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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第4章 新人探索者パーティ対抗戦

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大会終了後のエトセトラ




 結論から言えば、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の快進撃は中層13階層で止まることとなった。

 というのも、彼女たちが入ったダンジョンは中層の攻略が盛んではなく、まさしく蠱毒の舞台と化しており、プリマトゥス以外にも異常進化個体と思しき魔物が見られたためだ。


 プリマトゥスのように異常進化個体はスキルを持つ。

 今回は相性が悪くなかったが、次に会う魔物の相性がどうかまでは判断ができない。

 今回は雅の姉である冴香が作った解析アイテムなどがないため、この状態で無理に挑むのはリスクが高いと判断した。


 今後は掃討のために〝魔女の饗宴〟とも合流して戦おう、というところで落ち着いたのである。



《あのダンジョンを攻略するとなると、時間をかけて行うか、上位の探索者パーティが一度魔物を蹴散らしてから、というのが現実的ですね。もっとも、〝金銀花(カプリフォリオ)〟はレベル4の上位からレベル5パーティとも比肩できそうな程の実力ではありますが、やはりレベル6探索者クラスの圧倒的な火力というものがなくては、時間がかかり過ぎます》



 引き上げることを決意した〝金銀花(カプリフォリオ)〟一行を見て、周郷は公式配信の中でそう語った。

 なお、真剣な話題だというのにコメントは『百合豚がよォ!』とお約束めいたワードが飛び交うという酷い有り様であったのだが、それはさて置き。


 大会をどうしても優勝したいという訳ではなかったが、そのまま無理に時間をかけて中層13階層を攻略し続けるよりも、階層を戻りながらポイントを取り、あわよくば優勝を狙うのも悪くないのではないか、という結論に至り、〝金銀花(カプリフォリオ)〟はひたすらに魔物を狩り尽くす勢いで戦いながら帰って行った。


 ちなみに、大会の結果は残り時間2時間のところでポイント表示が配信上でも隠されてしまい、後日公式サイトにて公表されるということであった。

 ただ、それまでのペースから間違いなく1位に〝金銀花(カプリフォリオ)〟が選ばれるだろう、というのが視聴者たちの見立てである。


 ともあれ、残念ながら中層15階層に進むことはできなかったものの、〝金銀花(カプリフォリオ)〟に対する評価は世間的にもかなり上昇し、注目されることになった。


 元々は人為的『魔物氾濫(スタンピード)』の一件によってついて回った悪評――『目立ちたがる女子高生たちの迷惑行為』というような評価も、記録的な速度での移動、圧倒的な戦闘能力の証明、そしてプリマトゥスらの討伐といった数多くの要素。

 これらを含め、わざわざそのようなことにかまけているような探索者でもなければ、そもそもこれだけの実力で充分過ぎる程に目立てるポテンシャルがあったのだという証明にはなった。


 今後も同じような悪評を垂れ流そうとしたところで、それはもはや通用しなくなるだろう、というのが雅の見立てであった。



 ――『悪評を覆した期待の新星、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の魅力に迫る!』

 ――『かの大手クラン、『明鏡止水』による発表! 解析能力を持つアーティファクトを手に入れた!? 一般流通できる魔導具化への流用は可能なのか?』

 ――『第23回全国新人探索者パーティ対抗戦の名物ゲスト、周郷徠人が語る! 〝金銀花(カプリフォリオ)〟の魅力!』

 ――『周郷徠人の好感度が急上昇!? イケメン探索者、周郷徠人に高まる注目!』

 ――『日本最強の一角、『神風(かみかぜ)』クランが周郷徠人の発言の数々を認めた! 「あの人、スマホの待ち受けとか絶対女の子複数人のイラストなんです」!?』



「――……なんで〝金銀花(カプリフォリオ)〟より周郷さんの記事の方が多いのかしらね」


「うける」


「それな」



 大会から3日が過ぎた、〝がちけん〟事務所内。

 AIを用いて様々な情報媒体から、ここ数日のダンジョン関連ニュースをピックアップさせて調べていた紅音が呆れた様子で呟けば、雅と雪乃が笑いながら告げる。


 周郷徠人の人気については紅音も知っていた。

 元々、探索者としての実力はもちろん、甘いマスクに爽やかな態度、礼儀正しく、女性が相手でも決して馴れ馴れしくしない。その上で、適切に距離を保って対応してみせることからも、女性関係も清いまま、という完璧過ぎる青年だった。


 その完璧さ故に、「どうせ表向きの顔だけ」だとか、「DVとかしそう」だの、ネット界隈では色々と言われていて、男性人気は低迷気味だったのだ。

 女性からの圧倒的な支持を得ていただけに、余計に男性人気はどうしても落ち込んでしまっていたのだが、ここにきて爆発した形である。


 人気が、ではなく、趣味(性癖)が、であるが。


 周郷のイメージ的に『神風』は周郷の特殊な趣味(性癖)については隠すようにしていた。

 周郷自身も、自分の趣味は世間一般に広く受け入れられるものではないと悟っていたため、あくまでも個人で愉しむだけに留まっていたのだ。

 だから、そんな周郷が、とんでもない趣味(性癖)愛好家(モンスター)だったなんて、知られることはなかったのである。


 しかしすでにネットの海には周郷の名言集切り抜きから、〝金銀花(カプリフォリオ)〟を熱く語っている声を使った色々なネタが放出され、ネットの玩具とされている状態である。


