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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第4章 新人探索者パーティ対抗戦

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快進撃 Ⅰ




 中層1階層から4階層まで、大会ではポイントが1ポイントで固定されている。

 5階層からは魔物一匹に対して1.5ポイント、小数点以下は切り捨てられ、10階層から2ポイントとなっている。

 もっとも、10階層からのポイントは暫定的につけただけ、というのが本音だろう。

 一般的なレベル3探索者の限界は中層5階層であり、6階層からは難易度が跳ね上がるため、踏破できないと言われているのだから。


 しかし、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の場合は前提から異なる。

 ここは先日の配信でも戦った魔物であり、相手にならないことは〝金銀花(カプリフォリオ)〟の配信を観ている者たちならば誰もが理解していた。


 とは言え、普通に考えれば討伐速度が遅くなるのは明白だ。

 何せ中層6階層の魔物は、どこのダンジョンであっても耐久力とパワーが極端に上がる魔物が多い。

 一匹の魔物に苦戦している間に次の魔物が、その次の魔物がと集まってきてしまうからこそ、難易度が跳ね上がり、レベルアップによる能力の強化が求められるようになるのである。


 無論、これはあくまでも《《一般的に》》という話でしかない。



《――これは一体どういうことでしょうか! 今大会唯一のレベル3パーティ〝金銀花(カプリフォリオ)〟が止まらない! 現在中層6階層――いわゆる、〝レベル3の壁〟とも言われるその場所でも、彼女たちの勢いは衰えないっ!》


《えぇ……?》


《彼女たちが今相手にしているのはアイアンゴーレム! 文字通り、鉄の巨人とも言える魔物です! 周郷さん、アイアンゴーレムと戦った経験はおありでしょうか?》


《はい。硬く、重く、強い。シンプルながらにそういった要素が詰まった魔物ですね。特に斬撃との相性が悪いので、嫌いな相手ですね。もっとも、レベルが上がってからはどうにでもなるのですが、適正レベルでは文字通り骨が折れる相手です》


《ありがとうございます! ドン引きしたまま猿島さんが固まってしまいましたので、周郷さんのおかげで助かります!》


《あはは、いえいえ……――おっと、八咫島選手が突っ込みましたね》


《アイアンゴーレムにお得意のロッドでの打撃は通用するのか、八咫島選手が接近! そのまま大きく振り被って――ぇ?》



 公式放送のチャンネルでそんな反応をされているなど、流霞たちが知るはずもなかった。



「――ぃーよいしょ!」



 どこか気の抜ける掛け声と共に振り回された、銀色のロッド。

 しかし直後に聞こえてきた、さながら交通事故のような衝撃波を撒き散らしていそうな音と共に、アイアンゴーレムが真っ直ぐ後方に飛ばされて、他のアイアンゴーレムとぶつかり合って動きを止めた。



《アイアンゴーレムって吹っ飛ぶんですねぇ》


《正気に戻ってください猿島さん!》


《おや、カナっち――姫屋選手が動きましたね》


《周郷さん、ちょいちょい思いましたけど、あなたもしかして〝金銀花(カプリフォリオ)〟のファンだったりするんです?》



 そんな実況が流れているその最中、アイアンゴーレムを殴り飛ばした流霞の横を、奏星が駆け抜ける。

 鞘から引き抜いた細剣に炎を纏って斜めに斬り上げるように振るえば、炎の刃が真っ直ぐアイアンゴーレムに向かって飛んで行き、着弾――火柱をあげて燃え盛り、どろりと溶けていく。



