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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第4章 新人探索者パーティ対抗戦

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快進撃 Ⅱ




「――ふ……っ!」



 息を吐き出しながら加速した流霞が、ロッドをくるくると回しながら空中で横回転しながらロッドを止めてフルスイングするように振る。

 だが、そんな流霞へとタイミングを合わせたトロールの棍棒が、一歩早く流霞目掛けて振られ――流霞の口角が僅かに上がった。



「――こっちだよ」



 トロールの棍棒は確かに流霞に当たったように見えたが、そのまま流霞の身体を素通りするように空振った。


 瞬間、トロールの耳に斜め後方から聞こえてきた流霞の声。

 トロールは一瞬理解が追いつかずに固まり、その横っ面にロッドが打ち込まれて体勢を崩すように横に倒れていった。


 流霞のスキル、【朧帳】。

 ロッドを止めた時点ですでに幻と入れ替わっていた流霞は地面に着地してトロールの横を抜けてジャンプしていたのだ。


 見事に騙されて殴られ、理解が未だに追いついていないトロールの目に見えたのは、眩い炎の渦。奏星から放たれた渦巻く炎が、まるで流霞が殴り飛ばす方向を分かっていたかのように真っ直ぐ迫っており、トロールの身体を呑み込んで激しく燃え上がった。


 直後、炎の向こう側に映った影。

 呑み込まれたトロールとは異なる影に気が付き、炎を貫くように突き出されたランスの先端。寸前に首を傾げるようにしてあっさりと避けてみせた流霞が、とんとん、と足のつま先を地面につきながら軽やかに奏星たちを背負う位置までステップを踏みながら戻っていく。


 直後、奏星の炎を突き破るように現れた魔物。

 岩山の崖沿いの道というこの場所にはどうにも似つかわしくない、鎧姿の魔物――リビングメイルだ。

 中層7階層から出てきた魔物であり、トロールのような膂力だけに頼る戦い方とは異なり、明らかに武術を踏襲したような戦い方をしてくる生きる西洋鎧だ。


 さらに上空から音もなく迫ってくるグレイオウル――灰色の梟型の魔物が流霞を狙い、鋭い爪に風を纏わせながら迫る。

 だが、その存在に気が付いていた美佳里が射撃し、撃ち落とした。


 突っ込んでくるリビングメイルのランスをロッドで殴りつけて弾き飛ばしながら身体を回し、その速度を活かした後ろ回し蹴りをリビングメイルの腹部に叩き込む。

 ズガンッ、とおよそ蹴りから聞こえてくるような音ではない凄まじい衝撃を伴う轟音が鳴り響き、リビングメイルの身体を後方へと吹き飛ばした。


 だが、その後ろからトロールが数体ばかり、棍棒を振り上げ、巨躯を揺らしながらこちらへ迫ってこようとしている。



『トロールはタフ過ぎる!』

『カナっち何すんの?』

『今日このパーティ初めて見てるけど、さすがにこれヤバくね?』

『きひ子ちゃんがきひってないってことはまだ大丈夫さ!』


「――るかち、数が多い! ここはあーしが受け持つ!」


「分かった! 援護する」



 コメントを他所に、奏星が細剣を手に構えて魔力を練り上げた。



「――解放、【赫灼】……ッ!」



 刹那、奏星の装備が風に揺れるようにはためき始め、強い衝撃波と熱波が周囲に放出された。

 奏星の身体の周囲を、ゆらゆらと黄色がかったような白みの強いオレンジ色――いわゆる赫灼色の光が揺れるように纏わりつく。


 何よりも特徴的なのは、その熱波だ。

 流霞や美佳里にとっては温かいというような感想に落ち着くが、しかしどうやら二人以外にとってはそうではなかったようだ。


 雪乃特製の『魔導防具(マギア・ギア)』は耐えているものの、戦いの最中はいつも頭の後ろ、高い位置で結っている奏星の髪紐が燃え尽きるように消えていき、奏星の明るい髪色をした髪がぶわりと広がっていく。


