第4章 エピローグ
「――ぶっちゃけこのままだと、私たち、抜かれない……?」
駅近くのファミレスに集まった、〝魔女の饗宴〟のメンバーたち。
リーダーの莉緒菜と瑛里華、そして聖奈と菜桜の4人が一通り注文を済ませたところで、改めて莉緒菜がそんな言葉を口にして、全員が全員、ドリンクバーの飲み物を口にしながら固まった。
何が、とは言わなくても伝わった。
つい数日前に配信された、第23回全国新人探索者パーティ対抗戦での〝金銀花〟の怒涛の活躍に、〝魔女の饗宴〟のグループチャットは大盛りあがりだったのだ。
悪評を退け、ついに実力が認められ、数多くの雑誌が特集を組むようにもなり、今となっては新人探索者のトップとして名実共に世間に知れ渡っている。
そんな彼女たちの先輩として鼻が高いような、誇らしいような、そんな気持ちでいっぱいであったのだ。
だが、ふと莉緒菜はそのことに気が付いたのだ。
――あれ、これ私たち、ヤバくね? と。
莉緒菜はレベル3だ。
かつて〝適合反動〟を引き起こし、その結果として周りはレベル4になってしまい、自分だけがレベル3になってしまった。
それは別に悪い話ではない。
そもそも莉緒菜のダンジョン因子、【悪魔】は強力なスキルを宿している。
だから、レベルが一人劣っていようとも、パーティのバランスが崩れる程の大きな差は生まれていない。
いっそそれどころか、レベルの差がちょうど穴を埋めていると言ってもいい。
だが、〝金銀花〟はどうだろうか。
そう考えた時に、莉緒菜は危機感を覚えたのである。
この状況、ちょっとマズくないか、と。
今日こうしてみんなに集まってもらったのは、その状況に対する話をするためでもあった。
「……さ、さすがにレベル3からレベル4になんのは時間かかるやろ」
「私、レベル3だが? なんなら〝スキル拡張〟もまだ未覚醒なんだが??」
「おっふ」
瑛里華が莉緒菜の一言で撃沈。
一撃必殺、挨拶代わりにレバーブローをスキル付きでぶっ放してくるような容赦のない返しである。
「まあまあ、落ち着いて~? エリちゃんの言う通り、レベル3からレベル4はそう簡単に上がらないのは事実なんだし~……」
「レベル2からレベル3もそう言われてるのに、もうとっくに上がってんだが??」
「……ぁー」
続いたおっとり系の聖奈も撃沈である。
自分で言っておきながら、「ちょっとこれで納得させるのは無理ありそうだけど~……」なんて頭の中で考えていたのだが、想定していた通りに見事に蹴り折られたようなものであった。
遠くを見たまま動かなくなった聖奈から、予想通りに莉緒菜の視線が向けられる形となった菜桜。
そんな彼女はまったくもって動じることもなく、飲んでいたメロンソーダを置いて静かに口を開いた。
「……莉緒菜がさっさとレベル4になれば解決」
「うぐ……っ!?」
ここにきての攻守交代に、今度は莉緒菜が呻く番となった。
それはまあ、そうだろう。
すでにレベル3の〝金銀花〟の3人との差を作るためには、莉緒菜のレベルが4になればいい。
ただそれだけの話ではあるのだ。
「せ、せやな! ウチらレベル4やし! 莉緒菜が上がればメンツは保たれるっちゅーもんや!」
「え、えぇ、そうね~……。頑張って探索しなくちゃね~!」
「ん、がんばろ」
もちろん、菜桜たちも莉緒菜が早く自分もレベル4になりたいと考えていることは理解しているため、さぼっているだの見下すような見方はしていない。
何より莉緒菜が急いでレベルを上げたい、追いつきたいと考えていることは3人も重々承知しているのだ。
ただ、彼女たちは18歳。
今はそれぞれ大学1年目ということもあって、なかなか頻繁にダンジョンアタックできていなかったのである。
しかも、大学もそれぞれの都合もあって大学も離れ離れになってしまっているため、講義のスケジュールが合わずに時間が取れなかった。
ダンジョンは基本、深い階層に進めば進むほど、ソロでの挑戦は難しくなる。
先日の全国新人探索者パーティ対抗戦で〝金銀花〟が中層を進んでいた際のように、大量の魔物が徒党を組むケースなども出てくるためだ。
その点で言えば、中層の最下層近くにいた〝虎〟や、そんな〝虎〟と比肩するであろう〝椿〟たちの強さは、ハッキリ言って例外にも程がある。
ともあれ、そうした場所に挑むのが適正であり、レベルアップを目指すというのなら、それ以降にも積極的にトライする必要があるのだが、スケジュールを合わせる必要があるのだが、現代社会の枠組みの中、それがなかなかに難しいのもまた事実であった。
「言うてもウチら、専属探索者ちゃうしなぁ……」
「そこがネックよね~……」
元々、〝魔女の饗宴〟はクランの専属探索者になれなかったパーティだ。
