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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第5章 蠱毒の王

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方針会議




「へへ……。推しグッズ、心が満たされる……」



 その日、〝金銀花(カプリフォリオ)〟のトップであり、コミュ障オタク少女の八咫島(やたじま) 流霞(るか)は、己の欲望が満たされて天にも昇るような気分で無人タクシーに乗っていた。


 ――探索者を始めたのはこの為と言っても過言じゃない。


 シートの上に大事に置いたのは、購入したばかりの推しグッズの数々である。

 ダンジョン因子の影響によって髪が白銀色に変わり、瞳の色も灰色になっている流霞は有り体に言って目立つ。

 だからと言って、ウィッグをつけるというような誤魔化しをせずに目深にパーカーを被ったヤベーヤツが出来上がっている。それはそれで目立つ。


 しかし、髪色さえ隠せているならば誰も自分に気付くはずなんてない、という謎の心理的防衛成功宣言をした流霞に、現実なんてものは関係ない。

 周囲の目など気にすることもなく、推しグッズを吟味し、並べられた商品の中でも手垢がついていない箱を選び取り、大量に購入して帰路についていた。


 ――推しのためのお金を躊躇わなくて済む……。これが、探索者の魅力。


 他の探索者が聞いていれば「違うが????」とツッコミが返ってきそうではあるものの、流霞にとってはそうなのだ。間違いなく。


 ともかく、あとはこの推しグッズの数々をしっかりと自宅に持ち帰り、並べる準備をせねばならない。その為の棚も買った。魔石を動力にしている、いわゆる『魔導家具』と呼ばれるような代物で、ぼんやりと光る照明がついた棚である。


 どういう風にレイアウトしようか、以前の推しグッズたちもそこに移動して、と想像を膨らませていた流霞であったが、唐突にスマホが振動し、びくっと身体を震わせた。

 この少女、基本スマホはマナーモード派――つまり音を鳴らさない派である。鳴ったら周囲からチラ見されるのが気まずいタイプだ。


 そのくせ、自分に連絡がきたとなると少しウキウキしながら内容を確認する流霞は、メッセージがグループメッセージであることに気が付いて、小首を傾げた。



「んん? 明日の放課後……?」



 雅から送られてきた、クランメンバーが全員参加しているチャット。

 そこに送られてきた内容は、「話があるから明日の放課後、現事務所に集合できる?」というものだった。


 ――雅がこういうチャット……珍しい。


 普段は単刀直入に内容であったり、頭出しと称して一通りの情報が記載されたファイルを一緒に送ってきてから「明日これについて話したいからオンライン参加よろー」ぐらいな感じであったりするのが雅だ。


 そんな彼女が、珍しく本題を伏せているような誘い方をしてきている。

 何か言いにくい話題だったりするのだろうか、と深読みしつつ悶々としている流霞は、誰か内容を確認してくれないかな、と他力本願過ぎる本音を胸の内で呟きながらも、了解を示すリアクションを返した。


 なお、それはそれとして推しグッズを見てだらしない笑みを浮かべていた辺り、流霞の頭の中は平和であった。




 ――――明けて翌日。


 授業が終わって早速とばかりに5人は〝がちけん〟の現事務所でもあり、『明鏡止水』の持ちビルの地下へと移動した。


 学校でも移動中でも他愛のない会話を続けていたが、雅だけは時折、何かを考え込むように上の空になっていた。

 そういった空気の中でも普通に会話している他の面々のおかげで気まずい空気にはならずに済んでいたと言える。


 ともあれ、すでに事務所で仕事をしていたらしい紅音と、流霞たち一行が到着して間もなく到着した〝魔女の饗宴〟のメンバーが揃ったところで、改めて雅は今回集まってもらった理由を語っていく。



