいなもので、自分たちには関係のないものでしかない。


 一方で探索者がそれを言えば、「優遇を受けているくせにワガママ言ってる」というような扱いを受けるのも確かである。



「だから、ウチらは配信の中で堂々と文句を言う。税金収めりゃ命令に従わなくてもいいのかとか、そもそも選べないっておかしーじゃん、って。そういう話も出して、愚痴る。んで、ウチらの愚痴に反応するようにSNSとかで探索者も言える空気を作る。したらさ、そーゆーのでやれ人権が、とか、常識が、みたいに意見を言いたがる連中はどこに向かって言うと思う?」


「……間違いなく、探索者協会か国、ですね」


「そゆこと。探索者たち、一般人、どっちからも同じ方向に向いて口撃されるわけ。最悪、お父さんとかに大手クランの代表者としてどう見ているか、みたいなのとかアップしてもらってさ。これが二つめの狙い」


「なる、ほど……」



 もしもそんな騒動になり、大手クランもまた「税金を収めるから命令には従わないよ」と言い出してしまったら、一番困るのは国だろう。


 ここでも引っかかってくるのが、住み分けをしているという現実だ。

 何せ国は探索者にダンジョン関連のことを丸投げしているような状態である。

 自衛隊も警察も、レベルアップしている者を優遇して対策チームを作ってはいるが、では〝ダンジョンブレイク〟等が起きた時に対応できるかと言えば、できるような数までは揃えられていないのである。



「これはウチらっつか、あーしだけが考えることじゃないけど、そうやって命令権を失うことになったら、もっときちんとした交渉材料(カード)を切ればいいだけの話じゃん? シンプルにお金じゃなくたって、それこそ税制優遇の提案だとか、犯罪者組織から押収したアーティファクトとかの優先買い付け権とかでさ」


「っ、そこまで考えているのですか……?」


「ぼんやりと、だけどね。けど、実際今って大手クランの一部と国とだけが協力してる状態じゃん? そうじゃなくたって、明確にメリットのある取引にできれば、自衛隊とか警察もクランに対して取引を持ちかけやすくもなるじゃん」



 今の〝お国が優遇しているのだから協力するのが当たり前〟などと言う曖昧な状態では、自衛隊や警察からクランに対して何かを交渉し、作戦を実施することもできないのが実状だ。何せどこまでを要請していいのかの目安すらない。

 当時はそれで良かったかもしれないが、現行の制度は現代においては不都合が多すぎるのだ。 


 しかし、今後お互いの役割をハッキリさせて報酬を定められるようになるのであれば、もっとコンスタントにお互いに連携する際に指標を設けやすくなるだろう。

 中長期的な視座で考えるのであれば、この騒動でそういった部分も改善されることに期待できるだろう。



「ま、そーゆーのはウチらだけで決めれることじゃねーし、置いとくとしてさ。――で、次の狙いね。ウチらが配信することで民意に火が点けば、ウチらにそんな要請出した連中を炙り出せるかもしれないじゃん? アイツらがやったことです、国としては遺憾ですー、みたいな? そうやってくれりゃ、ウチらを利用してやろうって連中を追い詰められる」


「それは、とかげの尻尾切りになるのでは?」


「それはそう。けど、それだけじゃない」


「はい?」


「ウチらに手を出すと面倒になる、って理解させられる。それだけでも唯々諾々と従うより全然脅しになるし」


「……それは確かに。ですが、そもそも配信の許可が取れなかったら……」


「それはそれでアリ。だって、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の公式アカウントでさ、不安そーな感じとかSNSで投稿しまくって、領土奪還作戦に参加したっつー事実があったらさぁ。国が無理やり従わせた、みたいな空気にできんじゃん? そこに〝配信の許可を取ろうとしたけど、許可されなかった〟、って情報だけは言ってれば、勝手に深読みしてくれるし」


「……っ」


 ――そんなところまで、考えて……。


 紅音は今、ある意味で初めて雅の特異性というものを目の当たりにしたような気がして、息を呑んだ。



「んで、最後にそれでも要請が撤回されなかったとして――配信さえできれば、間違いなく〝金銀花(カプリフォリオ)〟と〝魔女の饗宴〟のみんなには注目が集まるじゃん。そしたら、下手に手出しできなくなるっしょ。何が狙いかは知んないけど、馬鹿な作戦に付き合わされたり、現場でいきなり意味わかんない命令されたりってのの予防線にもなる」


「確かに、それは大事ですね……」


「要するに――〝《《提案された時点で詰み》》〟。向こうが先にやってきたんだから、こっちもそれをやってやんよ、っつー話」



 雅がそう言い切ってみせる姿に、紅音は言葉を失った。


 元々、雅が年齢に似つかわしくない程に頭が回ることは理解していた――つもりではあった。

 だが、その理解がまだまだ浅かったのだと思い知らされたような気がしてならない。


 ――つくづく、15歳そこらの思考じゃないわ。戦略的に物事を考えて、徹底的にやり返す手段を選び取れるだけの頭の良さは、リーダーとしての資質を備えている、なんてものじゃない。


 理解していたつもりではあったが、雅という少女がいかに広い視野を有しているのか、改めて突き付けられた気がして、ぞくりと背中に冷たいものが走ったのは確かであった。




 ――――なお、こうした話し合いの中でも、未だに流霞は雅が〝銀河戦争〟を語り合える仲間ではなく、一人ではしゃいでしまったことに後悔しているばかりであった。




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