独自のロールプレイ、演技というものを前提とした配信をしていたため、どうしても企業勢がそれを許容しようとしなかった。
面白半分で配信に力を入れているだけの、いわゆる配信探索系事務所からも声はかけられたこともあったが、そういった事務所とは探索に対するスタンスが合わなかったため、なんだかんだで普通に進学したのだ。
そんな過去を思い返しつつ、ふと、瑛里華が口を開いた。
「……いっそ大学辞めてもえぇんちゃうか?」
「は?」
唐突に瑛里華から出てきた言葉に、菜桜の言葉で机に突っ伏していた莉緒菜ががばっと顔をあげて声を漏らした。
「ウチら、もうクラン契約の探索者やん。しかも、あのクランなら給料も安泰やろ? 配信も最近は伸びてきとるし、無理に大学卒業せなあかんっちゅー訳でもないやんな」
「え、いや、それは……」
身も蓋もない話ではあるが瑛里華の言葉は正鵠を射たものだ。
大学に入って特別何かを勉強したい訳でもなかったが、漠然と襲いかかる将来への不安と、興味のある分野を学ぶために、という形で大学進学を決めた。
だから、他に目的ができて辞めるというのは、何も非現実的な話ではない。
とは言え、せっかくのキャンパスライフ、そんなに生き急がずとも、どうせなら卒業したいと思わなくもない莉緒菜であったが、しかし。
「ん、私は一向に構わん」
「私もそうね~……。〝がちけん〟に所属したことを考えると、大学で単位に追われながら学ぶより、自分の時間を使って学んだ方が色々と調整はしやすいかもしれないわね~」
「え゛っ、ちょ、みんな!?」
「なんや、莉緒菜。自分、大学行かなあかん理由でもあるん?」
「いや、そういう訳じゃないけど……」
一度きりの人生、そんな人生で一度きり――という訳ではなかったとしても、一度きりなのが一般的――なキャンパスライフをあっさり捨てると言われても、どうにも踏ん切りがつかずに、ともかく莉緒菜は本題に入ることでこの流れを断ち切ることにした。
「――そうじゃなくて! その、私、雅ちゃんともレベルのことで相談してるんだけどさ。そしたら、雅ちゃんに言われたんだよね」
「なんや、もったいぶらんとさっさと言いや」
「えっと、私が空いてる日、〝金銀花〟と一緒に中層13階層攻略に挑戦してみないかって。日帰りになるし一日あたりの攻略時間は短いけれど、異常進化個体相手との戦いならレベルアップにも繋がるんじゃないか、って」
「いや、さすがに中層13階層にそないあっさり行って帰ってきて、なんてやっとったら時間が――って、そうやった。あの子ら異常やったわ」
中層までの移動に1時間と少し。
もちろん、それは3人での移動であり、かつ、少し無理をして大会でお披露目した水準ではある。
だが、それでもあの移動方法を使えるのであれば、中層13階層での日帰りでの狩りは可能だと、ほんの数日前の配信で実証してみせたばかりだ。
瑛里華がその事実に思い当たったところで、菜桜や聖奈も同じような結論に至ったようであった。
「ん、〝金銀花〟のあの移動速度なら余裕」
「あらあら~……、確かにできちゃうかもしれないわねぇ~……」
「あ、ははは……。そうなんだよね……。後輩に頼る結果になっちゃうってことに目を瞑れば、悪い話じゃないよ……うん……」
頼れる先輩として入ったつもりの〝がちけん〟が、ちょっと尋常ではないことぐらいは理解していたつもりではある。
ただ、すでに自分たちと同じか、〝拡張スキル〟まで含めたら、自分たちよりも強くなるまでのスパンが早すぎるのではないだろうか。
そんなことを考える莉緒菜を見て、3人は苦笑した。
「そうね~、あの3人はちょっとすごすぎるもの~……」
「ほんまそれな。――言うて、ウチらかて〝拡張スキル〟の習得は少しずつ形になってきとるし……」
「莉緒菜はまだだけど」
「うぐぅ……」
そんな話をしていた、その時であった。
4人のスマホが一斉に鳴動した。
「グループ……? ってことは、雅ちゃんからとか?」
「珍しいな。なんやろ……って……――っ!?」
そのメッセージを見て、誰もが思わず息を呑んだ。
「――……〝金銀花〟と〝魔女の饗宴〟が、12月の領土奪還遠征隊に選ばれた……!?」
それは、新たな波乱の幕開けを報せるものであった。
〈第4章 了〉
いつもお読みくださりありがとうございます。
また、評価、ブクマ登録などありがとうございます。
大変励みになっています。
さてさて、第4章はここまでで終了となり、第5章に進む予定となっているのですが、周郷徠人みたいなキャラが好きなのでちょいちょい出したくなる作者です。
出てきたら「百合豚がよォ!」と罵ってやっておいてください()
何話か大会の後の裏話閑話を投稿して第5章へと進む予定です(๑•̀ㅂ•́)و✧
今後ともよろしくお願いしますー!




