閑話 〝十字星〟
第23回、全国新人探索者パーティ対抗戦は大盛況のまま閉会した。
新人探索者パーティとしては相応しくない、あまりにも強烈な実力を見せつけた〝金銀花〟。
そして、無駄に有名になり、この配信以降〝百合王子〟、〝楽園の守護者〟などという遊ばれまくった呼び名が定着しつつある周郷徠人。
今や時の人とも言えるほどに注目を浴びており、連日両者の何かしらの情報を見かけない日はないぐらいには賑わっていた。
もっとも、それが面白くないと感じる者がいない訳でもない。
「――なあ、〝金銀花〟って奴ら、絶対おかしいだろ! プロチームか何かが嘘ついてんだろ!」
「少しは考えなさいよ、凱。第三探索高校の公式推薦パーティにそんなの入れる訳ないでしょ?」
「っ、そりゃそうだけどよ!」
「いちいち叫ばないでちょうだい。うるさいわ」
興奮した様子で声を荒らげるパーティメンバー、高校2年生にしてすでに鍛え上げられた肉体を有した少年、紫藤 凱。
そんな彼に対して涼やかな物言いで諭すように告げたのは、彼と同じパーティ――〝十字星〟に所属しており、読者モデルとしても活躍している女性、天宮 由那であった。
この二人が所属しているパーティこそが、先日の全国新人探索者パーティ対抗戦にて、注目株として様々なメディアからも取り上げられていた〝十字星〟だ。
どうしようもない〝金銀花〟という理不尽に注目を奪われてしまう形となったこともあってか、凱は未だに思い出すだけでイライラするとでも言わんばかりに声をあげている。
「まあまあ、凱も落ち着いて。由那に当たるようなことじゃないよ」
「そーだよー。つかヤバいって、〝金銀花〟。アーカイブ見たけど、あんなん相手が悪すぎだって」
「ッ、おい、真昼! おまえ、悔しくねぇのかよ!?」
「あっはははっ、凱ってばホントうるさーい。だってさぁ、どー考えてもウチらより強かったじゃん? 配信見た? ハッキリ言ってステージが違うってー」
最初に凱と由那を落ち着かせるべく仲裁に入ったのは、瀧島 航平。凱とは正反対に物腰の柔らかな少年である。
しかし、そんな航平の仲裁を無視するように火に脂を注いだのは、瀬野 真昼。凛とした空気を放つ背の高い由那とは正反対の、小柄で可愛らしいタイプの少女であった。
そんな4人のやり取りを前に、〝十字星〟のリーダーである麻生 諒馬が苦笑しながら口を開いた。
「気持ちは分かるけれど、落ち着こう。悔しいのはキミだけじゃないよ、凱。真昼が言うように、確かにあの子たちは凄かったのは事実だよ。それを認めない訳じゃないだろう?」
「そりゃそうだけどよ……!」
「僕らは期待を向けられていた中で、数字としての結果は出せている。大会の優勝を逃したのは悔しいけれど、〝金銀花〟はレベル3パーティだよ。つまり、僕らよりもずっと危険な戦いすらも乗り越えてきた強者だ。それを否定するというのは、僕らが僕らの努力を否定するのと同じだ。そうだろう?」
「うぐ……っ。……すまねぇ」
「負けて悔しいからって他人を認めずに貶めたところで、僕らの何かが良くなることはないんだ。僕らがやるべきことは、彼女たちのようにレベル3パーティを目指し、高みを目指すことだよ」
「諒馬の言う通りだわ。きひ子ちゃんとカナっち、それに後から入ったミカミカも、みんな凄い探索者だもの。あの子たちに追い付くとなると、もっと積極的にダンジョンで戦わなくてはならないわ」
涼やかに会話に参加しながら、さらりと綺麗な長い黒髪を払ってみせた由那に、その場にいた全員の目が丸くなり、動きが止まった。
唐突に周囲の面々がそんな反応をしてみせたことに、最初は理解が及ばなかったものの、自分の発言を反芻し、そうしてようやく皆が固まった理由を把握した由那が、少しばかり居心地が悪そうに視線を泳がせた。
