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〝金銀花〟は止まらない  作者: 白神 怜司
第4章 新人探索者パーティ対抗戦

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本当の目的は驚愕と共に




『マジかww』

『すげええええ!』

『RTAしてたと思ったら1時間ちょっとで中層ついてドン引きw』

『同時視聴38万はえぐいてww』

『これ今日の大会、待機時間中ほぼ全ての視聴者流れてきてただろw』

『いや、実際凄いw 周郷さんも本猿コンビもめっちゃ盛り上がってんじゃんw』



 身につけたARグラスに流れてくるコメントの数々。

 基本的に似たような内容のコメントはAI判定によって弾かれる形となり、何も通さないコメント欄とは比べ物にならない程にゆっくりな流れではあるのだが、それにしても先程からかなりの早さで流れていることを、奏星と美佳里は理解していた。


 ――驚くのも無理はないよ。ウチらもめっちゃびびったし。

 二人の素直な感想はこれに尽きる。


 今回の移動方法は、これまで数多くのダンジョン配信を観てきた二人にとっても、馴染みのない速度とペースだ。


 最上層の入口から中層までを走っていては体力も削られてしまうが、〝進行方向に向かって真っ直ぐ直進(落下)〟しているおかげで推進力を得る必要もなければ、重力に逆らうように地面を蹴って進む必要もない。

 せいぜい重力の向きが変わる中で体勢を整えたりという程度で、体力はほぼほぼ使っていない。


 流霞の凄まじいスキル制御能力、処理能力、そして空間把握能力。

 それらがあるからこそ可能だった力業だが、いくら流霞とて、普通に魔力が尽きるというもの。

 だが、その問題を【魔法薬調合】持ちである雅が、『魔力水の水差し』を使って特製魔法回復薬を大量に用意し、いわゆるゴリ押しを可能にした。


 もっとも、奏星と美佳里も、実はこの移動方法はぶっつけ本番である。

 当初の予定では重力を軽減して負荷を減らし、飛ぶように進む予定ではあったのだ。

 だが、流霞がこの数日、ひたすらに特訓を続け、重力を利用して推進力を得るという移動方法をどうにかものにしたという。


 ならばやってみよう、とノリで言ってみたら、想像以上にすごいことになっちゃった、というのが本音だ。


 とは言え、集中力を求められるスキル制御を続けていた流霞は、今は使い物にならない。

 故に、今度は流霞が休み、奏星と美佳里が流霞を引っ張る番であった。



「中層までは特にやることもなかったけど、こっからはウチらの番だから」


「そーそー。るかちーは休みながらついてきてね」


「……へへ、はーい。ついていきまーしゅぅ……」



 ガリガリと削られた集中力や精神力というものは、いくら魔法回復薬であっても回復できるものではない。

 一時的に力が抜けたふにゃふにゃモードの流霞の返事に、奏星と美佳里がお互いに顔を合わせ、力強く頷いた。


 ――ふにゃふにゃモードのるかちーちょっと可愛い。

 ――それな。


 まったくそこにシリアスな空気はなかった。



『レベル3パーティの過去のハンティング出場記録見てきたけど、だいたい小走りしてるパーティでも13時過ぎ到着が一般的だわw』

『早すぎで草』

『きひ子ちゃんがこんなんなってるってことは、やっぱ彼女のスキルか〝独自魔法〟を使ってたんか』

『あの子が戦えないってなかなかキツくね?』

『まあでもちょっときひ子ちゃんが休憩してても、カナっちとミカミカならどうとでもなる』

『ちゃんと休んだ方がいいよ!』

『きひ子ちゃんが目立つだけで、あの二人も大概だからなw』



 コメントもまた同様だ。

 これまでに〝金銀花(カプリフォリオ)〟の配信を観てきた者であれば、たとえ流霞が少しの間は戦えなくなったからといって、パーティそのものが機能しなくなるとは思っていない。空気はかなり緩いものになっていた。


 だが、流霞――というよりも、〝きひ子ちゃん〟しか知らない、切り抜きなどのみで〝金銀花(カプリフォリオ)〟を知っている程度の面々にとってみれば、ただでさえ人数が少ないパーティで、しかも一人が戦闘不能状態で中層を進むというのは自殺行為にしか見えないのだ。

 そのせいでコメントの温度差がひどいことになっている。


 ともあれ、ダンジョン中層は、つい先日も〝金銀花(カプリフォリオ)〟のメンバーが潜った、岩山の崖沿いの斜面に面した山道のような場所。


 ゆったりと歩く3人に向かって早速とばかりに襲いかかろうとする、ブラックホブゴブリンが前方の道に。

 ケイヴディアという体長2メートル半サイズの角の生えた鹿型の魔物が斜面を駆け下りてきた。


 刹那、美佳里の周囲に魔法陣が浮かび上がり、ズダンッ、と音を鳴らしたかと思えば頭部を撃ち抜かれて倒れていった。



「奏星は接近されたらよろりー。ここまで休んでたし、しばらくはあーしがやっから」


「まかせろりー。あれ、一匹で1ポイントっしょ? 今ので4ポイント?」


「そそ。けっこーいい感じじゃん?」



 学校帰りの学生が鞄を順番に運んでいるような気軽さで奏星と美佳里が笑い合う。

 歩くペースを一切変えず、さながらハイキングを楽しむかのような映像ではある。


 しかし、そんな風に軽いやり取りをしながら進んでみせつつも、進むべき正面にブラックホブゴブリンが姿を見せた途端に眉間に穴が穿たれ、ケイヴディアが崖上に姿を現した瞬間に振り返りもせずに撃ち抜いてみせる。