 奏星が揺らめく光を身体の周囲に纏いながら、キッとトロールの集団を睨めつけた。



「燃え尽きろ」



 奏星の一言と同時に、ほんの一瞬炎に包まれたかと思えば、トロールも、倒れていたリビングメイルも、空を飛んでいるグレイオウルも、その全てが炭化して崩れていった。



「うは……っ、やば……!」


「……奏星の〝特化〟スキル、すごいね……」



 美佳里と流霞の二人からも、自然とそんな感想が漏れる。


 ――【焼失の(あか)】。

 その特性を有した奏星の炎は、かつては魔力のみを対象にして流霞の〝適合反動〟を抑えてみたが、厳密には『炎で包んだ対象を焼くと同時に消していく』という代物だ。


 先の階層でアイアンゴーレムを燃やして溶かしていたのは、決して融点が低かったおかげ、という訳ではない。

 ただ、奏星の炎が、【太陽】が生み出す炎が、【焼失の赫】という特性を持つが故に、炎で包んだ時点で対象を《《終わらせる》》という〝焼失〟の力によって溶かされたのだ。


 そんな〝焼失〟という方向に力を特化させるのが、この【限定解放:赫灼】だ。

 特化した力を乗せてスキルを放てるようになり、威力は比較にならない程に跳ね上がる。



『え、これが炎なん……?』

『いや、そうはならんやろ……?』

『炎が通り過ぎたかと思ったら炭化したぞ』

『えぇ、意味わからんて……』

『グレイオウルはまだ分かるけど、トロールとリビングメイルがそうなるのは意味がわからん』

『やば』


《凄まじい力、としか言いようがありません……、姫屋奏星選手……! 眩い太陽を思わせる光を纏った彼女の炎が、魔物たちを一瞬で燃やし尽くしてしまった!》


《はは……、凄すぎる……》


《周郷さん?》


《……本多さん、猿島さん。お二人は、この常識を破壊するような光景を目の当たりにして、何も感じないのですか……? 彼女たちはレベル3、つまり、僕らよりも圧倒的にレベルが低いんです。だというのに、これほどまでの力を得る方法があるということになる……!》


《っ、もしもそれが事実だとするなら……!》


《……そうです。レベル6の壁、中層の攻略すら、可能になるかもしれない……!》



 コメントが困惑の声を打ち込み、実況や解説、そしてレベル6探索者が、目の前に繰り広げられた光景に言葉を失う。


 常識的に考えて有り得ない力。

 注目されているこの大会の中で、そんなものを見せつけたレベル3パーティの姿に、多くの者たちが衝撃を受け――そしてその中でも人の上に立つ者ほど、算盤を弾く。


 ――あぁ、愚かだな。

 人の欲望というものをよく知る者は、〝金銀花(カプリフォリオ)〟をそう評した。


 今回の活躍は多くの者たちの思惑を、欲望を惹き寄せることになるだろう。

 レベル3の未成年が、その器に似合わぬ力を持っていると知られてしまえば、良からぬ手段を使ってでも手に入れようと考える者たちを刺激することになる。


 この世界には、単純な〝戦いの強さ〟以外にも、〝強さ〟というものはいくらでもあるのだ。

 その中でも厄介な部類に含まれるのが、権力が持つ〝強さ〟だ。

 たかが女子高生では到底太刀打ちなどできない、見えない化物が舌舐めずりをしてじっと見つめ始めたことだろう。


 その〝強さ〟を持つ者ほど、貪欲に、執拗に獲物を狙うものだ。

 実際に、この配信を観てなんとしても〝金銀花(カプリフォリオ)〟を手に入れようと考えた者は多い。


 しかし、そんな者たちの欲望を嘲笑うかのように流霞が口を開く。



「――じゃあ、奏星が解放使っちゃったし、ここからは予定通りだね。ノンストップで15階層向かうよー」


「頼んだ、るかちー」


「よろー」


『は?』

『え』

『ちょ、何言ってんの?』

『どういうこと!?』

『ノンストップで15階層!?』

『いやいやいや、まてまてまて』



 あまりにも軽い物言いで告げられた、衝撃的過ぎる言葉。

 ここは中層の第7階層、魔物たちの実力が跳ね上がったばかりだと言うのに、それを踏み越え、さらに15階層――即ち、中層の中でも最も魔物が強くなり始めるという15階層まで、ノンストップで進むと言い出したのだ。


 普通のレベル3探索者ならば、このような発言をして行動をすれば、「調子に乗って自惚れた愚か者」という誹りを受けることになるだろう。

 だが、ここまでの移動と戦いで、『一般的な探索者』という枠組みを超えるだけの、圧倒的な力を持っていることを証明してみせてきた〝金銀花(カプリフォリオ)〟がそれを言うとなれば、誰もがただの冗談だとは聞き流せず、息を呑むしかなかった。


 ただ、このとんでもない真似をしている〝金銀花(カプリフォリオ)〟と、そんな彼女たちを支える〝がちけん〟の雅や雪乃、紅音。

 そして、同じく仲間として活動している〝魔女の饗宴〟の者たちだけが、「始まったな」とほくそ笑んだ。


 同時に奏星が、流霞に抱えられながらドローンに顔を向けた。



「ウチら今日、レベル4になるつもりで来てっから」



 そんなとんでもない宣言と共に、美佳里がドローンを抱え、流霞が重力を操り始めた。



「目に付く魔物はあーしが焼く。止まらないで行こう、二人とも」


「おけー、こっちは遠距離で邪魔になりそうなのやってく」


「え、わ、私は、えっと……よく跳ぶ!」



 なんだか力の抜けるようなやり取りを合図に、3人が中層中部の蹂躙を開始した。



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