「意外とこいつら融点低めっぽいんよね。あーしの炎に耐えられないみたいだし」



 アイアンゴーレムを焼いてみせた奏星がそんなことを呟き、すぐに魔物の気配に気が付いて振り返る。

 その視線の先では美佳里がすでにそちらを指差すようにして佇んでいた。



「――ばーん」



 続いて後ろから聞こえる、再び気の抜けるような声。

 その声の気楽さとは裏腹に、その声が齎した現象に配信を観ていた視聴者、そして公式放送の実況たち3名は度肝を抜かれたように目を丸くした。


 裏腹に斜面を下ってくるケイヴマンティスの上空に魔法陣が浮かび、あちこちから一斉に放たれた弾丸がケイヴマンティスを貫いた。


 美佳里が指を鳴らす。



「――【炎弾破裂(イグニッション)】、どかーん」



 刹那、銃弾で穿たれたケイヴマンティスの身体の内側から、破裂するように炎が噴き出した。

 格好良くキマったところではあったが、しかし美佳里はそこで油断はしていなかった。崖下から迫ってきているアイアンゴーレムに気が付き奏星を見やる。


 奏星は崖下を警戒していないようだ。

 このままでは横から奇襲を受ける形になると考えて、美佳里がレバーアクションショットガンを手に奏星に向かって一直線に駆け出した。



「――奏星、スイッチ。《《二段ジャンプ》》でオープンよろ」


「おけー」



 一度目のジャンプで崖から離れるように内側へと入り、向かってくる美佳里とぶつかるようなコースへ。

 その直後、奏星が何もない空中を蹴って高く跳び上がると、入れ替わるように美佳里が上ってきたアイアンゴーレムの額を踏み付けながら、銃口をガツンとぶつけた。



「ごくろーさん」



 ズダンッ、と音が鳴ってアイアンゴーレムの頭が消失し、落下していく。

 その姿を見送りながら、慣れた様子でスピンコックをしてみせた美佳里が振り返ると、ちょうど奏星が着地したところであった。



「それ、だいぶいい感じに慣れてきたじゃん」


「だっしょ? 人為的『魔物氾濫(スタンピード)』の時のヤツなんだけど、なんだかんだ使う機会なかったけど、二段ジャンプができるようになるのは便利だわ。あーしるかちーみたいに飛べないし」


「機動力を補うアイテムとしては上々じゃん」


「それな」



 奏星の左足、ブーツに取り付けられたシルバーチェーンに羽根のモチーフがついた小さなアンクレットを見て美佳里が言う。


 実はこのアンクレットこそ、人為的『魔物氾濫(スタンピード)』の化物めいた魔物を倒した際に手に入ったアーティファクトであった。

 すでに何件かは世の中にも出回っている代物で、『風踏みのアンクレット』と呼ばれており、空中で100秒に一度だけ、魔力を流すと二段ジャンプができるという代物だ。


 傑がこれの存在を知った時、すでに名前も知られているアーティファクトであることに気が付いてほっとお腹をさすりながら溜息を吐いていた理由を、彼女たちはまだ知らない。


 ともあれ、なかなか使う機会がなかったのだが、流霞の機動力の高さについて行くためにも奏星が活用することになった。


 ちなみに、美佳里の機動力を補うために試しに使ってみたのだが、美佳里はどうもあまり運動神経が良いとは言えないようで、どうにもバランスを崩してしまうため使いこなせなかったのである。



「魔物いなくなったっぽいから行こー」


「あいあいー」


「おけー」



 まだまだ本気では戦っていない、ただのウォーミングアップに過ぎないと言わんばかりの様子で、〝金銀花(カプリフォリオ)〟の3人がダンジョン内を進む。


 その姿を観ている者たちの反応は、困惑と驚愕に彩られたものであった。



『いやいやいやいや』

『えぇ……?』

『さすがっすw』

『アーティファクト!?』

『ねえ待って? ここ中層6階層よ?』

『レベル3パーティがなんでこんな余裕で進めるんよ……』

『鉄ゴレって吹っ飛ぶの……? あれ、数百キロあるじゃん……』

『てかみんな強すぎじゃね……?』

『こんなのズルだろ! レベル4だろ、こいつら!』

『ぶっちゃけレベル1の時からおかしかった(褒め言葉』



 流れるコメントの数々は、これでもかなり類似の文などは非表示になっている方だ。

 それでも凄まじい速度で流れている。


 その一方で、このコメントを見ているのは奏星と美佳里だけではなく、当然ながら事務所にいる雅や雪乃、紅音もこれを見ているのだが、3人の反応はそれらを見てニマニマしながらも、しかし今は少し悩んでいた。



「……これアンチなん?」



 雅がピックアップしたのは、〝金銀花(カプリフォリオ)〟をレベル4だなんだと騒いでいるコメントである。


 正直に言ってしまえば、探索者として活動が可能になって半年程度でレベル3になっただけでもかなり凄いことではある。

 この数年、この大会にレベル3パーティが出場していなかったことからも、それは明白だ。


 そんな彼女たちの実力が普通ではないために、「レベル3と偽ってレベル4パーティが出てくるなんてずるい」と言う難癖をつけているのだろう、とは思う。


 だが。



「なんかSNS見てても思うけど、アンチってホント、なんでもいちゃもんつけるし全否定全開なイメージだけどさ。これ、普通にみんなのこと認めちゃってるっぽくね?」


「それな。だってこれ、強さを素直に認めてっからそう言ってんだろうし」


「てことは、むしろ褒め言葉だったりするんかな?」


「え、どゆこと?」


「もうこいつらレベル3とか嘘じゃーん、強すぎてレベル4だわ草ー、みたいな?」


「いやー……、ちがくね?」


「それな、あーしもやってて違くねってなったわ」


「ぶふっ!?」



 やるだけやって、急にすんとして素の表情に戻る雪乃。

 その表情の温度差が不意にツボに入る紅音であった。


 そんな〝がちけん〟メンバーたちの盛り上がりとピザ待ちの状況など露知らず、〝金銀花(カプリフォリオ)〟は中層7階層にあっという間に到着したのであった。


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