 さらに『神風』から隠さなくていいとでも言われたのか、これまでは必要な周知を丁寧に投げるばかりだったSNSで、『僕のお勧め百合アニメ15選』とかいうものまで投稿し始め、燃料をさらに投下している。

 SNSのプロフェッショナルか、と言いたくなるレベルで大人気になっている。



「あかねぇ的には周郷さんはどうなん?」


「どう、と言いますと?」


「好みだったりするん?」


「あぁ、そういうお話ですか。チヤホヤされるのは分かりますが、それだけですね。むしろ潔癖過ぎるきらいがあったので、その人間味のなさが胡散臭くはありましたし、裏ではどんな人間かは分からないと思っていましたよ。……まあ、出てきたものがアレなのですが」


「んふっ、それな」


「それでも、『神風』としては良かったのではないでしょうか」


「んー? どゆこと?」



 雅と紅音の会話が気になったのか、雪乃が新しい装備を作っている手を止めて顔をあげた。



「『神風』はストイック過ぎると言いますか、少々《《お堅い》》クランという印象が根強いですから。確かに実力は高水準ではあるものの、どこか近寄り難い硬派過ぎるクランという印象が定着しています。そこに、周郷さんの今回の一件がありましたから」


「インパクトやべーわ」


「えぇ、そうです。これが女性問題であったのなら大変な騒ぎになっていたかと思いますが、何せ内容が内容ですからね」


「あー……」



 クリーンなイメージで売り出されていた好青年の女性問題スキャンダルとなれば、その騒動はかなりのものになるだろう。まして、男性層を味方につけていないとなると、ここぞとばかりに攻撃対象にされる可能性は高かった。


 しかし、今回の件は全く違う。



「周郷さんのファンが離れたり、あるいは大量にSNSにお気持ち表明でもしようものなら、多少は荒れたかもしれません。が、周郷さんの特殊な趣味は、むしろネット社会では玩具にされて受け入れられるものでしたからね。おかげでお気持ち表明してもした者が論破され、即鎮火しているようです」


「親近感湧いたってのはデカいかー」


「そうですね。それに乗じて『神風』も周郷さんのキャラクター性を表に出したのでしょう。おそらく、この見出しのニュース――『日本最強の一角、『神風(かみかぜ)』クランが周郷徠人の発言の数々を認めた! 「あの人、スマホの待ち受けとか絶対女の子複数人のイラストなんです」!?――は、身近な証言もあるようですし、おそらくは『神風』側が書かせたものかと」


「え、ガチ?」


「はい。『神風』が抱えていた問題に加え、最近は『明鏡止水』ばかりが注目を集めてしまっています。ですので、おそらく『神風』はこれを機に周郷さんを利用し、名を売っておくことにしたのでしょう。クラン人気はそのまま有望株の引き抜き、戦力の増強にも繋がりますからね」


「はぇー、なんかすげー」


「クランとは営利団体でもありますからね。当然、そうした戦略も練る必要があります。――もっとも、我々〝がちけん〟としては、〝金銀花(カプリフォリオ)〟がここまでの人気になってしまうのは予想外ではありますが」



 すでに〝金銀花(カプリフォリオ)〟が〝魔女の饗宴〟と同じクランに所属しており、それが『明鏡止水』の娘がやっている〝がちけん〟の所属であることは徐々に浸透してきている。


 目敏い者たちは『明鏡止水』が最近発表した諸々に〝がちけん〟の名が並んでいることに気が付いている。

 当初は親の七光りで手柄を譲られているのではだのなんだのと言われたが、これが〝金銀花(カプリフォリオ)〟が活躍したことによって、実際に〝がちけん〟も様々な発見をしているのではと考える者も出てくるだろう。

 そうなれば、必然、情報を狙う矛先を向けられることにも繋がる。


 とは言え、元々雅の家が『明鏡止水』で情報セキュリティ意識が高いということもあるが、さらに今は引っ越しを目前にしていることもあり、必要な情報はある程度整理してある。

 今のタイミングで名を売れたのは都合がいいと言えば都合がいい。



「……〝金銀花(カプリフォリオ)〟への問い合わせが大量に増えてきていますね。一般的なメール仕訳はAIでできるのでパンクする程ではありませんが、せめて最低限、事務員は増やすべきかと」


「そっちもあったかぁー」


「宜しければ、私の伝手で何人かに当たってみますか?」


「お、マ? あかねぇが信頼できる人がいるなら!」


「承知しました。少し連絡を取ってみます」



 机の上のキーボードを叩いて操作する紅音を他所に、雅と雪乃はお互いの作業を再開した。


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