「……何か文句あるの?」
「……由那。もしかしてキミ、〝金銀花〟の配信観てたりするの?」
「は? 当たり前でしょう? カナっち推しだもの」
「え?」
「当たり前なの……?」
諒馬の問いかけに当然と頷いた由那に、航平と真昼が困惑する。
そもそも由那はどちらかと言えばストイック過ぎる性格でもあり、何に対しても冷めている印象がある少女だ。
まさかそんな彼女が、配信者を愛称で呼ぶ上に、微塵も隠そうとすることもないとは思ってもいなかったのである。
しかし、一行の困惑はその後に続く。
「〝金銀花〟って言えば、何よりもカナっちの配信から全ては始まったのよ。ダンジョン最上層に現れたイレギュラー、見知らぬ探索者の叫び声のせいで気付かれたカナっちは、それでも諦めたり逃げることはしなかった。何故なら、逃げようとすれば声をあげた探索者が狙われる可能性もあったからよ。けれど、相手はグレーホブゴブリンのイレギュラー個体。当然、レベル1で勝てるはずはなかったわ。――けど! そこに現れたのがきひ子ちゃんよ! レベル1の少女がジャージ姿で完膚なきまでに完全勝利してみせたんだから!」
「お、おう……」
熱量が凄すぎて仰け反るようになりながら凱がかろうじて返事をする。
そんな、どう見ても引き気味な態度を気にすることもなく、由那は続けた。
「そしてあの二人が〝金銀花〟として活動して間もなく、〝天秤トラップ〟に引っかかった探索者が――――」
止まることなく〝金銀花〟の軌跡を語り始めた由那の姿に、凱と諒馬、そして真昼と航平が目を合わせて小さく頷き合う。
――これ、ヤベェスイッチ踏んだわ。
その場にいる誰もがそんなことを思って言葉を呑み込んだ。
だが、突然ぴたりと由那の勢いが止まった。
「……ふぅ、ごめんなさい。ちょっと勢いがつき過ぎてしまったわ」
「お、おう……」
「い、意外だったなぁ……」
「ゆなっちゃん、止まらなそうだったのによく止まったねー……」
「……止まらないで語り続けるとどうなるのか、ということを身を以て実証してくれた探索者がいるのよ」
由那が誰を思い浮かべているのかを察することができたのは、諒馬だけであった。
周郷徠人。
自分たちが所属しているクラン、『颶風』の上にいる『神風』のエース探索者であり、甘いマスクに爽やかな対応、そしてそんな見た目とは裏腹に絶対的な強者としての実力がある、そんな男の存在があるからだ。
そんな彼が全国新人探索者パーティ対抗戦のゲストとして呼ばれ、その配信の中で《《色々と熱く語った》》のは記憶に新しい。
おそらく由那は、そういう周郷の姿を見た結果、〝好き〟をあまりに一気に語ってしまうと、あまり良く思われないのだと学んだのだろう、と。
そもそも諒馬は、周郷には一方的に憧れている。
彼こそが、自分が目指す探索者像そのものだった。
――男であるならば誠実であれ。
――力を持つ者こそ実直であれ。
――弱きを守ることこそが、漢の生き様。
厳格な父のそのような教えのもとで、物心ついた頃から剣を学んできた諒馬だからこそ、まさにそんなイメージを体現しているような周郷は憧れであったのだ。
だが、そんな彼が公式配信で色々と変わってしまった。
――……徠人さんがオススメだっていうアニメなら、って思って観てみたんだけど……女の子同士って、なんでこう……心が洗われるような感じがしたんだろうか。
そして、そんな百合豚……もとい、百合王子のせいで、ここにまた一人、新たな迷える子羊ならぬ、生まれかけの百合豚が育とうとしていることに、誰も気が付いてはいなかった。
◆――――おまけ――――◆
百合王子「僕はその先で待っている」(キリッ)