「〝魔女の饗宴〟のみんなには先んじてチャットしてたから、伝わってると思うんだけど、改めて言わせてもらうと――」



 雅から告げられたのは、領土奪還作戦に関するものだった。


 千葉県南東部――いわゆる安房(あわ)地域。

 かつて〝ダンジョンブレイク〟が引き起こされ、魔物の領域となってしまったその地域を奪還するための作戦への参加要請が届いたこと。

 これに加えて、領土奪還作戦の危険性に関する簡単な説明と、万が一にでも断った場合に非情に面倒な性質を持つ内容であることなどだ。



「――で、これらをどうするか、みんなの意見を聞いたかったわけ」



 一通りの説明をそんな言葉で締め括った雅の言葉に、僅かな沈黙が流れる。


 ――つまり、地上で魔物と戦えってことだよね?


 脳筋系コミュ障オタク少女である流霞が最初に抱いた感想は、受けるか受けないか、リスクがどうか以前に、ただただシンプルにそれだけであった。話し合いで一番アテにならないタイプである。


 その一方、流霞の隣に座っていた姫屋(ひめや) 奏星(かなえ)は苦笑を浮かべた。



「雅が今日一日上の空っぽいの、これが理由かー」


「え、あーしそんなんだった?」


「ヤバかったわ。どっか見て止まってばっかだったし」



 揶揄するように笑って雅が言えば、さらにその向こう、奏星の隣に座っていた川邊(かわべ) 美佳里(みかり)がうんうんと頷いた。



「けど、そりゃ悩むわ。要するに、受けたら受けたで危ないし、断ったら断ったでメンドーってことっしょ?」


「それな。つかもっとさっさと言えよ、雅ぃー」


「ほんとそれ。なに遠慮してんだよー」


「ごめんって。あーしもちょっと色々考えたかったからさ」



 やんややんやと声をあげる美佳里と奏星に、苦笑しながら雅が頬を掻く。

 そんな雅の斜め向かい、雅に一番近いところに座っている(あづま) 雪乃(ゆきの)は腕を組んで難しい表情を浮かべていた。



「やー、これ確かに微妙な問題じゃんね。ぶっちゃけ断った方がいいレベルでダルすぎ。つか、受けても損しかなくない?」


「そう、受けてもウチらとしては美味しくないんよ。けど、断ったら色々言われると思う」


「華のJKをそんなとこに送り込もーって方がおかしーじゃん。責められんのはウチらじゃなくね?」


「それはアレだよ、『探索者だから』ってパターンのアレ」


「あー……。あったわ、それな」



 文句を言いながらも、雅の説明に言い負かされるような形になった雪乃。

 その一方で、流霞や奏星、美佳里には『探索者だから』では何が言いたいのかがいまいち判然とせずに首を傾げた。


 どうやら流霞たちだけではなく、〝魔女の饗宴〟のメンバーである柳田(やなぎだ) 菜桜(なお)も同じく首を傾げていたようで、流霞とバッチリ目が合った。

 なんだか仲間を発見できたようで嬉しくなる流霞を他所に、紅音が幾つかの画像を近くのモニターに映した。



「――何名かはピンと来ていないようなので説明します。探索者は基本、高収入であると同時に税制面でも一般人に比べて優遇されています。その税金面で優遇される理由の一つに、『ダンジョンに関する災害等が発生した際に、やむを得ない理由がない限り、国の要請に応じて対応に当たること』というのが条件に設けられているのです」


「身も蓋もない話、要するに『探索者(自分ら)は探索者を好きでやって得しとんねんから、お国のために対処すんのが当たり前や』って一般人が言えるっちゅーわけやな」



 紅音の言葉を引き継いで、文字通りに身も蓋もない物言いで分かりやすく説明してくれたのは、(なぎさ) 瑛里華(えりか)である。



「そういうことを言わせるためのものではなかったようですが、結果として一般人は探索者に対して『そういう時には対処しなくちゃいけない人たち』というような認識が広がっているのは事実ですね。ですので、それを断ったと知られれば、まあ面白くない流れに巻き込まれますね」