 恐ろしいのは、視聴者が何かコメントを入力している時点で戦いがすでに終わっていることだろう。

 先程から打ち損じたようなコメントが流れては、称賛のコメントを待機するような人たちのコメントが流れていく。



『ミカミカつっっっっよww』

『しばらく配信観れなかったワイ、ミカミカの急成長に変な声出た』

『最初の頃は数発撃つだけで魔力切れだったのに』

『めっちゃ余裕じゃんw』

『手に持ったレバーアクションショットガンっぽい魔法銃見せて!』

『歯車回ってたりロマン強すぎよなw』


「今ので何匹?」

「3匹ー」

「8じゃん」

「7だが?」

「いや、下から上ってこようとしてる鹿焼いた」

「マ?」


『え?』

『隅っこの方に一瞬火映ってたけど……』

『見えなかったあああ』

『ちゃんとドローンで映してないとポイント反映されないよー!』

『もったいない!』



 流れるような会話に興じていた奏星が、コメントを見て大会のルールを思い出した。

 裏で他のパーティが討伐して協力するといった事件も過去に起こったため、ハンティングのルール上、魔物の討伐ポイントは、カメラに映っている状態で討伐された瞬間が分かるようにならないとカウントにならないのだ。


 奏星が今しがた燃やしたケイヴディアは崖下から上ってきている個体であり、しかも美佳里が魔物を討伐しているタイミングであったので、映らなかったらしいことを悟り、肩を落とした。



「あー、忘れてたわー。そうじゃん」

「どしたん?」

「いや、カメラに映ってないとポイントにならないんだったわ」

「あー……ね。じゃ、7?」

「ぽいね」


『7!』

『配信の方だと画面下にポイント出てんだよなぁ』

『助かるw』

『あんましっかり数えなくても運営がカウントして表示してくれてるよ』

『戦いに集中することもあるからね』


「まあ気にせず進もー」


「だねー。ウチらの目的、ただのポイント稼ぎって訳じゃねーし」


『ん?』

『どゆこと?』

『え?』

『おっと? なんか流れ変わった?』

『宣伝目的とか?』



 美佳里の一言にざわめき始めるコメント欄を他所に、未だに精神的疲労感から力の抜けた流霞ががばりと顔をあげた。



「ぅにー……めざしぇー、中層さいかそー!」


「ふはっ、るかちーめざしぇって」


「うける」


『は?』

『かわいいw』

『え、マ?』

『いやいやいやいや』

『え、マジで言ってんの!?』

『誰も否定しないってどういうこと!?』

『本気で言ってる!?』


「いやいや、さすがに最下層までは行かないと思うけどねー、時間ないし」


「でもまー、15層まで行くって決めてっからね、ウチら」


『はああああ!?』

『レベル3パーティでそれは……』

『マジかww』

『盛り上がってきたww』

『レベル3パーティの最高到達って8階層なんですがそれは……』



 コメント欄が困惑のあまりに声を荒げるのを確認しつつ、奏星と美佳里はほくそ笑む。


 探索者協会との一件だの、マイナス評価だのを吹き飛ばすというのなら、明確に、分かりやすく大きな成果をあげてしまうに越したことはない。

 当初の予定では確かに大会で成績を見せつけ、強さを見せつけるというものだったが、自分たちが安全に勝てる相手と戦って強さを見せつけても、難癖をつけてくる者たちはいくらでも出てくるだろう。


 だから、大会に出ることが本当の目的ではなく、今回の本当の目的は注目度の高い大会という舞台を利用すること。

 いつもの配信よりも人が集まっている中で、過去の記録を大きく打ち破り、下手に文句をつけられない強さを見せてやる。


 すでにレベル3探索者であり、スキル拡張で強さも得た。

 波風を立てたとしても、今の自分たちならば、自分たちに降りかかる火の粉ぐらいは振り払えるだろうし、『明鏡止水』ともいい関係を築いている。


 そう、彼女たちが自重しなければならない理由なんて、すでにないのだ。




 ――どうせ強さを見せつけることになるなら、常識なんてぶっ壊していこう。



 この大会の注目パーティに選ばれたこと。

 学校の推薦者に選ばれたこと。


 そんなことは、どうでもいいのだ。

 そもそも、選ばれる側ではなく、選ぶ側でしかないのだから。



「――ふぁ……っ、んんっ! よっし、ありがと、二人とも」


「まだ休んでても良かったんよ?」


「そーそー。楽勝だし」


「大丈夫。そもそも多少疲れたぐらいだったけど、しっかり休めたし」



 ここから始まる、本当の意味での快進撃。

 その華々しき始まりの舞台に彼女たちが選んだものこそが、この大会だったのである。



「――いこう、ここからが本番だよ」



 常識を破壊する配信は、そんな一言と同時に始まった。


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