「責める口実があれば、相手の年齢とかそんなの無視して責めることができちゃうのが人間ですもの~……。断れば、おそらくは色々と言ってくる人たちも出てくるわよね~」


「せやな。悪いことしよった相手やったら何やってもえぇって思っとる連中は一定数おるもんやからなぁ」



 紅音に続いた藍沢(あいざわ) 聖奈(せいな)のおっとりとした言葉、そして瑛里華のあけすけな言葉で、ようやく諸々の理解が及んだ流霞と奏星、美佳里が頷いた。



「ついでに言いますと、領土奪還作戦という性質上、今回の指示は探索者協会ではなく、国側から探索者協会にお鉢が回ってきた、というところになります。ただ、皆さんご存知の通り、私は探索者協会に所属していましたので、その繋がりから色々と情報を得ることができました」



 紅音がモニターの表示を切り替える。

 そこに映し出されたのは、今回の領土奪還作戦に関する情報の数々と、〝金銀花(カプリフォリオ)〟、そして〝魔女の饗宴〟の扱いについて記載された諸々であった。



「私の元上司が色々と交渉し、皆さんには安全なところでのみ参加するということで許可を得たとのことです。それに加えてこれらの許可も得ていますし、さらに何かあるようならば、もぎ取ると約束してくれています」


「おぉー」



 なんだか凄く頑張ってくれたらしいことに素直に感心する一行が、条件の各種や内容に目を通していく。

 そうしてしばらく、雅が改めて口を開いた。



「――あーしとしては、みんなの安全が確保されて、最優先に逃げれるんなら参加していいと思う。けど、ここで言いなりになって、今後もいいように使われるっていうのは嫌なわけ」


「私も同様です。ですが同時に、今回の件に対して正式に抗議することも視野に入れているものの、向こうが聞き入れてくれるとは到底思えない、というのも事実ですね」


「ま、お役人なんてそんなもんやろ」



 雅や紅音、瑛里華の声を聞き流しながら、流霞は改めて情報を整理する。


 要するに、受けてもメリットはないし危険だから受けたくはないけれど、受けなきゃすっごく面倒なことになるっていう状態。しかも、おそらくそれを押し付けてきた相手は、そうした背景すらも理解した上で要請してきている可能性が高い、と。


 受けなきゃいけない、でも、確かにこのままいいように使われるのは癪だ。


 ――んん……? あれ、確かこういう展開、〝銀河戦争〟シリーズでもあったような。


 オタク少女はそんなことを考えながら各要項を見ていく。


 ――えぇっと、確か二期だよね。ようやく一期でヒロインと結ばれたのに連合軍の命令を受けなきゃいけなくて。結構好きだったなぁ、あの話。主人公の境遇が多くの仲間たちから友人たちとかに広がって、それがあっという間に国全体に広がって、みたいなの。なんだっけ、あの話の第8話の題名……! あぁ、喉元にまで出てきてるのに出てこないこの感じ、モヤモヤするううぅぅ……! ……えっと、届いた声、じゃなくて、えっと……あっ!



「――『届いた民意』!」


「えっ?」


「えっ、あっ、ご、ごめん、なんでもない……!」



 喉元まで出かかっていたものが、喉元を通り過ぎて思いきり声になった流霞であった。

 授業中に先生をお母さんと呼んだレベルの恥ずかしい気分を味わいながら、縮こまる流霞。


 しかしその一方、雅がはっと何かに気が付いたように顔をあげた。



「――それ!」


「えっ? み、雅も〝銀河戦争〟シリーズのあの話知ってる?」


「ごめん、それは分からんけど」


「あっ、ハイ」



 同好の士を見つけたような気がした流霞が撃沈するのを他所に、雅は紅音に顔を向けた。



「あかねぇ、配信許可取って! 参加までと、参加中の!」



 同好の士という訳ではなかったかとガッカリしている流霞に、雅のその声は届いてはいなかった。

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